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2025-05-07 14:04

EP207. 仲良くし続けることができなかった痛みを、どこかに抱えながら生きている

「疎遠になってしまった友人の訃報を受けて」というお便りに、韓国の作家・チョン・イヒョンさんの短編集をご紹介します。

<今夜の勝手に貸出カード>

優しい暴力の時代』チョン・イヒョン著、斎藤真理子訳(「三豊百貨店」)

マイスウィートソウル』チョン・イヒョン著、清水由希子訳

君は知らない』チョン・イヒョン著、橋本智保訳


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サマリー

このエピソードでは、誤解によって大切な友人との関係が断たれた経験が語られています。そのショックと後悔から、心の整理がつかない様子が描かれています。また、同様の気持ちに寄り添う文献が紹介されます。痛みを抱えながら生きることや、仲良くなれなかった人間関係についても語られています。異なる立場の二人の女性の交流と別れを通じて、感情の複雑さが表現されています。

仲の良かった先輩との別れ
真夜中の読書会、おしゃべりな図書室へようこそ。
第207夜を迎えました。今夜のお便りをご紹介します。ペンネーム、チェリーツリーさんから頂きました。
バタやんさん、初めてコメントさせていただきます。こうした番組や何かにリクエストを送るというのも初めてで、ちょっとドキドキしています。
私の中に今、持って行き場のない、整理しきれない気持ちがあって、真夜中の読書会ならと思って書いてみました。
私が長女が生まれる前に働いていた職場に仲の良い先輩がいました。
ご飯を食べて帰ったり、週末に温泉に旅行に行ったこともあります。
なのですが、ある仕事上のミスのことで、私が彼女の悪口を職場で言いふらしているみたいな噂になってしまい、
それはぬれぎぬだったと後にわかるのですが、そのやりとりを通じて私もすっかり嫌になってしまって、彼女とは距離を取ることにしました。
そのうち、彼女が部署を変わり、私も出産を機に退職するなどし、それきりになってしまいました。
つい先日、たまたま共通の知り合いに会うことがあり、彼女が亡くなったことを知りました。
癌が見つかってからあっという間だったということでした。
悲しくないわけではないのですが、釈明もできないまま、誤解だったことを謝ってもらう機会もないままに、二度と会えなくなってしまったことにショックを受けています。
重い気持ちの中での選書
後悔とも憎しみとも言えない、なんとも言えない気持ちです。
難しいとは思うのですが、そんな私の今の気持ちに合う小説やエッセイがあれば教えてください。
この機会に、バタヨムさんのインスタもフォローしました。
急に重たいメッセージですみません。これからも楽しみにしています。といただきました。
ありがとうございます。まずはお悔やみ申し上げます。
そしてなんというか、こんなことを言っては不謹慎かもしれないんですが、
お便り自体が一つの短編小説みたいですね。
その告白の場に真夜読を選んでいただいて、光栄な気持ちになりました。
そうですね、なるほど、謝ってほしいというわけでもないけど、心残りがあると言いますか、なんとも言えない気持ち。
確かに持って行き場がないですね。
その決別してしまった出来事からどのくらい経っていらっしゃるんでしょうかね。
長女がって書いてあるから、次女もいらっしゃるのか長男もいらっしゃるのかわからないですが、
冷静で端的な書き方、書かれ方からすると、もうその件からは結構時間が経っていらっしゃるのかなと思いました、勝手に。
でもずっとどこかに引っかかっていたのか、もうすっかり忘れていらしたのかわかりませんけれども、思いがけない結末と言いますかね。
投票されてたことももちろん知らなかったわけで、一方的な突然のお別れはショックですよね。
ちょっとどんなお言葉をかけたらいいのかも迷いましたが、少し状況が似た小説を選ぶことにしました。
チョン・イヒョンと彼女の作品
今夜の勝手に貸し出しカードは、チョン・イヒョンさん、チョ・サイトウ・マリコさん役の、優しい暴力の時代という短編集にしました。
優しい暴力の時代には、韓国本国版には載っていない日本語版のオリジナル編集でサムプン百科典っていう、この著書にとって初期の作品がボーナストラックとして収録されています。
私はこの本を単行本で最初読んだんですけど、最近文庫にもなってまして、文庫版にもサムプン百科典も収録されています。
今日、チェリーツリーさんのお便りに選んだのは、このボーナストラックサムプン百科典という小説です。
1995年に起きた韓国のサムプン百科典崩落事故っていうのをご存知でしょうか。大きなデパートがビルごと突然崩れ落ちるという大事故でして、
500人以上の方が亡くなって、900人以上の方が負傷した、実際にあった事故なんですね。
後に手抜き工事が原因と分かるんですけど、数日前からなのかな、その日なのか、冷房が壊れてたりとか、指割れが見つかったりとか、異変があったのに、
そのままにし、デパートの経営者たちはそれを隠してそのまま営業しようとして、当日も待機しろとアナウンスした結果として、お客さんや販売の方がたくさん亡くなってしまったという、ひどいひどい事故なんですね。
小説三分百貨店はどんなお話かと言いますと、就職が決まらなくてデパートでブラブラしている主人公の私が、そこで販売員として働いている同級生のRに出会うんですね。
2人は同じ女子校に通ってたんですけど、その頃はあんまり印象に残るような交流はなくて、
この先を説明しないと、なぜこの本を選んだのかが伝わらないので、少しネタバレになってしまうんですが、解説しますと、就職がなかなか決まらない主人公の私は、何を買うということもなく、時間つぶし的にデパートに行って、
Rと仲良くなって、Rが仕事が終わるのを待って、その後飲みに行ったり、Rの部屋に遊びに行ったりする仲になっていくんですね。
でも、あることをきっかけに疎遠になってしまいます。
そして、この小説のタイトルがサムプン百貨店で、Rは百貨店の販売員として働いているので、その先はお察ししようという感じですね。
すごく短い小説でして、淡々と書かれているのですが、余韻がすごい。
主人公の私を視点とした2人が、だんだん距離を詰めていくやり取りの描写の合間に、事故にまつわる描写が挟まっている構成になっているんですね。
そこだけ太字になっていて、それが物語に緊張感をもたらしています。
ゆるゆるとした2人のやり取りの間に、太字になった描写が挟まっていて、
1階部分が崩れ落ちるのにかかった時間は1秒に過ぎなかったという冒頭から始まって、何時何分、蒸し暑い、百貨店の中が非常に暑くて、クーラーが壊れているという館内アナウンスが流れたりしているんですね。
あと何時何分、店員さん同士が、ねえ聞いた5階の売り場でなんか天井が落ちてきたらしいよっていう話をしていたりとか、
そういう描写がちょいちょい挟まって、読者の私は、その3分百貨店の結末を知っているわけですから、ドキドキしますね。
ただこの小説、事故自体の詳しい描写は出てこないんです。
生産な現場は描かれないところがあえてと言いますか、その前ののんびりした日常と事故した後の主人公の行動だけが書かれています。
いやーこの小説本当に緻密によくできているんですね。無駄がない描写設計と言いますか、主人公とRの間にはおそらくお家の経済格差があること、
主人公は数字が弱くて、Rは結構多分仕事ができるっぽいこと、
制服を着た女性販売員という仕事自体がおそらく社会からやや見下されていることなんかが、説明しすぎにならない感じで伏線として張ってあって、
一単語も読み飛ばせない小説って感じがしました。
この短編集ですっかりチョン・イヒョンさんという作家に魅了されまして、私、他に彼女の作品でマイスイートソウルと君は知らないっていうのをこちらは単行本で買いました。
チョン・イヒョンさんがどんな作家さんなのかちょっとだけ紹介しておきましょう。
1972年生まれの女性で、今回紹介した三文百科展が初期の作品として高く評価されて世に強いられるきっかけになったそうなんですね。
彼女はソウル生まれで、今でこそ珍しくないと思うんですけど、ソウル生まれの若い女性作家ということで注目されて、
ソウルの富裕層エリアの人々の日常を切り取る作品で注目を集めたということなんです。
女性の交流と別れ
彼女が一躍有名になったのは新聞連載だったマイスイートソウルっていう長編小説でして、
新聞連載って日本もそうだったと思うんですけど、年配の男性向けの歴史小説みたいなのが新聞連載の小説の中心だったところへ、
ソウルで一人暮らしをする30代女性を描いたマイスイートソウルっていう長編小説は異色で熱狂的な人気を博してドラマ化もされたそうなんです。
ドラマね、配信とかで見れるかなって探したんですが、残念ながらちょっと日本で見れる形はなかったような感じでした。
そう、どういう作家さん、日本だとどういう人かなって考えたんですけど、林まり子さんとかそんな感じですかね、都会的なと言うか、都会で一人暮らしをする30代女性のぶっちゃけ話みたいなので
一躍有名になって、ブリジット・ジョーンズの日記的なね、でも決して下品ではなくてスノップな感じがあります。
チョン・イヒョンさんもマイスイートソウル、ブリジット・ジョーンズのソウル版みたいなので人気を博してから10年以上経つうちにご結婚されてお子さんも生まれて、
優しい暴力の時代にはですね、高級住宅街と教育ママの話なんかも出てきます。
でも私がいいなと思うのは、そんなに女同士のドロドロみたいな話ではなくて、老悪的ではないところです。
スカイキャッスルとか、そういう世界観ではないんですね。もっと優しさや傷つきやすさが根底にある感じがします。
この本をチェリーツリーさんに選んだのは、ここに載っている短編の中には立場の違う2人の女性が出会って、そして仲良くなって、そしてある事情で別れてしまって、そして振り返るっていう話が出てくるんですね。
高級住宅街とそうじゃない街から同じ学校に通う2人だったり、英語が話せるようになる英語幼稚園に通わせるお母さんとその幼稚園のお世話役をやる女性というような質地の違う2人、格差のある2人の交流と別れが描かれています。
チェリーツリーさんの状況とは全く同じではないんですけれども、どちらが悪いということでもなく、でもずっと仲良くいることはできなかった2人の何とも言えない感情が描かれた物語ではあると思いました。
痛みを思い出す
そして教訓とか今しめみたいなのがないところがいいなと思って選びました。
この優しい暴力の時代の文庫版は解説を西かな子さんが書いてらして、それがすごくいいんですけれども、その後書きから今日は紙フレーズを読んで終わりたいと思います。
思い出すことには痛みを伴う。その痛みは聖者のものだ。
思い出すことができるのは、そして痛むことができるのは、たまたま今生きている人間だけだからだ。
ならばその痛みはそのまま聖の痛みとしてそこにある。私たちは思い出すことと引き換えに何かを得ているのではない。思い出す行為それ自体で痛みを、つまり聖を確認しているのだ。
とあります。
チョン・イヒョンさんの作品、よかったらぜひ手に取ってみてみられてください。
さてさて、連休明けの配信でしたがすっかり通常モードで配信してしまいました。連休中皆さんいかがお過ごしでしたでしょうか。
私は実はデンマークへ旅行してまして、スケジュールがゆったりしていたことも、乗り継ぎがちょっと時間かかったりしたこともあって、たくさん本を読めたんですよね。
先日ご紹介した金原ひとみさんの矢部の中も読み終わったんですよ。すごかった。これがまた、まだご紹介するにはちょっと消化しきれてない感じで圧倒されましたね。
またちょっと整理がついたところでご紹介したいなと思っています。
今日はチェリーツディさんリクエストありがとうございました。
さて、そろそろお時間になってしまいました。
真夜中の読書会おしゃべりな図書室では、リスナーの方からのお便りをもとにおすすめの本や漫画、紙フレーズをご紹介しています。
リクエストはインスタグラムのアカウントバタヨムからお寄せください。
お届けしたのは講談社のバタヤンこと川端理恵でした。
また水曜日の夜にお会いしましょう。
おやすみなさい。
おやすみ。
14:04

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