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2020-06-09 08:35

【第12夜】憂鬱な雨の通勤の日々に。五感を取り戻す「匂いと色彩」が豊かな一冊

外出自粛が解かれて嬉しい反面、梅雨入り、そして憂鬱な通勤の日々が戻ってきてしまいました……。マスクに奪われたのは顔だけじゃなく、嗅覚もでした。今日は「雨の日におすすめの本はありますか?」というリクエストに、千早茜さんの新刊『透明な夜の香り』をご紹介します。人の秘密を香りで感じる。美しすぎる連作短編集。静かな雨の夜にぜひご堪能ください。

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みもれ真夜中の読書会、おしゃべりな図書室へようこそ。
こんばんは、KODANSHAウェブマガジンみもれ編集部のバタやんこと川端です。
おしゃべりな図書室では、水曜日の夜にホッとできて、明日が楽しみになるおテーマに、
皆様からのお便りをもとに、おすすめの本や漫画、紙フレーズをご紹介します。
さて、第12夜となりました。今日のお便りご紹介します。
大阪府にお住まいのゆうさんからいただきました。
外出自粛期間が明けたらすぐに梅雨入り、じめじめした満員電車に乗ると思うと憂鬱です。
雨の日におすすめの本はありますか?といただきました。
本当ですね。知らない人と接近することへの恐れというか、警戒心みたいなのが前より強くなってしまって、
以前に増して不快な感じがしちゃいますよね。
この間、夕方に急に雨が降ってきて、突然ですごいびっくりしたんですけど、
なんで突然って思ったのかなと思って、もしかしたらマスクをしてたからかなって思ったんですよ。
いつもなら雨の前の匂いってあるじゃないですか。
それで降りそうだなって思ったりするから、マスクをしてると街の匂いも奪われて、
通勤ルートが余計グレー一色に見えるというか、ちょっと怖い感じもしますし、色彩がなくなる感覚がありますよね。
今日はそんな五感が奪われてしまう日がちなグレーな日々に、五感を取り戻すような匂いと色彩が豊かな一冊をご紹介したいと思います。
今日の勝手に貸し出しカードは千早朱音さんの「透明な夜の香り」にしました。
この本は元書店員で、事情により外に出られなくなってしまった主人公の若宮一華が、
天才的な調香師の小川作の住む洋館で家事手伝い兼事務員として働くことになるんですね。
作にオリジナルの香水をオーダーするいろんな事情とか秘密を抱えた人たちが、その洋館を訪れてという連作短編集です。
まずこの作と一華の出会いのシーンが強烈で大好きなんですけど、
洋館の家事手伝いアルバイト募集を見て、一華が面接に訪れるんですが、
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いきなり作にここしばらく体を動かしてませんねって言われるんですよ。
なんでですかってなるじゃないですか。
汗の匂いで分かったって作が言うんですけど、
久々に書いた汗の匂いがすると言われてびっくりするっていうね。
その後ファンデーションの匂いでどこのメーカーとか当てられたりして、いろんなことが匂いで分かっちゃうっていう人なんですけど、
そんな風に作は分かりすぎちゃう絶対音感みたいな天才的な嗅覚ゆえの悲しみみたいなのを背負った男性なんですね。
この会った瞬間にいろんなことを当てられるっていうのは、シャールク・ホームズとワトソンの出会いのシーンみたいですごくいいですね。
もう一人、洋館に通うシンジョーっていう謎の探偵とこの調香師の作と家事手伝いの一致化で依頼人の人のいろんな秘密を暴いていく。
暴いていくっていうのはちょっと違うかな。気づいてしまうみたいな感じですね。
今日はこの本から紙フレーズをご紹介します。
閉じた瞼の奥で雨の音を聞いた。夜に降る雨は嫌いじゃない。
家の部屋からの密やかな気配を消してくれるから。
一晩中、ドアの隙間から漏れる白い明かり。夜行性の小動物のような気づわしい物音。
そしてキーボードを叩く音。カタカタカタカタと質用に。
中場得意げにも感じられる音は永遠と響く。
壁を殴りたいのをこらえる。この音は兄の生きている唯一の証なのだから抑圧してはいけない。
いつもそう思いながら眠ろう眠ろうと耳を塞いだ。雨音はそんな夜を水の幕で覆い隠してくれた。
この本は短編集、連作短編集ということでトップノートから始まってラストノートまで8編の短編が収録されています。
その8編の間に季節が移り変わっていくんですね。
この最初に読んだ閉じたまぶたの奥で雨の音を聞いたっていうのは2つ目のフローラルノートの書き出しです。
5つ目のスパイシーノートの書き出しはこんな感じで。
さらさらと雨が降るたびに朝晩が過ごしやすくなっていく。
夏の間に伸びた下草の梅雨が靴を濡らす。
ひっそりとした空気の中、洋館へと歩く。
森を抜ける時はまだ体に緊張が走るが、赤犬を連れた男性はもう姿を見せることはなかった。
同じ雨の描写なんですけど、5編目になると夏が終わりかけているっていう季節が映ってるんですけど、
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この主人公のイチカが引きこもりになってしまった原因がどうやら兄、お兄さんにあるらしいっていうのが最初の方からちょっと不穏な感じでわかるんですが、
だんだんその事情が明らかになっていくんですね。
イチは簡潔の探偵者でありながら長編のミステリー性もあり、イチカとサクの関係がどうなっていくのかっていう少し恋愛の要素もあるといった楽しみ感があるんですね。
この本の作り方がすごく多面的な作品ですね。
この本にはその季節の移り変わりとともにたくさんの植物とか食材とかハーブなどが出てきて、ご飯の描写もすごいおいしそうだったりするんですけど、
そういう匂い好きだなーって思い出したりとか、梅雨に濡れた草の匂いとか、しばらく嗅いでないなーと思ったり、
そういう感覚を呼び覚ましてくれる本でした。
サクとイチカみたいに感覚が鋭すぎるとちょっと生きづらそうではありますが、鈍感さに慣れてしまうのもまたちょっと寂しいなぁと思いますよね。
雨の粒が窓に当たるのが聞こえるぐらい静かな夜に読むのがぴったりな本です。
ゆうさん、今日はお便りありがとうございました。
さて、そろそろお時間になってしまいました。
真夜中の読書会おしゃべりなと出出はこんな感じで、皆さんからのお便りをもとにしながら、いろいろなテーマでお話ししたり、本を紹介したりしています。
MIMOREのサイトからお便り募集しているので、ぜひご投稿ください。
また来週水曜日の夜にお会いしましょう。
おやすみなさい。
おやすみー。
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