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おはようございます。英語の歴史を研究しています。慶応義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。
for + 形容詞の基本
今回取り上げる話題は、for + 形容詞は中英語からの伝統的用法、という話題です。
通常、for 始めとする前置詞というものはですね、後ろに名詞相当語句が来るというのがパターンですよね。
for の後に目的語として名詞あるいは名詞句が来るというのが一般的です。
ところがですね、for のある用法ではですね、後ろに名詞ではなくて、形容詞相当の語句が来るということです。
例を見てみると早いですね。
まず多くの人が知っているこの熟語、take something for granted というものですね。
これfor の後にgranted これどう見てもですね、過去分詞ですが過去分詞形容詞ということで、名詞と解釈することはちょっとできないというものですね。
例えば she seemed to take it for granted that I would go with her to New York のような文ですね。
take for granted 何々を当然のこととみなす、当然のことと考えているというような。
これイディオムですよね。
もう一つイディオマティックに覚えているかもしれませんが、pass for というのがありますね。
例えば you look so young, you can pass for 10 years younger のような文ですね。
それから the climber was given up for dead であるとか、あるいは the climber was given up for lost のように、for の後に dead あるいは lost のような形容詞相当の表現が続くということですね。
このようなforの使い道っていうのは、用法として言うと、いわば資格とか特性なんて言われますね。
as と考えてもいい。
as と考えると、むしろ現在的にはわかりやすいかもしれませんね。
ですからこの用法では、形容詞が来ると決まっているというよりは、名詞も来ることができるわけですね。
中英語の影響
何々としてということですね。
例えばいくつか、名詞いくが続く普通の用法ですね。
資格、特性としての用法を挙げますと、
he passed this for a millionaire であるとか、
do you take me for a fool?
I was mistaken for my brother.
They chose him for their leader.
これなんかは as って言い換えることもできますね。
They chose him as their leader のような言い方ですね。
I have drawn for a friend.
It was drawn for a portrait.
He was hanged for a pirate.
そしてかなり古い言い方ですが、
What is he for a man?
なんていうと、彼は人としてどんなやつなんだというような、
ちょっと古めかしい表現ですね。
さあこのように for は as のようにですね、
後ろに資格、特性ですから、名詞だけではなくてですね、
形容詞相当のものが来るということもあり得るということなんですね。
この for 形容詞というのが、
ある種独立したような表現もいくつかありまして、
例えば for certain とか for sure はっきりとしっかりとという意味ですね。
I know this for certain であるとか、
I know this for sure のように使いますね。
これも確かなものとして知っているというように、
あくまで形容詞のままなんですけれども、
その後に続いて資格としての役割、機能を果たしているということですね。
同じように for real という表現も現代でもありますが、
それも同じですね。
ただしですね、今まで挙げてきたような for 形容詞の例というのは、
比較的多くのケースがイディオマティックで、
慣習的に決まって使われる、
get for granted であるとか、
given up for dead であるとかですね。
いわばですね、凝り固まった表現ということで、
これから新しくですね、この for たす 形容詞という表現がですね、
どんどん出てくるかというと、そういうわけではないだろうと。
つまり生産性はないだろうと考えられますね。
普通その意味で使う場合、資格特性の意味では、
先ほどからも述べていますように、普通は as ですね。
この場合、as たす 形容詞というのは、
現役で普通に見られます。
例えば、I accepted the report as trustworthy のようにですね。
それから、We regarded the document as belonging to her brother のように、
動詞の現在分詞が形容詞相当の表現として使われるということは、
普通にありますね。
現代における用法
さあ、これがこの for の使い方ですね。
for たす 形容詞というのが生産的だった、
現役でよく使われていたのは、これ中英語記の時代なんですね。
この時代に固まったものが、現代でも定形表現として使われて、
先ほどの take it for granted とか given up for dead のような
言い方として残っているということで、
この起源はですね、中英語記にあるということです。
背景にはですね、この名詞と形容詞の区別というのが、
今よりもずっと緩かったということです。
これはまあ、後英語もそうですし、
中英語記くらいまでそうだったんですけれども、
現代は違いますね。
現代は名詞は名詞、形容詞は形容詞というふうに、
かなりカテゴリカルな品詞の違いというのがあります。
ところがですね、それ以前の時代にはですね、
形容詞というのがそのまま名詞として使われているというような例もあるんですね。
これはまあ、例えばラテン語もそうですし、
ある意味では現代のドイツ語あたりもそうなんですけれども、
このあたり、形容詞と名詞という語類がですね、
一緒くたに考えられていたというような部分があります。
全部か全部、そうではないですが。
現代では名詞にしても形容詞にしても屈折語尾ですね。
いわゆる活用っぽいものはないわけなんですけれども、
後英語にはしっかりありました。
中英語では非常に弱められた形ですけれども、一応ありました。
それによって、さまざまな形容詞が名詞的な働きをするということもできたということで、
この形容詞と名詞の境目が今よりずっと緩いといいますかね、
弱いものだったというのが一つ背景になります。
このように形容詞がそのまま名詞として、あるいは名詞的に使われるというのは、
全く珍しいことではなくてですね。
現代でも一応その余韻は薄められた形で残っているんですが、
例えば、theたす形容詞というのがありますね。
これ見た目、形はですね、theに形容詞をつけただけということなんですが、
これ全体としてですね、名詞になってしまう。
多くの場合、集合的に使われるんですかね。
例えば、the old, the weak, and the poorというと、
老人、弱者、貧しい人々というふうに、
peopleを補ったほうが分かりやすいというような、
そういう名宿相当になるわけですよね。
だいたい集合名詞になるわけなんですが、そうでない少数の例もありますね。
これも寛容的ですが、例えば、the accusedというと、被告ですね。
The deceasedというと、個人という、亡くなった人ですね。
The pursued、追跡されている人というふうに、
この場合、いわば単数の人を表すという表現があります。
それから、比較的珍しいですが、抽象名詞になるという、
theたす形容詞もありますね。
例えば、She has an eye for the beautiful。
これ、彼女は神秘眼が備わっているということで、
She has an eye for beautyと一言で言い換えられるような、
つまり抽象名詞として、the beautifulという表現が使われるということですね。
現代では、このように、theたす形容詞というのが、
名詞になるというような使われ方は、やはり限られていると言わざるをえませんね。
いくつかのイデオマティックな表現に残っているというに過ぎないわけなんですけれども、
中英語大当たりでは、これが非常に広く生産的に使われたということですね。
本日のポイントとしては、forたす形容詞という表現。
これ、現代語にも残っていますが、
これは、起源は中英語キーあたりにあるんだということです。
forが形容詞を直接取るというのは、何となく変な感じがするんですけれども、
一つは、asのように四角という意味なので、
いわば性質を表す形容詞と相性が良いということですね。
そしてもう一つは、中英語キーには、形容詞と名詞の境目というのも、
今ほどはっきりしていなかったというような複合的な理由があったということなんですね。
それではまた。