リスナーの質問と英語の動詞
おはようございます。英語の歴史を研究しています堀田隆一です。 このチャンネル英語の語源が身につくラジオheldioでは、英語に関する素朴な疑問に英語史の観点からお答えしていきます。
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ぜひフォローしていただければと思います。またコメントやシェアの方もよろしくお願い致します。 今日の話題はリスナーさんからのご質問。
こちらに答えたいと思うんですね。タイトルとしましては suggest, collect, direct なぜ英語はラテン語の過去分詞を動詞原型として取り入れているの?
という話題です。 6月10日にリスナーのわらしべさんから
ご質問がありまして、まずそちらを読み上げたいと思います。 いつも放送を楽しく聞かせていただいております。
英語の動詞とラテン語の過去分詞との関係についてお尋ねしたいです。 英語 suggest, collect, direct などはラテン語の過去分詞に由来していると思います。
これに対してロマンス語では例えばこれらと語源的に対応するフランス語、 suggérer, cueillir, diriger はラテン語の不定詞に由来しているようです。
なぜ英語は過去分詞に基づく語形を不定詞として採用したのでしょうか。
わらしべさんご質問ありがとうございました。この話題は実は非常に面白い。 英語史的にも注目する価値のあるとても面白い話題なんですね。
ラテン語に由来する単語、これを取り込むときに英語ではこうしているけれどもフランス語ではこうしているよというような違いが出た場合ですね。
これはまさに今私が売り出している対象言語史、contrastive language history の話題にもなりますし、今回は大変面白いところにスポットライトを当てていただいたと思っています。
兄弟の産語なんですけれども英語で suggest, collect, direct という単語ですね。これはラテン語の対応する動詞の過去分詞に由来するんですね。
suggestus, collectus, directus という形で語尾に
tus というのが出てくるんですね。この最初の死因が t になっているのがポイントなんですけれども、これは遠く実は英語の過去分詞形、規則活用の過去分詞形の ed
あの d と遠く語源的には関係するんですけれどもね。 ラテン語でも過去分詞はお尻に t がつく。
これがまず基本なんですね。どうすると suggest, collect, direct この最後の t っていうのはラテン語の過去分詞
ここに由来するんだということがわかるんですが、ではなぜ 過去分詞の形、典型的には受け身の意味になるわけですが、この語形変化した形が英語に原型として通常の
動詞の意味ですよね。として使われるようになったのはなぜかというご質問なんですね。
例えて言えばですね、日本語が英語から動詞を釈用したというときに、 今晩は夜通しエンジョイしようぜ
なんていうときに、エンジョイをそのまま持ってくるっていうのはわかりやすいんですが、 これをどういうわけか過去分詞形 ed をつけて
よし、今晩はエンジョイドしようぜって言ってるような、そんな感覚なんですね。 なぜあえて過去分詞形にして
動詞の原型として、普通の形として持ってきてるんだということですね。 フランス語ではそんなことはなくて、ストレートにラテン語の本来の動詞の形と言いますかね。
これがそのまま用いられているということですので、 あまり議論するほどのこともないんですね。
英語の場合、なぜ過去分詞形の形でわざわざ持ってきているのか。 この問題に今日は迫りたいと思います。
まず話を古英語の時代にまで遡らせてみたいと思うんですね。 古英語では
形容詞にある語尾、動詞語尾をつけて、動詞化するっていうことが普通に行われていたんですね。 例えばですね
ホワイト、白いに対応する古英語はフィートというような発音だったんですけれども、フィートですね。 これにイアンという語尾、これ動詞語尾なんですけれども、こちらをつけるとフィーティアン
白くするぐらいの意味の動詞を作ることができたんですね。 同じようにウェアルム、これは今のウォームです。温かい。
形容詞なんですけれども、これにイアンをつけてウェアルミアンというと温めるということになるわけですね。 他にはビジー
という、これは現在と同じ形ですけれども忙しいですね。 これを動詞化するとビジーアンとなる。さらにドリーエ、これはドライ、乾いたっていうことです。
これに語尾をつけてドリーアンのように言うと、動詞化して乾かすという意味になるわけですね。 このように形容詞をもとにして後ろに動詞語尾をつけることによって動詞化するっていうのがよくあったん
ですね。 イアンという語尾を典型的にはつけて動詞化したんですけれども、これがこのイアンという語尾、設備字が中英語そして
近代英語にかけてなくなっていくんですね。 結果として見るとホワイト、ホワイト。
全く同じ形で形容詞でもあり動詞でもあるっていうようなことになったわけですね。 同じようにウォーム、ウォーム、ビジー、ビジー、ドライ、ドライのような形です。
このように近代英語までにですね、 形容詞とそこから本来は派生した動詞語尾を持った形の動詞、これが本来は違う形だったんですけれども
語尾の弱まり、音の変化によって同じ形に帰着しちゃったっていうことがあるんですね。 こういう事例が多かったので、その後フランス語やラテン語から大量の単語が入ってくるときにですね、特に形容詞が入ってきたときに
形容詞の形のものをそのまま動詞に転用する。 そういう一種の癖みたいなものがついたんですね。
例えばフランス語からクリアーっていう単語が入ってきますね。 このクリアーっていうのはもともとフランス語で形容詞ですから英語でも形容詞として受け入れた。
すっきりした清らかなというぐらいの意味で形容詞で普通に使っていたんですね。 そこで英語はですね、形容詞はそのままの形で動詞になってもいいんだという前例が先ほどのように
小英語からの流れであったので、釈用語であるにもかかわらず、釈用語の形容詞でもあるにもかかわらず、クリアーがそのまま動詞としても使われるようになった。
清らかにする、片付けるほどの意味で動詞にもなったっていうことなんですね。 つまり外から形容詞として取り入れたものをそのまま英語内部で同じ形で動詞化する
という一種のパターンが出来上がってきたということなんですね。 ラテン語からの単語にも同じことが起こりました。
ラテン語の過去分詞というのは、動詞の過去分詞というのは基本的に受け身の意味を伴って、 形容詞的に使われることになるわけですよね。過去分詞形容詞というものですね。
ディレクトの例で言いますと、ディリゲレというラテン語の動詞の過去分詞形がディレクトゥス ということだったんですが、これがディレクトとして、まず英語に形容詞として入ってきます。
まっすぐの、直接のっていうあれですね。 英語に入ってきて、形容詞というのはそのままの形で動詞として使うこともできるという伝統が既にありましたので、
このままのディレクトの形で、まっすぐにする、指導するという意味でディレクトを使い始めたっていうことです。
つまりディレクトは、もともとはラテン語の過去分詞であり、ラテン語の動詞の原型そのものではないわけなんですけれども、
英語側で形容詞として持ってきた後に、そのまま動詞に品種転換してしまった、そういう例なんですね。
形容詞から動詞への転換
他に例を挙げますと、separateっていうのもそうですね。 これは別々のという意味の形容詞として取り込んだわけですね。
これ語尾にate、これがあることから示唆される通り、やはりラテン語の過去分詞です。
これが、別々の、分かれたという形容詞として入ってきて、その後英語側でそのままの形で分けるという動詞として用いられるようになったということです。
ラテン語のこのような単語が英語の中にたくさん入ってきたのは、ちょうど16世紀ぐらいなんですね。
16世紀から17世紀がピークなんですけれども、大量のラテン語の単語が入ってきます。
その中にはラテン語の動詞の過去分詞形に基づくものもたくさんあったんですね。
典型的にはateであるとか、aがなくてもtが必ず出てくるというものなんですけれども、極めて大量に入ってきた。
これらは大部分ateの形、本来の過去分詞の形なんですけれども、英語的には動詞だというつもりで取り込んだんですね。
今度の場合は一度過去分詞形容詞として英語の中に取り込んで、それを動詞化したんだという手順は踏んでないんですね。
いきなりラテン語の過去分詞を英語側では動詞の普通の形、原型として取り込むということになった。
これは一種のパターン化ですね。
あまりに多くのラテン語単語を取り込むということになってですね。
ラテン語の語源に思いを馳せるというよりは、ラテン語の語幹部分を取ってきて、それにateを付けるとそのまま英語側では動詞になるんだという一つのパターンを作り上げたわけです。
一種の釈用語の語形性上の弁法と言っていいと思うんですね。
一回このパターン、型が定まってしまえば、どんどんこの型に流し込むことでラテン語をそのまま英語に取り込むことができます。
こうして16世紀中には、例えば、fascinate, concatenate, accelerate, venerateなど数百のate動詞が生み出されたっていうことなんですね。
一旦この弁法が確立してしまえば、もうこっちのもんです。英語としてはですけれどもね。
英語の動詞の増加
ラテン語、あるいはフランス語的要素でも同じなんですが、そのような要素であれば、とにかく語幹部分を持ってきて、それにateを英語側で付けることによって、動詞として取り込むという一種の習慣が確立したということになります。
現代英語の中に、なんとかateという動詞がどれくらいあるのか、これは数え上げれば本当にキリがないと思うんですね。
activate, assassinate, concentrate, domesticate, hyphenate, locate, negotiate, vaccinate、毎兆にいとまがありません。
多言語の要素を次言語の中に取り込むときというのは、最初はある種恐る恐る借り入れるっていう形になるので、一語一語対処していくっていう感じで、恐る恐る中に入れていくっていう感じですね。
自分の中に入れていくっていう感じなんですが、元の言語の語源なんかも場合によっては考慮されたりするっていうことはあるわけなんですけれども、ある程度慣れていくとパターン化が進むんですね。
その方が大量生産しやすいので、パターン化型を作ってしまうんですね。ラテン語の動詞のここの部分を本体部分だけ持ってきて、そのお尻にateをつけるっていうことで、英語では動詞っていうことにしようと。
このパターンが確立してしまうと、もう最強ですね。どんどん外の要素を内に取り込むという作業が容易になりますので、数としても多くなる。
こうして英語のeight語が無数に生み出されるっていうことになったわけですね。数がやたらと多いっていうことで、eight語に焦点を当てましたけれども、質問いただきました例の単語、suggest、collect、directについても、基本的には同じように考えることができます。
英語とフランス語とで対応する動詞の形が微妙に違う。とりわけラテン語に由来する動詞の場合ですね。ここに疑問を持たれて質問いただいたわけなんですけれども、実は英語詞的には非常に面白い。
ちゃんと解き明かそうとすると、小英語の時代にまで遡る必要がある。英語詞のダイナミックな魅力、これが伝わったのではないかと思います。エンディングです。今日も最後まで放送を聞いていただきましてありがとうございました。
今回はリスナーさんからのとても面白い質問をいただきまして、私も説明に熱が入ってしまったんですけれども、英語にはたくさん面白い問題がゴロゴロ転がっていますので、リスナーの皆さんご質問、ご意見、ご感想、それからチャンネルで取り上げてほしいトピックのようなものがありましたら、
ぜひご意見のコメント機能、あるいはチャンネルプロフィールにリンクを貼っています専用フォームを通じてお寄せください。すべて説明できるわけではもちろんありません。それであれば英語詞という分野はもうなくなっているはずですね。そうではなく、まだまだ謎のこともあります。
必ずしも解決できるとは限らないんですけれども、少なくとも英語詞的な背景について皆さんと一緒に考えていきたい。そのように思っています。では良い日曜日をお過ごしください。また明日。