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みもれ 真夜中の読書会 おしゃべりな図書室へようこそ
こんばんは、KODANSHAウェブマガジンみもれ編集部のバタやんこと川端です。 おしゃべりな図書室では、水曜日の夜にホッとできて明日が楽しみになる
をテーマに、皆様からのお便りをもとに、おすすめの本や漫画、紙フレーズをご紹介します。 第41夜となりました今夜のお便りご紹介します。
兵庫県にお住まいの加古さんからいただきました。バタやんさんはじめまして。 はじめまして。以前ご紹介されていた千早朱音さんの【透明な夜の香り】を読みました。
ものすごく好きでした。知らなかった素敵な作家さんを知ることができて感謝しております。
そこでリクエストなのですが、このような日常の謎、人が亡くならないミステリーのおすすめはありますか? といただきました。
ありがとうございます。【透明な夜の香り】も読んでくださってありがとうございます。嬉しいです。
日常の謎、人が亡くならないミステリーというお題がとても興味深く、私にとってタイムリーだったので選ばせていただきました。
少し前に浅井亮さんの【世にも奇妙な奇味物語】っていう短編集を読んでたんですけど、
そこの文庫の解説に、浅井亮さんの【霧島部活を辞める】という一番有名な作品がありますけれども、
あれもミステリーだということが書かれていて、霧島は何で部活を辞めたのかという謎解きだから、ある種のミステリーですという話なんですが、
そうか確かに人が死んだり、事件性がなくてもミステリーっていっぱいあるんだなって思いました。
それで人が亡くならないミステリーっていう鋭い深いお題にお答えしまして、今夜かなさんに推薦したい勝手に貸し出しカードは千早朱音さんの【クローゼット】にしました。
同じ作家さんかよって思いましたが、手抜きっぽいアインかしら、でも透明な夜の代わりをもし気に入ってくださったとしたら、きっとお好きだと思うんですよね。
美しい世界観がというわけで、ぜひ読んでいただきたいです。【クローゼット】は2018年に断行本で完行されていて、ついこの間、去年の12月に文庫になったばかりなんですね。
【クローゼット】は、服飾美術館とデパートをお舞台に、そこで交差する洋服修復師の牧子さんという女性と、デパートカフェ店員の香る君という男性2人を軸に、洋服と心の痛みに寄り添う物語というふうに解説されております。
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主人公の牧子は男性恐怖症で、デパートカフェ店員の香るの方は、男性なんだけど女性の服が好きっていう人なんですね。この2人にはそれぞれずっと過去の事情があって、
2人は少しずつ心を開いて距離を詰めていくんですけど、というのがメインのストーリーではあるんですが、この小説の見どころの一つとして、この服飾美術館に保管されている数々のお衣装たち、18世紀のコルセットやレースとか、貴族の美装とか、
昔の日本のお金持ちの奥様が仕立てたお洋服とか、バレンシアがイオールのドレスなどのたくさんの衣装の詞彩な描写と、時代背景の解説が読みどころとなっています。ここに出てくる登場人物の人たちは、
昔の衣装やドレスを修復する洋服修復師という仕事をしている主人公の牧子さんをはじめとして、皆さん何かしら洋服愛が強い洋服好きなんですけど、お洋服好き、服好きって一言で言ってもいろいろあるんだなって思いましたね。
レブマガジンであるミモレを読んでくださっている方は、お洋服好きな人きっと多いんじゃないかなと思うんですけど、カジュアルなファッションとかユニクロとセレクトショップの服をミックスしながら、おしゃれなコーディネートを考えるのが好きだよっていう人もいれば、アイテムとしてお洋服は好きだけど、組み合わせを考えたりするのはちょっと苦手っていう人もいるでしょうし、
ここに出てくるようなマリー・アントワネット的な映画で見るようなお衣装の世界観が好きっていう方もいらっしゃるでしょうし、私自身も今日はした自分がすぐ着れる服みたいな情報にまみれていて、すっかりそういうことへの興味を忘れていたなってこの本を読んで思い出したんですけど、
デザイナーが誰々時代のディオール・バ・サン・ローランがどうとか、この時代の貴族はこういう格好するのが流行ってたみたいな話が好きだったな昔はっていうのを思い出させてくれた本でしたね。さてどんなお話かちょっと後編に続きたいと思います。
はい、それでミステリー要素はどこにあるんだよっていう話ですよね。
主人公の牧子さんが男性恐怖症になった理由、男性に触られるのは極度に嫌っていうだけじゃなくて、ちょっと暗いベールがかかったみたいに心を閉ざしてしまっている状態の過去についてっていう話と、
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もう一人デパート店員のカオル君の方は、描写によるとルックスも良くて人懐っこいというか、デパート店員の他のお姉さんたちにも可愛がられている感じなんですけど、
女装が趣味とかトランスジェンダーっていうことではなくて、女性の服も男性の服もどっちも自由に着れたらいいのにっていう意味で、女性の服が好きで着ているっていう感じなんですね。
そんな明るい感じの彼が服飾美術館に魅了されて、ここでボランティアと働きたいですと言って通い始めるんですが、牧子さんのことはちょっと気になるわけですよ。
その2人には実は過去に接点があってっていうのは、割と早い段階で読者の私たちにも分かるんですね。
それにどうやって2人が気づいていくんだろうっていうところが読みどころ、ここはミステリーじゃなくてサスペンスですね。
古畑忍三郎形式と私が呼んでるやつです。見てる側は真相が分かっていて、登場人物がどうやってそれに気づくのかバレるのかっていうのを時々見守るっていうタイプの物語ですよね。
大好物。さらにもう一つ最後に真相が明らかになるんですよ。牧子さんの過去の出来事にまつわる真相がね、最後の方は結構怒涛のクライマックスというか、
それまで全体を通してすごく静かな物語だったんですけど、最後畳みかけるように美術館に閉じ込められたアクション映画張りの緊迫した展開が続きますので、そこもぜひお楽しみに。
このクローゼットを描かれるにあたって多分作者の千早茜さんはすごく腹食のことを取材されたり調べたりしたんだろうなって思うんですけど、
このクローゼットに関するインタビューで、今調香師の本を読んでるって言ってたかな、調香師のことを調べてるよっていうお話をされてた記憶があって、
それが多分かなさんも読んでくださった透明な夜の香りにつながるんだと思います。
透明な夜の香りは調香師のお話で香りの描写とか本当に美しい作品ですけれども、
他にも西洋菓子店プティフールという下町の西洋菓子店を舞台にした短編集もあったりして、
千早さんの作り手に対する経緯とか取材力とか、取材した話を言語化する、だって映像ならもっと簡単に伝えられることを、
文章で伝えるってすごいなと思うんですよね。でもある種、映像よりも有弁に香りも味も伝えられるかと思ったりしました。
今日はこのクローゼットから紙フレーズをご紹介したいと思います。
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直しても直しても崩れていく 傷んだままで痛い服が
私のことみたいだ 口に出してしまいそうになって唇を噛む
これは真木子さんが服を修復しているシーンなんですけど、洋服修復師のお仕事ってこの小説で初めて知りましたが、
昔のお洋服ってすでに何度もお直しを重ねていたりとかするわけなんですね。
高いものだったりして置物とか、お母様から娘さんに代々受け継がれるものだったり、
後は持ち主が太ったり痩せたりお子さんを産んだり、あるいはお家の経済状況が変わったりとかっていうのが服に刻まれているっていう面白いなと思って、
だから修復って言っても新品に直せばいいっていうもんじゃなくて、どういう状態があるべき姿だったのかっていう正解は一つじゃないわけなんですよ。
それが絵の修復、絵画の修復とまた違うんだなと思って、人が身につけるものだからいろんな生活の変化だったりとか環境の変化が服自体に刻まれているんですよね。
この牧子さんが修復に悩んでいるお洋服は、昔の日本の外交官夫人である奥様が仕立てたドレスなんですけど、
すでに内側がぐちゃぐちゃに何度も直した跡があって、果たしてどんな結婚生活だったのか、幸せだったのかとか、いろいろ思いを馳せるシーンなんですね。
そこから繋がって牧子自身が自分の扱いづらさだったり、生きづらさを直そうとしてカウンセリングに通ったり、いろいろトライしたけど、
結局その内側がぐちゃぐちゃに何度も修復を重ねられたドレスと自分のことを重ね合わせちゃうっていうシーンなんです。
新品みたいにツルツルに直すことが正解じゃないのかもっていう自分の心もツルツルに修復して、
根赤万歳みたいな人になったら、それは牧子さんの魅力じゃなくなっちゃうんじゃないかなって。
カオルくんも女の格好して変な奴とか言われるのが嫌だから、そう言われなくて済むように男性の格好すればいいじゃんと。
補修したら補修もできるけど、それが果たして彼にとって幸せかどうかはわからない。
生きづらさとか自分の中のめんどくさい一面を社会にフィットしやすく、ツルツルに修復することもできるかもしれないけど、
そうしなくてもいいんじゃないかななんていうことを考えさせられるラストでした。
加古さん、リクエストありがとうございました。皆さんも最後までお付き合いいただきありがとうございます。
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さて、そろそろお時間になってしまいました。
真夜中の読書会おしゃべりな図書室はこんな感じで、皆さんからのお便りをもとにしながら、いろいろなテーマでお話ししたり、本を紹介したりしています。
ミモレのサイトからお便り募集しているので、ぜひご投稿ください。
また来週水曜日の夜にお会いしましょう。
おやすみなさい。おやすみ。