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みもれ真夜中の読書会、おしゃべりな図書室へようこそ。
こんばんは、ナビゲーターの高段社ウェブマガジン、みもれ編集部のバタやんこと河童です。
おしゃべりな図書室では、水曜日の夜にホッとできて明日が楽しみになるをテーマに、皆様からのお便りをもとに、おすすめの本や漫画、紙フレーズをご紹介します。
さて、第108夜をお届けします。今夜のお便りをご紹介します。
ペンネーム、かんこくのりさんからいただきました。
バタやんさん、こんにちは。
こんにちは。
私はこれまでフィクションの小説ばかり読んでいました。
でも昨年、ノンフィクション賞の大賞を受賞された植間陽子さんの海をあげるを読み、植間さんと同じ沖縄に住んでいながら、沖縄の若い女性が置かれている辛くて苦しい世界を知らなかったことにショックを受けました。
立て続けに裸足で逃げる沖縄の夜の街の少女たちを読んで、さらに頭をガツンとやられ、もっともっと現実に目を向け、知らなければいけないことがたくさんあるんじゃないかと思いました。
フィクションも変わらず好きで読んでいますが、ノンフィクションやルポを読んでみたい欲が湧いています。
バタやんさんのおすすめがありましたら教えてくださいといただきました。
ありがとうございます。
韓国のりさんに今日ご紹介する勝手に貸し出しカードは、早見一さんの8月の母にしました。
先にお断りしておくと、こちらはノンフィクションではなくてですね、小説フィクションなんですね。
愛媛県の伊予市を舞台にして書かれた、母娘3世代にわたるなかなかのボリュームの小説、長編小説なんですけれども、
実はですね、2014年に愛媛県の伊予市で起こった実際の事件をベースにしているというかモチーフの一つとしていながら、早見さんの視点で事件の背景というか、
掘り下げてフィクションとして描いている小説です。
なぜこれをノンフィクションのリクエストなのにあえてご紹介したかというと、
ある事件や事故とか、あるいは沖縄の現状とか、そういったことを取材をしてルポルタージュでまとめるとか、ノンフィクションとしてまとめるという方法もあると思うんですけど、
もう一つ、実際に起こったことをモチーフにしながらフィクションにするという手法もあって、
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事件や事故のなぜだったり、その時被害者・加害者の人はどういうことを考えていたのかとか、避けられなかったのかとか、
その時の思いみたいなことはノンフィクションやルポルタージュでは勝手に想像では膨らまして描けないので、取材をして言葉として聞いたら描けるんですけど、
取材をして発言してくれたからといってそれが本音かどうかはまたわからないというところもあって、フィクションだからこそノンフィクションよりも真理というか、
解像度が高い事件の背景を描けるということもあるのかなって、この本を読みながら思わされたということでご紹介したかったわけなんです。
あと韓国のりさんのアンケートに好きな作家さんの中で、早美さんの天朝が若すぎてっていう小説があって、これも私も大好きなんですけど、
天朝が若すぎてっていう小説があって、これも私も大好きなんですけど、
こっちはすごい重たい重たい話なんです。天朝が若すぎてを気に入ってくださった韓国のりさんに、こっちのタイプの早美さんもぜひ読んでみてほしいなっていう意味で今日ご紹介させていただきました。
ちょっとこの後この小説どこからどこまでがネタバレかっていうのがなかなか難しいんですけれども、
割と内容に踏み込んだ話をするので、気になった方はここで止めて読んでから聞いていただいてもいいですし、後半どういう本なのか詳しくご紹介していきたいと思います。
早美一真さんの八月の母は愛媛県の伊予市が舞台になっているんですが、
著者の早美さんご自身が愛媛に数年前に移住をされて、そちらで執筆活動をされているそうで、この愛媛県では有名な事件のことを知って、それに興味を持たれたというのがこれを書いたきっかけになったとインタビューで語っていらっしゃったんですが、
その事件っていうのがですね、愛媛県の伊予市である市営団地、りとこ狭そうなところに37歳のお母さん、36歳だったかなお母さんと3人の子供たちが住んでいて、
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そこのお部屋に子供たちの友達というか地元の友達が寝泊まりするようないそうろう状態で、ぐちゃっとたくさんの子たちが出入りしているような状態だったんですね。
そこに通っていた、半いそうろう状態になっていた17歳の女の子が最終的にお母さんを含めた8人から長いこと暴行を受けて亡くなってしまうという痛ましい事件なんですけど、
なんでそんなたくさんの子がその部屋に出入りして寝泊まりしていたのかという異常な状況と、殺されることになってしまった女の子は結構その子は裕福な家に生まれ育っていたのに、
簡易家出状態でそこに住んでいたんですよね。最初はきっと楽しく同世代の女の子たちと男の子もいて遊んだりしてたんでしょうけど、途中からいじめられる状態、暴行を受けたりする状態になって、なんで逃げ出さなかったんだろうとか、ちょっとこういろいろざわざわする事件なんですけど、
それに端を端して発着添えて作品が作られていて、この事件についてむちゃくちゃ調べてそれをリアルに再現したというわけではなくて、そういうことが起こってしまう背景とか愛媛という土地柄、四国は島と呼ぶには大きいですけれども、
海を隔てて大阪とか東京とかとは離れたところにある愛媛という土地柄が生み出す閉塞感だったり、そこに生まれ育ってしまうと変えられない状況みたいなことを描きたかったのかなというふうに受け取りました。
小説8月の母はミチコとエリカとヒナタっていう3世代に渡る母娘が描かれていて、最初に出てくる人はこの人は誰なのかっていうのは明かされず、子供を産んだばっかりだけどちょっと可愛いって思えてない、血の匂いがして気持ち悪いなって思っちゃったっていうシーンから始まって、ちょっと不穏な感じだし、
この人は誰なんだっていうのはだんだんわかってくる、そこもちょっと凝った仕掛けになっていてすごいなって思いました。
まず一番母親のミチコがどんな生い立ちだったかっていうのが描かれ、その娘であるエリカがミチコに対してどんな気持ちを持ってたか、ちょっと男の人にだらしない、ダメンズと言うと言い方が軽いですけど、お母さんだった男の人と出て行っちゃう、それについていくみたいな。
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だからエリカもちょっと男好きのする色気が良くも悪くもついてしまったところがあったりして、そんな様子が描かれたりして実感が行ったり来たりしながら進んでいくわけなんですね。
その集団暴行を受けることになってしまうヒロコっていう女の子がどういう子で、どうして結構恵まれた家に育ったのにそこからぐちゃっとした団地に行って最終的には殺されるに至ってしまうのかっていうね、
ちょっとここは読んでくださいとしか言いようがないんですけれども、表紙にもアリ地獄っていう書き方をされてますし、8月の母って母というタイトルが入っていますから、この小説母と娘の物語、母親の呪縛みたいな感じでいろんなところで紹介されたりしてたんですけど、
毒母の呪縛っていう一言では片付けられない、どう足掻いても踏み外すっていう言い方をするじゃないですか、どこで踏み外したんだろうって、段差を踏み外したみたいなことじゃなくて、ずっと真っ直ぐ歩いてたつもりだったのに、
なんていうかぬかるみにたどり着いてしまったみたいな感じなんですかね。うまく言えないですけど、毒母っていうと母親だけが悪いみたいな感じがしちゃいますけど、決してそのお母さんだけの問題じゃなくて地域だったりお父さんだったりそれ以外の関わっている学校の人とかそういう人も含めてどうして救えなかったんだろうっていう、
問題かなって思いました。この小説ですごく思ったのが2つあって、まず1つがその今言ったような、ついこう毒母の呪縛とかっていう風な紹介のされ方をしちゃいますし、まあそういう小説も映画とかもたくさんありますけど、お父さんは何をしてたんだよっていうね、圧倒的な父親の不在感っていうか、
そんな風にお母さんがなっちゃったのはお父さんの責任が結構大きいわけですよ、この小説においても。お父さんがいないからシングルマザーでそうなっちゃったとこもあるし、貧困という意味で言うと大黒柱がいなかったり、お父さんが暴力を振る人だったりとか、そういうのがあるんですけど、
割とちょっと母娘の物語として片付けられがちだよなっていうことを思ったりしました。もう1つはですね、努力で変えられる範疇って結構少ないものだなと思ったというか、もちろん努力は必要だし、努力してる人はそれはいい家に生まれたからだろうって、下げすむことはできないと思うんですけど、
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東大に入る人の何%は、親の年収が1000万近くある人が何%以上ですとかってニュースになったりしますけど、やっぱりある程度の教育の努力すれば手が届くところに行くには、そのご両親も高学歴で収入もそこそこあることのケースが多いでしょうし、
その前のそのお父さんお母さんのお父さんお母さんおじいちゃんおばあちゃんそのお父さんお母さんとかっていうふうに遡って、ずっと繋がって今の東大に行けるか行けないかを争えるぐらいの地位が築かれてるみたいなことを考えたりしましたね。
なんかDNA遺伝子って24万人分が蓄積されてるってこの間何かで聞いたんですけど、ちょっとあってるか調べきれてないですが、ご両親の2人のDNAだけじゃなくて、それぞれのお父さんお母さん、それぞれのお父さんお母さんって言って遡っていくと24万人ぐらいがDNAとして蓄積されていて、
勉強ができるできないとか物覚えが良い悪いとか運動神経がいいとか音楽が音痴じゃないとかそんなことももちろん努力で自分だけの努力で変えられることもあるけど、
脈々としたもので運命が結構な割合決まっている。生まれた場所だったりどんな家に住んだことあるかとかっていうこともそうですけど、この小説の中でも愛媛の海を渡っていつかここを出てやるって何度も何度もこの子たちが思ったりするんですけど、結局できないんですよね。
そのために勉強すれば出られるかもしれないとかいうセリフがあったりするんですけど、なんとなく落ちていく下っていく方にどんどんどんどん行ってしまうという切なさがあったりするのです。
自分だけのことじゃなくて、24万人の蓄積の結果かもしれないと思ったりしました。今日はこの小説から紙フレーズというか強烈にインパクトの残ったフレーズをご紹介したいと思います。
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お母さんさ、今日私の誕生日あったって覚えとった?6月15日覚えとる?
エリカは小さく一興飲んだ。怒りを打ち消す前と目は向いたままだったが、動揺しているのが明白だ。
だからどうした?19歳にもなって何が誕生日じゃ。あんたの方が家に金を入れろや。
アイカは大きくかぶりを振る。そんなこと聞いてない。私は誕生日を覚えとったか聞いとるだけ。
ああもうやかましいわ。そんなにこの家が嫌いなら、とっとと出て行け。
アイカは肩をすくめるだけだった。それ以上何も言わずに立ち上がり、そのまま本当に出て行こうとする。
これはですね、アイカちゃんっていうのはこの団地に住んでいる母親のエリカの実の娘なんですね。
ぐちゃっといろんな少年少女が出入りしているので、どれが実の娘でどれがいそうろうかっていうのがごちゃごちゃなんですけど、
アイカちゃんは実の娘なんだけど、あんまりお母さんに大事にされていないという自覚があって、
最終的に暴行されて被害者になってしまうヒロコちゃんっていう女の子のことを母親のエリカはすごいかわいがっているっていうのが面白くない。
嫌だなって思っているわけです。そこが結構大きな動機になるっていうのがわかるのは結構後なんですけど、
この瞬間、急にお母さんが私のことをないがしろにしているっていう本音の感情を爆発させるのがこのくだりで、
なんですごい強烈だったかっていうと、やっぱりお母さんに誕生日を祝ってほしいみたいなことをこの不良少女たちのぐちゃぐちゃした中で思ってたんだなっていうことが胸をつかれるっていうのが一つと、
私自身が6月15日が誕生日なので、それにちょっとドキッとしたっていうのがあるんですけど、
いろんな集団心理みたいな、みんなでリンチみたいになってしまう心理にはいろいろあると思うんですけど、
一人一人にも火種があって、その一つには私があまり愛されてないっていうコンプレックスと、
ひろこちゃんが割と愛されキャラっていうか、家も裕福でみたいなことを、
寝たましいという気持ちをいつの間にか募らせていたみたいなことなのかなと思って、
いずれにしてもどの女の子たちもかわいそうではあるんですけどね、
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エリカという母親がすごい極悪非道人だったかっていうとそんなことはなくて、
家に出入りするあまり裕福じゃなさそうな少年少女たちを平等に自分の子もそうじゃない子も含めて愛して、
楽園みたいなのを作ろうとしていた一面もあって、
それは実際の事件を起こしたお母さんもそういう評判もあったみたいなんですけど、
その人だけが悪いわけじゃなくて、どうしたらそんな悲しい結末にならなかったんだろうって思って、
読み終わってこの事件のことをすごい私もいろいろネットで検索したりして、余計眠れなくなったりして、
読みながらどんどん体力が削られて奪われていくようなどっと疲れる一冊なんですけど、
ただあのくらいだけでもなくてちょっと明るい光も見えたりするので、
今年読む価値があった本当にベストブックの一つだと思っています。
ベストブック詐欺みたいになってきていますけれども、これどうだろう、数年後映画化とかされてほしいな、
きっと何かのショーにもエントリーノミネートされると思っています。
皆さんもちょっと気力のある時にぜひ読んでいただけたらと思います。
最後までお付き合いいただきありがとうございます。
さてそろそろお時間になってしまいました。
真夜中の読書会おしゃべりな図書室は皆様からのお便りをもとに、
いろいろなテーマでお話したり本を紹介したりしております。
みもれのサイトからお便り募集していますので、ぜひご投稿ください。
また水曜日の夜にお会いしましょう。
おやすみなさい。おやすみ。