こんにちは、BIBLIO JAM始まりました。本日のプレゼンターのトネ・アスカです。
こんにちは、本日のナビゲーター、志藤淳也です。この番組は、話題の新刊ノンフィクションをじっくり深掘りしていくポッドキャスト番組です。
今日も日本橋浜町のブックカフェ、浜ハウスからお届けしております。
志藤さん、突然ですが、教学校の時ってノートを取るの得意でしたか?
突然ですね。あの、いや、黒板を写すのに必死で、後でこう見返しても自分の字なんて読めないってパターンですよね。
例えばですね、周りの子が綺麗なノートを作っている中で、自分だけが書くという行為そのものにエネルギーを使い果たしてしまっていて、
授業の内容が全く頭に入ってこないとしたら、その時すごく孤独だったと思うんですけど、どうですか?
うん、まあ、単なるね、手段であるはずの書くことが、こう、なんか壁になっちゃってるわけですもんね。
その壁のこの子側で、実は誰にも気づかれずに磨かれていた知性があったとしたら、話をしたいんですけど、
この著者の保育園の卒園式の一節、聞いてみてください。
私だって若い。今でも若いやも知らんが、さらに若かった。
懐かしさという単語の意味も、ろくに知らないような六歳児だから、懐かしさなんぞ感じることもない。
なんかこう、六歳の時の振り返っている、お年寄りが書いたようなイメージ?
実はこれ、14歳の男の子が書いた文章なんですよ。
14歳。
で、さらに驚くのが、こんなにいいものを書く彼なんですけども、
実は自分の名前、漢字を満足に手書きできない、書き障害、ディスグラフィアという障害を持っている方なんです。
これだけの語彙力があるのに、手書きができない。
そうなんです。
今日は、こんな素敵な文章を書く彼が、手書きという暗闇からどうやって抜き出して、書く喜びを勝ち取ったのか、そんな物語をご紹介したいと思います。
今日ご紹介するのは、現在まだ高校生の浅野浩一さんが14歳の時に書いた辞典。
14歳、字を書けない私が書く喜びを手にするまでです。
浅野さんは書き障害という特性の持ち主で、頭の中にはあんなに豊かな言葉が溢れているのに、いざペンを手に取ると脳が拒絶反応を起こしてしまうらしいんです。
あの、トム・クルーズ、俳優のトム・クルーズが台本の文字が実は読めないっていうね、それディスレクシアって有名じゃないですか。
浅野さんの場合は、字を書く方でディスグラフや、書こうとしても体がついてこないっていう状態なんですね。
うんうんうん。
市藤さんこの手書きした文字見てどう思われますか。
えー、29ページですね。
これはね、かろうじて読み取ろうと思えば読み取れるけど、文字が歪んでるし、方向も斜めになったりとか、大きさもちぐはぐだし。
一目見て、ほんとに率直な感想を言うと、何か障害を抱えた人の字だなっていう感じですね。
なんかどっか麻痺してるとかね、そういう感じがします。
そうですよね。私もびっくりしたんですけど、小学の時に、たとえばすぐ反対向いてしまうとか、あったじゃないですか。
そこまではレベルいかないですけど、隣文字が重なっていたりとか、大きさもバラバラなところがちょっと特徴を感じますよね。
彼はこれ見本を見て書いていますし、実際、さっきも言ったんですけど、漢字の書き取り練習もですね、毎日3時間必死にやっていた時期があったそうなんです。
3時間毎日って相当ですよ。
普通の人なら30分で終わるものが、彼にとってはもちろん時刻の時間なんですよね。
コンプレックスになってしまうわけですけども、ここ私本を読んでて本当に胸がキュッとしてしまって苦しかったんですけど、
やっぱり必死に努力しても翌朝にはまたできない子に戻ってしまっている。
その絶望感からですね、彼は10歳の頃に死を考えたこともあったと告白されています。
わずか10歳で、でも10歳って言ったら小学校4年生とかそんなぐらいだと思うんだけど、
それでそこまで追い詰められてたっていうのは、最初にのりさんが紹介してくれたちょっとユーモラスな文章からは想像もつかないですけど、
こういうのにやっぱり命がけって感じがしますね。
そうですよね。ここで周りの人が何か気づけたらよかったんですけど、
こういうことあるなって思ったところがあって、スクールカウンセラーの先生に、
この子、IQ100もあったんだっていうようなことを親御さんの前でも言われてしまう。
失礼なこと言われてしまいます。
そうかそうかそうか。この朝野さんの書く字を見て、そんなにIQがないだろうって思ってたわけですね。
本当は天才なのにね。
そうなんです。許せないですよね。
何かで人を決めつけて、しかも大人が子供を決めつけてしまうことってよくあると思うんですけども、朝野君を理解する気が全くないですよね。
でも読み書き障害を抱えている子ってどれくらいいるんですか?
これ実は特別なケースではなくて、文科省のデータによりますと小中学生の約6.5%。
6.5%。
そうなんです。つまり35人の学級ならクラスに1人か2人はいる計算になります。
多いですね。思ってた以上にね。
以前、性的マイノリティの人の割合がクラスに3人ほどって聞いたことがあって、何かその時のことを思い出しました。多いと思います。
自分のクラスメイトにもいたんだなっていうのを気づきました。
全然気がつかなかったけどいたんだね。
特別なことじゃない、朝野君のように才能を持ちながら出口を見つけられずに苦しんでいる人が必ずいるという環境の中で、
この本は埋もれた才能を社会がどう見つけるべきかという思い問いも同時に投げかけております。
そんな風に外側からできない子に見えていた時期も、彼の頭の中では最強の武器がちゃくちゃくと磨かれていたんですよ。
最強の武器って文章力がすごいですけど、あの文章がどうやって生まれたのかっていう、その辺の秘密は気になりますね。
そうですよね。おそらくこの本を読んだ人、みんな心を掴まれるのがこの文体なんですけども、
実は彼は自分の脳内にお気に入りの文体をストックするというとんでもない技術があるんですよ。
文体をストック。知識とか単語じゃなくて文体をストックってすごいですね。
そうなんです。本の中にですね、言葉の国の絞りかす文体遍歴っていうシャレたコラムが載っているんですけども、
自分が影響を受けた作家さんを分析しているんです。
例えば、阿川沙子さんのカジュアルな口を折り混ぜて独特なリズムを作ったりとか、
あと浅田次郎さんが宣伝された語彙と知的なビット感。
すごいね。結構年取った人みたいな感じのね、深みのある文章ってのは。
そうした憧れの作家のエッセンスっていうか、それを自分なりに消化して作られたものってことですね。
そうなんです。そこに天才性を感じてしまいます。
よくできるな。
私自身もいい文章を書きたいと思って、いろんな方の文体を書き写したり、真似しようとしてみたけれども、
やってるの?
やってみましたよ。例えば、向田久彦さんの文章とか。
これまで、俺、利根さんの書き写した文章たくさん読んでるけど、向田久彦?
ユーモアがあふれる文章を自分も書いてみたいなって思ってたんですよ。
でももちろん、なかなか自分のものにはできなかったですよね。
ああ、そうね。別に鳥谷さんのことを言うばっかりじゃなくて、
自分もハードボイルドな文章が書けるようになりたくて、
北方健三さんの文章を真似ようとしたりしたことがありますけど、
でも結局、バーで葉巻きすすぐらいしか真似できなかったですけどね。
朝野さんはそれをうまく自分の中に取り入れることができた。
すごく伝わってきたのは、彼が手書きという手段を奪われていたからこそ、
一一倍、言葉の響きやリズムを脳内で必死に咀嚼し続けてきたのかなと思いました。
もう、書きたいけど書けないっていう上というか、気が感みたいなものがやっぱり、
言葉を味わう力を極限まで高めたっていうことですね。
まさに彼が苦戦してきた文体の獲得っていうところを、
別のルートで高いレベルを超えていったっていうところが、
すごくこの本の魅力の一つだと思います。
最後に朝野さんの物語をさらに深く味わうための2冊関連図書を紹介したいと思います。
1冊目は宮地直子さんのトラウマという岩波新書が出ている本です。
心の傷の話ですか?
心の傷の話、たぶんいきなり出てきた感があると思うんですけども、
心のケアって言われると、例えば震災とか大規模な事件が起こった時に、
心のケアは必要ですってよく言われるじゃないですか。
そうですね。
イメージとしては、カウンセリングとか、専門家がその方に処方するものが心のケアって言われる。
イメージはあります、そういう。
ここで宮地さんが仰っていることは、心のケアっていうものは専門家だけがやる特別なことではない。
保護の被災者とか被害者が深く傷ついているということ、
あと回復の道のりが新たなストレスをもたらすということを、
社会全体がちゃんと認識をしていかなきゃいけないということを言っています。
この本で改めて気づいたのが、
書き障害とか学校関連だけの話っていうふうに捉えられることもあると思うんですけども、
社会全体として、その障害だったりとか、
合理的配慮っていうことについて考えることが大事なんだなっていうものを、
改めてさっきの14歳の本と書き合わせて認識しました。
合理的配慮って言っても、特別扱いっていうことじゃなくて、
社会が当たり前にその人が普通に楽に過ごせる環境を整えるっていう、
そういう意味で実続きの話になっているってことですね。
そうですね。主語、社会とか学校ではなくて、
私として、自分ごととして考えてみるっていうのが大切だと思いました。
もう一冊はですね、
僕は数式で宇宙の美しさを伝えたいっていう本です。
これは門川から出版されているクリスティーン・バーネットさんが書いた本なんですけど、
3歳で自閉症と診断された息子さんのお母さんが書いた本なんですね。
彼は3歳で自閉症と診断された時に、将来は靴紐も結べないだろうと言われてしまっているんです。
将来は靴紐を結べないと言われた息子さんが、将来どうなったんですか?
実は宇宙科学者になりまして、
お母さんがですね、できないことを直すのはやめて、
彼がとても夢中になった宇宙を探求する環境を整えたんです。
例えば大学の教科書を渡したり、あとプラネタリウムに連れて行ったりとか、
そうすると彼の才能が爆発して、
なんと9歳で大学に進学して、やがてノーベル賞候補まで言われるようになりました。
3歳で自閉症と診断されてたのが、9歳で大学に進学した。
はい。
できないことを修復するのではなくて、
その人がもともと持っているものを大切に育ててあげる。
そうしたら、さっきの浅野さんも、自閉症の息子さんも、
しっかりハンディキャップを唯一無二の異能として開花させたわけですね。
そのことをこの2冊は鮮やかに証明しているなと思いました。
社会のあり方を考えるトラウマと、個人の可能性を信じる数式の話と、
確かに浅野さんの本を軸に、なんかね、視界が広がるような本ですね。
そうですね。埋もれてしまいそうな本来の姿をどうやって救い出すかというところを、
この3冊を通じて、皆さんと一緒に考えていければなと思いました。