アイデアのメタファーの探求
おはようございます。英語の歴史の研究者、そして英語のなぜに答える初めての英語史の著者の堀田隆一です。
9月6日火曜日、皆さんいかがお過ごしでしょうか。 英語の語源が身につくラジオヘルディオ、本日お届けする話題は
ボイシーのハッシュタグ企画に参加しようと思います。 今回のハッシュタグ企画は、アイデアが降りてくるという話題なんですね。
これに引っ掛ける形で、本日はアイデアは降りてくるものか湧いてくるものかです。 本日もどうぞよろしくお願い致します。
今週のボイシーのハッシュタグ企画、トークテーマですけれども、この一つがですね、アイデアが降りてくるというものなんですね。
そしてこの話題に乗っかってですね、今日はアイデアは降りてくるものか湧いてくるものかというタイトルをつけたんですけれども、
このお題の言葉尻を捉えているかのような、あるいは挙げ足を取っているかのようなタイトルなんですけれども、そういうつもりではないんですね。
アイデアが降りてくるってすごく面白い表現だなと思っているんです。 私自身もアイデアがどういう形で降りてくるというんですかね。
いかにしてアイデアを売るかということについては、なみなみならぬ関心を抱いておりまして、というのは研究の世界というのはやっぱりアイデア勝負なんですよね。
問題設定、テーマ設定から始めて設定したはいいけれども、やっぱり最後に回答と言いますか答え、結論というのがなければいけなくて、そこに至るのにひたすらいろんなところからアイデアを引っ張ってこないといけないんですね。
それで議論をまとめてということなので、アイデアの仕事なんですよ。
ですのでアイデアというキーワードの話題はですね、私アンテナを張っているのでいろいろ引っかかっていくわけなんですが、今回の話題ですね、アイデアが降りてくるというこの表現自体に焦点を当てたいと思うんですね。
降りてくるアイデアと湧いてくるアイデア
話を始める前に過去の回の紹介をしたいんですけれども、実はこの息抜きをしているとアイデアの神様が降りてくるというようなテーマで一度話してるんです。
367回、今年の6月2日の放送なんですけれども、その時のタイトルは私の息抜き気晴らしディスポートは運動スポートです。これも25ということで、その時もですね、実はハッシュタグ企画に乗りまして息抜きをしようというお題に乗っかったお話だったんですね。
5弦に引っ掛けた話でしたが、その時にもですね、アイデアの神様が降りてくるみたいな言い方をしてたんです。ですので、今回はですね、この言い方自体に焦点を当ててですね、アイデアって一体何なのかっていうことに改めて迫ってみたいと思います。
今回のハッシュタグ企画アイデアが降りてくるというお題をですね、聞きましていろいろ考えてみたんですけれども、アイデアっていうふうにこれ日本語でですけれども言うときに2つ種類がありそうだなと思ったんですね。
1つは降りてくるもの。まさに今回のような言い方なんですけれども、これは最終的に問題を解決するためにいいアイデアを待っているっていう、そういうことだと思うんですよね。ただこれ待っているって言っても私は積極的に捉えていて、いわば人事を尽くして天命を待つっていう言い方がありますけれども、やることはやった状態で後は降りてくるのを待つということなんですね。
つまり天命を待つ前段階として人事を尽くすっていうのがあって、ここは非常に積極的なんですよ。なので私は割とこのアイデアが降りてくるのを待つっていう言い方は、今言ったの人事を尽くしてっていうのを込み込みで待つっていうことなんで、割と積極的に捉えてるんですね。やっぱりただ待ってても降りてこないんですよね。準備しているからそこに降りてくる可能性があるみたいな捉え方をしたいと思ってるんです。
これは最終的に問題を解決してくれる最後の解決策という感じでですね、やはりこれで決まりっていうような結構重要なアイデアだと思うんですよ。
それに対してもう一つはですね、アイデアが湧いてくるっていうタイプで問題の解決というよりはむしろですね、問題を広げたり、その後整理したりっていうようなもうちょっと前段階ですかね、ファイナルな解決に至る前段階でどんどんブレストしていくっていう状態ですよね。結構早い段階だと思うんですよ。これいろんなプロジェクトの。
これもちろん積極的です。湧いてくるっていう、どんどん出すっていうことですから数勝負というところがありますよね。一発で決めるというよりはいろいろ出してくるっていう場合には湧いてくるって言い方がふさわしいと思うんですね。
英語で言えば一つ目のものはthe idea、最後に解決してくれるthe ideaっていうものですね。それに対して二つ目の湧いてくるっていうのはブレストの段階で関心なしの複数形ideasと言う。これ二つだいぶ違うアイデアなんではないかと思うんですよ。
アイデアが降りてくるっていうのが一つ目、そしてアイデアがどんどん湧いてくるっていうのが二つ目っていうことなんですね。二つの表現があるっていうことです。
ここから私の専門の言語学の話に少し移行していきたいと思うんですけれども、こういうふうに日本語でアイデアが降りてくるとかアイデアが湧いてくるって言い方ありますよね。
これ二つだいぶ異なる言い方で比喩表現なんですよ。両方ともアイデアが降りてくるって言うと上から降りてくるわけですね。下にでアイデアが湧いてくるって言うとどっちかというと下からとか中からどんどん湧いてくるっていうことですね。
イメージがだいぶ違うんですよ。これアイデアっていうものはもともとは概念、物理的な形があるものではないのであくまでこれ比喩ってことになりますね。上から降りてくるとか下から湧いてくるっていうのは概念なんですね。
ということはこういう言い方そのものがメタファー、比喩ってことになります。そしてこのメタファーとか比喩っていうものはこのレトリック上の表現上の一つの言い方だというにとどまらず、実はその言語の話者の考え方であるとかあるものに対する概念、イメージを広く司っていると言いますかね、土台となっているっていう考え方ありまして、
その場合、単なる数字的なレトリック的なメタファーと呼ぶんではなくて、もう考え方の基本になってしまっている。だからこそ様々な表現に反映しているんだっていう考え方がありまして、これを概念メタファー、コンセプチュアルメタファーって言ってるんですね。
英語との比較
そしてまさに今回のお題はですね、とっても素晴らしく概念メタファーの話になってるんですよ。日本語ではアイディアに関して2つの概念メタファーが少なくともあるということになります。もっとあると思うんですよ。ただ今回は2つに絞りたいと思います。
1つは降りてくるものということですね。2つ目は湧いてくるもの。つまり上から降りてくるものと下から湧いてくるものっていう2つのイメージがあって、これが概念メタファーということになってると思うんですね。そしてそこから様々な表現が生まれているっていうことなんです。
これ改めて意識して様々な表現を見てみると、本当だ、この2つの概念メタファー、機能してるっていうことはとってもよくわかると思うんですね。
1つ目のアイディアが降りてくる系の概念メタファー。上から降りてくるっていう考え方ですね。これはですね、私としては概念メタファーとして次のように定式化したいと思います。アイディアは上がかったものであるという概念メタファーです。
これ降りてくる。ですから、やっぱり上の方にあるものが私の中に降りてくるわけですよ。典型的にはこれ神ですよね。神が降りてくるっていう、いわゆるににぎの御事じゃないですけれども、天尊降臨の発想ですよね。神様が降りてくるんですよ。
あるいは神様そのものではなくても、神がかったものが降りてくるとか、霊感がですね、天からやってくるっていう感じですか。インスピレーションが降りてくるっていう感じですね。アイディアに打たれるという言い方もちょっと誇張ですがあるかもしれませんし、さらにアイディアがひらめくっていうのもちょっとですね、神がかったものに近いと思うんですよ。雷に近いですかね。
雷っていうのは神様が鳴ってるわけですから、そんなイメージに近いのかなと思うんですね。
2つ目のアイディアが湧いてくる系なんですけれども、これを概念メタファーとして定式化するとすれば、私だったらこう言いますね。アイディアは泉である。良いアイディアが湧いてくるっていうのはまさにそうですよね。
しかもこれがですね、アイディアが枯れるって言い方もするんですよ。アイディアが枯渇するとかいう言い方ですね。これ泉ですよ。湧いてくる泉の水が止まっちゃうっていうことですよね。だから良いアイディアが浮かぶっていうのはちょっと微妙ですけれども、やっぱり浮かぶとか浮くですから水と関係するのかなと。そうするとどちらかというと湧いてくる系なのかなっていう気がするんですね。
さて、日本語でこの2つの概念メタファーがありそうだということなんですが、英語ではどうでしょうか。次のチャプターでお話しします。
前のチャプターではアイディアに関する2つの概念メタファーが日本語では働いていると。少なくとも2つということですけれども、1つは降りてくるもの、そしてもう1つは湧いてくるものということで、上から下に来るものと下から上にというふうに考えるとですね、対立しているように思われるんですね。
1つ目のものは私の印象ですと問題解決つまりthe ideaというか最後のファイナルの答えが上からついに降りてきてくれたみたいな言い方ですね。だから2つ目の湧いてくるっていうのは複数ですよね。たくさん湧いてくるって感じなんで。
監視のないついてない複数形のideasみたいなどんどん湧いてくるっていう感じでだいぶ違った考え方って言いますかね。概念メタファーなのかなと思うんですが、これに相当するものが英語にもあるかっていうとおよそ似ているものはあるのかなというふうに感じています。
これは英語のideaっていう名詞とコロケートする、コロケートっていうのは狂気するですね。一緒に起こることが多い表現っていうのを集めてみますとなんとなく雰囲気がわかってくるんですけれども、例えばですね、
アイデアの発生について
アイデアが降ってくるとか、アイデアに打たれるっていうようなそういう日本語の表現に割と発想として近いのかなというものとしてはですね、the ideaっていうのが主語に立つっていうことを想像してください。
その後にどういう述語、動詞、表現が続くかっていうことなんですが、例えば、come into somebody's brainとか、come into somebody's head、come into somebody's mindとか、もっと端的にcome to somebodyっていう言い方ですね。
それから似たような言い方、flash先ほども述べましたが、ひらめくっていう表現ですね。雷みたいな、手に打たれるっていうような感じだと思うんですが、flash through somebody's brain, flash through somebody's mindですね。
それからやはりですね、これも雷に打たれるっていう雰囲気となんだかの関係あると思うんですけれども、hit somebody, occur to somebody, pop into somebody's head, strike somebodyみたいな、打つという表現ですね。これと相性がいいのがアイデアっていうことになります。
例えば典型的な文としてですね、一つ挙げてみますと、the idea for the invention came to him in the bathという時のcame to himという言い方ですね。
他には例えばcome up with an ideaであるとかdream up an ideaみたいな言い方がありますかね。これなんかもどちらかというと降りてくる系と言いますかね、打つとか降ってくるというようなものと相性がいいっていう関係がありそうな、そんな表現ですよね。
一方、日本語で言う湧いてくる、アイデアが湧いてくる系なんですけれども、これはですね、英語ではたくさん表現があるわけではないようなんですけれども、例えばflow、流れ出るというような言い方があったりしますね。
例えばhis ideas flowed faster than he could express themのような表現なんですけれども、表現できるよりも早くどんどん湧いて出てくる、流れてくるっていう意味で主語がhis ideasというふうにやっぱり複数形なんですよね。
なので、湧いてくる系っていうのはやっぱりどんどん湧いてくるので、一つじゃないんですよ。ファイナルな解決としてのアイデアというよりは、とにかく試作的なトライアル的なアイデアがどんどん出てくるっていうブレスト系ですよね。湧いてくるっていう概念メタファーとは、やはりこのアイデアの複数形っていうのが相性が良さそうなんですよね。
あとは英語では一番普通なのが結局haveですね。I have an ideaとか、あと引き出すなんて言い方ありますかね。I drew my idea from Japanese artであるとか、例えばそんな言い方はあったりすると思うんですよね。
このようにですね、日本語と英語の間には微妙な違いはあるのかもしれませんが、基本的には降りてくる系アイデアっていうのと湧いてくる系アイデアっていう2つの概念メタファーは一応揃っているような気はするんですね。細かいところは違うのかもしれません。
2つ紹介しましたけれども、もちろんですね、これ以外にもアイデアを巡る概念メタファーってあると思うんですよ。
メタファーの重要性と影響
例えば形容詞とのコロケーションで考えますと英語も結構面白いですね。例えばa bright ideaとかbrilliant ideaみたいな、もともとは明るさを表現するものとアイデアっていうのがくっつきやすいっていうことがあったりしますよね。
これはアイデアを光と見る一種の概念メタファーであって、いわゆる電球が光ったような感じですね。漫画なんかでもよく出ますけれども、これ日本語としても当然日本語として日本文化としても通じる漫画の表象ですよね。
豆電球みたいので表現するわけですけれども、これなんか非常にわかるわけですよ。なので英語にも日本語にもあるいは英語文化にも日本語文化にもこのアイデアは光であるっていう概念メタファーはどうやら存在していると言えそうですよね。
いろいろ考えてみるとこれ面白いんではないでしょうか。ということで、今回はアイデアは降りてくるものか湧いてくるものかというお題でお話ししました。エンディングです。今日も最後まで放送を聞いていただきましてありがとうございました。
今日はボイシーのハッシュタグ企画に乗る形でお話ししたんですが、結果として言語学でいうところの概念メタファーの紹介の回になったと思うんですね。これ今まで本格的にボイシーの放送で私も喋ってきたことがなかったので、とても良い機会だなと思いつつお話ししました。
概念メタファー、コンセプチュアルメタファーと言うんですけれども、これはですね、この半世紀で最も影響力のある考え方の一つなんではないかと言語学から提供された考え方の一つではないかと私は思っているんですけれども、1980年にレイコフ&ジョンソンというですね、哲学者と言語学者のペアがですね、
Metaphors We Live Byという本をですね、出しまして、これが爆発的な影響力を持って、現代の認知言語学の唇を切ったと言っても過言ではない、非常に大きな著作なんですけれどもね。
これはですね、学術書ではあるんだと思うんですけれども、読みやすい。何なんでしょうね、読みやすいんだけれども、学術的に価値が高いという一般向けを意識しながら、ただ読み込むとやっぱり難しいというような不思議な本なんですけれども、これによってですね、メタファーというのは単なる数字的なレトリックの技術ではない。
そもそも認識を、認知を司っているんだというようなですね、それが言葉の上にたくさん現れてるんだというようなことを明らかにした書としてですね、今ではもう古典となっているほどの重要書なんですけれども、それに基づいたお話を今日したことになります。
この日英語の概念メタファーにつきましては、非常に読んでいて面白いコンテンツがウェブ上にありますので、そちらへのリンクを貼っておきました。ぜひお読みいただければと思います。
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それでは今日も良い1日になりますように。ほったりうちがお届けしました。また明日。