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おはようございます。英語の歴史の研究者、エログ英語史ブログの管理者、 そして英語のなぜに答える初めての英語史の著者の堀田隆一です。
英語史の面白さを伝え、裾野を広げるべく日々配信しています。 今日は11月4日、金曜日です。いかがお過ごしでしょうか。
英語の語源が身につくラジオ heldio 本日は
表現の基礎
many times ではなく many a time って何?
というタイトルでお話しします。どうぞよろしくお願いいたします。 皆さんは英語で何度もという表現 many times
これはよく知っていると思うんですね。 I visited the US many times のように普通に使われます。
many 多くの、たくさんのということですから、当然ながら次に複数名詞が来るわけですよね。
many people, many years, many times 当たり前のように使っているわけなんですが、一方で
many a という表現があるんですね。 a っていうのは
一つのものに言いつく 不定関詞ということになりますので、その次に来る場合は
単数名詞が来るわけですね。なので many a time という言い方があるわけです。
I've told you many a time not to drink too much のような言い方が可能ですね。
many times でも同じ意味、そして many a time でも同じ意味ということになります。
many a time の方は頻度も少ないですし、フォーマルな響きがあるっていうことで、それほど出くわす表現ではないんですけれども、
書き言葉などにはちょこちょこと現れることがあるかなと、そのぐらいの感じですが使われているんですね。
他にいくつか例文を挙げてみますと
many a quarrel between husband and wife has arisen over a trifle のような言い方であるとか
many a man has failed ということで、現在官僚と相性がいいということはあるのかもしれません。
他にですね、many another という言い方もあります。例えば
I, like many other, used to think so のような文で、他の多くの人と同様にぐらいのここでは意味ですよね。
で、良さそうなんですが、別の言い方として like many another と
an 不定関詞込みの another という単語を使っているわけですよね。
つまり many の後ろには複数名詞が来ることもあるし、many a 単数名詞という形もある。
意味としては多数の何々ということで変わらない。
ただし、現代英語においては many a 単数名詞の方はフォーマルな響きを持つということなんですが、
さて、そもそもたくさんなのに何で a なんだと、単数名詞なんだと、というところが引っかかるわけなんですよね。
ことわざの紹介
many a 単数形を用いた有名なことわざが一つあります。
このヘルディオでもかつてですね、第3回ですかね、第3回の放送で、
塵も積もれば山となるに対応する英語のことわざと題してお話しましたが、
many a little makes a mickle ということわざでした。
そちらの放送もお聞きいただければと思うんですけれども、many a little ということですね。
この little というのは少量を意味する、ここでは名詞の役割ですね。
なので many a 単数形ということになります。
そして意味上は many 複数のものを考えているわけですよね。
小さいものがたくさん集まった状態ですよね。
ですが形としては a little というふうに単数なので、
動詞も単数受けして3単元の s がついていますね。
many a little makes a mickle となっています。
やっぱり単数なんだということになるわけですね。
ここで思い出されるのは all, every, each なんかのあの問題ですね。
すべてのということで意味はゆるく同じなわけですけれども、
all の場合は後に複数名詞が続くわけですよね。
all books のような言い方です。
それに対して every とか each というのは単数名詞が続くっていうことで
every book, each book ということになります。
いずれもすべての本はと略して問題ないケースが多いと思うんですけれども、
よく言われるのは見方が違うっていうことですよね。
all を使うとやはり全体を見ているっていうことですね。
全体として複数あるよっていうことなんですけれども、
every とか each というのは全体を構成する一つ一つに注意関心が向いていて、
結果として合わさって複数にはなるけれども、
意識としては一つ一つなんだとよく説明されると思うんですね。
おそらくは many times に対して many a time というのも似たようなことなんだろうとは思われます。
ですからことわざの many a little makes a mickle っていうのは
割とこの雰囲気が出ている。
つまり many littles make a mickle とすることもできるわけなんですが、
ここで強調したいのは一つ一つの少量と言いますか、
日本語で言えば塵に相当するものですね。
これが一つ一つ集まって全体としては大きなものになるということなんで、
まさに塵も積もればということなんで、
一つ一つを意識したいところですよね。
その観点から言いますと、
やっぱり many a little makes a mickle とした方がふさわしいと、
そんなことにもなるわけですね。
言語の進化
さて、この表現の歴史なんですけれどもね、
many に単数名詞が続くという表現はですね、
小英語にさかのぼるんです。
小英語では割と普通にあったっていうことなんです。
一方、many に複数名詞がつくという、
現代では一般的な方ですが、
これもまた小英語にあるにはあるんです。
ですが、many 足す単数形の方がより普通なんですね。
こっちの方が多かったっていうことなんです。
ただここで注意はですね、
そもそも不定関詞のあとかあん、
不定関詞のザも含めてそうなんですが、
今よりも未発達です。
ですので、不定関詞っていうのはあってもなくてもいいんですね。
一つのもの単数名詞が後ろに来る場合に、
あとかあんっていうのはないことも多いっていうことです。
現在と違って必須の文法項目ではないっていうことです。
不定関詞がまだ固まっていないっていうことなので、
つまり many 足す単数名詞という形と、
many 足す複数名詞というですね、
あ、あんがない形です。どっちにしろ。
これが両方あったっていうことです。
両方あった中では、
many 足す単数名詞というものの方がよく現れたんですね。
この状態はおよそ次の中英語期にも受け継がれます。
両方あった。
そして中英語期くらいになりますと、
不定関詞というものも徐々に発達してきていますので、
今に連なる many あ、なんとかという形もあったんですが、
従来の不定関詞がない形、
many 単数名詞も引き続き見られたっていうことなんですね。
この中英語の例としましては、
一つ挙げてみたいんですけれども、
今、Jawain and the Green Knightと呼ばれる、
中英語後期のロマンス作品を、
大学院の授業などで原文を読んでいるんですけれどもね、
その冒頭の部分、このヘルディオでも実は514回、
Jawain and the Green Knightより冒頭の2スタンザを、
中英語原文で読み上げますと題して、
実際に読み上げているんですけれどもね、
その冒頭の部分でですね、
in many turned time という部分があります。
これ、in many turned time という、
そのまま現代語に持ってくるとそういうことになるんですね。
たくさんのturned というのは、
ひっくり返ったということでtraveled ぐらいですかね。
荒れた、めちゃくちゃな時代っていうことで、
in many turned time なんですが、
最後のtimeに相当するtimeには特にsがついてません。
つまりこれは、many turned という形容詞は挟まっていますが、
その後に単数名詞としてtimeが来てるんですね。
不定関詞のaみたいのはどこにも現れていません。
こんな例があるっていうことです。
したがって、中英語でもまだですね、
many 単数名詞という言い方、
これはバリバリの現役なんですね。
many times のような言い方も平行的に存在していましたし、
小英語よりはよく使われるようになってきたっていうのも事実なんですが、
まだまだmany単数名詞、
many a 単数名詞、
これも現役でよく使われていた。
それが後にですね、逆転しまして、
近代英語、現代英語にかけて、
普通はmany timesですよね、という時代になったわけです。
そしてmany a timeはちょっとかしこまってますよねと。
そんな感じです。
エンディングです。
今日も最後まで放送を聞いていただきましてありがとうございました。
今日はmany 単数名詞とmany 複数名詞という、
この2つの競合の歴史を見たことになりますよね。
両方は最も古い小英語から共存していた。
ただし、より普通なのはどっちかというと、
小英語ではmany 単数名詞だった。
それが中英語にかけてですが、
徐々にmany 複数名詞の方も分布を伸ばしてきて、
そして近代、現代にかけて一気に追い抜いていき、
今ではそちらが複数になった。
そしてmany a timeのような言い方、
これが古めかしい、あるいはかしこまった言い方になっていったということで、
両者の争いの歴史を見てきたことになります。
今後many a timeのような言い方は、
どんどん少なくなっていくんでしょうかね。
今でも古くて硬いし、そしてことわざに残るのみ、
あるいはmany a timeのような定型表現に、
イディオムに残るのみというふうに、
どんどんなっていっているのかもしれません。
さて、このチャンネル、
英語の語源がミニツクラジオヘルディオでは、
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では今日も皆さんにとって良い1日になりますように、
ほったりうちがお届けしました。
また明日。