CEROレーティング制度とゲーム表現規制に関するブリーフィング・ドキュメント
エグゼクティブ・サマリー
本ドキュメントは、コンピュータエンターテインメントレーティング機構(CERO)が運用する年齢別レーティング制度の仕組み、法的・社会的役割、保護者および販売店における扱い、ならびに最高区分である「CERO Z(18歳以上のみ対象)」における禁止表現と国内ローカライズ時の表現調整の実態について、総合的に取りまとめたものである。
CEROレーティングは、過激なゲーム表現が青少年に与える影響への社会的懸念に応えるため、2002年に設立された自主規制制度である。全年齢対象(A)から12才以上(B)、15才以上(C)、17才以上(D)、18才以上のみ(Z)の5区分で構成され、A〜D区分が購入時の「目安」として機能する一方、Z区分は18歳未満への販売・頒布を行わないことが前提とされている。
ゲームの高度な表現力向上に伴い、保護者が家庭内で子どもの視聴環境を管理する必要性が高まる中、地方自治体の条例(神奈川県や静岡県など)による規制や、ノジマのような家電量販店によるCERO Z全品取扱中止といった自主的な取り組みも行われている。また、CERO Zであっても差別的表現や不当な残虐表現などの「禁止表現」が設定されており、海外の大型タイトル(例:『サイバーパンク 2077』)においても日本国内向けに独自の調整が施されている。
1. CEROレーティング制度の概要と年齢区分
1.1 制度の発足背景と目的
CERO(特定非営利活動法人コンピュータエンターテインメントレーティング機構)は、家庭用ゲーム機の表現向上とユーザー層の拡大に伴い、ゲーム表現が青少年へ及ぼす影響に関する社会的要請に応える形で2002年(同年10月1日より開始、2006年3月1日に改訂)に発足した。
制度の目的は以下の通りである:
- 表現の自由の尊重と倫理水準の維持:コンピュータエンターテインメント文化の健全な発展のため、表現の自由を尊重しつつ、社会の倫理水準に適合したゲームソフトの開発・公表・販売を確保する。
- 情報提供による青少年育成:利用者に年齢別レーティング情報を提供し、保護者や購入者が適切なソフトを選択できるようにすることで、青少年の健全な育成を図る。
1.2 年齢別レーティングマークと表示基準
国内で販売されるすべての家庭用ゲームソフト(PS5、Nintendo Switch、Xbox Series X|S、PC等)を対象に、パッケージ表面左下および背表紙(帯色)にアルファベットと色で年齢区分が表示される。
| レーティングマーク | アルファベット | 帯色 | 基準・対象内容 |
| 全年齢対象 | A | 黒 | 年齢区別対象となる表現内容が含まれていない |
| 12才以上対象 | B | 緑 | 12歳以上を対象とする表現内容が含まれている |
| 15才以上対象 | C | 青 | 15歳以上を対象とする表現内容が含まれている |
| 17才以上対象 | D | 橙 | 17歳以上を対象とする表現内容が含まれている |
| 18才以上のみ対象 | Z | 赤 | 18歳以上のみを対象とする表現内容が含まれている(18歳未満への販売・頒布禁止が前提) |
その他の表示マーク
- 教育・データベース:教育用ソフトやお絵描きソフト等に表示。
- 規定適合:製品化前の体験版等で禁止表現がないことが確認された場合に表示。
- 審査予定:制作中のプロモーション販促物等に表示。
1.3 コンテンツアイコン(選定根拠の表示)
パッケージ裏面には、対象年齢判定の根拠となった表現を示す「コンテンツアイコン」が表示される。
- 表示対象(9種類):恋愛、セクシャル、暴力、恐怖、飲酒・喫煙、ギャンブル、犯罪、麻薬等薬物、言葉・その他
2. 保護者視点と購買・販売における規制と実情
2.1 A〜D区分とZ区分の本質的違い
保護者が小学生などの未成年者にゲームを与える際、CEROレーティングは重要な判断指標となる。
- CERO A〜D(目安としての区分): CERO B(12才以上対象)などの区分は、あくまでその年齢以上に適した表現が含まれていることを示す「購入の目安」であり、法的な購入・販売禁止を強制するものではない。小学生にCERO B以上のソフトを買い与えるか否かは、家庭内での判断に委ねられている。
- CERO Z(18歳未満への販売禁止前提): CERO Zは、身体の分離欠損描写など極めてショッキングな表現を含むため、18歳未満への販売・頒布を行わないことを前提とした区分である。
2.2 地方自治体および店舗による規制措置
CERO Zタイトルに対しては、行政および流通レベルで厳格な規制が実施されている。
- 自治体条例:
- 神奈川県:青少年への販売・頒布を行わないよう努める義務(努力義務)を条例で規定。
- 静岡県:有害図書類として認定し、18歳未満への販売・貸付等を禁止。
- 小売店舗の対応(ノジマの事例):
- 家電専門店ノジマでは、来店客が安心・安全に買い物できる環境を整備するため、2023年4月1日より店舗におけるCERO Zゲームソフトの販売を全面中止(ノジマオンラインも順次対応)した。
2.3 家庭内における課題(間接視聴リスク)
大型テレビの普及や描画技術のリアル化により、大人がCERO Zなどの高年齢向けタイトルをプレイする際、家庭内で意図せず子どもの視界に入ってしまう「間接的視聴リスク」が指摘されている。購入時だけでなくプレイ環境への配慮も求められる。
3. CERO Zにおける禁止表現と業界自律規制の意義
3.1 「CERO Z=何でもあり」ではない理由
18歳以上のみを対象としたCERO Zであっても、作中表現に制約(禁止表現)が存在する。これにはゲーム業界特有の歴史的・社会的理由がある。
- ゲーム悪玉論・有害図書指定の回避: 過去にゲームの残虐性や過激表現が自治体から問題視され、「有害図書指定」や販売禁止法制化の議論へ発展した経緯がある。ゲーム業界が自ら倫理機構(CERO)を立ち上げ、自律的に審査・管理を行えることを社会に実証しなければ、業界全体が法的規制を受け、コンテンツの競争力を失う危険があった。
- 社会通念と倫理水準の維持: 家庭用ゲームは子どもも容易に接触できる媒体であるため、完全な無制限(何でもあり)にした場合、現実の犯罪教唆、過度な差別、政治的・宗教的扇動などの危険なコンテンツが流通し、社会からの激しい批判を招くおそれがある。
3.2 CERO倫理規定における絶対的禁止表現
CERO倫理規定第7条では、以下の表現が明確に禁止されており、該当する場合はレーティング自体が付与されず、国内での発売不可となる。
- 不当な差別表現:
- 人種、信条、性別、職業、宗教、境遇、心身条件、生活状態等による不当な差別的表現
- 高齢者、幼児、身体障害者、精神障害者等の社会的に弱い立場にある人々への不当な差別的表現
- 個人、法人、および団体をみだりに誹謗・中傷し、名誉や尊厳を害する表現
- 反社会性・過度の残酷表現:
- 非合意の性暴力、近親相姦、売春・買春、麻薬等の薬物利用の肯定、自傷・自殺の推奨など
4. 日本国内における表現調整の具体例(『サイバーパンク 2077』)
海外で開発されたCERO Z相当のタイトルが日本国内でリリースされる際、CEROの禁止表現基準をクリアするために日本版独自の調整(検閲・変更)が行われる。
『サイバーパンク 2077』(PS4/Xbox One日本語版)の調整事例
CD PROJEKT REDが開発した『サイバーパンク 2077』日本語版では、海外(北米版等)と比較して以下の表現変更が行われた。
| 調整対象項目 | 海外版の表現 | 日本語版(CERO Z)の調整内容 |
| 裸体・性表現 | 男子および女子キャラクターの完全裸体描写 | 主人公のキャラクター作成画面および作中において、裸体キャラクターが下着を着用した状態に変更 |
| 性的オブジェクト・落書き | 頽廃的な世界観を表す直接的な性的表現・オブジェクト | 単なる黒塗りではなく、オブジェクトの一部が破損して見えなくなる等、作品の世界観に合わせた自然な表現へ変更 |
| 身体分離欠損・人体破壊 | 身体の切断・分離欠損および露出した内臓描写 | 分離欠損演出自体は海外版と同様に維持。ただし、断面を黒く処理し、露出する内臓表現を変更 |
5. CERO審査プロセスと将来の課題
5.1 審査のプロセスと審査員の構成
CEROの審査は、特定のゲームメーカーの意向に左右されない客観的な体制で実施されている。
- 審査依頼:ソフトウェアメーカーがCEROへ審査を依頼。
- 審査実施:一般から募集された20歳〜60歳までの男女で構成される審査員(ゲーム業界関係者は排除され、事前トレーニングを受けた人物)が複数名で表現内容をチェック。
- 判定と表示:判定結果がメーカーに通知され、パッケージへ年齢区分マークを掲載。
5.2 技術革新に伴う今後の課題
- 実写級グラフィックとAI技術: フォトリアルな映像技術やAIを用いた画像・動画生成技術の進化により、フィクションと現実の境界が曖昧になっている。過激な映像表現がプレイヤーに及ぼす影響や、政治的扇動・悪用に繋がるリスクに対して、審査機構の重要性は増している。
- 未審査コンテンツの流出リスク: 過去にはユービーアイソフトの『アサシン クリード ヴァルハラ』において、審査資料に含まれていない禁止表現相当の表現が製品版に含まれたまま販売されるトラブルが発生した。審査プロセスの厳格性とメーカー側の遵守意識が引き続き問われている。
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サマリー
日本のゲームレーティング制度CEROについて、保護者が小学生に年齢区分を超えるゲームを買い与える背景を、オンラインゲームによる同調圧力やペアレンタルコントロールの普及から考える。CERO Zでも禁止表現があり、『サイバーパンク2077』では裸体や人体破壊表現が日本向けに調整され、『ザ・カリスト・プロトコル』『デッド・スペース』では発売中止に至った例が紹介される。CEROは2002年、行政による直接規制を避ける自主規制機関として設立されたが、リアルなグラフィックやAIの進化で審査の難しさが増している。審査費用や期間が開発者の負担になる一方、IARCの無料・即時の自己申告型レーティングも導入され、プラットフォームごとの使い分けが進む。最後に、VRやメタバースで現実と区別しにくい体験が可能になったとき、境界線を誰が引くのかという問いが投げかけられる。