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改めましていちです。このエピソードは2022年の4月26日に収録しています。
このエピソードではバックナンバー13号、14号から
「くたばれゲーテ」の色彩論をお届けいたします。
どうぞお楽しみください。
Wikipediaで「Johann Wolfgang von Goethe」を引くと、
ドイツの詩人、劇作家、小説家、自然科学者、政治家、法律家と出てきます。
極めて多彩な人ですね。
欧州ではこのような多彩な人を「ポリマス」と呼びます。
代表的なポリマスは別名ルネッサンスの人と呼ばれたレオナルド・ダ・ヴィンチ、
古代アレクサンドリアのエラトステネス、
同じくアレクサンドリアの女性ヒュパティア、そしてゲーテでしょうか。
なおエラトステネスはあらゆる学問に精通していましたが、
いずれの学問においても二番手であったことから「β」とあだなされています。
世界で初めて地球の大きさを測った学者に対して、βはちょっとかわいそうな気がしますね。
日本だと平賀元内がポリマスの有志学者でしょう。
同じくwikipediaを引くと、彼は本造学者、地質学者、乱学者、医者、
植産事業家、偽作者、ジョール理作者、廃人、乱画家、そして発明家とありますが、
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実際にはそれ以上だったかもしれません。
さて、ゲーテの代表的な業績はやはり、技局ファウストでしょうか。
主人公ファウスト博士は、自身の幸福の引き換えに魂を売り渡す取引を、悪魔メフィストフェレスとします。
森鴎外役のファウストは鴎外の高い後、100年経っていますので、
日本では著作権フリーになっており、無料で読むことができます。
明治時代の文体だから読みにくいかと思いきや、意外と現代文と変わらず読むことができます。
いやあ、明治の文豪は素晴らしいですよね。
明治の文豪たちが、現代の日本語を作ったからですよね。
しかし、いくら文が読みやすいからといって、内容が頭に入るかどうかは別なようです。
どうもゲーテの思考の道筋は僕の頭が受け付けないようで、ファウストは無理でした。
なんでもファウスト博士僕の聞きかじった情報によると、
ギリシャ神話に出てくる絶世の美女、トロイア戦争の引き金となったスパルタ王の妻、ヘレネを蘇らせて結婚してしまうそうなので、
まあ、ギリシャ神話ファンとしていずれまた挑戦してみたいと思います。
そんな詩人ゲーテですが、人生をかけた大作はファウストだけではありませんでした。
彼が20年をかけて書き上げた大著に、色彩論という書物があります。
これがもう科学的にはめちゃくちゃな内容なのですが、
何せ書いたのが偉大なるゲーテなので、それなりの影響力を持ってしまったんです。
ゲーテの色彩論は、当時知られていた、そして科学者コミュニティで受け入れられていた、
ニュートンの色彩に関する理論を徹底的に批判するものでした。
うがった見方をすると、イギリス人ニュートンの作った色彩論を受け入れるなど我慢ならなかったのかもしれません。
約100年後にはドイツのアルベルト・アインシュタインが一般相対性理論を発表して、ニュートンの重力理論をひっくり返しますが、
イギリス人科学者たちは、内心アルベルトの説の正しさを信じつつも、
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ドイツ野郎に我が国のニュートンの正しさを知らしめてやるという口実で政府から許可を取り、
戦時中にも関わらず天体観測へ出かけています。
このようにゲイテが徹底的に批判したニュートンの色彩論とはどのようなものだったのでしょうか。
その前に、現代の色彩に関する理論を整理しておきましょう。
色彩は身近な感覚のため、誰しもが一言言いたくなるのかもしれません。
日頃から色彩を操る芸術家はもちろん、著名な物理学者も色彩論を述べています。
むしろ色彩だけの専門家を見つけることは難しいでしょう。
そんな中でも科学的な色彩論となると、イギリスのアイザック・ニュートンによる光学、
これは光学という風に書くんですけれども、この光学1704年の本が決定的な地位を保っています。
色彩とは何でしょうか。我々は光に色がついているように見えます。
木々の葉っぱは太陽からの白い光を受けて、緑色の光を反射しているように見えます。
ステンドグラスはやはり太陽の白い光を透過して、青色や赤色の光を我々の目に届けているように見えます。
しかしそれは我々の感覚であって、光に色はありません。
そもそも光とは何でしょうか。
簡単に言うと、フォトンという粒子の一種が飛んでいくことを我々は光と呼んでいます。
フォトンには重さがなく、化学反応もしないのですが、
エネルギーを持っていて、遠くまでエネルギーや情報を伝えることができます。
どのぐらい遠くまで届くかというと、なんと宇宙の最果てまで飛んでいけるんです。
ニュートンはおおよその値しか知りませんでしたが、
フォトンの速度は秒速30万kmで、月から地球に到着するのに約1.3秒、
太陽から地球に到達するのに約8分20秒かかります。
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我々がシリウスを見たとき、シリウスを8.6年前に旅立ったフォトンが目に飛び込んできているのです。
なので今この瞬間にシリウスが蒸発しても、我々がそれを知るのは8.6年後ということになります。
そしてフォトンが持つエネルギーを我々の目は色として感知するんです。
エネルギーはジュールという単位を使うことが国際的に推奨されていますが、
日本ではカロリーが使われていたり、小大国アメリカではTNT換算がよく使われていたりします。
フォトンに限ってはHzという周波数の単位を使うことが一般的です。
一つ一つのフォトンはブルブル震えているんですが、
1秒間に震える回数、つまり周波数とフォトンのエネルギーは性比例の関係にあるので、
周波数で測ることができるんです。
例えば我々には赤に見えるフォトンは400テラヘルツ前後の周波数を持っています。
一方、青紫に見えるフォトンは780テラヘルツ前後の周波数を持っています。
赤と青紫の中間、400テラヘルツと780テラヘルツの中間、
虹で言えば橙、黄、緑、青といった色は、赤と青紫の中ほどの周波数を持ったフォトンが目に飛び込んできたときに見える色です。
500テラヘルツのフォトンは橙色に、600テラヘルツのフォトンは緑色に、
650テラヘルツのフォトンは青色に見えます。
光、フォトンに関して知っておくべきことは大体このぐらいなのですが、色彩を理解するにはもう少し知識が必要です。
我々の目は複数のフォトンを同時に受け取ったときに、それらを一緒に知覚してしまうんですね。
赤だけ、青だけといった単色のフォトンがいくら目に飛び込んでも特に問題はないのですが、
自然界のフォトンはまず間違いなく様々な周波数のものが混ぜ合わされています。
特筆すべきは太陽光で、これはもうありとあらゆる周波数のフォトンが一つのパッケージに入っています。
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そのような、いわばフォトンの詰め合わせを我々の目は白というふうに見ます。
この白を分解したり合成したりしたのが17世紀から18世紀のイギリスの物理学者、アイザック・ニュートンでした。
ニュートンは光が粒子からなると直感していました。
光の正体がフォトンであることが知られたのは20世紀なのですが、彼はいくつかの状況証拠から直感を得たんでしょうね。
ニュートン式望遠鏡と呼ばれる鏡を使った望遠鏡を設計しているところから、光の反射を見てヒントを得たのかもしれません。
テストの流行で実家に疎開していたニュートンは窓の扉に小さな穴を開けて、そこから実質に太陽光を導き入れました。
そしてその太陽光をプリズムに通して虹を作り出しました。
ニュートンはこの虹を今度は突レンズを使って一つに集光してみました。
そうすると光はまた元の白色に戻りました。
ニュートンはプリズムから出てくる虹を部分的に覆い隠すことで、自由に色を混ぜる実験をしてみました。
つまりフォトン詰め合わせを色々作ってみたんですね。
例えば虹から赤だけを取り除いたらどうなるだろう。
青紫だけを取り除いたらどうなるだろう。
その結果は興味深いものでした。
ニュートンは赤、緑、青紫の3つだけを残せば、完全な白色に戻ることを発見したのです。
また赤と緑を混ぜると黄色になることも発見しました。
他の組み合わせだと、例えば赤と青紫を混ぜると赤紫、マジェンタ色。
緑と青紫を混ぜると青緑、シアン色になります。
ニュートンはこれらの実験の結果から光に色があるのではなく、我々の目が光に着色しているのだと考えました。
これは光に色はないという格言として伝えられています。
どうもニュートン本人はそのようには言わなかったようなのですが、本質をついた言葉です。
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そしてニュートンは、白を合成できる3つの色、赤、緑、青紫、この3つが人間の目が持つ3種類の原色だと突き止めました。
青紫はしばしば青と省略されますね。赤、緑、青の3色の光線があれば、ありとあらゆる色を合成できるんです。
特に黄色が合成できること、あるいは同じことですが分解できることは当時の画家たちの間ではショッキングなことでした。
ニュートンは彼の本光学光学をラテン語ではなく英語で書いたので、一般の読者も読むことができたんですね。
ここらへんガリレオが天文対話をラテン語ではなくイタリア語で書いたのとも似ていますね。
ニュートンの理屈をまとめるとこうなります。
人間の目は主に赤に反応する部分と、主に緑に反応する部分と、主に青に反応する部分の3つからなる。
白色光線には赤、緑、青が含まれているので、目のすべての部分が反応する。
一方、赤と緑を混ぜた光は赤部分と緑部分を反応させて、どういうわけか人間に黄色という色を見せる。
もう一つニュートンは重要な発見をしています。
プリズムから作り出した混じり気なしの黄色もまた目の赤部分と緑部分を反応させるんです。
その結果人間に黄色を見せます。
これは先ほどの赤緑混ぜ合わせと区別がつきません。
こういったことをニュートンは発見したわけですね。
人間の目に光需要気があることが発見されたのは19世紀になってからで、
三原色、すなわち赤、緑、青に対応する死細胞が見つかったのは20世紀に入ってからでした。
ニュートンがもし生きていれば、やっぱりね、といったことでしょう。
しかしニュートンの理論は当時の画家たちにとっては直感に反することばかりだったんですね。
そこに噛み付いたのがゲーテだったんです。
ニュートンは闇を単に光がない状態としました。
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一方ゲーテは光と闇を二つの基本要素だとしました。
そして光と闇の相互作用によって色彩が生まれるとしました。
ここでゲーテの光とはニュートンのいう白色光のことです。
ゲーテは紙に描かれた白と黒の境目をレンズを通してよく観察してみました。
そうすると白の境目には黄色が、黒の境目には青が見えました。
黄色と青の中間には橙、赤、紫が見えました。
ゲーテは黄色は白、つまり光から滲み出したもの、青は黒、つまり闇から滲み出したものと解釈しました。
現在ではゲーテが見た色はレンズの色臭さとして説明がつきます。
レンズの色臭さとはレンズが光の向きを曲げるときに光の周波数、つまり色によって曲がり具合が異なる現象で、
結果としてレンズを通してものを見ると本来見えない色が見えてしまう現象です。
このレンズの色臭さですがゲーテの時代、元坂昇ってニュートンの時代にもすでに知られていました。
ニュートンは事実このレンズの色臭さを避けるためにレンズの代わりに方面鏡を使うニュートン式望遠鏡を発明しているんですね。
ところがゲーテはこの色臭さのことを知っていたのか知らなかったのか、ともかく自分自身が見た色を元に理論を組み上げていきます。
まず色彩を生み出すものとして光と闇があります。
光から黄色が生まれ、闇から青が生まれます。
そして光と闇の中央にレンズを通してみると赤があったので、この3つ、青、赤、黄色を光の三原色としました。
青、黄色、赤、なんとなく我々の直感に合う組み合わせですね。
ゲーテは円を1/3に分けてそれぞれの頂点にこの三原色を絵の具で配置してみました。
青と黄色の間には両方の絵の具を混ぜてできる色、すなわち緑を置きました。
ゲーテは光と闇がまずあってその対立から黄色、赤、青が生まれるとしました。
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そしてそれらを混ぜ合わせることで他の色、例えば緑や紫が生まれるとしたんです。
そこまでならまだ良かったんですが、ゲーテはニュートンの考えた色彩に関する理論は大間違いだと批判を加えました。
ゲーテはニュートンに対して「実験が稚拙」「錬金術の時代の秘密癖」「実験用具が愚劣」と散々な書き方をしています。
そもそもニュートンが壁の穴から光を導いたこと、それ自体もゲーテは気に入らないとしました。
そんな極端な条件で自然現象が理解できるのかと批判したんです。
実際には自然科学の実験というのは極限までノイズを減らすためにニュートンがやったように小さな穴から自然現象を観察するということをよくやるのですが、ゲーテはそんなものは自然じゃないと反論したわけですね。
少しだけゲーテに同情するならば、当時のヨーロッパではニュートンが嫌疑者であって、ゲーテは嫌疑を疑うという意味においては科学的にマットな態度を取ったことでしょうか。
現在ではゲーテも嫌疑者になってしまって、逆に美術学校なんかでゲーテの色彩論が間違って教えられているといったこともあります。
これはゲーテが望んだことだったのかどうか、僕にはよくわかりません。
それにしてもゲーテの色彩論が後世への影響を強く与えすぎたために、僕はあえてニュースレターの中であるいはこのポッドキャストで「くたばれゲーテの色彩論」というふうに強いタイトルをつけているわけですね。
メールでお送りしているニュースレター、スティームニュースの方では、第13号と第14号の2回にわたってゲーテの色彩論を批判しています。
無料で読めますので、ご興味のある方はぜひバックナンバーを遡って見ていただければと思います。
ニュースレターの方は写真や豊富なイラストも一緒に掲載していますので、ぜひお楽しみいただければと思います。
今回も最後までお聞きいただきありがとうございました。どうか素敵な一日をお過ごしください。
イチでした。
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