部下育成の重要性
FeelWorks代表前川孝雄の著書「上司の9割は部下の成長に無関心」。
管理職の9割がプレイングマネージャーとして、業務や業績に追われ、部下育成にまで手が回っていない日本企業。
競争優位の源泉であった「人が育つ現場」が消えようとしている今、なぜ部下を育成することが大切なのでしょうか。
そして、育成の先に何があるのでしょうか。
企業の具体的な取り組み事例を紹介しながら、新しい人材育成手法や人が育つ現場作りについて解説しています。
今日は、”はじめに”を抜粋してご紹介します。
部下を育てる余裕のないプレイングマネジャーたち。
「日本企業の中間管理職の約9割は、部下の成長や育成に関心を持てていない」
私がそう言うと、多くの方は驚かれます。
しかし、あなたの職場にもこんな無関心上司がいないでしょうか。
一見、部下にとても優しい。
でも、部下の今後を考えるなら、厳しく叱らなければいけない時も叱っていない。
厳しく指導してパワハラと訴えられたり、メンタルダウンでもされたら面倒。
いずれ部署異動するのだから、今は円満にやっておこうというのが本音。
結果的に、その上司の下で部下はここ数年ほとんど育っていない。
逆に、厳しく指導をしている上司の中にも、実は部下の成長に無関心という上司はいます。
部下の仕事や実績を常にチェックし、何か問題があれば厳しく叱責している。
しかし、その上司が本当に関心を持っているのは部下の数字だけ。
つまり、チームの業績=上司自身の評価を気にしているだけで、
部下がどんな思いで仕事をしているか、今後どうなりたいと思っているか、
といった部下の人としての部分には実は無関心。
いかがでしょうか?
一人や二人は顔が浮かびませんか?
でも、さすがに職場の上司の9割がそうした「事なかれ上司」や、
「マイウェイ上司」ばかりということはないでしょう。
今一番多いのは次のような管理職です。
読者の皆さんの中にも、
私もまさにその一人だとドキッとする方が結構いるのではないでしょうか。
管理職といってもプレイングマネジャーで、
部下以上に高い数値目標を持たされている。
加えて様々な会議プロジェクトにも借り出され、
自分の仕事をこなすだけで精一杯。
部下の育成をもっとやらなきゃと思いつつも、
とてもそこまで手が回らない。
上司の多くが部下の成長に関心を持てなくなっているのは、
個人個人の問題ではなく、構造的な問題なのです。
例えば、バブル崩壊以降、
企業は一貫してプレイングマネジャーを増やしてきました。
マネジメント専任にするよりも、
プレイヤーを続けてもらった方が、
短期的には成果が上がりやすいからです。
しかし上司が部下育成に避ける時間や労力は当然ながら減ります。
新しい育成手法
今時の上司たちの置かれたこうした状況を考えれば、
部下の成長や育成に関心を持てなくなるのはむしろ当然と言ってもいいでしょう。
このままでは、人が育つ現場が日本企業から消えてしまう。
しかし上司が部下の成長や育成に関心を持てないことは、
日本企業に深刻な問題をもたらします。
短期的には大きな問題はないように見えても、
中長期的スパンで見ると、日本企業の競争優位の源泉だった
人が育つ現場を劣化崩壊させてしまうからです。
そうなったら日本は世界的な影響力をますます失うことになってしまう。
そんな強い危機感を私は持っています。
また、上司自身の将来にとっても部下の成長や育成に関心を持たないことは
リスクが非常に大きいのです。
確かに短期的にはプレイングマネジャーとして成果を上げていくことができるかもしれません。
しかし40代くらいまではそれでよくても、少子高齢化で世界の先頭を走る日本では、
今後は多くの人が70歳まで当たり前に働く時代になります。
時代が変化し、新しいスキルや技術が次々と生まれる中で、
プレイヤーとしてずっと第一線で若手時代と同じような働き方を続けられる人がどれだけいるでしょうか。
育て方がわからない。育ててもらった記憶もない。
私の会社が運営する管理職向けの研修や公開セミナーでこうした話をすると、
大抵いくつかの決まった反応が返ってきます。
その中でも多いのは次のような反応です。
自分が若い時、上司や先輩から手取りや足取り仕事を教えてもらったかというと、そんな記憶はない。
むしろ仕事は教えてもらうものではなく、自分から盗むものだと教わってやってきた。
だから部下を育てろと言われても、そのやり方がわからない。
よく勘違いされていますが、部下が育つのは上司が手取りや足取り仕事を教えた時ではありません。
研修したからそれだけで人が成長するという類のものでもありません。
部下が一番育つのは、以下の3つの条件が揃った時です。
1.背伸びしなければいけない仕事の機会が与えられる。
2.周り(上司や先輩)の協力を仰ぎながらやり遂げる。
3.周り(主に上司の介入)によって振り返りをする。
このことは、今も昔も変わらない人材育成の普遍的な在り方です。
ただ、かつての日本企業では、上司が特に意識しなくても、この3条件が自然と揃っていました。
しかし今はそうした前提が変わっているので、新しいやり方を生み出さなければいけなくなっているのです。
また近年は、従業員の多様化が急速に進んでいます。
さまざまな背景と制約を持つ人材が集う職場に変わってきているのです。
そこで本書では、こうした時代の変化に合わせた新しい人材育成法についても、主に第3章で詳しく解説します。
それでもたった一人の熱い思いと行動から職場は変わっていく。
多くの人にとって職場は、今も昔も家庭の次に多くの時間を費やす場所のはずです。
ところが多くの日本企業では、その職場がお互いに無関心・非協力的で、孤独感とストレスに満ちたものになってしまっている気がしてなりません。
そして、部下の成長に関心を持てない上司は、こうした日本企業の根本課題を象徴する事象なのです。
本書では、まず改めて、上司が部下の成長や育成に関心を持てなくなってしまった原因を、複数の視点から整理し直したいと思います。
それらの原因を踏まえ、日本企業が置かれている現状を分析した上で、私たちがこれまで相談を受けた企業や、実際にお手伝いしてきた企業の実例も踏まえながら、人材が育つ現場を取り戻すための道筋を示していきます。
部下の成長に関心を持つ上司を増やし、人が育つ現場を取り戻すことは決して簡単なことではありません。
しかし、たくさんの企業で研修・コンサルティングを行い、上司の皆さんのお話を聞いていると、人材育成への熱い思いを胸の内に秘めている方がまだまだたくさんいることがわかります。
実際、悪戦苦闘しながらも、無関心上司が部下に関心を持つようになり、「人が育つ現場」を取り戻しつつある企業もあります。
そして、こうした企業に共通するのは、部下育成に熱い思いを持った誰かが勇気を持って行動を起こしたということです。
それが経営者や人事担当者である場合も当然ありますが、中には現場の一管理職がまず自分の部署で実践し、それが会社全体の変革につながっていった事例もあります。
本書を読んでくださった皆さんが、その最初の一人となり、「人が育つ現場」が再び日本に広がっていくことを願ってやみません。