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2024-12-09 12:24

「好みではないけれど、不快じゃない」関係が崩壊するとき【ハン・ガン『菜食主義者』を読む】

今年私が読んでもっとも衝撃を受けた本、ハン・ガンさんの『菜食主義者』(きむ ふなさん訳)ご紹介。ノーベル文学賞を受賞したハン・ガンさん。『菜食主義者』が描こうとしているもの、小説ならではのアプローチについて考察します。


オープニングとエンディングをちょこっとリニューアルしました。


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サマリー

ハン・ガンの小説『最色主義者』では、韓国人女性のヨンヘが突然ベジタリアンになります。その過程や影響が夫の視点から描かれています。作品は絡み合った人間関係や暴力性を探求し、夢のメタファーとしても解釈される深い内容を持っています。

夢のテーマと小説の紹介
真夜中の読書会おしゃべりな図書室へようこそ。
第192話を迎えました。今夜のお便りをご紹介します。ペンネーム、かにゃさんから頂きました。バタやんさん、初めまして。初めまして。
半年前くらいに真夜中の読書会を知り、聞きとして過去回から聞いています。先日夢にバタやんさんが出てきました。
1979年生まれの私は、同世代のバタやんさんに勝手に親しみを感じているのかもしれませんが、夢の中ではとても仲良くお話ししてくださって、目覚めた後にその楽しさを名残惜しく思うような夢でした。
そこで夢を題材にしたような本で何か面白いものはありますでしょうか。好きな作家さんは町田幸さん、島本里夫さんです。と頂きました。ありがとうございます。
おー夢に、いい夢だったんですね。そして同い年なんですね。嬉しいです。夢が大事なモチーフとして出てくる小説って何があるかなーって考えたんですけど、
今年読んで一番面白かったと言える本をご紹介しようと思います。今ちょうどですね、毎年恒例のベストブックを選んでいる途中なんですけれども、
ベストブックは一応その年に出た、その年に刊行された本の中から選んでいて、今日ご紹介する本は今年出た本ではないので残念ながらランク入りできないと、
勝手に私の中で決めたルールで言うとですけどね、選考から漏れてしまうんですが、でも今年一番衝撃を受けた本と思っているのが、今日の勝手に貸し出しカードです。
今日の勝手に貸し出しカードは、ハン・ガンさんの最色主義者という小説にしました。
こちらは2011年に刊行された本で、そうかもう10年以上経っているんですね。
2016年にブッカー賞を取ってまして、今年ハン・ガンさんがノーベル文学賞を受賞されたということで、遅ればせながら私初めて読みました。
ハン・ガンさんの少年が来るはちょっと別の機会に読んでたんですけれども、最色主義者を読みました。
あまりあらすじとかそういう前知識なく読み始めたら、ものすごい衝撃を受けまして、だから皆さんもあまり予備知識なく読んでもらいたいんですけど、
でもそれだと番組にならないからちょっと解説します。読んでから聞こうかなっていう人はここで止めてください。
さて最色主義者どんなお話かと言いますと、韓国人女性のヨンヘがある日から最色主義、つまりベジタリアンになるところから始まります。
妻が急に肉を食べなくなったと夫の視点で語られるんですね。
この冒頭からしてとても引き込まれるので少し読んでみたいと思います。
妻がベジタリアンになるまで私は彼女が変わった女だと思ったことはなかった。
正直なところ妻と最初に出会った時は特に惹かれるところもなかった。
高くも低くもない身長、長くも短くもない髪、カサカサした黄みがかった肌、人への目に若干突き出た頬骨、個性的に見えるのを恐れるかのような無彩色の地味な服装という風に続きまして、
妻のことを変わった人だと思ったことはないけれども、特に惹かれるところもなかったって言い切るところがね、すごいなんとなんとと思いましたね。
このヨンヘさんはですね、冷蔵庫の肉を捨て、ものすごい固くなり肉を食べないことにするんですけど、
なんで急にそうなったのかというのを夫にはあまり説明がないんですね。
夢を見たからだと言って、その夢の内容が結構グロテスクなんですけど、ここではあまり解説しないでおきますね。
全編を通してグロテスクと言いますか、生っぽい感じの小説です。
ややお好み別れるものかなとも思ったんですけど、リクエストくださったかにゃさんが、
島本梨央さんと町田孝さんがお好きと書いてらっしゃったので、島本梨央さんと町田孝さんも生々しい感じと言いますか、
むき出しの人間性みたいなのを書くのが上手な方なので、お嫌いじゃないのではないかなと思ってこの方を選びました。
この小説はですね、ヨンヘを取り巻く3人の、3つの視点、3編に分かれていまして、
まずは夫視点で描かれる彩色主義者、それからヨンヘにはお姉さんがいるんですけど、お姉さんの夫の視点で描かれる猛虎藩、
そしてヨンヘのお姉さんの視点で描かれる木の花火という3つに分かれています。
それぞれ独立しても読めますけれども、ヨンヘをまつわるみんなの話ということでつながっています。
いやこの構成が見事ですね。ヨンヘ自身は自分のことを語るパートが当てられていないんですよ。
それぞれがそれぞれの距離感と見方でヨンヘを描写しているという構成になってまして、
だからヨンヘが本当は何を考えているのかがわからなくて余計不気味なんですよね。ずっとこうなんとなく気味が悪いような感じがあります。
暴力性の描写と結論
あの登場人物の心情を問うような国語の問題、試験問題ってあるじゃないですか。
主人公はこの時どんな心情だったか適切なものを選べみたいな選択肢があったりしてね。
でも本当は当人さえ本人でさえ、何でかどうしてこんな感情なのかどういう感情なのか説明できないようなものを描くのが小説なんじゃないかというふうにこの本を読んで思いました。初めて。
ハンガンさんがなぜノーベル文学賞を受賞したんだろうなーっていう世界のいろんな国の人が小説はすげーって思ったのは何なんだろうって思ったんですけど、
私も再職主義者と少年が来ると2冊しか読んでいないので全部を把握して言ってるわけではないですが、
一つはこの書きたいものに対するアプローチの仕方かなと思いました。それが独特と言いますか。
それから少年が来るもこの再職主義者も私の解釈ですが、暴力を描いているんですね。直接的に
カタクナに肉を食べない4兵さんをお父さんが怒ってお父さんが殴るっていうシーンが出てくるんですけど、それは
象徴的ですし直接的な暴力ですが、それ以外も暴力性、暴力が潜んでいるというふうに解釈しました。
夫に対して一緒に暮らす人に対して何の説明もなく肉を食べない食べさせないっていう4兵も夫にある種の暴力性というか虐待を感じますし、
冒頭に読み上げたように容姿をつまらないとか好みじゃないとか惹かれるものがなかったみたいに勝手に評価する、下げすむっていうのも暴力じゃないかなと思うんですよね。
もちろん根底にあるのは韓国の社会的な背景とか過不調性だったりとか抑圧された女性みたいな描いているという読み解き方もあると思うんですけど、
私は誰にでもある人間の人間への暴力性みたいなものを描こうとしたのかなというふうに思いました。
第2章第3章ではどういった暴力性が描かれているのかはぜひ読んでみていただけたらと思います。
ではこの最色主義者から神フレーズをご紹介します。
君の善良さ、安定感、冷静さ、生きていくことに少しも不自然じゃない態度、そんなことが感動をくれるんだ。
その言葉は多少難しかったためにもっともらしく聞こえたが、むしろ彼が愛なんかに陥っていないことを表す告白ではなかっただろうかとあります。
これはですね、ヨンヘのお姉さんが夫と結婚前のことを振り返っているシーンなんですね。
ヨンヘの姉はすごくちゃんとした人で、ここにある通り安定感とか善良さとか冷静さがある人なんですけれども、
夫は彼女のことをいささか好みから外れていると付き合い始めた当初から感じていたって語る部分が1個前の章に出てくるんですよね。
資料深さとかルックスとか悪いわけじゃないんだけど、本能的に魅力的だと思っていないということなんですかね。
これもまた残酷ですよね。
2人の夫は2人ともあんまり好みじゃないなーって、でも決定的にダメなところがあるわけじゃないからなーって一緒になっているわけですよ。
これって残酷なことだなぁと思いましたが。
そしてここに出てくる人たちはみんなある日一線を越えてしまうんです。
蒸気を逸してしまうというか、越えてはいけない境界をちょっと越えてしまうようなところがありまして、
でも突然蒸気から外れてしまうというか、一線から外れてしまうわけじゃなくて、ずっとずれてるなーって気づいてたんだけど、
それがある日コップの水があふれるみたいに露呈するのか、あるいはちょっとずつちょっとずつずれてきていたのが気づいたら行き地を越えちゃってたみたいなことなのか。
ちょっとどんな人にもあり得るような気もしますし、その背景は自分でも曰く説明しがたいものがあるのかなというふうに読みました。
読んでみてぜひ目撃してみてください。
おそらく衝撃作と呼ばれるタイプの小説だとは思いますが、
至って静かな文体と言いますか、美しい文体で描かれていまして、不思議と読語は悪くないと思いましたね。
救いがある感じのラストという印象です。
かにゃさん、リクエストありがとうございました。ぜひ夢のメタファーを読み解いてみてください。
ちなみに私は正直あんまりわかってないです。ちゃんとは読み解けてないように思っています。
さてさて、そんな感じでもう2024年も終わりが近づいているということで、
次週からですね、2024年を振り返ってベストブックを徐々に発表していきたいと思っています。
ではでは、またリクエストもお待ちしております。
さて、そろそろお時間になってしまいました。
真夜中の読書会おしゃべりな図書室は、皆さんからのお便りをもとにおすすめの本や漫画、紙フレーズをご紹介しています。
リクエストはインスタグラムのアカウント、バタヨムからお受けしております。
お届けしたのは講談社のバタヤンこと川端理恵でした。
また水曜日の夜にお会いしましょう。
おやすみなさい。おやすみ。
12:24

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