畜産動物たちが過酷な状況にあるという認識は、ヴィーガニズムや動物倫理に関心のある多くの人に共有されていることかと思いますが、この問題に対して取ることのできるアプローチは様々です。
今回のエピソードでは、廃絶主義と新福祉主義のふたつの立場に分かれてディベートを行いました。この議論を通じてどの立場が正しいかに白黒をつけたいというよりも、それぞれのアプローチの背後にありうる様々な考え方を知って、皆さんの今後の取り組みに活かしたり、参加する団体を適切に選べたり、ときには異なる立場に立つ人たちや団体の間で協力し合う場面がでてきてもらえればと考えています。
前半のエピソードでは、廃絶主義と福祉主義、新福祉主義という分類を出発点にしながらも、畜産動物の問題へのアプローチの仕方についてさらに細かく見ていきました。そちらもぜひお聴きください。
エピソードの中で話した分類はこちらの表にもまとめています。
■「アニマルウェルフェア」とは?
世界動物保健機関(WOAH, 旧国際獣疫事務局(OIE))はアニマルウェルフェア(「動物福祉」と訳されることもあります)を「動物の生活と死の状況に関連した動物の身体的および心理的状態」と定義しています。畜産動物のアニマルウェルフェアを向上するとは、農場にいる動物たちの身体的/心理的苦しみを減らし、その自然な欲求を満たせるようにすることです。
■参考文献
そもそも工場畜産の何が問題か?
Peter SINGER – Ethics, Animals and Intensive Farming —– 27-34
肉食者が非ヒト動物の心的能力を不適切に低く見積もり、道徳的地位を低く見積もり、非ヒト動物が資源として利用され続けることへの傾向をもっていることを示す心理学実験
Bastian, B., Loughnan, S., Haslam, N., & Radke, H. R. M. (2012). Don’t mind meat? The denial of mind to animals used for human consumption. Personality & social psychology bulletin, 38(2), 247–256. https://doi.org/10.1177/0146167211424291
Caviola, L., Everett, J. A. C., & Faber, N. S. (2019). The moral standing of animals: Towards a psychology of speciesism. Journal of personality and social psychology, 116(6), 1011–1029. https://doi.org/10.1037/pspp0000182
Leach, S., Sutton, R. M., Dhont, K., Douglas, K. M., & Bergström, Z. M. (2023). Changing minds about minds: Evidence that people are too sceptical about animal sentience. Cognition, 230, 105263. https://doi.org/10.1016/j.cognition.2022.105263
廃絶主義の立場から行われている/提案されているアプローチの具体例:
日本語で読める動物権利論(廃絶主義の根底にある考え方)の入門書
ゲイリー・フランシオン『動物の権利入門―わが子を救うか、犬を救うか』
井上太一『動物倫理の最前線』第二章「道徳哲学」
新福祉主義的なアプローチの代表例「ケージフリー運動」に関する文献