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2025-11-19 15:58

EP.229 「人が人を変えることはできない」というけれど、わかりたいと願うのはエゴなのか

「娘から交際相手が女性と聞いて動揺している」というお便りをいただきました。「どんな時も味方でいることを試されているかのよう」という表現にグッときました。今夜は、金原ひとみさんの『ミーツ・ザ・ワールド』を読みます。よろしければ、杉咲花さん主演で公開中の同作の映画もぜひ!


<勝手に貸出カード>

・金原ひとみさん『ミーツ・ザ・ワールド』(集英社文庫)

・映画『ミーツ・ザ・ワールド』https://mtwmovie.com/

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サマリー

このエピソードでは、親が子どものカミングアウトに対する感情と理解のプロセスを探り、その中での自己成長について語られます。金原ひとみの小説『ミーツザワールド』を通じて、異なる価値観を持つ人々がどのように結びついて成長していくかに焦点が当てられます。また、人が他者を変えることができないというテーマを通じて、愛や理解の相互作用について考察されます。ゆかりとそのお母さんの関係を描きつつ、一方通行の愛や変化の難しさが浮き彫りになります。

親の思い
真夜中の読書会おしゃべりな図書室へようこそ。
今晩は第229夜を迎えました。今夜のお便りをご紹介します。ペンネームMさんから頂きました。
バタやんさん、はじめまして。いつも楽しく拝聴しています。すっかり本を読まなくなってしまった私に、読書の楽しみを再び思い出させてくれたのはバタやんさんです。ありがとうございます。
優しい語り口にとても癒されています。ありがとうございます。
さて、私には26歳の娘がおります。今は社会人として働き、もういつでも自立できる大人になりましたが、高校生から23歳頃までは不安定でした。
親としてどんな時も味方でいることを試されているかのように、本当にいろんなことがありました。
私は悩みながらも迷いなく味方でいられたのです。それなのに、今、交際相手が女性と聞いて動揺しているのです。
頭ではいろんな形の隙があると理解しているつもりだったのに、反対するつもりは全くありませんが、理解はできないという感じです。
実際にお相手に会えばまた違う感情になるのかもしれないなと思いますが、こんな私におすすめの本はありますか?といただきました。
そうでしたか。そうでしたか。なるほど。とても素敵なお便りで、何かぜひご紹介したいなと思っていたんです。
いわゆるカミングアウトをされた家族を扱った文学作品で何かないかなと思って、ずっと考えていたんですけれども、
例えば安倍昭子さんのカフネとか、キムヘジンさんの娘についてとか、どうかなと思って読み返してみたんですけど、
何かどう紹介しても説教じみたメッセージになってしまうのは違うなと思って、
それでちょっと今日は全然違う角度からになってしまうんですが、最近映画を見てこれだと思ったのがあったのでご紹介します。
今夜の勝手に貸し出しカードは金原ひとみさんのミーツザワールドにしました。
なぜこの本を選んだのかを話す前にあらすじをご紹介します。
主人公は都内の銀行に一般職で勤めている27歳のゆかりです。
彼女は風女子というやつで、BLのあるアニメ漫画に浸水しているんですね。
そろそろ恋愛とか結婚とかキャリアのことを考える年ではあって、稼いだお金のほとんどをその推し活に継ぎ込んでいるという感じですし、
ある日乗り気じゃなく行った合婚で、風女子であることをばらされてしまって、
そこで泥水して新宿の歌舞伎町でうずくまっているところを、キャバ嬢のシノライという素敵な綺麗な女性に助けられます。
まったく生きる世界も考え方も違うライに妙に惹かれるところがあって、ゆかりは転がり込むような形でライの部屋で暮らし始めるんですね。
ライさんは決して暗い不幸を常に身にまとったようなタイプでは決してないんですけれども、
自分はこの世界から消えなきゃいけない、死にたいなっていう願望を持っている女性でして、
いわゆる騎士燃料というやつですね。ゆかりはそんな騎士燃料を持つ彼女を救いたい、変えたいと思って一緒に暮らし始めるわけです。
そこで2人はどうなっていくのかっていうのは言わないでおきましょう。
この本今は文庫になっているんですけれども、初版は2022年に出ていまして、もともとはシュプールで連載をされていたんですね。
私はそれを毎月欠かさずに読みますみたいな熱心な読者、熱心に追いかけていたわけじゃなかったんですけど、楽しみに読んではいて、
金原ひとみさんってちょっと作風が変わったのかなと思っていた記憶があります。
フジョシーを主人公にするっていうのも意外でしたし、オタク独特の早口と言いますか、長ゼリフ。
口に出す方のセリフというより脳内セリフがすごいこうたたみかけるように長い感じで、
その彼女の必死さにちょっとクスッと笑ってしまうようなシーンも結構ありまして、
ユカリが推しているBL漫画っていうのがMeat is Mineっていう焼肉を擬人化したBL漫画で、
その焼肉の部位の名前がキャラクターの名前になっているんですけど、その設定もややコミカルですし、
あ、なんかこういうちょっとライトでコミカルな青春小説も書かれるのだなぁって思いました。
ヘビにピアスの金原ひとみさんといえばヘビにピアスの印象が強かったから、
こっちのライさん、既死念慮があるキャバ嬢っていう方を主人公にしそうなところをあえて逆にしているのは、
シュプールの連載だからかなと思ったりしたんですけど、
そしたら文庫の解説に同じようなことが書いてありまして、
以前の金原さんならきっとライを主人公に一人称で書いていただろうって、
でも読者が共感共鳴しやすいゆかりの方の一人称にすることで、
明るい広がりを見せた物語になっているっていう、
金原さんの作品の転換期になっているんじゃないかというふうに解説されてまして、
ああそうかそうかそうだったんだと思いましたね。
まあそんなシュプール連載当時は、ああこういうものもお書きになるのねっていうくらいの印象だったんですけれども、
先日杉崎花さんが主演で映画になったのを劇場で見まして、
そしたらああこういうお話だったんだってなんか改めてすごい感動して、
それで文庫で買って読み直したところなんです。
フジョシとキャバ嬢とか焼肉を擬人化したBL漫画とか、
歌舞伎町を舞台にとかっていうキャッチーさは雑誌連載だから必要だったんだろうなと思うんですけれども、
それはちょっと置いといてですね、書かれているフェン的なこととしては、
価値観が生きてきた世界が圧倒的に違う人と関わっていくこと、
支えること、仲間になることでゆかりと周りの人たちが着ていた鎧が解けるような、
開いていくっていうのを描いた小説かなというふうに受け止めました。
映画化と感情の対立
はっきりした起承転結とか答え、結末っていうのがあるタイプじゃないので、
よくこれを映画化しようってなったなと思いましたけれども、
杉崎花ファンの北島マヤ感がすごいっていうか、
早口オタク感が本当にリアルで、そして本当に愛おしいので、
よかったらぜひ映画が公開されているうちに映画を先にご覧になってみていただけたらと思って今日ご紹介しました。
この本をなんでMさんに勝手に貸し出しカードしようと思ったかと言いますと、
映画でも小説でもこの本のクライマックスは杉崎花さんが演じるゆかりがお母さんと対峙するシーンがあるんですね。
そこをクライマックスかなと私は思いまして、
ライさんの家に転がり込んで暮らし始めちゃって、何度もお母さんから電話がかかってくるわけですよ。
ちょっとめんどくさいなと思って出ない。
ある日実家にオタクグッズを取りに帰った時に、勝ち合っちゃうんですね。
お母さんがいないだろうという時間を見計らって行ったのに、たまたま家にいて会っちゃって、
その時の2人のやりとりがなかなか見ごたえがあるシーンなんです。
どっちの気持ちに共感して気持ちを揺さぶられるかというのは人によるかもしれません。
それまでゆかりの一人称で物語が進んでいくので、もちろんゆかり側に共鳴して見ているんですけれども、
ここはお母さんの方の気持ちが分かるな、分かって切ないなって思う方も多いかもしれないです。
特に予読リスナーの方には。
2人のそれぞれ思うところがすれ違っていくというか、
大地のシーンの全貌はぜひ読んで、映画でも見ていただくとして、ちょっとだけ読みますね。
しかも連絡もせずに私が師衛体育館のヨガに行っている時に荷物取りに来たでしょう。
何か私に嫌なところがあったんじゃないかって考えてちょっとうつにもなったんだからとお母さんが畳みかけまして、
嫌なところは星の数ほどあったと思いながら出された紅茶を飲むゆかりというシーンなんですね。
ゆかりとお母さんの相互作用
とにかく健康で幸せであってほしいと願っているお母さんと、
あなたのことを分かりたいって言われれば言われるほど苦しくなるゆかりっていうすれ違いが書かれていて、距離が詰められれば詰められるほど距離ができてしまうという苦しいシーンなんです。
ここでちょっと本筋とは違うんですけれども、こんなふうにお母さんが言うセリフがありまして、
え、女の子なのよね。男の人じゃないわよね。別にお母さんは男の人でも構わないけど、
でもそれなら同棲する前に一言あるべきよね。というふうに問い詰められるわけなんですけれども、
いや、女だったらいいっていうことなのか、ゆかりとライが恋愛関係として一緒に住んでいるってことだってありえるんじゃないか。
でもお母さんは全くそこは想像してないんだなっていうのをすごい思ったんですよ。
ゆかりがそう思ったという描写はなくて、私が読んでいる私がそう思ったっていうこのお母さんのセリフを読んで。
そのライさんとゆかりの間の関係性は恋愛というふうには描かれてはいないんですけれども、
ライは本当にすごく美人なんですよね。だからゆかりは綺麗だなって何度も思っているし、一緒にいたいというふうにすごく願っている。
あるセリフがあって、ライさんのことを考えると胸がグワッと熱くなりますが、それはライさんがいないからじゃなくてそこにいるからなんですっていうセリフがあって、
それはもう愛なんじゃないか恋なんじゃないかと思ったりしましたけれども、そうは描かれていないっていうところもいいなぁと思ったりして、
はっきりとした気持ちとしては描かれていないのは、ゆかり自身もライさんへの思いというか思い入れに近いようなところっていうのは何なのかわからないまま描かれているんですよね。
ゆかりはゆかりで死にたいっていうライさんのことを分かりたい、変えたい、未来を変えたい、幸せを願いたいと思っているんだけれども、
ゆかりのお母さんはゆかりに対して同じように分かりたい、変えたい、幸せを願いたいと思っている。
でもそこは一方通行なんですね。幸せを願っちゃいけないのか、分かりたいって思っちゃいけないのかっていう気持ちを一方通行のまま描いているという凄さ、残酷さでもありますけれども。
人を変えることの難しさ
まあだからちょっとご紹介しておいてなんですが、Mさんの気持ちには何の寄り添いにも答えにもならないかもしれないんですけれども、
この小説は人が人を変えることはできないっていうことを描いているようでいて、でも相互作用はしていて、
助けることはできるっていうことなのかなと、相互作用によってどっちも開いていってはいるように私には見えました。
ゆかりかららいさんへの片思い、一方通行のように見えて、らいさんもゆかりさんと出会って楽しそうだったし、
今までにはなかった幸せを感じた瞬間があったんじゃないかなと、あったと思うよと言ってあげたいっていう、そんな気持ちになる小説です。
お便りをいただいたMさんとお嬢さんとの関係性は、この手紙からだけではわからないですけれども、とても長くそうやって味方でいようっていられたMさんのおかげで、
少なくとも交際相手が女性だと知られてもいいと思うくらいには開いているんだなぁとは思ったんですよ。
ということで、ちょっとアドバイスめいたことは言えないんですけれども、最後に紙フレーズをご紹介して終わりたいと思います。
人によって変えられるのは45度まで、90度、180度ねじれたら人は折れるよ。
とありまして、ここを紹介したのは、お嬢さんのことを変えようとしちゃダメですよっていうことを言いたかったんじゃなくて、
Mさんの方が分かってあげなきゃとか受け入れなきゃとか、関係を良くしなきゃって変わろうとしなくてもいいんじゃないでしょうかと思ったんです。
90度変えたら折れちゃうから、開脚で言うと45度ってだいぶ狭いですけれども、
そのくらいの範囲で開いて受け入れられることがあれば受け入れるところまででいいんじゃないでしょうかと思いました。
よかったら金原ひとみさんのMeets the Worldをぜひ読んでみてください。
さて、そろそろお時間になってしまいました。
真夜中の読書会おしゃべりな図書室では、リスナーの方からのお便りをもとにおすすめの本や漫画、紙フレーズをご紹介しています。
リクエストはインスタグラムのアカウントバタヨムからお寄せください。
お届けしたのは講談社のバタヤンこと川端理恵でした。
また水曜日の夜にお会いしましょう。
おやすみなさい。
おやすみ。
15:58

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