サンムトリ火山の観測
二人は次の朝、サンムトリの市へ行き、昼頃サンムトリ火山の頂近く観測機械を置いてある小屋に登りました。
そこはサンムトリ山の古い噴火口の外場山が海の方へ向いて欠けたところで、その小屋の窓から眺めますと、
海は青や灰色のいくつもの島になって見え、その中を気扇は黒い煙を吐き、銀色のミオンをひいていくつも滑っているのでした。
朗読師は静かにすべての観測機を調べ、それからブドリに言いました。
君はこの山はあと何日ぐらいで噴火すると思うか? 1ヶ月は持たないと思います。
1ヶ月は持たない。もう10日も持たない。早く工作してしまわないと取り返しのつかないことになる。
私はこの山の海に向いた方ではあそこが一番弱いと思う。 朗読師は山脈の谷の上の薄緑の山地を指しました。
そこを雲の影が静かに青く滑っているのでした。 あそこには溶岩の層が二つしかない。
あとは柔らかな火山灰と瓦礫の層だ。 それにあそこまでは牧場の道も立派にあるから、材料を運ぶことも造作ない。
僕は工作隊を申請しよう。 朗読師は忙しく局へ発信を始めました。
その時足の下ではつぶやくようなかすかな音がして、観測具屋はしばらくギシギシきしみました。
朗読師は機械を離れました。 局から数工作隊を出すそうだ。工作隊と言っても半分決死隊だ。
私は今までにこんなに危険に迫った仕事をしたことがない。 10日のうちにできるでしょうか。
きっとできる。装置には3日。 三無鳥市の発電所から電線を引いてくるには5日かかるな。
技師はしばらく指を負って考えていましたが、 やがて安心したようにまた静かに言いました。
とにかくブドリ君、一つ茶を沸かして飲もうではないか。 あんまりいい景色だから。
ブドリは持ってきたアルコールランプに火を入れて茶を沸かし始めました。
空にはだんだん雲が出て、それに日ももう落ちたのか、 海は淋しい灰色に変わり、たくさんの白い波頭は一斉に火山の裾に寄せてきました。
ふとブドリはすぐ目の前に、いつか見たことのあるおかしな形の小さな飛行船が飛んでいるのを見つけました。
朗読師も跳ね上がりました。 あっ、空防君がやってきた。
ブドリも続いて小屋を飛び出しました。 飛行船はもう小屋の左側の大きな岩の壁の上に止まって、中から背の高い空防大博士がひらりと飛び降りてきました。
博士はしばらくその辺の岩の大きな裾目を探していましたが、 やっとそれを見つけたと見えて手早くネジを締めて飛行船を繋ぎました。
「お茶を呼ばれに来たよ。揺れるかい?」 大博士はニヤニヤ笑っていました。
朗読師が答えました。 まだそんなでない。けれどもどうも岩がボロボロ上から落ちてきてるらしいんだ。
ちょうどその時、山はにわかに起こったようになりだし、ブドリが目の前が青くなったように思いました。
山はぐらぐら続けて揺れました。 見ると空防大博士も朗読師もしゃがんで岩へしがみついていましたし、
飛行船も大きな波に乗った船のようにゆっくり揺れておりました。 地震はやっと止み、空防大博士は起き上がってすたすたと小屋へ入っていきました。
中ではお茶がひっくり返ってアルコールが青くぽこぽこ燃えていました。 空防大博士は機械をすっかり調べて、それから朗読師といろいろと話ししました。
そして姉妹に言いました。 もうどうしても来年は長石、発電所を全部作ってしまわなければならない。
それができれば今度のような場合にも、その日のうちに仕事ができるし、ぶどり君が言っている沼畑の肥料も降らせられるんだ。
干ばつだってちっとも怖くなくなるからな。 ペンネン義手も言いました。
ぶどりは胸がワクワクしました。山まで盛り上がっているように思いました。 実際山はその時激しく揺れ、ぶどりは床へ投げ出されていたのです。
大博士が言いました。 やるぞやるぞ、今のは三武鳥の死へもかなり地下に感じたに違いない。
朗読師が言いました。 今のは僕らの足元から北へ1キロばかり、地表下700メートルぐらいのところで、この小屋の670倍ぐらいの岩の塊が溶岩の中へ落ち込んだらしいのだ。
噴火の準備と実行
ところがガスがいよいよ最後の岩の川根、 川を跳ね飛ばすまでには、そんな塊も100も200も自分の体の中に取らなければならない。
大博士はしばらく考えていましたが、 そうだ、僕はこれで失敬しようと言って山を出て、いつかひらりと船に乗ってしまいました。
朗読師と武鳥は、大博士が明かりを2、3度振って挨拶しながら、山を回って向こうへ行くのを見送ってまた小屋に入り、変わる変わる観測したりしました。
そして明け方ふもとへ工作隊が着きますと、朗読師は武鳥を一人小屋に残して、昨日指差したあの草地まで降りていきました。
みんなの声や鉄の材料の触れ合う音は、下から風の吹き上げる時は手に取るように聞こえました。
ペンネン技師からはひっきりなしに向こうの仕事の隅ぐらいを知らせておこし、 ガスの圧力は山の形の代わり用も尋ねてきました。
それから3日の間は激しい地震や地なぎの中で、武鳥の方もふもとの方もほとんど眠る暇さえありませんでした。
その4日目の午前、朗読師からの発信が行ってきました。
武鳥君だな、すっかり支度ができた。急いで降りて来たまえ。観測の機器は一遍調べてそのままにして、表は全部持ってくるのだ。
もうその小屋は今日の午後にはなくなるんだから。 武鳥はすっかり言われた通りにして山降りて行きました。
そこには今まで局の倉庫にあった大きな鉄材がすっかり矢倉に組み立っていて、 いろいろな機械はもう電流さえくればすぐに働き出すばかりになっていました。
ペンネン義士の方はげっそり落ち、工作隊の人たちも青ざめて目ばかり光らせながら、 それでも笑って武鳥に挨拶しました。
朗読師が言いました。 では引き上げよう。みんな、支度して車に乗りたまえ。
みんなは大急ぎで二十台の自動車に乗りました。 車は列になって山の裾を一山に三武鳥の市に走り出しました。
ちょうど山と市の真ん中どこで、義士は自転車を止めさせました。 ここへテントを張り構え、そしてみんなで眠るんだ。
みんなは物を一言も言えずにその通りにして倒れるように眠ってしまいました。 その午後、義老師は受話器を置いて叫びました。
さあ、電線は届いたぞ。武鳥君、始めるよ。 朗読師はスイッチを入れました。
武鳥たちはテントの外に出て三武鳥の中腹を見つめました。野原には白百合が一面に咲き、 その向こうに三武鳥が青くひっそり立っていました。
にわかに三武鳥の左の巣がグラグラと揺れ、真っ黒な煙がパッと立ったと思うと、まっすぐに天まで登っていって、おかしなキノコの形になり、その足元から金色の溶岩がキラキラ流れ出して、見る間にずーっと扇形に広りながら海へ入りました。
と思うと地面は激しくグラグラ揺れ、百合の花も一面揺れ、それからゴーというような大きな音がみんなを倒すくらい強くやってきました。
それから風がドーッと吹いていきました。
やったやった!とみんなはそっちに手を伸ばして高く叫びました。 この時三武鳥の煙は崩れるように空いっぱいに広がってきましたが、たちまち空は真っ暗になって、
熱い小石がバラバラバラバラ振ってきました。 みんなは天幕の中に入って心配そうにしましたが、ペンネン義手は時計を見ながら、
うどりくん!うまくいった!危険はもう全くない! 死の方へは灰を少し降らせるだけだろう!と言いました。
小石はだんだん灰に変わりました。 それももなく薄くなってみんなはまた天幕の外へ飛び出しました。
野原はまるで一面ネズミ色になって、灰は一寸ばかり積もり、百合の花はみんな折れて灰に埋まり、空は変に緑色でした。
そして三武鳥の巣には小さなコップができて、そこから灰色の煙がまたどんどん登っておりました。
その夕方、みんなは灰や小石を踏んでもう一度山へ登って、新しい観測の機会を据え付けて帰りました。