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おはようございます。英語の歴史を研究しています、慶応義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも、辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を癒しになっていただければと思います。
今回取り上げる話題は、
インク壺語の概念
インク壺語 ― ラテン語かぶれの衒学的な単語たち、というものです。
タイトルのインク壺語。これは普通聞き慣れない用語かと思うんですけれども、
実は上級英語学習者はですね、さらに語彙を、英語語彙を増強するために、これに立ち向かなければならない、というあの単語たちのことなんですね。
小難しくて少し音説が長い、大抵ラテン語あるいはギリシャ語からの釈用語ということです。
これはですね、中級上級以上の英語学習者になっても、常に覚えていかなければいけない単語の代表格なんですね。
難しくて頻度も低くて、ただ書き言葉、フォーマルな書き言葉には出てくるということですね。
すでに上級の人はですね、さらにステップアップするにはですね、この辺りの語彙をどんどん覚えて吸収していかなければならないということで、なかなかの関門なわけですけれども。
ただこういう単語はですね、普通上級の英単語というような言い方で括られるかもしれませんが、英語史の用語で言うと、
これはよく知られたインクツボ語というものに大体相当するんですね。
さあ、この背景を探ってみたいと思います。
インクツボというのは、ちょっと妙な例えのように思われるかもしれません。
英語で言うとインクホールンタームズというのがインクツボ語と大体訳されているんですね。
インクホールンというのは、インクを詰める角ですね。
動物の角を容器にして、そこにインクを溜めていたわけですね。
ここに筆でインクをつけて書くということで、つまりこれ書き物をする人のある種、象徴なんですね。
簡単に言えば学者です。知識人ということですね。
彼らが使うようなこの小難しい単語ということで非難の意味が込められているんですね。
これをインクホールンタームズ、訳してインクツボ語というふうに英語詞では呼ばれています。
時代は大体16世紀を念頭に置いてもらうといいですね。
ルネッサンス時代の影響
イギリスルネッサンスの時代です。
この時代はですね、ルネッサンスですから古典的なものが大好きという時代で、古典といえば古典的言語、これはもうラテン語、ギリシャ語のことですよね。
この古典語に浸水した時期なんです。
人々がですね、主にもちろん知識人であり学者であり教育を受けられる人はですね、こぞってラテン語あるいはギリシャ語を学んだということなんですね。
なのでこの知識人風を吹かせたいときはですね、これラテン語を知ってるよというフリをすればいいんですね。
少しラテン語の単語を会話の中に混ぜたりですね。
そういうことで自分の話す内容にもラテン語のお墨付きがついてるんだというような感じでですね、ラテン語の意向を借りるというこの学者ぶり言い方っていうのが一種流行したわけですね。
なのでタイトル、副題としてラテン語かぶれの言学的な単語たちを読んだわけなんですが、これがものすごい勢いで英語に入ってきたんです。
特に16世紀後半なんですが、この数十年の間におそらく英語史上最も密度の濃い語彙釈用が行われた時代だと思うんですね。
数十年間という比較的短いスパンで数千語、1万に近いラテン語がですね、あるいはギリシャ語も含めてですが、どーっと英語の中に流入したということです。
このかぶれ方っていうのはすごいですよね。
英語史上最大の語彙釈用密度という言い方しましたが、正しがきとしては20世紀、21世紀はさすがに別かなと思いますね。
20世紀、21世紀はさらなる速度で語彙が入ってきたり増え続けたりしているということなんですが、
ただですね、この世界的なコミュニケーションツールとなった英語のこの20世紀、21世紀と当時16世紀を直接比べるわけにはいきません。
16世紀というまだまだ近代の駆け出しという時期にですね、これだけの単語が一気に入ってきたというのは、やはり英語史上、これは驚くべき、非常に著しいことが起こっていたということはもう明らかですね。
イギリス史の時代としては、これはまさにエリザベス朝ですね、エリザベス一世の時代ですし、そしてシェイクスピアが活躍していた時代ということで、人々は言葉に飢えていたということでもあると思うんですね。
新しいものがルネサンスによってどんどん入ってきていた。
さあ、そこでですね、馬鹿みたいにラテン語の単語を釈養することになったわけなんですが、文字通りですね、湯水のように借りては捨てということを繰り返したんです、この時代。
ですから英語で使われたと言ってもですね、一度や二度使われて、もう一切その語は使われなくなるというような、そんな単語もたくさんあったんですね。借りては捨てる、借りては捨てるということです。
残存するラテン語由来の単語
その中でも生き残ったものが今のいわゆる音説が長くて、フォーマルで小難しいラテン語由来の単語群といういわゆる上級の語彙ということになるわけですが、いくつか挙げてみたいと思うんですね。
例えばですね、次に挙げる単語は今でもよく使われている。確かに小難しいしフォーマルだし、音説が長いという点では共通しています。
例えば Confidence, Dedicate, Describe, Discretion, Education, Encyclopedia, Exaggerate, Expect, Industrial, Maturity のような単語ですね。
挙げればキリがないわけなんですが、この一方で当時多少使われたけれども、結局死後となって現代までに残っていないものもどっさりとあるわけです。
ここでリストを唱えても今残っていないわけなので、あまりわからないかもしれないんですが、こんなのがあるよという例を紹介として挙げておきたいと思うんですね。
例えば Adjuvate、これは助ける、援助するぐらいの意味ですね。
Dilucinate、これは雑草を狩るということですね。
Devalgate、これは貴族ではなくする、ヴァルガーではなくするということですね。
Devalgateなんていう単語です。
それから Eximious、これは素晴らしい意味ですね。
Fatigate、これは疲れさせるということで、Fatigueなんていう単語は今残っていますが、Fatigateなんていう同義の動詞があったわけですね。
こんな感じです。
ではですね、どういったものが生き残って、どういうものが死後になったのかというとですね、これがもう今となってはですね、よくわからない、ランダムに見えるんですね。
なんでこれが残って、こっちが残ってないのというふうになっちゃうんですね。
なのでよくわからない、一種のガチャガチャ、ランダムみたいなもので、これは残る、こっちは残らないみたいなものが決まっていったというか選択されていって、
結果的にですね、どれぐらいの割合で残ったり死んだりしたのかっていうのは、数えるのは難しいんですけれども、半分ぐらい、どんどん取り入れては捨てていったということですが、
実は残ったものも半分ぐらいあるんです。
この50%という残存率ですかね、をどう考えるかということなんですけれども、おそらくこれは釈用語としては残存率が低い方だろうと。
もっと残ってもいいはずなのに、どんどん切られて捨てられていったっていう意味では、まさに湯水のように借りては捨てられたという数字と読めるんではないかなと思います。
ただですね、絶対数、全体の母数が満近くというものなので、結果的に50%の残存率だとしてもですね、やはり相当なものが残って英語の語彙の中に溶け込んだということですから、
結果としてはですね、この言学的な非常にペダンティックなインクツボ語が、現代の英語にも相当程度残っているということになりますし、
上級の英語学習者はこれをですね、どんどん吸収して学んでいかなければならない、そういう状態になっているということなんですね。
このようなインクツボ語、インクホーンターンズのような、揶揄するような避難的な用語がついているぐらいですから、当時からやはりですね、避難の対象になっていたと。
つまり、やりすぎだろう、ラテン語から取りすぎだろうということではあったんですが、結果的に残ったものの数は実は非常に多いということですね。
それではまた。