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おはようございます。英語の歴史を研究しています。慶応義塾大学の堀田隆一です。このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも、師匠も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしてきます。毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。
It's と Tis の違い
今回取り上げる話題は、It's か Tis か ー 前接語と後接語、という話題です。これは何のことかと言いますと、It's これは知ってますね。It is を省略してIt'sです。It's fine today という言い方ですね。It is fine today これを省略してIt's fine today。
ところがですね、古くは、It is の部分をですね、It's のように省略するのではなくて、むしろ最初の It の部分を省略してTis という風に省略したんですね。
これは古くあったと言いましたが、今でもですね、地方の方言なんかには普通に残っていますし、それから詩なんかにはですね、今でもTis という形、非常によく現れるので、これ知っておいて良いと思うんですね。
つまり、It's と Tis 両方とも It is を省略したものなんですが、どこを省略して、どのように綴めているかというのがですね、方向性が違うんですね。
で、It's を改めて考えてみますと、これ It is の Is この2語目の Is の方の頭の It という母音を省略した結果、Its だけが残るわけですね。
で、これで It と書く場合には、ここは省略されているんだよということを示すために、It の後にアポストロフィーを入れて、それから S ということになります。
いわば、2語目が1語目に接着してくるって感じです。
2語目が自分自身を省略した状態で、その前の方の第1語目ですね、こちらの本体に接着してくる、寄生してくるっていう感じです。
なので、後ろから前方向に省略が起こり、接続していくっていうことで、前接語と言います。
エンクリティックという用語がありますね。
で、一方、Tis の方はどういう省略かというと、It is の1語目の It この最初の母音、I を省略したわけです。
つまり、It 自身がまず自分自身を T だけの状態に縮小させて、その上で第2語目である Is ですね。
こちらは逆に本体になります。この後ろの本体に寄生していく、接続していくっていうことで、前から後ろに向けて接続していくっていうことで、後接語、後ろに接続する語と言いますね。
プロクリティックという用語が与えられています。
私自身もですね、これどっちがどっちだったけど分からなくなるんですが、1語目と2語目があって、どちらの単語が縮小しているか。
縮小したものが縮小されていないものに寄生していく、接続していくという、この方向性が後ろから前であれば前接語ですね。
前から後ろであれば後接語という、このように理解してください。
とすると改めまして、It's fine todayっていうのは、これは前接語としてのIt'sを使っているわけですね。
ところが古くは後接語のTis fine today、Tis fine todayみたいに言っていることが多かったんですね。
これ前接語なのか後接語なのか、どっちを使うのかっていうのは、どちらでも省略、結局1語になってしまうということは同じなんですが、
この方向性が違うっていうのは割と大きいことなんですね。
現代英語では基本的に前接語、It'sのタイプですね。これが圧倒的に多いです。
他に挙げますと、I amっていうのを縮めてI'mですし、You areはYourになります。
いずれも2語目の、この場合B動詞ですが、これが包まって1語目の代名詞の方に擦り寄っていくっていう感じですね。
あくまで代名詞の方がメインってことになります。
I'm、You're、It's、Seal,Weave,They'd,Don't,Wannaみたいなものですね。
They'dっていうのはThey wouldとかThey hadってことですね。
だからDon'tっていうのはDo notっていうことです。
このNotがんとに縮まって前のDoの方に擦り寄っていくっていうことで前接語的ですよね。
I wanna doというときのWannaっていうのもWant toっていうことですが、このToの部分がこの場合弱化といいますか、いわば前のWantのNの音ですね。
Nの音に同化するっていう形でやはり本体はですね、Wantの方でToが弱くなってWantの方に擦り寄っていくっていう感じの前接的な、前接語的な省略の仕方になります。
他には例えばですね、That's more than I knowなんていうときに、このthanなんていうのも非常に包まって弱まって発音されることが多いので、That's more than I know, more than I knowなんですが、more than I knowのようになったりしますね。
これはmoreの後のthanが、このtheの個心が弱まってNだけに残っちゃってるっていうやつですね。それがmoreの部分に接続して、後ろから前に接続して、more than I knowみたいな言い方になるというふうに非常に多く存在するんですね。
だいたい前接語的な省略が現代語では多いです。ところがですね、古くはむしろ口節的な、口節語を用いる省略の方が多かったんですね。
口節語の形成と例
他にはですね、古い英語なので、現代そのまま残っているものは少ないわけなんですが、例えばhow do you doなんていうときのhow didの部分はthe apostrophe yeなんて書きますね。
これはhow do you doということでyeの部分ですね。これがyou、二人称、代名詞になるわけです。こっちの方が本体としてしっかり残っていて、doの方がthe apostropheという形ですから母音が消えた形ですね。
つまり後ろの2語目の方が本体で、1語目が縮小して帰省して、前から後ろに帰省して接続していくということで、これは口節語的ということですね。
ただこの表現自体が古い表現の固定表現として今でもhow do you doというわけですので、もともとは古い時代の口節語がよく使われていた時代の名残りということになります。
他にはですね、これは現代でも現役ですがgo and see itというときのandなんかは弱い発音ですし、dが省略されますよね。
どうするとgo and see itという形になって、dが聞こえません。この場合、an apostrophe cという形でand cがまたかも1語のようになりますね。
この場合、cの方がメインで、その前にくるandがanと弱まって、後ろのcにすり寄っていくという感じなので、これは口節語的です。
これなんか今でも普通に起こっていることかと思いますが、どうも英語の歴史を振り返ってみると、この口節語的な省略語がメインだったところがですね、それがだんだんなくなって、
現代語にかけて前節語的なもの、つまりteaseみたいなものからitsみたいなものに変わってきたという流れがあるんですね。
ですので、現代語だけ見ているとですね、だいたい前節語的な省略が多いということなんですが、古くから残っているような表現ではですね、
この口節語的な雰囲気を残しているものっていうのがちらっとあるんですね。
例えばですね、o'clockってありますね。これo'clockですが、これはもともとof the clockあるいは、of clockという言い方なんです。
これはofのfですね。このシーンが取れてしまって省略されてしまって、後ろのclockという本体にすり寄っているので、これ口節語的です。
それからaliveってありますね。生きているということなんですが、これはもともとこのaliveのaはですね、onとかinという前置に過ぎないんです。
これが弱まってon、inのnが取れちゃった形ですね。つまり省略された形で、弱まった状態で後ろのliveという本体にすり寄っていったということで、これも口節的です。
ただこのo'clockにしてもaliveにしても、もう一語っていうふうに考えていると思うんですね。
それではまた。