CD PROJEKT REDは、PS4およびXbox One版「サイバーパンク2077」の日本語版において、CEROの規制基準に合わせた表現の変更を実施することを発表した。この調整により、作中の男性や女性キャラクターの裸体、およびプレイヤーのキャラクタークリエイト時の見た目が下着を着用した状態に変更される。さらに、退廃的な雰囲気を伝えるための街中の性的描写や落書きについても、単なる隠し方ではなくゲームの世界観に合わせて一部が破損したような表現へと修正される。また、人間の体の一部が離断するような過激な暴力描写についても、海外版とは異なり切断面を黒く塗りつぶすなどの調整が加えられる予定である。
CEROレーティング制度および国内ゲーム表現規制に関する分析ブリーフィング
エグゼクティブ・サマリー
本文書は、日本国内における家庭用ゲームソフトの年齢別レーティング機関である「CERO(特定非営利活動法人コンピュータエンターテインメントレーティング機構)」の仕組み、設立背景、審査基準、ならびに「CERO Z(18才以上のみ対象)」区分における表現規制や具体的な作品事例について総合的に取りまとめたブリーフィング文書である。
- CEROの目的と背景: 2002年に設立されたCEROは、表現の自由を尊重しつつ、社会の倫理水準に適合したゲームソフトの供給と青少年の健全育成を目的に設立された。自治体等による法的・一律的な規制や有害図書指定を回避し、ゲーム業界が自主的な倫理管理能力を社会に示す役割を果たしている。
- 区分体系の改定: 2006年3月1日の改定以降、年齢区分マークは「A(全年齢対象)」「B(12才以上対象)」「C(15才以上対象)」「D(17才以上対象)」「Z(18才以上のみ対象)」の5種類で構成されている(改定前は「全年齢」「12」「15」「18」の数字表記)。
- 「CERO Z」における禁止表現: 「CERO Z」は18才未満への販売・頒布を行わないことを前提としているが、表現が無制限になるわけではない。家庭用ゲームの視聴環境の不確定性、犯罪教唆・思想扇動リスクの防止、さらには人種・性別・障害等に対する「不当な差別的表現(倫理規定第7条)」を厳格に排除するための禁止事項が設定されている。
- 表現規制の具体例: 『サイバーパンク 2077』日本語版(PS4/Xbox One)では、CERO基準に基づき、主人公およびNPCの裸体に対する下着着用処理、性的オブジェクトの破損風描写への変更、分離欠損部位の切断面黒塗りといった修正が施された。
- 社会的影響と流通・店舗の動向: CERO自体は直接の販売禁止権限を持たないが、CESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)や自治体条例(静岡県での有害図書類認定、神奈川県での販売規制努力義務など)と連動している。また、家電量販店のノジマのように、店頭での「CERO Z」ソフト取り扱いを全面中止する動きも現れている。
1. CEROレーティング制度の概要と設立背景
1.1 CEROの定義と目的
CERO(Computer Entertainment Rating Organization)は、特定非営利活動法人コンピュータエンターテインメントレーティング機構の略称であり、2002年10月1日より家庭用ゲームソフトの表現内容審査および年齢別レーティングの表示を開始した。
CERO倫理規定第1条に定められた設立目的は以下の通りである。
第1条(目的) 特定非営利活動法人コンピュータエンターテインメントレーティング機構は、コンピュータエンターテインメント文化の健全な発展のため、表現の自由を最大限に尊重し、且つ、社会の要求する倫理水準に適合する家庭用ゲームソフトの開発、公表、販売が確保されることを目途とし、家庭用ゲームソフトに関し、社会の要求する倫理水準に照らして適正か否かを審査し、適正と判断されたものについて該当区分に分類し、「年齢別レーティング区分」を行うこととし、当該審査に当たっての基準、その他関連事項を規定するものとして、本CERO倫理規定を定める。
CEROは主に以下の事業を行っている。
- ゲームソフト審査事業および審査員の募集・研修・育成
- ゲームソフト環境の調査・研究、審査システムの改善・拡充
- 年齢別レーティング制度の普及啓発
- 国内外の関連団体との交流協力
1.2 制度発足の歴史的必要性
家庭用ゲーム機のハードウェア性能向上に伴い、リアルな表現が可能となったことで、青少年の育成や社会風俗に与える悪影響への懸念が強まった。地方自治体からの指摘や有害図書指定の議論が急速に拡大した際、業界側が自律的な対応を行わなければ、行政による法規制や人気タイトルの販売禁止処分が下され、日本のゲーム産業の競争力が著しく阻害される恐れがあった。
ゲーム業界は自治体と協議を重ねつつ、自ら倫理基準を設けて審査するCEROを設立した。これにより、「ゲーム業界は倫理的問題に対して自ら対処できる」旨を社会に証明し、一律的な公的規制の回避に成功した。
2. 年齢別レーティング区分と表示システム
2.1 年齢区分マークの種類と基準
2006年3月1日の基準改定以降、表示されるレーティングマークは以下の5種類に分類される。パッケージの表面左下および背表紙(帯色付き)に表記される。
| レーティングマーク | アルファベット | 帯色 | 判定基準 |
| 全年齢対象 | A | 黒 | 年齢区別対象となる表現内容が含まれていないため全年齢対象 |
| 12才以上対象 | B | 緑 | 12歳以上を対象とする表現内容が含まれている |
| 15才以上対象 | C | 青 | 15歳以上を対象とする表現内容が含まれている |
| 17才以上対象 | D | 橙 | 17歳以上を対象とする表現内容が含まれている |
| 18才以上のみ対象 | Z | 赤 | 18歳以上のみを対象とする表現内容が含まれている(18才未満者へ販売・頒布しない前提) |
※2006年3月1日の改定前は、アルファベットではなく「全年齢」「12」「15」「18」という数字・文字表記が用いられていた。
2.2 その他の識別マーク
年齢別区分のほか、用途に応じて以下のマークが使用される。
| マーク種類 | 概要・表示条件 |
| 教育・データベース | 教育用ソフトやデータベースソフト(お絵描きソフト等)に表示される |
| 規定適合 | 製品化前の体験版等において、禁止表現がないことが確認された場合に表示される(正式審査後にA〜Zへ移行) |
| 審査予定 | 制作中のソフトをメーカーがプロモーションする際、販促物等に表示される(審査未実施の状態) |
2.3 コンテンツアイコン(表示根拠)
レーティング判定の根拠となった表現項目を示すため、パッケージ裏面に「コンテンツアイコン」が表示される。種類は以下の9項目である。
- 恋愛
- セクシャル
- 暴力
- 恐怖
- 飲酒・喫煙
- ギャンブル
- 犯罪
- 麻薬等薬物
- 言葉・その他
2.4 審査手順と審査員の構成
- 依頼: ソフトウェアメーカーがCEROへ倫理審査を依頼する。
- 審査: 複数名の審査員がゲーム内の表現内容をチェックする。審査員は一般から募集された20歳〜60歳の男女であり、ゲーム業界と利害関係のない第三者が選出され、事前トレーニングを受けている。
- 判定: 審査結果に基づき年齢区分が判定され、メーカーに通知される。
- 表示: メーカーは判定されたマークをパッケージに印字して販売する。
対象プラットフォームは、PlayStation各世代(PS1〜PS5、PSP、Vita)、任天堂各世代(Switch、Wii U、3DSなど)、Xbox各世代、PC(Windows/Mac)、スマートフォンOS(iOS/Android)、クラウドゲームサービス、過去ハード(ドリームキャスト、ワンダースワン等)まで網羅している。
3. CERO Zにおける禁止表現の存在理由と審査基準
3.1 「18才以上のみ対象(CERO Z)」に禁止事項が存在する理由
「対象を18才以上に限定しているにもかかわらず、なぜゲーム内容に規制・禁止事項が存在するのか」という疑問に対し、CEROの理念および専門家(石田賀津男氏等)は以下の理由を挙げている。
- 家庭用ゲームの閲覧性・影響力: 18才以上向けとして販売されても、購入後の家庭内で誰が閲覧・プレイするかを完全にコントロールすることはできない。制約を撤廃して無制限とした場合、自治体や社会からの過度な反発を招き、ゲーム産業全体が悪者とみなされるリスクがある。
- 全メディア共通の倫理観: テレビ、映画、書籍等のあらゆる商用メディアにおいても、年齢制限と並行してモザイク処理や放送倫理等の倫理規定が存在する。
- 技術進化に伴うフィクションの危険性: グラフィックの高度化やAI技術の発達により、実写と見誤る描写が可能となっている。映像の悪用や切り抜きにより、犯罪教唆、政治的扇動、思想的植え付けの道具としてゲームが利用されるリスクを防止する必要がある。
3.2 不当な差別表現の禁止(倫理規定第7条)
CERO審査において特に厳格に適用されるのが、差別や中傷に関する禁止規定である。
第7条(禁止表現)
- 別表3に定める禁止表現は、これを家庭用ゲームソフトに用いてはならない。
- 不当な差別表現は、これを家庭用ゲームソフトに用いてはならない。不当な差別表現は、これに限られるものではないが、以下を含むものとする。 (i) 人種・信条・性別・職業・宗教・境遇・心身的条件・生活状態などによる不当な差別的表現 (ii) 老人・幼児・身体障害者・精神障害者等の社会的に弱者に当たる人への不当な差別的表現 (iii) 個人・法人及び団体をみだりに誹謗・中傷し、その名誉、尊厳を害する表現
3.3 審査対象となる主な過激表現項目
| 表現項目 | 具体的対象内容 |
| 性表現 | キス、抱擁、下着露出、性行為、裸体、性想起表現、不倫、排泄、性風俗業、水着・コスチューム |
| 暴力表現 | 出血描写、身体の分離・欠損描写、死体描写、殺傷、恐怖、対戦格闘・ケンカ描写 |
| 反社会的行為表現 | 犯罪描写、麻薬等薬物、虐待、非合法な飲酒・喫煙、非合法ギャンブル、近親姦・性犯罪、売春・買春、自殺・自傷、人身売買 |
| 言語・思想関連表現 | 言語関連の不適切な描写、思想関連の不適切な描写 |
※社会情勢の変化(外務省の渡航中止勧告や国際情勢等)に応じて、新たに禁止事項が追加決定される場合がある。
4. 国内向けローカライズにおける修正実例と課題
海外で開発された過激な表現を含むタイトルを日本国内で発売する際、CEROの審査基準を満たすための表現変更(ローカライズ修正)が行われる。
4.1 『サイバーパンク 2077』日本語版の規制内容
CD PROJEKT REDが発表したPS4/Xbox One日本語版『サイバーパンク 2077』では、北米版と比較してCERO禁止表現基準に基づく以下の修正が実施された。
- 裸体表現の制限: 登場する裸体の男性・女性キャラクターに対し、下着を着用した状態へ変更。主人公のキャラクター作成画面においても同様に下着が着用される。
- 性的表現の変更: 作中の性描写を変更。また、退廃的な世界観を表現する街中の看板の落書きやオブジェクトに含まれる性的表現も修正された。単なる黒塗りではなく、ゲームの雰囲気を損なわないよう「表現の一部が破損して見えない」ような加工が施された。
- 分離欠損・内臓露出表現の修正: 人体分離欠損描写そのものは海外版と同様に維持されるが、露出する内臓表現や分離欠損した切断面を「黒く塗る」などの変更が加えられた。
4.2 トラブル事例:未審査版の流通問題
2020年11月10日にユービーアイソフトから発売された『アサシン クリード ヴァルハラ』では、Z区分として販売されたものの、CEROへの審査提出時に含まれていなかった禁止表現が製品版に混入していることが発覚した。このように審査プロセスと実際の製品データに乖離が生じた場合、ユーザーが意図せず禁止表現に触れてしまうリスクや、メーカー側が対応に追われるトラブルに発展することがある。
4.3 海外ゲームの日本国内発売への影響
日本国内で販売されるすべてのゲームソフト(海外製含む)はCERO審査を受けなければならない。CEROの審査基準を通過できない場合、全プラットフォームにおいて国内発売が中止となり、予約者への返金対応が実施されるケースも存在する。
5. 流通・自治体・小売店舗における対応と課題
5.1 CEROと自主規制・行政規制の関係
CEROは表現内容の「審査・分類機関」であり、法的・直接的に製品の販売規制を行う権限は持たない。実際の流通規制や法的手続きは以下の組織・規定によって行われる。
- CESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会): CEROの審査結果に基づき、流通業界と連携して販売自主規制を実施する。
- 自治体による条例・有害指定:
- 神奈川県: 県の条例により、CERO Z該当ソフトを青少年に販売しないよう努める義務を定めている。
- 静岡県: CERO Z該当ソフトを有害図書類に認定し、青少年への販売・貸付等を禁じている。
5.2 小売事業者による自主的な販売中止(ノジマの事例)
家電量販店大手の株式会社ノジマは、店舗を訪れる全利用客が安心・安全に買い物できる環境を確保するため、2023年4月1日より実店舗における「CERO Z」対象ゲームソフトの販売を全面中止した(ノジマオンラインにおいても準備が整い次第中止)。
CERO Z作品には身体の分離欠損などのショッキングな描写が含まれているため、店頭での購入や大画面テレビでのプレイ時に間接的に子どもの視界に入る危険性などが考慮された結果である。
結論および展望
CEROレーティング制度は、単なる「エログロ規制」の枠組みにとどまらず、差別・人権侵害表現の防止、過度な反社会行為の制限、さらには法的規制からゲーム業界全体の表現の自由を守るための「防波堤」として機能している。
ゲームの表現技術やAIが高度化し、実写との境界が曖昧になる現代において、社会の倫理水準と表現の自由のバランスをどのように保つかが引き続き重要な課題となる。ユーザーや保護者はパッケージに示されたレーティングマークおよびコンテンツアイコンを正しく認識・活用することが求められている。
感想
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サマリー
家庭用ゲームの年齢区分、とくにCERO Zでも表現が制限される理由を、『サイバーパンク2077』日本版の変更を例に考える。日本版では裸体が下着着用になり、性的なオブジェクトや人体の切断面も修正された。CEROは自治体による規制を避けるため業界が設けた仕組みで、一般市民の審査員や地域条例とも関わっている。家庭のリビングで不特定の人が画面を見る可能性、映像の高精細化による悪用、差別表現の禁止などが、Z指定でも規制が残る理由として説明される。さらに『アサシン・クリード・ヴァルハラ』の事例や、将来のフルダイブVRで心理的影響を審査する可能性にも話が及ぶ。
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