読書会の始まり
真夜中の読書会おしゃべりな図書室へようこそ。
こんばんは、KODANSHAのバタやんこと川端です。
真夜中の読書会おしゃべりな図書室では、水曜日の夜に
ホッとできて明日が楽しみになるをテーマに
おすすめの本や漫画、紙フレーズをご紹介します。
第191夜を迎えました。今夜のお便りをご紹介します。
ペンネームRさんからいただきました。
バタやんさん、はじめまして。
はじめまして。
娘の寝かしつけが終わった自分時間にゆったり聞かせていただいています。
私の夫は1年前から海外赴任しており、幼い子供と2人で暮らしています。
年末から私たちも夫のいる国へと旅立ち、数年間異国の地での生活が始まります。
私は新しい環境や人間関係を築いていくことがとても苦手で、
言語も違う国でどう暮らしていけばよいのか、正直楽しみよりも不安が募る日々です。
そんな私に背中をトントンしてくれるような、体を軽くしてくれるような物語があれば教えてくださいといただきました。
ありがとうございます。
こちらつい最近いただいたメッセージなんですが、
年末からということはもうすぐですねと思って取り上げさせていただきました。
そして今日はもう一つリクエストをご紹介したいと思います。
バリトー在住のサワナナさんからいただきました。
こんばんは、毎週楽しみに聞いています。
ありがとうございます。
バリトーで毎年開催されるウブド・リーダーズ&ライターズフェスティバルで参加したトークイベント
Exploring Identities in Literature and Lifeが面白かったです。
複数の文化圏で幼少期を過ごした経験を持つ3人が自身のアイデンティティをどう捉えて作品に反映されているのかを語りました。
面白そうなトークテーマのイベントですね。
そこでバタヨムさんのお勧めの複数の文化圏で生活した作者の本があったらご紹介くださいといただきました。
ありがとうございます。
トークの出演者の方と詳細も教えてくださっていたんです。
ありがとうございます。
さてそんなお二人にアールさんとサワナナさんにぜひお勧めしたい本がありまして、
今夜の勝手に貸し出しカードはイリーナ・グリゴレさんの優しい地獄にしました。
どんな本かご紹介する前にちょっと私の近況をお話ししたいと思います。
先週までボストンとニューヨークに出張をしておりまして、9日間の出張から帰ってきたばかりなんです今。
ちょっとまだ時差ボケが残っていて変な時間に目が冴えてしまいます。
そんな長い長い海外出張も久しぶりでして、着いたばかりの数日はボストンのですねレンガ作りの美しい街並みときりっとした空気感とクラフトビールも美味しいし、
目に入るもの入るものキラキラして見えてたんですけども、4日目ぐらいを過ぎたあたりからアメリカ料理の塩っ気にやられたのか、
下半身に冷えが溜まってきたのか、とにかくあったかいお風呂に入りたい、あったかい卵かけご飯を食べたいという気持ちに陥ってしまいましてね。
だから何が言いたかったかというと、そんなに長い期間海外にスマイルを映すっていうのはすごいことですよね。
それは不安が先立つことでしょうと思ったのと、細胞も入れ替わりそうですよね。
もともと私は旅行もそれから出張も結構好きなんですけれども、あれは高いお金を払って不自由を買いに行くようなものだと思っていて、
大人になって最近は特にそう思っていて、そして特に海外はそんな感じがしますね。
よっぽど高いスイートとかに泊まらない限り、泊まっても家よりは狭い部屋、狭いバスルーム、化粧品とか着るものとか、
身の回りのものも最小限しかなくて、お腹を壊さないかなとか、怖い思いをしないかなとか、マナー違反をやらかしてないかとか、ドキドキすることがいっぱいあって。
その言語の違いとかカルチャーショックも含めて、不自由さによってデトックスされるような感覚もあるんですよ。
プリミティブなものに立ち返る感じがあるんですよね。
最小限ってなった時に本当に大事なものって、自分にとって大事なものってなんだろうとか、日本のあれってありがたいんだなーって思ったりとか、
帰ってきた時の快適さや安度感を味わうために高いお金を出して旅に出ているのかもしれません。
さて今日ご紹介する優しい地獄のイリーナ・グリゴレさんの異文化体験はそんな生優しいお話ではないんですね。
イリーナ・グリゴレさんは1984年に社会主義政権下のルーマニアに生まれまして、国の名前がまだルーマニア社会主義共和国だった頃ですね。
幼い頃は祖父母と自然豊かな村で育つんですが、1989年にはルーマニアで革命が起こり、チャウシェスク独裁政権が崩壊して社会が激動の中。
作品の魅力
イリーナさんは映画監督を志すのですが、挫折したりする中で日本の文化文学と出会って2006年に日本に留学して2007年にはシシマイの研究調査を始めるんですね。
今は文化人類学者として広崎市青森県に住んでいらっしゃるそうです。
やさしい地獄はそんなイリーナさんの幼少期からの体験を綴ったエッセイになっています。
私も年に数回、いや数年に一冊とかかな、これはこの本の側に引き寄せられた本だ。
出会うべくして巡り合わされた本だと思うようなことがあって、その一冊がまさにこのやさしい地獄なんですよ。
一回読んだだけでは消化しきれないほどの読み応えでして、味わい深いと言いますか、何度も何度も読んでも発見があります。
サウナの後に冷たい水を浴びせられたみたいな、ひゃってなるけど整うみたいな感じなんですよね。
なんかお風呂の話ばっかりしてすいません。
よっぽど冷えたんでしょうね、体が。
やさしい地獄というタイトルもなかなか冷や水感がありますけれども、これは社会主義から資本主義に変わったルーマニアならではの資本主義のことを優しい地獄と言っているんですね。
優しいと地獄ってなかなか結びつけないですよね。
ちょっと中も読んでみたいと思うんですけど。
あの時、暗い団地に住んでいた私たち家族の体は苦しかったとか、田舎からやってきた私の体はすぐに様々な場面で恥を感じ始めたというような一節があって、家族の体は苦しかったとか、私の体は恥を感じ始めたとかって独特な言い回しですよね。
日本語として別に間違っているわけじゃないけど、あまりくっつけない主語と述語の使い方がたくさん出てきます。
リズム感も独特で、これは誰が訳したんだろう、すごい名訳だなと思って、その役者の名前を探したんですけれども、ないんですね。
そっか、イリナ・グリゴレさんは自分で日本語で書いてるのかと。
これは私のアンコンシャスバイアスですよね。ルーマニアに生まれた村で育った少女の話を読んで、この人が日本語で書いてるはずないって勝手にどっかで思ってたってことですよ。
この自分の思い込みにショックを受けた冷水を浴びたというか、だって日本の大学で教えてらっしゃるくらいなんですもん、日本語で書いておかしくないのに、なんというかそう思い込んだ自分にびっくりしたってことなんですね。
本人が書いていると思って改めて読み返すと、またこの新鮮な言葉の組み合わせとか、新鮮な例え方に感動したり、どんどん魅了されていきます。
イリナさんの映画への道
イリナさんのルーマニア時代の体験はなかなかショッキングな話も多くてですね。小さな村で育った少女の冒険譚という成長の物語として消化するには歯応えがありすぎる。
人間の尊厳をえぐられるような体験をしていたり、チェルノブイリで被爆体験もされているんですね。
でも決して暗くはないんですよ。明るいですむしろ。陽気という意味ではなくて、ぽっと明かりが灯っているような明るさで、何かこう開けている感じがしますね。
なのでアールさんに背中をトントンしてくれるような体を軽くしてくれるような物語があればといただいたアールさんのリクエストに対して読んでもらえたらいいなと思って、今日はご紹介しました。
印象的だったエピソードはいくつもあるんですけど、一つご紹介しますと、
イリナさんは映画監督を目指して映画の専門コースのある大学を受けるんですよ。
女優というか俳優の方じゃなくて監督の方で受けるんですけど、なんとイリナさんは映画を見たことがないかったそうなんです。そこまでその時まで。
インターネットもなく、社会主義だったルーマニアで映画を見る術がなかった。
でも幼い頃から図書館にずっと通ってて、映画に関する本とか映画監督を分析した本を隅から隅まで読み尽くしていたわけなんです。だからずっとずっと詳しかったんですよね。
でも映画を見たことがない人が映画監督を目指せるのかっていうことに驚くけど、見たことない人にはできないっていうのもまた勝手な決めつけですよね。
さて今日はこの優しい地獄から神フレーズをご紹介したいと思います。
その頃言葉に悩んでいた。私の考えをうまく周りに話せない。感じていることやりたいことも表現の壁にぶつかりうまくいかないと思っていた。
音楽のように通じる電波のようなイメージで直接身体同士でコミュニケーションできる方法がないかと考えたとき、映画と出会った。
映画というか正確にはシネマだ。雪国を読んだ時これだと思った。私が喋りたい言葉はこれだ。何か何千年も探していたものを見つけた気がする。
自分の体に合う言葉を。その時すべてが繋がった。映画監督になりたかった。田舎から出てきた普通の女の子として受験に失敗し、秘密の言葉である日本語を思い出した。
映画で表現できないならきっと新しい言葉を覚えたら体が強くなる。日本語は私の免疫を高めるための言語なのだとあります。
日本語と自己表現
自分の考えをうまく喋れてない表現できてない感じがするっていうのはある気がしますね。わかる気がしませんか?
すごく完璧に共感するわけじゃないけどわかる気がするっていうのは、違う言語だと違う自分を表現できるのはありますよね。
例えば英語だと、私もペラペラじゃないけど、英語になると英語人格が出てくるっていうか、ちょっと陽気になったり自分の気持ちをストレートに伝えたり、
キザなことを言えるみたいなのがあって、そうやったら多分フランス語の方がとかスペイン語の方がとか、韓国語の方がタイ語の方がみたいなのあるかもしれないですよね。
イリナさんはおそらく日本語の方がご自身のプリミティブな部分を出しやすいのかもしれない。
それを日本語は私の免疫を高めるための言語なのだって表現するところがすごいですよね。
川端康成の雪国を読んだ時に、自分の喋りたい言葉はこれだと、もちろんルーマニアの言葉に訳されたバージョンを読んだんだけど、それでも自分が喋りたい言葉はこれだって思ったそうなんですよ。
非常に面白いなと思って、複数の文化圏を経験した人ならではのアイデンティティの表現、見つけ方だなと思ったので、
おそらく日本語の方がみたいなのあるかもしれないですよね。
日本語の方がみたいなのあるかもしれないですね。
さて、今夜もお時間になってしまいました。
真夜中の読書会、おしゃべりな図書室では、リスナーの皆さんからのお便りをもとに、お勧めの本や漫画を紹介しています。
お話を聞いていただければとても嬉しいです。
では、また次回の動画でお会いしましょう。
さようなら。
インスタグラム、バタヨムからメッセージをお寄せください。
それではまた来週、水曜日の夜にお会いしましょう。
おやすみなさい。
おやすみー。