ノロジカの骨とルーン文字
おはようございます。英語の歴史を研究しています、堀田隆一です。 このチャンネル、英語の語源が身につくラジオheldioでは、英語の先生もネイティブスピーカーも、辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。毎朝6時更新です。
ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。 今回取り上げる話題は、
最古の英語か、 ノロジカの骨にルーン文字で彫られた語の意味は何と
という話題なんですね。 これは何のことかと言いますと、最古の英語をですね、これが記された、表記されたと考え得る
ある考古学的な遺品ですね。これが見つかっています。 イングランドのフォーク州にある
ローマ時代に建てられた町ですね。ケイスター、ケイスター by ノルリッジという町なんですが、ここからですね、仮想用の亀冠が出土したんですね。
その中に何があったかというとですね、サイコロがあったんですね。 同じ亀冠からは駒も発見されているので、遊具として用いられたものだろうと考えられています。
そのサイコロなんですけれども、ここにですね、文字が記されているんですよ。 ルーン文字です。いわゆるローマ字ではなくて、それ以前にゲルマン民族が使っていた
ルーン文字ですね。このルーン文字というのは、起源としては実はローマ字と究極的に同じところにルーツがあるんですけれども、
異なった派生の仕方をして、そこそこ似ている文字もあるんですけれども、独立した意識のアルファベットですね。
ルーン文字のアルファベットとして、ローマ字のアルファベットとは独立して異なるものとしてゲルマン世界に受け継がれたものがあります。
英語もですね、449年に伝統的な解釈によればですね、大陸からアングロサクソン人が渡ってきて、このイギリス、ブリテン島に住み着いたと。
ここから英語史が始まるというのが伝統的なんですが、実際にはそれ以前、大陸の北部ですね、
北ヨーロッパの、今でいうデンマーク南部とかドイツ北部あたりにアングロサクソン人がいたと。そしてこの時代にはですね、おそらくこのゲルマン民族に伝わるルーン文字というものを書くということはあったろうということなんですね。
それがイングランドで発見されたということになるんですね。
このイングランドで発見されたルーン碑文としては、もちろん最初期のものということで、非常に貴重なものということになるわけなんですけれども、
英語の起源と歴史
これ素材としてはですね、ノロジカの骨で作ったサイコロということで、その表面にひっかき傷のような形でですね、ルーン文字が刻まれているということです。
当時は硬いものに文字を刻むって感じですね。
書くというよりは、いわばのみとか彫刻刀のようなもので、切り刻んで傷をつける、ひっかくっていうのが一般的なルーン文字の書き方ということで、カクカクした文字の形をしてるんですね。
今の我々がイメージするこのローマ字の丸みを帯びたようなところは全くなくてですね、ルーン文字というのはひっかくということで、カクカクの文字ということになるんですけれども、
これが明らかに刻まれて、ただの傷じゃない文字を書こうとして刻んだものだということがはっきりわかるような形で刻まれている。
一つ謎なのは、これがですね、書かれた年代、刻まれた年代が起源400年ぐらいだというふうに推定されてるんですね。
ただ先ほども述べたように、伝説的にアングロサクソン人がブリテン島に渡ってきたのは449年のことだというふうに言われてるわけですね。
そうすると、この伝説的な449年のアングロサクソン人のイングランドへの移動ですね、よりも数十年早いというタイミングで、アングロサクソン人そのものかはわかりませんが、
ゲルマンの伝統を受け継ぐ何者かがですね、このイーストアングリアの今、ノリ地と呼ばれている地ですが、この地に足を踏み入れていたということになるわけです。
もしこれがアングロサクソン人、つまり英語の祖先の姿の言語ですね、これを話していたものだとすると、あくまで449年というのは伝説的なと言いますかね、シンボリックな意味でのアングロサクソン人の到来の時期ということになって、
実際上はですね、どれぐらいの規模かわかりませんが、もともある意味大陸に近いエリアがこのイーストアングリアという地なので、ここに海峡を越えてですね、渡っていたということはもちろん十分考えられるということなんですね。
ただこれがアングロサクソン人なのかどうかということはわからない。
この書き込まれた文字ですね、これを見ればここにいわゆる英語なり何なりの、つまりゲルマン語に属する何らかの言語が書き込まれているわけなので、そこによって推定できるのではないか。
これが英語なのか、あるいははたまたですね、例えばドイツ語の祖先の姿なのか、あるいは北欧語の祖先なのかとか、この辺りわかるんじゃないかということで、この文字を当然調べるということになるわけですね。
そしてその言語を調べてみますと、古英語よりもずっと古い段階におけるゲルマン語の姿を表しているのではないかということが言語学上推定される。
さらに文字の形状ですね、ルーン文字の書き方、これも地域によって時代によって変わっているので判断材料になるんですが、どうもデンマーク南部辺りから来たんじゃないかということなんですね。
そうすると最古の英語と言えるかどうかというのが微妙になってくるということですね。英語が英語になる前の、さらにもう一段階ぐらい早い段階の姿を表しているのではないかということですね。
ここがポイントになって、本当にこれは最古の英語を記したものなのか、それとも最古の英語以前のまだ英語とは呼べないようなゲルマン語の段階のものなのかということが問題になってくるわけですね。
ライハンの意味
どうも英語というには難しいという証拠、言語的証拠が持ち上がってきているということなんですね。
では何が書かれていたのか、この段階までじらしてきたんですけれども、実は長い文が書かれていたわけではなくて、ある一語が書かれているのに過ぎないんです。
サイコロですからね、大きいものじゃないということで、一語が書いてあるんですね。
そしてこれを我々のよく知っているローマ字に転字しますと、こう書かれてあるんですね。
R-A-I-H-A-Nというこの6文字が横に左から右に書かれているということなんですね。
書かれているというか刻まれていると言いますか、R-A-I-H-A-Nということで、これそのまま読めばライハンということになりますね。
さあこれを読み解くということなんですが、ゲルマン語の比較言語学の成果により、これがちゃんと読み解くことができます。
このライハンという単語は、後の小英語の段階で言うところのロハに相当するだろうと言うんですね。
この小英語で言うところのロハに相当する、その一段階前の形なんでしょうね。
ライハンということなんですが、これが屈折していまして、Nみたいな語尾がついているわけですね。
それでライハンということです。
ではこの単語は何を意味するのか。
小英語のロハに対応するということを述べましたが、これは現代英語にも形を変えてきっちり残っています。
それはですねローっていう単語です。
R-O-Eと書くロー、ローディアのローっていうことなんですね。
これの屈折形で結局のところ意味はですね、from a rowぐらいの意味で、
のろじかのという意味なんですね。
のろじかの、骨にルーン文字で彫られた語の意味はなんと、のろじかのだったということなんですね。
なんじゃそりゃという感じなんですけれども、本当の話です。
ではまた。