そんなわけで、いくら拡大しても画素が見えない画像が必要になるんです。
そんなことって可能なんでしょうか。
デジタル写真ならば、拡大には上限があります。
そのためにできるだけ画素数の多いデジカメで撮影しておくことになるんですね。
しかしデジタルのイラスト、そして究極のイラストともいえる文字ならば、
無限に拡大できる画像を作ることができます。
そういった画像をベクター画像と言います。
ベクター画像とは、数式で描かれた曲線を重ね書きしたものです。
アドビのイラストレーターというソフトウェア、そしてマイクロソフトのパワーポイントといったソフトウェアは、
ベクター画像をお絵かきするソフトウェアです。
私いられ使ってるけど数式なんて書いてないもん。
って思いますよね。いや思ってください。その通りなんです。
ソフトウェアが絵かきさんの代わりに数式を書いてくれているんです。
高校数学で関数とグラフを習ったことを覚えていらっしゃる方、おられるんじゃないでしょうか。
まさにこの数学が使われているんです。
アドビイラストレーターの開発者は、関数とグラフをマックの箱の中に隠すことによって、
誰でも数式を書くことができるようにしました。
こうして描かれたベクター画像のファイル形式の一つがPDFなんです。
PDFは写真も貼り込めるように、ラスター画像も扱えるように設計されています。
steam.fmのリスナーの皆さんの中には、グラフィックデザインのお仕事をされている方もおられると思います。
アドビイラストレーターでポスターをデザインして印刷書に入稿して、
なんで入稿後にミスに気付くんや、という経験も一度ならず終わりだと思います。
というか、僕はしょっちゅうあります。
また時に印刷書から電話がかかってくることもあると思うんですね。
お客様、フォントがアウトライン化されていないようですが、と言われたり。
イラストレーターはあなたが描いた曲線を数式に置き換えてPDFファイルに埋め込みます。
しかし文字に関しては文字コードのままにしておきます。
というのも文字の形を数式に置き換えてしまうと、おはや文字ではなく模様になってしまうからなんですね。
文字は文字のままでないと文章を編集したり検索したりするのに不便です。
文字を模様にしてしまうと、一文字挿入するたびに模様を全部ずらすことになるのでやってられないわけですよね。
しかし文字が文字のままだと印刷書は困ります。
デザイナーの手持ちの文字の字形、つまりフォントと印刷書が持っているフォントが一致しないことがあるからです。
これ似てるから永遠では済まされないんですね。
絶対フォント感といって、フォントを見た瞬間にこれ何々フォントですねっていう風に見抜けるデザイナーさんは結構多くてですね。
似て非なる字形というのは一瞬でバレちゃうばかりかすごく気持ち悪い状態になるんですね。
そこで印刷書はデザイナーに文字を全部イラストにしてしまってくれ、つまり字形を数式にしておいてくれと頼むんです。
これをフォントのアウトライン化と呼びます。
イラストになった字形も数式で表現されていますから、いくらでも拡大できて便利なんです。
ところで事務書類に関して言うと、マイクロソフトワードでやり取りすることが多いのではないでしょうか。
各有僕も毎日ワードでカタカタと文章を書いています。
議事録程度の文章ならばわざわざワードで書かなくてもメール本文で良さそうなものだなぁと僕なんかは思うんですが、
特にお役所関係はひょっとしたら印刷保存する関係なのでしょうか。
ワードで清書してくれなんて言われることが多いです。
メール本文でいいやんなんてね、僕は思っちゃうんですが、
一太郎でお願いしますって言われないだけ、死になったのかもしれません。
それに最近はワードファイルではなくPDFファイルを最終成果物とするケースが多くなってきました。
ワードではなくPDFにする理由として、一つは簡単に編集ができないことが挙げられるんじゃないでしょうか。
PDFだって電子ファイルなのですから編集はできるんですが、
送り先によってはワードほどカジュアルには編集できないということが理由になっています。
そしてもう一つ、PDFは最初から紙への印刷を考慮したファイル形式のため、
レイアウト崩れがあまりないという点も挙げられます。
いやワードのレイアウト崩れ問題、今21世紀ですよ、21世紀なのにまだ続いているんです。
ちょっと話それますが、我々TEDxオーガナイザーはスピーカーの方に契約書をお送りするんですが、
これアメリカで作られたワードファイルで日本で印刷するとレイアウト崩れるんですよ。
これアメリカ側がA4サイズを使ってないっていう理由もあるんですが、
そこは余白とかうまいこと調整して印刷してよと思うんですが、ワードはダメなんですね。
話を戻しますね。
PDFはもともとラスター画像のファイル形式であるため、
基本画像の大崩れというものはありません。
もちろんフォントをアウトライン化しておけばまず崩れることはありません。
というわけで送信先が再編集しないのであれば、
ワードよりもPDFにしておいた方が安心ということなんですね。
PDFファイル形式はAdobe社が開発したもう一つのファイル形式、ポストスクリプトから派生しています。
PDFのデビューが1993年、ポストスクリプトのデビューが1985年ですから、
ポストスクリプトの方が随分と先輩ということになります。
実際1990年代ごろまではベクター画像をそのまま印刷できる実用的なプリンターといえば、
ポストスクリプトプリンターだけでした。
具体的な製品名を挙げるとAppleのレーザーライターですね。
当時の一般的なラスター画像を印刷するプリンターに比べると、
ベクター画像を印刷できるプリンターの出力はとっても美しかったんです。
また、スティーブ・ジョブズが開発指揮を取ったNext Computerは、
プリンターだけではなく、ディスプレイもポストスクリプトを使ったベクター画像で表示していました。
ここまで来ると狂気の美意識と呼んでも差し支えないでしょう。
そんな良いこと尽くしに見えるポストスクリプトですが、実はある欠点を持っていました。
いや、欠点ではなく利点だったのですが、ファイル形式としては厳しかったんですね。
それはポストスクリプトが完全なるプログラミング言語であるということです。
そうなんです。JavaとかPythonとかと同じプログラミング言語の一種だったんです。
そのため、ポストスクリプトプリンターというのは独立したコンピューターでもありました。
また余談にそれますが、僕はこのポストスクリプトプリンターの中のOSを開発していたことがあるので、よく知っています。
そしてポストスクリプトがプログラムであるということは、これは暴走する可能性があるとも言えるわけですね。
プログラムが必ず停止するかどうかは事前には分かりません。
これは数学定理です。
ということはポストスクリプトがレクター画像を描き始めた時、確実に描き終わる保証がないんです。
そんな馬鹿なぁと思われるかもしれませんが、ポストスクリプトの開発者、
アドビ共同創業者のジョン・ワーノック博士は、それでもポストスクリプトに最大の柔軟性を持たせるために、
完全なるプログラミング言語としてポストスクリプトを設計しました。
一方、ポストスクリプトを元に作られたPDFは、プログラミング言語としての機能が剥ぎ取られています。
その代わり、ポストスクリプトよりも高速にかつ確実に一枚の紙を印刷し終えるように再設計されました。
スティーブ・ジョブスがAppleに復帰した時に、彼はPDFを元にしたQuartzという表示システムをMacに搭載させました。
Quartzはレクター画像を描画するシステムで、後にiPhoneやiPadにも移植されました。
Apple製コンピューターの画面が少しきれいに見えるのは、ジョン・ワーノック博士の設計とスティーブ・ジョブスの執念の結果なんです。
今年2023年8月19日、ジョン・ワーノック博士は82歳で亡くなりました。
彼の功績をしのんで、その本の一部、ポストスクリプトとPDFについてご紹介をさせていただきました。
というわけで、このエピソードではPDFファイルの秘密について、その一端をご紹介させていただきました。
単に文字がきれいに印刷できる電子ファイル形式というわけではなくて、その背後には数学とグラフというメカニズムが働いているわけでした。
この文字やイラストで使われる曲線を数式で表そうという考え方自体は、実はPDFやポストスクリプト以前からあります。
僕が知る限りでは、スタンフォード大学のドナルド・クヌース博士のメタフォントというプログラムが最初ではないかと思うのですが、もし間違っていたらごめんなさい。
ドナルド・クヌース博士は数学者でもいらっしゃるので、関数とグラフということがすっと頭から出てきたのではないかと思います。
ただ当時はプリンター側で数式を解くということが考えられない時代でしたので、文字に関してはプリンター側にもラスター画像を持っていて、その文字をはめ込んで印刷するということが考えられていました。
後にクヌース博士は日本の印刷技術を見て大変感銘を受けられて、もし私が日本にいたならこういったシステムは開発しなかっただろうとまで言われています。
クヌース博士も印刷技術には大変なこだわりがあって、美絵の執念と数式を使うという直感力、そしてそれをプログラムに起こすという技術力、すべてを持っていた方なのですが、
それがジョン・ワーノック博士、そしてスティーブ・ジョブズのペアに受け継がれていったというふうに見ることもできるのではないでしょうか。
このエピソードでは、そういったApple製コンピューターの画面がきれいに見えるという話をさせていただいたのですが、
Windowsはどうなのというと、Windowsも確かVistaのあたりから、このApple、そしてAdobeの戦略を真似てですね、画面をつるつるにしようとはしています。
おそらくは特許を回避するためなのか、一部はアップル、そしてAdobeからライセンスを受けていますが、一部は独自開発したようで、少し違うんですね。
使っているメカニズムが少し違います。
その結果ですね、絶対フォント感を持っていらっしゃるようなグラフィックデザイナーから見ると、Windowsの画面は若干Macには劣るかなというところだと思います。
Adobe製品、Windows版イラストレーターであるとか、Windows版インデザインはAdobeのエンジンを使っているので、これはMacとほぼ変わらないのですが、
ワード文章とかPowerPointなんかは同じファイルでもMacで開くときれいに見えたりとかします。
ここら辺は何とか統一してほしいなと思うところです。
それゆえPDFが生まれたというふうに考えると、それはそれで良かったのかもしれませんけれどもね。
番組最後にリスナーの方、ご興味があるのかどうか分かりませんが、緊急報告でございます。
大きなイベントTEDxデジマEDを終了しまして、いろいろ個人的にはリブートの時期に差し掛かっています。
久しぶりに電子回路の設計も再開しまして、これは印刷所ではなくて工場にCADファイルを入稿して製造してもらうんですが、
これもですね、入稿した途端にミスに気付くんですね。
人間どうしてこんなメカニズムになっているんでしょうか。
なんてことをお話し始めたら時間になってしまいました。
steam.fmのイチでした。
ではまた次週お目にかかりましょう。
また次の動画でお会いしましょう。
次の動画でお会いしましょう。