2025-04-20 09:49

heldio #274. 不定指示形容詞の this

#英語史 #英語教育 #英語学習 #指示詞 #語用論
---
stand.fmでは、この放送にいいね・コメント・レター送信ができます。
https://stand.fm/channels/650f4aef0bc9d6e1d67d6767

サマリー

今回のエピソードでは、不定指示形容詞の「this」について深く掘り下げ、日常会話での使い方や心理的な意味について考察しています。特に、具体的な情報を持たずに「this」を使用することが、コミュニケーションにどのように影響を与えるかを探っています。

このエピソードの導入
おはようございます。英語の歴史を研究しています、慶応義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。
今回取り上げる話題は、不定指示形容詞のthis、というものです。
指示形容詞でありながら、不定というのは、何とも妙な組み合わせですが、
このthisの用法に気づいた、意識しだしたのは10年ほど前のことですが、非常によく口語では使われるthisです。
不定指示形容詞ということで、thisと言っていながら、何を指しているかよくわからないというものです。
聞き手は、実際にこのthisと来たときに、具体的に何のことを指示しているのかがよくわからないという、そういう文脈で使われるthisというのがあるんですね。
実はこれ、ある学生からの質問という形で、この問題を意識させられることになったのですが、NHKラジオ講座で、テツとジョイスの会話ですね。
この中で出てきたというのを再現したいと思います。
You're grinning from ear to ear, Joyce.
Tetsu, things are looking up.
Really? What's going on?
Remember that guy was telling you about?
New guy who works in your office?
Yes, he asked me out to dinner.
Excellent. Where's he taking you?
We're going to this unique hamburger joint.
But aren't you a pescetarian?
Not anymore.
ということで、この最後の方で、ジョイスがどこ行くのと聞かれて、
We're going to this unique hamburger jointということなんですね。
ところが、明らかにこの文脈を考えると、テツはこのハンバーガー店について知らない。
少なくとも文脈を考える限り、この種のハンバーガー店は近辺にないということなんです。
ですから、普通に考えれば、a unique hamburger jointとか、
a certain unique hamburger jointであるとか、不定的な要素が来るのが普通であって、
thisのような、これと指をさせるような指示形容詞というのが来るのが、ちょっと変な感じがするわけですね。
この会話について、ネイティブの方に確認をとってみました。
そうすると、これは言うね、こういう言い方はするって言うんですね。
じゃあ、分かってないのに、つまり不定なのに、実を使うってどういうことか。
日本の英語学習者には分かりにくいんですけれども、
この用法の歴史
これはある種の勢いが感じられるっていうような答えだったんですね。
じゃあ、どういう文脈で使われることが多いのかっていうふうに、いろいろと調べてみました。
そうすると、辞書にこれ、普通に載っている用法なんですね。
いくつかの学習者用AA辞典なんかを引いてみますと、
このthisの下の方の意味、語義ではありますけれども、ちゃんと載っていてですね、
だいたい同じような記述ですかね。
代表として、
これの記述をちょっと見てみたいと思います。
これ5番目の語義に出てくるんですけれども、こういう説明がついてますね。
これまでにメンションされたことのない人とかものを導入する際に使う。
まさに不定関心がふさわしいような時に使われるって言うんですね。
例文の一つとして、
のような言い方です。
そしてですね、次にこんな説明が決まります。
ということで、物語を話す時にですね、
エキサイトメント、興奮しているとか、感極まっているというような時にしばしば使われるんだということです。
確かにいろいろと例文を見てみると、全体的に口語の砕けた文脈で、
そして生き生きとした表現を生み出すために使われる。
物語風の描写とか具体的な名前を挙げずに、
そして興奮して伝えるっていうあたりの共通項を繰り出すことができそうなんですね。
そしてなぜこれがですという言葉が出てくるかというとですね、話し手の中ではもう内面化されていて知ってるわけですよ。
その聞き手はそれを聞いて何のことかわからないかもしれないっていうことも含みでですね、
自分にとってあまりに内面的に近い、心理的に近い存在なので、
思わずあではなくですが出てしまう。
この勢いが相手にも伝わるというような、そういった効果というんですかね。
一種のこれダイクシス。ダイクシスというのは直辞的な表現ということなんですが、
心理的に近いものだということを表現する方法としてこのですが使われている。
一般的には支持というのは、話者だけではなく聞き手もそれとわかるものというですね、
一般の共通認識で使うのがザーだったりゼースだったり、こういった支持系統の機能語なわけですけれども、
これが特別な使い方としてですね、内面的に自分はよく知っているという場合にも使われ得る、
交互的な響きを持つこのゼースの用法ということですね。
もう少し例を挙げてみますと、
I was walking down the street when this dog starts chasing meのような例ですね。
This dogというのは物語の中では明らかにですね、話では頭の中にこの犬がですね、見えているわけですよね。
ところが聞いてはわからないんだけれども、
それぐらい驚いてエキサイトしてこの物語を進めているんだなということはわかる。
しかも、I was walking down the streetというところまでは過去形、進行形なんですが、
when this dog starts chasing meというふうに現在形になっていることからして、この物語をありありと伝えるというですね、
そういう用法で現在形になっているということとも、このゼースの用法というのは合致します。
同じ方向を向いてますよね。
他に、Then these two guys come in and start asking her questionsのように、物語、過去のことですから、
本来はthese guys came in and started asking her questionsとなるところはですね、
この場合、thisというよりは複数形なのでtheseですが、同じような使い方をするということです。
These two guys come in and start asking her questionsこのような使い方ですね。
大体の辞書に載っていてですね、割と一般的によく使われる用法なんだなということになります。
そして英語詞の観点からですね、これ昔からある用法なのかどうかというのが気になってきます。
そこでちょろっと調べただけなので、はっきりしたことはわかっていないんですけれども、
Shorter Oxford English Dictionaryの記述によると、どうも20世紀前半からの交互用法ということになりそうなんですね。
つまり出始めてからですね、まだ100年ぐらいしか経ってないんじゃないかと思われる新しい用法って言いますかね。
このVividな語り、物語の中で交互的に、そして興奮しながら伝える用法ということで、
どうも新しい用法だと。
ただこれもですね、もっと調べてみなくてはいけなくて、
Oxford English Dictionaryで引いたところではまだよくわからないですね。
さらに古くまで遡るのかどうかっていうのはわかりません。
しかも大体交互的だということは共通していますので、
発端ですね、使われた当初もやはりですね、話し言葉、交互的なところからスタートしたのかなと思われます。
そうすると文献には必ずしも残っていない可能性もあって、
様々な例えば小説であるとかですね、
議局であるとか、交互が反映されやすそうな文献っていうのを見ていくと、
もしかしたらもう少し古くからですね、こういった表現が使われていたのかもしれません。
ということでなかなかまだ歴史的にも謎なんですけれども、
100年くらい前から少なくともですね、100年くらい前から交互的な用法として、
この何とも形状しがたい、不定四字形容詞と呼んでみましたが、
この用法のthis、あるいは複数形はtheseというものがあったということなんですね。
これはご要論的に、あるいは歴史ご要論的に、なかなか面白そうな話題だなと思っています。
注目していきたいと思います。
皆さんもVividに物語を語る時にですね、使用してみてください。
それではまた。
09:49

コメント

スクロール