1. 真夜中の読書会〜おしゃべりな図書室〜
  2. 【第11夜】絵になる娘と、絵に..
2020-06-02 10:14

【第11夜】絵になる娘と、絵になりたくない娘と

今日は大学生のリスナーの方からいただいた「自粛生活で一人の時間が増えるなか、家族のありがたみを感じています」という心温まるエピソードと「心温まる家族小説を教えて」というリクエストに心温まりまくっちゃった私。いったい何をオススメできるというのか!?と悩んだ末、乗代雄介さんの『最高の任務』をご紹介します。

00:04
みもれ真夜中の読書会、おしゃべりな図書室へようこそ。
こんばんは、ナビゲーターの高段社ウェブマガジン、みもれ編集部のバタやんこと川端です。
おしゃべりな図書室では、「水曜日の夜にホッとできて明日が楽しみになる!」をテーマに、皆様からのお便りをもとに、おすすめの本や漫画、紙フレーズをご紹介します。
さて、第11夜となりました。今日のお便りをご紹介します。
大阪府にお住まいのハチミツオートミールさんからいただきました。
今日は、大学生の方から初めてお便りをいただきました。
自粛生活で一人の時間が増える中、自分の今までとこれからに向き合うことが多くなりました。
今までを振り返ると、離れて暮らす親のありがたみを改めて感じ、恩返しをしたいという気持ちでいっぱいになります。
今まで家族をテーマにした小説はあまり読んでこなかったので、この機会にさまざまな家族の物語に触れたいと思っています。
家族をテーマにした心温まるお話があれば教えてください。」といただきました。
ささくれ立つことの多い今日、この頃に何と美しいお便りでしょう。
もうすでに心が温まりまして、今日はありがとうございました。
今日の配信を終了してしまいそうですけれども、このお便りをぜひご紹介したいなと思って、何がいいかずっと考えていたんですけれども、
今日はとても悩んだ末に選んだこちらの一冊、ノリシロユウスケさんの最高の任務をご紹介したいと思います。
ノリシロユウスケさんの最高の任務は、今年の芥川賞候補になった作品ですね。
なんでこれが芥川賞を取れなかったんだろうっていう、絶対これでしょうと一筆くさいって言ってたんですけど、
でも私本屋大賞も直木賞もいつも絶対これが取るとか言って、その言った本が取ったら試しがないので、むしろ言わない方がいいんじゃないかと最近は思っています。
ノリシロさんは1986年生まれ、八蜜オートミールさんよりは少し年上ですが、芥川賞候補作家としては若手ですね。新しい世代の才能をすごく感じる本でした。
この本には生き方の問題と最高の任務という2つの小説が収録されているんですが、表題作の最高の任務の方を今日はご紹介したいと思います。
03:05
主人公である私、浅見恵子は大学の卒業を間近に控えています。
同い年ぐらいですかね。書き出しはこうですよ。
2月のいつ頃だったか。大学の卒業式には出ないと言ったら、案の定母親が騒ぎ出した。
せっかくなんだから出ときなさいよ。あらゆることで何回繰り返したかわからない言葉が口にされる。
言語をまたいで通った大学じゃない。何それと私は口を曲げた。
わかるっていう感じですかね。儀式的なことはどっちでもいいとかめんどくさいって思う娘と、せっかくなんだから出ときなさいよっていう母親とね。
この卒業式に家族みんなでついていくと言い出すんですよ。弟と両親と。
小学校5年生以来の卒業だからとちょっとよくわからないことを母親に言われて、なんだかよくわからないけどついてこられちゃうことになり、
両親がついてくるのはちょっとわかる気はしますけど、弟なんかよくついてくるなと思うでしょ。
それがちょっとかわいい理由なんですけど、お姉ちゃんと入学式の後にも、入学式にも4人で行ってて、
その式の後に高級中華料理店に行って、その時のチャーハンが忘れられず、それ以来チャーハンを食べていないという弟ね。
だからこの式の後もきっとご飯に行くだろうから自分もついていきたいって言うんですよ。
4人で卒業式に出かけて、式が無事終わった後、急にこのまま電車に乗って群馬に行こうと言い出すんですね。
どうやら私以外はそのつもりでもう仕込んであったみたいで、なんて仲がいい家族なんだろうと思いますけれども、
どうやら何か秘密の計画があるようでっていうお話です。
この小説はこの4人の家族の話が進みながら、もう一つメインのストーリーがあって、
私が大学3年生の時に癌で亡くなったおばあの話が出てくるんですね。
主人公の私はそのおばあであるユキエちゃんをすごく慕っていて、
おばあから勧められて小学校5年生の時に日記を書き始めるんです。
それを読み返したりしながらおばあとの思い出を回想していくっていうシーンと、
今のその卒業式の下りがパラレルに進んでいきます。
すごく強要人であったと思われるおばあさんユキエちゃんが知的で洒落た返しを言うので、
私からすると少し年上のお姉さんの知的な会話についていきたいというか、
少し背伸びした日記の言い回しからユキエちゃんへの思いが滲み出ていて、
ユキエちゃん自体の発言の描写は小説自体ではとても少ないんですけれども、
いかに素敵な女性であったのかということがその人に読まれるかもしれない。
06:06
おばあさんに褒めてもらいたいという気持ちで書かれた主人公の、
私の日記から透けて見えるっていう凝った作り、繊細な作りに感動しますね。
今日はここから紙フレーズをご紹介したいと思います。
母は階段の中ほどからスマートフォンで勝手に私の写真を撮った。
やっぱあんた悔しいけど絵になるわね。
なんで悔しいの?
なおも向けられるレンズに視線をやる。
それを自分の幸せに使うのが下手だから。
この類のセリフは母が最もよく発するもので、私は何百回と聞かされてきた。
よくストッキングなしでそんなドレス着られるわよ。
まだ言ってる。と私は笑った。
すいませんね。褒めてんのよ。また撮影を。
試着し終わって着替えてる時に店員さんがさ、
それをまともに着られたのはあんたが初めてだって言ってた。
セールストーク間に受けちゃって。
7割引きになってたんだから本当でしょ。
っていう下りなんですけど、今日はちょっと長く読んじゃった。
この後、電車の中で痴漢というか、
おじさんに性的な目でブシつけに見られるみたいな一見があるんですけど、
主人公の私は卒業式だからタイトなリトルブラックドレスみたいなのを着ていて、
その縁線に見つかわしくない感じで妖艶であったんでしょうけれど、
だからといってブシつけに性的な目で見ていいってことではないじゃないですか。
その後の痴漢のかわし方がすごく圧巻なので、ぜひ読んでいただきたいですけれども、
そうやって母親は娘の様子が魅力的なことに自身が無自覚だと思ってたりするんですけど、
私は私で自覚してたりもするっていうところがちょっと面白いなっていうのと、
社会に出れば前回ご紹介した松澤青子さんの持続可能な魂の利用の世界の言い回しを借りれば、
おじさんが作った社会に出れば、そういう目に合うことはもっともっとこの先あるかもしれないと思いますね。
美人とかスタイルがいいとか、そういう意味の容姿の魅力だけじゃなくて、
若くて自分より知識がないって思われるだけで、そういう目で見られるというか、
物質家に性的に見てもいいって思われるっていうことは多分にあるんじゃないかなと思ったりしました。
私は多分自覚していて、何ならギリギリまで利用してやろうかくらいに思っている。
でも母は心配しているっていうのが会話見えるラストもとてもいいシーンなので、ぜひ読んでいただけたらと思います。
09:04
この作品、ハチミツ・オートミールさんのようなまさに主人公と同世代の方が読むと、
どんな印象なのかなと思って、ぜひ感想も聞いてみたい気持ちでお勧めしました。
今日はお便りありがとうございました。
さて、そろそろお時間になってしまいました。
真夜中の読書会おしゃべりなと出出は、こんな感じで皆さんからのお便りをもとにしながら、
いろいろなテーマでお話ししたり、本を紹介したりしています。
リモレのサイトからお便り募集しているので、ぜひご投稿ください。
また来週水曜日の夜にお会いしましょう。
おやすみなさい。おやすみ。
10:14

コメント

スクロール