比較級の基礎
英語に関する素朴な疑問。なぜ比較級には-erをつけるものと-moreをつけるものとがあるのですか?
これは多くの人が疑問に思う問題だと思うんですね。
形容詞副詞というのは比較級、最上級というのがありまして、比較級には大抵-er、そして-estをつけるということが定番なわけですが、
一方で、more、mostというものを前置することによって、比較級、最上級をつくるという2つの方法、-er、-estをつける方法と、more、mostをつける方法というのが2つあるということになっています。
これは一般的によく説明されることは、短い形容詞副詞に対しては-erをつけると。
ただし、長いものに関しては、それ以上-er、-estをつけると長くなりすぎるので、前置、前にmore、mostという別の単語をつける。
こういうことがよく説明されると思うんですね。
これはおそらく8割、9割ぐらいの説明はうまくいっていると思うんですけれども、例外があるということがポイントなんですね。
例えば、一般的なルールによりますと、hardに対してharder、それからlonger、younger、これうまくいっているんですね。
さらに、more attractive、more virtuous、more wonderfulのような分布が成り立つわけです。
しかし、この短いか長いかということはなかなかうまくいかなくてですね。
例えば、bored、つまらないという単語であるとか、それからpleased、喜んでいる。
このような単語は一音節なんですよね。
つまり、hard、long、youngと同じような長さの一音節なのですが、これに-erをつけるということは許されていなくてですね、moreをつけることになっています。
more bored、more pleasedのような感じです。
一方、more attractive、more virtuous、more wonderfulのように、三音節の場合は間違いなくmoreであると。
あるいは最上級である、mostであるということは受け入れられそうなんですが、一方でunhappy、これ三音節なんですがunhappier、unhappiestというふうに
-er、-estをつけるということになっています。
つまり音節数ということは非常に参考になるポイントなんですけれども、必ずしもそれが全てではないということがここでわかるかと思うんですね。
非常に複雑な状況があるわけなんですが、これはなぜそうなっているんだろうかということを考えたいと思います。
歴史的背景の考察
歴史的に考えたいと思います。
まずは、この形容詞あるいは副詞の比較級なり最上級なりというものは、古英語、1000年前の段階では、実は-erあるいは-estをつけるという方法しかなかったんです。
つまりmore、mostをつけるという発想はさらさらなかったんですね。
全くなかった。
ですから、長くてもbeautifulestとかですね、例えばそういうような表現が当たり前だったんです。
ところが中英語以降ですね、ラテン語であるとかフランス語であるとか、つまり外来の単語がいっぱい入ってくるようになりますと、
それらの言語で比較級、最上級をつくるときには、実はmore、mostのような、-er、-estではなくて、前にmore、mostをつけることで、
簡単に比較級、あるいは最上級をつくるという方法をとっている言語からの影響が強くなります。
その影響に英語もさらされてきます。
それが13世紀ですね。そこがスタートです。
ですからすぐにですね、今まで-er、-estだけでやってきたという英語がフランス語やラテン語などの影響にさらされるといっても、
そう簡単にすぐ変わるものではありません。数百年の時間が流れました。
16世紀ぐらいにようやくですね、このフランス語やラテン語のmore、mostをつけるタイプですね。
-er、-estではなく、前置してmore、mostをつけるタイプというのが少しずつ流行りがします。
とりわけ、もともとの形容詞、副詞の単語が長い場合には、確かにmore、mostの方が多いというような時代になってきます。
つまり、現代の文譜の走りみたいなものが16世紀ぐらいにようやくできてくるという感じなんですね。
そこでも、1音節の単語というのは非常に短いですよね。だから-er、-estで良いだろうと。
3音節というのは非常に長いですので、じゃあmore、mostで良いだろうということになりますが、
中間の2音節語については非常に揺れが見られるといいますか、-er、-estのものもあれば、more、mostのものもあるというような状況になっていくわけですね。
ここはなかなか面白いところで、その後16世紀、17世紀以降ですね、近代英語になってくると、この2音節あたりの単語が焦点になっていきます。
いくつか単語があるんですけれども、17世紀中のミルトンの時代を考えてみますと、例えばvirtuous、famous、powerfulのような単語ですね。
これ今であればmore、mostだと思うんですが、当時は-er、-estでやってたんですね。virtuous-estであるとかfamous-estであるとかpowerful-estというような表現が確認されます。
そしてその100年後なんですけれども、18世紀後半、ジョンソン博士の辞書ですね。今までミルトンでokであったvirtuous-est、famous-est、powerful-est、これがダメ出しされます。
現代風になるわけですね。長いからダメだと。more、mostでやれということになるわけですが、しかしそのジョンソン博士とてですね、lucky、loomy、wittyのようなものに対してはですね、これ2音節なんですが、これはやはり2音節だからmore、most。長いんだからmore、mostで比較的最上級を作りなさいという発音になっているんですね。
しかしそのジョンソン博士の2世紀半後である今はlucky-er、loomy-er、witty-er、okなんですね。つまりこの1音節、3音節というのははっきり短い長いとわかるので振り分けられるんですけれども、2音節の単語に関しては実はこの数百年の間でもですね、揺れてるんです。
そしてどちらかというと、この2音節のものは長いという立場から現在では短いという立場に発音が切り替わっている。つまりer、estでokだよということになっているということです。
まとめますと、大元は英語ではer、estをつけるという方法しかなかった。
ところが中英語期以降、おそらくフランス語であるとかラテン語のような外国語の影響によって、前にmore、mostに相当する単語を添えることによって比較級複数あるいは最上級を作るという、そういうような発想が芽生えてきた。
しかしこのどちらを使うかということに関して音節であるとか、いろいろな条件によって揺れていた。それが近代語を通じて少しずつそのルールが整えられ、そして現代語に至るということなんですが、現代ですら結局はですね、どっちもありであるとか、はっきりしないというような例は残っているということです。
この問題の起源は結局ですね、1000年ぐらい遡ると言っていいでしょう。この解決がついてないというのが現代なんです。今後100年、200年、300年を通じて解決するのかは分かりません。しかし言語変化というのはこれぐらい息が長いものということです。
つまり数百年という規模で考えるべきだということがこの例からとてもよくわかるのではないかと思います。この話題につきましては2346番、そして2347番の記事をご覧ください。