マッシュルームさんからのリクエスト
真夜中の読書会おしゃべりな図書室へようこそ。
第214夜を迎えました。今夜のお便りをご紹介します。
ペンネームマッシュルームさんから頂きました。
バタやんさんこんにちは。2回目のリクエストをお送りします。
ありがとうございます。
私はこの4月から転職をして、新しい会社で働き始めました。
とても優しい方ばかりですごくいい会社に入ったなと思っていたんですが、
気になってその大らかさがゆるさやいい加減さに見えてしまうことが多々あり、
指摘をすると〇〇さんは怖いって周りから思われてないかなと思って気になってしまいます。
なるほど。私が真面目すぎるんでしょうか。
ついついいろんなことが気になってイライラしてしまう私に、
広い気持ちになれるような気分転換になれるような本があれば教えてください。
と頂きました。ありがとうございます。
川内アリオの魅力
あーそうか。なんとなくわかる気がしますね。
具体的にどういうところが気になってらっしゃるのか書いてないんですけど、
大らかさがルーズに思えてイライラしてきてしまうっていうのはよくわかる気がしますね。
さてそんなマッシュルームさんへ、今夜の勝手に貸し出しカードは、
川内アリオさんのエレベーターのボタンを全部押さないでくださいという本にしました。
この本、つい一昨日読み終えたばかりなんですけど、
何章か読み飛ばしたかもしれないから、8割型読み終えたばかりといった方が正確なんですけど、
読んでいる途中で、この頂いたリクエストのメッセージのことを思い出しまして、
ぜひ紹介したいなと思いました。
マッシュルームさんのリクエストに対してどんぴしゃじゃないかもしれないんですけど、
よければぜひ読んでご感想を伺いたいなと思った次第です。
さてこの本どんな本かと言いますと、ノンフィクション作家の川内アリオさんの初のエッセイ集となっています。
川内アリオさんはヤフーニュース本屋大賞ノンフィクション大賞を受賞して、
ドキュメンタリー映画にもなった目の見えないしらとりさんとアートを見に行くという本を書かれた方ですね。
エッセイの元の連載は暮らしの手帳だったり日経新聞のコラムだったり、
クロワッサンとかGQとか何か機関の小冊子とかいろんなところから集められています。
私実はその川内さんのことをほとんど何も知らずに予備知識なく買ってしまったんですねこの本。
実は目の見えないしらとりさんも読んでなくて、これを読んでから読もうと思いました。
なんで買ったかというと、じゃけがいなんですけどすごい想定が可愛くて、
洒落た表紙でして、洒落た表紙、そして手触りなんですよ。
そしたらやっぱり想定は中井直子さんでした。
完全にじゃけがいで、この間私タイにハマっているという話をチラッとしたんですけど、
表紙の絵が白い柱と黄色い冊子、窓枠の建物と青い空が描かれているんですね。
タイで似たような建物を見た記憶があって、
屋台じゃないかもしれないけど、なんかちょっといいなと思って、
旅行気分で、何かアジアの南国の建物なのかなと思って惹かれて買いました。
買ってからクレジットを見て調べたら、キューバ出身のアーティストさんの絵でしたね。
タイじゃなくてキューバの建物だったのかもしれないです。
でもとにかく買っただけで満足っていう感じの、そういう想定の本ですね。
アートピースのように愛おしいです。
そしてそのエッセイのアンソロジーを買うって、
特に初のエッセイ集を買うっていうのは、
その著者のことが大好きで大ファンになって、
その人が書いたものなら何でも読みたいみたいな時に買うものだと思ってたんですけど、
勝手に何だか。
私はその川内さんを全然知らずに買ってしまったから、
この人どういう人なんだろうっていうのを読めば読むほど分からなくて、
混乱したんですよ。
まず第一印象はあまり気が合わなそうかもしれないと思った。
いやすいません、失礼なことを言って、
友達になる感じじゃないかもしれないなと思ったんですけど、
第一章がコスタリカのバスの中で、
第二章がタイトルにもなっているエレベーターのボタンを全部押すなっていう話で、
第三章がレモンを置きに京都までっていう話で、
いや一体何を言っているんだこの人はっていう感じでしょ。
プロフィールを見ますと日系の出身で、
アメリカのジョージタウン大学で南米の研究をされていて、
その後アメリカと日本とフランスの国際協力の分野で、
10年以上12年ほど働かれていて、
その後ノンフィクションのライターになったという、
あまりにジャンプが大きすぎてよくわからない。
女の人なんですね、結婚されていて娘さんもいらっしゃるようです。
なんかよくわかんないし、すごい共感するエッセイとかって感じじゃないんですよ。
でもよくわかんないけどジャンプの大きい人なんだなっていうことで、
じわじわ魅力がくる感じでした。
第一印象はあまり友達にはならなそうって思ったって言っちゃいましたが、
読んでも読み込んでも友達になれそうかって言うとちょっと自信がないですが、
もし直接お会いできることがあったとするならば、
自分の人生に会えてよかったなって思う人の一人になりそうな、
気がします。そんな期待がする方です。
いろんなところへ突っ込んでいって、飛び込んでいって、
いろんな人と出会って交流して、こうだった、ああだった、こんな話を聞いた、
こんなことを言っていたっていうのがいっぱい出てくる本なんですね。
いちいち自分はこんな風には距離を詰められないなって思うんだけど、
うらやましくもあるっていうか、
うらやましくもあるっていう感じですかね。
それでマッシュルームさんの話からだいぶ話が反れちゃいましたけど、
なんでこの本をお勧めしたいのかって言うんですよね。
私は転職していなくて、ちょっとまた自分の話で恐縮なんですけど、
ずっと同じ会社で20年以上勤めてます。
そうするとこういう時はこうして当然とか、こうするのが普通でしょみたいなのが
染み付いちゃっているわけですよね。
だからマッシュルームさんみたいに新しい世界に飛び込んでいるのはすごいことだと思うんですよ、そもそも。
私はすっかり安全地帯の中でこうするのが当然みたいなこととか、
息を吸って吐くようにこうしたらこうなるだろうみたいなことも予想ができちゃって、
こうしてくれるよねっていうのを言わなくとも相手に求めてしまう。
それってすごい危険なことだと思うんですよ。
なんていうか今、ハラスメントとかコンプライアンスなんかがいろいろ問題になってますけど、
その兆し、そのポテンシャルの方向だと思うんですね。
この会社、この小さな社会における正義が凝り固まってしまうっていうのって。
川内さんのエッセイを読んだら、
コスタリカでスペイン語を勉強してた話が出たかと思うと、
パリで潰れてしまったお店のことを心配し、
寄せ見て国立公園に行き、タクーラマカン砂漠の取材をしっていう風に、
どんどんどんどん1個のエッセイごとに国が違うみたいなペースで、
一体この人は人生でどのくらいの距離を移動しているんだろうって思うし、
その先々で起こる出来事に、私ならちょっとカルチャーショックで泡を吹いてしまいそうだけど、
すんなりと受け入れている、あるいはすんなりと受け入れているように見えるっていう感じなんですよ。
日本や東京に住んでいると、やっぱこうするのが常識とか、
お金を払ったらこのくらいが当然みたいなラインが、口にはせずともあると思うんですよね。
それが覆された時に、そうはならなかった時に、海外でもイライラしたり、怒ったり、驚愕したり、がっかりしたりしちゃいそうだけど、
そういうことでもなく、そういうものかと面白がれるような気にしなさがとても私は羨ましいと思いました。
そういう意味で川内さんという人に、中場強引に世界旅行に連れて行かれたような、
そんな不思議な読書体験の本でした。
そしてこのタイトルになっているエレベーターのボタンは全部押さないでっていう話はですね、
実は海外ではなくて、日本の川内さんの妹さんが小学生の時の他人の先生の話なんですね。
どういうエピソードかは言わないでおきますね。ぜひ読んでみてください。
大らかな時代だったんだなっていうのと、1972年生まれの川内さんの妹さんだから、
人生の選択と恐れ
昭和か、コンプラ的にやべえなっていうとこがいっぱいある話なんですけど、
イライラしちゃう。今の私だとイライラしちゃいそうだけど、いい話なんですよ。
自分の正義みたいなのが語りかけてしまった時に、やっぱり読書とか旅って大事だなっていうのをこの本読んで思いましたね。
さて今日はこの川内有代さんのエレベーターのボタンを全部押さないでくださいから紙フレーズをご紹介して終わりたいと思います。
38歳の時、国際公務員という安定した仕事を辞めてフリーの物書きになった。
そのせいか辞めるとき怖くなかったんですかとたびたび聞かれる。
毎回10年後も同じ場所で同じ仕事をしていると想像する方が怖かったですと答える。
極度に飽きっぽく落ち着きのない性格の私にとっては、
グローバルすぎる目標に向かって延々と同じような業務を反復するような日々よりも、何が起こるかわからない。
ああどうなっちゃうんだろうくらいがちょうどいい。
うまくいかなくても大抵のことはやり直せると思っている人あります。
これはですね、怖さの正体っていう章に出てくる一節です。
川内さんは何が起こるかわからないことより変わらないこの先も同じ場所で同じ仕事をしていると、
先がずっと決まっていることの方が怖いタイプの人なんだなというふうに思いました。
それって面白いですね。
何が怖いかって、もしかしたら何が楽しいかより本質的なこと、人生で大事なものが何なのかっていうのが現れそうですね。
私はどっちが怖いかな、先が見えちゃっている方が怖いのかな、意外とって思ったりしました。
マッシュルームさんは、そして皆さんはどうでしょうか。
さて、そろそろお時間になってしまいました。
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お届けしたのは講談社のバタヤンこと川端理恵でした。
また水曜日の夜にお会いしましょう。
おやすみなさい。
おやすみ。