特集「自由な学びと大学」について
私は,今から40年以上前の1981年に大学に入学しました。当時の大学は,まだかつての大学の自由さを残した場所であり,私は大学院も含めて10年半,その自由な学びの場で過ごしました。その自由が端的に現れているのは,授業で出欠を取ることがほとんどなく,基本的に大学は好きな時にだけ行けばよい場所であったということです(これは,あくまでも私がいた所の話ですが,それは決して珍しくはなかったと思います)。
私が考える「自由な学び」とは,「好きな時に好きな場所で好きなことを学ぶこと」です。かつての大学はそうした場所でした(少なくとも私にとっては)。現在の大学は,かつてと比べると極めて不自由な場所となってしまいましたが,情報通信技術の発展により,新たな形で「自由な学び」が実現できるかもしれません。このマガジンでは,そうした問題意識を背景としたエピソードを集めました。
オンデマンド授業(2024.2.2 / 4.15 / 6.10)
ビデオなどを使ったオンデマンド授業は,学生の自由度を非常に大きくしてくれます。好きな時に好きな場所で学ぶことが可能となるのです。この自由さを感じて欲しいと思い,2020年度以来,私は講義をオンデマンドビデオの形で提供しています。そして,それは学生から歓迎されています。
私は学期初めの授業で,私の授業方針を話していますが,そこでは,学習の自由度を高めるため,講義ビデオやオンラインツールを多用することを伝えています。
すべての授業が録画され,後から観ることができることのメリットとデメリットを現役学生が語っているポッドキャストを聴き,オンデマンド動画が必ずしも良いわけではないことを再認識しました。
オンライン上の研究室(2024.2.2)
大学教員がオンライン上(たとえばnote上)に研究室を持つと,退職しても研究・教育活動が続けられることに気づきました。それに加えて,これは大学のなかに閉ざされていた学問を社会に開くことにもなり,一般の人々が自由な学びを実現する上でも重要なことです。オンライン上の研究室には,その教員が属している大学に属していなくても参加できるからです。
大学の講義の「バラ売り」(2024.2.10 / 6.25)
このマガジンのNo.2でも取り上げましたが,再掲します。大学の講義がオンライン上でバラ売りされ,誰もが好きな時に好きな場所で好きな所だけ聴講できるようになれば,自由な学びの実現に大きく貢献するのではないかと思います。
その一方で,講義がすべて無料公開されるとよいという意見に対しては,不賛成の意見を持っています。
講義-レポート形式の大人数授業の無意味さ(2024.2.15)
生成系AIが登場した現在,講義-レポート形式の大人数授業はやめるべきだという,たかはしはじめさんのnote記事へコメントしました。ちなみに,現在の私は,一部の授業を除いて,教室で長時間の講義をすることはありませんし,またレポート課題を課すこともなくなっています。
ZEN大学のインパクトに期待(2024.5.1 / 5.4)
2025年度開学予定のオンライン大学「ZEN大学」は,これまで大学進学が難しかった人たちに学ぶ機会を提供するということを目的としています。私が現在勤める大学の母体(電機学校)は,無試験入学や校外教授(通信教育)で発展した学校であり,ZEN大学の理念と共通するところがあると考えています。
YouTube動画で知ったZEN大学の構想のなかから,大学を自由な学びの場とするために取り入れるとよいと思われる事柄について語りました。
小さな学位は自由な学びを実現するか(2024.5.5 / 5.6)
ZEN大学では,卒業生に対してのみ,単位を取った科目の成績を対外的に証明するというという話を聞きましたが,卒業生でなくても(つまり中退者に対しても)成績証明をすれば,大学がより自由な学びの場になるのではないかと考えました。
最近,卒業時に与えられる学位(大きな学位)より小さな単位で与えられる学位(小さな学位)が注目されてきています。これは,自由な学びを実現する上で好ましい傾向だと思っています。
小さな学位には,学びの自由度を高める可能性があります。しかし,小さな学位であっても,自由な学びを阻害する可能性もあります。
ゲンロンが目指す自由な学びの場(2024.5.7)
ZEN大学では,課外活動の一つとして,ゲンロンカフェへの参加機会を提供するようです。そこで,株式会社ゲンロンの創業者である東浩紀さんが書いた『ゲンロン戦記』を読みました。そこには,東さんがゲンロンカフェやシラスといった自由な学びの場をつくろうとする努力の過程が記されていました。
ときめき感覚の大切さ(2024.6.11)
伊藤穰一さんと近藤麻理恵さんの対談ポッドキャストを聴き,片づけで重要なときめき感覚は,自由な学びを実現する上でも重要だと思いました。(本エピソードは,このマガジンのNo.2でも取り上げましたが,再掲します。)
(TanaRadio Magazine, No.3 おわり)