英語の基礎概念
おはようございます。英語の歴史を研究しています。慶應義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。
今回取り上げる素朴な疑問は、this,that,theなどのthは何を意味するの?という疑問です。
英語で最もよく使われる単語は何かというと、この定関詞のtheなんですね。
そして同じくらい身近ともいえる支持詞です。this,thatですね。
それからこれらの複数形。these,thoseもそうですし、他にはthen,their。
それからあまり使われませんが、these areとかthen'sなんていうのがありますね。
これ全てに共通しているのは、支持的であるであるとか、あるいは限定的とか監視的であるという言い方をしてもいいと思うんですが、
このthごとに全てthが付くわけですよね。
これは何を意味するの?という実際に寄せられた素朴な疑問なんですね。
今述べたように、このthというのは、支持的であったり定関詞的であったり、
要するに話しても聞いてもそれだと分かっている、何のことを言っているかが明らかであるという文脈に現れる、
まさにthe、定関詞theの役割を内包しているということなんですね。
thはそのマーカーである、この支持的な役割のマーカーであると捉えると分かりやすいと思います。
thで全て始まり、その後語尾をいろいろに変化させて、
それぞれthis, that, these, those, their, then, thence, thither、そしてtheですね。
このような語類を、仲間の語類を形成しているという言葉です。
広い意味で同じ役割を共有しているからこそ、そのマーカーとして、
語頭はtheで始めるんだという規則といいますか、語源的にもグルーピングできる、こういった仲間があるわけですね。
この素朴な疑問で、theは何を意味するのという言い方ですと、
theが何か意味するという言い方よりは、
theがこうした語類のマーカーであるぐらいに留めておくのが一番良いのかなと思います。
このような、ある文法的な役割ですね。
whの役割
今回の場合、支持的であるとか、抵的である、抵感し的であるというようなことだったんですが、
こうしたマーカーはですね、他の語類にも見られます。
このtheと同じくらい分かりやすいのは、実はwhですよね。
これはもう皆さん直感的に知っていると思うんですね。
whで始まると、これはいわゆる疑問詞であると。
俗に5w1hというふうに呼んでいますが、whatから始まって、when、where,who,why、そしてhowということですね。
他にもwhichであるとかwhoseであるとかwhenceであるとか、他にもあるんですが、最もよく使われるものとして5w1h。
このhは何なんだと、whではないじゃないかということなんですが、
これも振り返ると、whの仲間なんです。
振り返るとと言いますと、小英語まで遡るとと言い換えられるんですけれども、小英語に遡ると、実はそもそもwhじゃないんですね。
hwだったんです。
hwで綴られていて、このhow、どのようにという意味のhowもですね、whoというふうに、hw、youみたいな形が元の形だったんですが、
このw、youですね、このwという発音が簡略化してw音が落ちて、whoになったんですね。
それらのうちに大母音推移という音変化により、howという今の形になったということで、
現代の形からするとですね、このwに相当するものが、hwとかwh、この辺に相当するものがないように見えるんですが、
小英語の段階、あるいはそれ以前の段階には、このwhoという形で、hwがあったということなんですね。
なので、これ完全に、whatとかwhoとかの他のwh語と同じ語源的には、同じ仲間だということになります。
そしてこのwh、昔のhwなわけですが、これはどういう意味を表すのか、あるいは何の役割を果たすのかというと、
当然、疑問、つまり不定のもの、わからないものということですよね。
先ほどのthとある意味では正反対です。
thというのは知っているもの、既に一度文脈で表れているものということで、それが支持的とか抵抗し的という言い方になるんですが、
今度のwhは、むしろ最初から何なのか分からないものという、つまりハテナの役割ですね。
三人称代名詞の変遷
ハテナマークのような役割ですね。そのままマーカーであるということです。
ということで、thは既に分かっているもの、そしてwhはまだ分かっていないものというふうに大きく対立構図を描くと、そんなふうになりますね。
ですから、これ全てとは言いませんが、そのまま綺麗にthをwhに変えれば、あるいは逆を変えれば対応する単語になるというものがいくつかあるわけです。
例えば、thatに対してwhatですよね。atという部分は共通です。
それに頭にthをつけるかwhをつけるかということで、thatなのかwhatなのかということになります。
それからthenに対してwhenというのはこれ分かりやすいですね。
それからthereに対してwhereというのもとても分かりやすいと思います。
他にはthenthに対してwhenth。
意味はそれぞれそこからというのと、どこからという意味ですね。
さあ、この種のマーカーと呼んできたものなんですが、もう一つだけ重要なものをあげたいと思うんですね。
これ実は現代英語に至るまでに色々と音の変化があったり、何だかんだとあって、
必ずしもthとかwhのように綺麗な分布を成していないように見えるんですけれども、
実は非常に面白いところにもう一つマーカーがあるんですね。
これhで始まるものなんですけれども、何だと思いますか。
これは三人称代名詞のマーカーです。
hで始まる語ということなんですね。
三人称代名詞ということですので、すぐに思い浮かぶものがありますね。
これheというのがあります。
彼ですね。
これ確かにhで始まっています。
活用させてもhe, his, him, hisというふうに全部hが出てきますね。
では、じゃあ女性系はどうなのかと。
いきなりcで始まっているではないかと。
これは違反じゃないかと思われるかもしれません。
しかしcを活用すると、もちろんshe, her, her, hersというふうにhがちゃんと出てきます。
つまり主格のcだけが少し例外っぽいんですね。
これ実は古く小英語に遡ると、これへーおという形だったんです。
つまりhで始まっていたんです。
それがとある事情で、全く別系統の単語であるcというshですけれども、
このshという音で始まる単語が主格の位置に入り込んだというだけで、
これは確かに特別な事情があったからなんです。
もともと小英語でもへーおというふうにhが付いていた。
さらに男性系、女性系とくると、次は中性系、いわゆるものを表すときですね。
これはit、今はit, it, itという形で活用しまして、
hなんて出てこないわけなんですが、これももともと語頭には全てhを持っていたんです。
hit、これがitなんですね。目的格も同じ形でhitでした。
そして所有格は今でこそitsなんて言ってますけれども、
小英語、そして中英語まではこれhisだったんですね。
つまり彼のと全く同じ形になってしまうということで、
全て小英語時代にはこの三人称単数代名詞はどんな活用してもとにかくhが最初に出たんです。
まさに三人称代名詞のマーカーだったんです。
さらに言うと三人称複数代名詞、今では全てth系になってしまいまして、
they, their, them, theirsとありますが、これも驚くことに小英語まで遡ると全てhで始まっていたんです。
ひいえ、ひいえ、ひれなんて活用したんですね。
これもさっきのcと同様に変なことが起こってしまいまして、
後の時代中英語期以降に今のthey, their, them, theirsに繋がる形に置き換えられてしまったという経緯があります。
なので見えにくくなっていますが、もともとは三人称代名詞は全てhだったということになります。
ではまた。