分子の性質の基本
やまラボ Podcastへようこそ。今回は、大学の講義資料、物理化学演習をもとに、分子の性質、特に水に溶けやすい浸水性と油っぽいものに溶けやすい素水性、これをどう予測して、どう理解していくか、というところに迫りたいと思います。
科学を学ぶあなたにとっては、これすごく大事なスキルですよね。
そうですね。分子の形、その構造から性質を読み解くというのは、科学の多くの分野で本当に基本になりますね。資料ですと、経験的なアプローチの有機概念図と、あとは、より定量的なログP、この2つが紹介されていました。
はいはい。
これらがどういうふうに役立つのか、見ていくと面白いかなと。
まず、浸水性、素水性という基本の話ですけど、これ結構奥が深いですよね。
水と水素結合を作りやすいのが浸水性で、作りにくい、むしろ油甘、質質に溶けやすいのが素水性。
この性質が例えば薬の体内での動きとか、あとは環境中での物質の挙動とか、そういうのに関わってくる。
そうなんです。
で、資料にあった有機概念図っていうのは、分子の部分構造、観納器ですね。そこから大まかに性質を予測するみたいな考え方でしたっけ?
直感的な理解にはすごく役立ちますね。分子の部分が全体にどういう影響を与えるか、その考え方の基本にはなります。
ただ、やっぱりより科学的に定量的に議論するには、ログPが重要になってきます。
ログPとその応用
ログP、オクタノール水分配係数。
はい。これは化合物が油に近い性質のオクタノールと水の間でどっちにより溶けやすいか、その分配の比率を対数で示した値です。
なるほど。ログPが大きいと油っぽいオクタノールの方に溶けやすい。つまり素水性が高い。
そうです。
で、小さいあるいはマイナスだと水に溶けやすくて浸水性が高い。
そうですね。
このログPっていう数値が具体的にはどういうふうに役立つんですか?
それはですね、非常に重要な応用の一つが生体膜、特に細胞膜の透過性の予測なんです。
細胞膜ですか?
細胞膜って基本的には脂質二重層っていう油に近い層でできてますよね。
はい。
なのでログPが大きい、つまり素水性の高い化合物ほどこの膜を通り抜けやすい傾向があるんです。
へー。
だから薬が体の中にちゃんと吸収されるかとか、あるいは目的の細胞まで届くかみたいなことを考える上で、このログPが一つの鍵になるわけですね。
なるほどなるほど。その素水性っていうのがタンパク質の形にも影響するっていう話ありましたよね。ヘモゴロビンの例がすごく印象的で。
あーはいはい。
アミノ酸の速差にも浸水性とか素水性があって、タンパク質が折りたたまれて立体構造を作るときに素水性の速差はなるべく水から隠れたいから内側に、浸水性の速差は水に触れたいから外側に向かうみたいな。
まさにその通りです。たった一つアミノ酸が変わるだけで、そのバランスが大きく崩れて病気につながってしまう例がカマジョウ赤血球貧血症ですね。
あーそれありましたね。
ヘモゴロビンのβ酸の6番目のアミノ酸でしたか。本来なら浸水性のグルタミン酸なんですけど、それが素水性のバリンに変わっている。
たった一つアミノ酸が変わるだけで。
その結果、タンパク質の表面に素水性のパッチみたいなものができてしまって、ヘモゴロビン同士がその部分でくっつきやすくなるんですね。素水的な相互作用で。
それで繊維状になって赤血球の形がカマのような形に変形してしまう。分子レベルのわずかな性質変化が生態レベルでこれだけ大きな影響を及ぼすという非常に示唆に富む例です。
いやー、まさに科学の力で生命現象を説明できるっていう感じですね。
そうですね。
薬の例ももう少しありましたよね。インフルエンザの薬でリレンザとタミフル。
ありましたね。これもログPが見事に説明してくれます。
見た目は結構複雑な化合物ですけど。
リレンザの方はログPが非常に小さいんです。つまりすごく浸水性が高い。
ふむふむ。
ところでタミフルはリレンザに比べるとログPが大きくてある程度の疎水性を持っている。
その違いがどう影響するんですか?
それがもう投与方法に直結してるんですね。
投与方法に。
はい。浸水性の高いリレンザは口から飲んでも消化管からほとんど吸収されないんです。
ログPが小さすぎるので。
あー、なるほど。膜を透過しにくい。そういうことです。
だから吸入して直接幹部である蒸気道に薬を到達させる必要がある。
吸入薬なんですね?
ええ。一方でタミフルはある程度の疎水性、つまりログPを持っているので、
蛍光投与、つまり飲み薬でも消化管から吸収されて血中に入ることができる。
へー、だからタミフルは飲み薬として使えるんだ。
そういう理屈です。
まさにログPを見ながら薬が体の中をどう移動するか、どういう投与経路が適切かを設計しているとも言えますね。
なんかパズルみたいで面白いですね。
そうですね。アスピリン、アセチル、サリチル酸は飲み薬ですけど、
よく似た構造のサリチル酸メチルは疾風薬、つまり針薬に使われますよね。
あ、はいはい。スースーするやつ。
あれもサリチル酸メチルの方がログPが大きくて皮膚を透過しやすいからなんです。
環境中の化学物質の振る舞い
へー、そういう理由だったんですね。
ええ。で、このログPの考え方っていうのは薬だけじゃなくて、環境中の化学物質の挙動なんかを考える上でもすごく重要になってきます。
環境問題ですか?
はい。資料にも例がありましたけど、例えばPCB、ポリエンカビフェニル類とか。
あ、PCB効きますね。
PCBなんかはログPが非常に大きいんですね。つまり極めて疎水性が高い。
だから水にはほとんど溶けないんですけど、生物の死亡組織にはすごく蓄積しやすい。いわゆる水物濃縮ですね。
うわー、それで問題になったんですね。
ええ。あとかつて農薬として使われたBHC、ベンゼンヘキサクロリドなんかもPCBほどではないにしてもやっぱりログPがそれなりにあって、環境中に長く残留して問題になりました。
なるほど。ログPを見ればその物質が環境中でどういう振る舞いをするか、ある程度予測できると。
そういうことになりますね。水に溶けて流れていくのか、土壌に吸着しやすいのか、あるいは生物に取り込まれやすいのか、とか。
つまり、まとめると、分子の構造を見て、そこからログPみたいな指標を手がかりにして、浸水性とか疎水性を定量的に予測する。
はい。
それが、生内外での薬の動きとか、環境中での物質の運命とか、さらにはタンパク質の立体構造の形成にまでどう関わってくるのか、これをちゃんと論理的に説明できるっていうことが、あなたのような価格を学ぶ学生にとってすごく大事なスキルなんだということですね。
まさにおっしゃる通りです。
分子の性質を深く理解して、それを予測する力っていうのは、結局、新しい機能を持つ分子を設計する。
例えば、新しい医薬品とか、新しい材料とか、そういうものを作り出す上での、本当に第一歩になるわけですから。
いやー、本当に応用範囲が広いですね。
ええ。
では最後にですね、あなたへの問いかけです。
今日取り上げたこの分子の形とかログPから、その性質を読み解くアプローチ、これを応用したらどんなことができるでしょうね。
例えば、もっと肌への浸透がいい化粧品の成分とか、あるいは水の中にある特定の汚染物質だけを効率よく吸着してくれるような新しいフィルター材料とか、そういうものを設計できるかもしれない。
あなたの興味のある分野で、この考え方どう活かせるでしょうか。
ちょっと想像を巡らせてみてください。