作品の紹介と背景
- こんにちは。今回は、リスナーの方から頂いたメッセージがありまして、それをもとに、ちょっと注目のSFマンガを掘り下げていきたいなと。
- お、いいですね。どんな作品ですか?
- 黒石郎さんの『リバイアサン』です。ジャンプコミックスから全3巻で、2022年から23年にかけて出た作品ですね。
- あー、リバイアサン。黒石郎さん。ペンネームはもう特徴的ですけど、シドニアの騎士の二平綿さん。
- そうなんです。
- 二平さんの元アシスタントさんなんですよね?
- えー、その経歴もあって、やっぱりちょっと作風に通じるものがあるのかなんていうのも気になるところで。
- うーん、確かに。
- しかもですね、このリバイアサン、まずフランスで出版されて、それですごく人気が出た後に、日本にいわゆる逆輸入されたっていう。
- それは面白い経緯ですね。
- ちょっと変わった経歴を持ってるんですよ。メッセージにもその驚きが書かれてて。
- なるほど。
- じゃあ一体どんな作品なのか、早速見ていきましょうか。
- はい、お願いします。
- まずやっぱり一番驚くのは、その出版の経緯ですよね。
- へえへえ。
- 日本より先にフランスで出版されて、しかも現地の漫画ランキングでトップ10に入るほどの人気?
- 日本発の漫画なのに、なんで先に海外で?って思いますよね。
- そうですね。これはグローバル化する漫画市場の、なんか一つの現象と言えるかもしれないですね。
- ああ。
- あの、国内だともしかしたらちょっとマニアックかなって見られるような作風が、
- 違う文化圏、特にフランスみたいに、バンドデシネ、BDの文化が根付いてるところで、すごく支持されたと。
- なるほど。BD文化ですか。
- ええ。その背景には、あっぷり後でも触れると思いますけど、アートスタイル。これが大きいんじゃないかなと。
- アートスタイル?ああ、確かに。メッセージにもありました。
- 日本の一般的な漫画とは一線を画くしていて、線の数がすごく多くて、なんか絵の画語りみたいだって。
- うん。
- 画面の情報量が非常に濃いとも書かれてましたね。確かに独特ですよね、あの絵は。
- ええ。その濃密さですよね。それがもしかしたらフランスの読者にはすごく新鮮で魅力的に見えたのかもしれない。
- ふむふむ。
- かつて宮崎秀さんとか大友活用にも影響を与えたって言われているフランスの巨匠のメビウス、ジャン・ジローですけど。
- ああ、メビウス。
- ええ。あのタッチに通じるものを感じた人ももしかしたらいるのかなと。
- なるほどね。
- 日本だとちょっと好みは分かれるかもしれないですけど、雰囲気としては諸星大二郎さんの生物都市みたいな。
- ああ、なるほど。あの濃密でちょっと異様な感じ。
- そうそう、そういう世界観ですよね。引き込まれる感じはあります。
- 言われてみれば確かに線の使い方とか空間の描き方とかヨーロッパのコミックアートっぽい雰囲気もあるかもしれないですね。
- ええ。じゃあその独特なアートで描かれる物語の世界観、これはどんな感じなんですか?
物語の舞台はですね、修学旅行中に喪失をやっちゃった巨大な宇宙船リヴァイアさんなんです。
- 宇宙船、はい。
- で、それから数十年経って半壊状態の船内に、まあトウコツイやトレジャーハンターみたいな人が侵入するんですね。
- ふむ。
- で、そこで偶然一冊の日誌を見つけるんですよ。
- 日誌ですか?
- ええ。その日誌を読み解いていくことで、過去船の中で何が起こったのか、そしてもしかしたらたった一人生存者がいるかもしれない、その可能性を探っていくっていう、そういう構造になってます。
- ああ、過去の出来事が日誌を通して分かっていくんですね。
- そうなんです。で、その日誌に描かれているのが、もう閉鎖された宇宙船の中っていう極限状況で、特に酸素、この限られた資源をめぐって、生き残りをかけた争いが起こるっていう、これはもうSFの王道というか、法定式ものというか、
- 緊迫感ありますね。
- 言いようなく高まりますよね。あの、設定としては梅塚蔵さんの漂流教室みたいな。
- ああ、はいはい。
- 突然極限状態に放り込まれた子供たちみたいな、そういうドラマでもあるんです。
- ただその漂流教室とか、あと萩尾本さんの11人いるみたいに、みんなで協力して困難に立ち向かうっていうのとは、ちょっと違うんですよね。
- そうなんですよ。
- メッセージによると、酸素を奪い合うために、生徒同士が殺し合いにまでなっちゃうとか。
- ええ、そこが結構ハードで、あのバトルロワイヤルとか、もっと古典で言うと灰の王みたいな。
- 人間のこう、暗い部分というか残酷さとか、集団心理の恐ろしさみたいなものをかなりえぐり出してくる展開が待ち受けてますね。
- それはかなりヘビーですね。でもメッセージを送ってくれた方は、毒語感はそれらの作品ほど後味が悪くなくて、少しだけ優しさが残る感じがしたとも書いてましたけど。
- ああ、なるほど。
- そのバランスがもしかして絶妙なんですかね。
- そこがこの作品の妙というか独自性かもしれないですね。極限状況でのその非常さみたいなものを描きつつも、どこかに救いというか人間性の何か、かすかな光みたいなものを感じさせる部分がある。
作品の評価と今後の展望
- ふむふむ。
- 単なるディストーピアものっていうだけでもない、作者ならではの視点があるんでしょうね。まああんまり言うとネタバレになっちゃうんであれですけど、その少しの優しさっていうのが毒語感につながっているのかもしれないですね。
- なるほどなあ。それでこの作品、もともとは同人誌だったっていうのもまた驚きで。
- そうなんですよね。
- それがフランスの出版社にいわば発見されて商業出版されて、で日本に逆輸入されるっていう、なんか本当にシンデレラストーリーみたいですよね。
- いや本当に。この事例が示しているのってやっぱり才能が発見されるルートっていうのがもう劇的に多様化してるってことでしょうね。
- 昔だったらもしかしたら埋もれてたかもしれない、こういうちょっと尖った才能がインターネットとか国際的なコミックイベントとかそういうのを通じて国境を越えて満たされる。
- 日本国内のその既存の枠組みだけが全てじゃないんだぞっていう。これは作り手にとっても我々みたいな読者にとってもすごくエキサイティングな時代の到来なんじゃないかなって思いますね。
- いやー面白いですね。というわけで今回は黒井博さんのSF漫画リヴァイアさん、リスナーのあなたからいただいたメッセージをきっかけに深掘りしてきました。
- ええ。
- この異色の手術と独特なアート、そして過酷なんだけどもどこか希望も感じさせるような物語、これはちょっとチェックしてみる価値大いにありそうですね。
- そうですね。こういう作品に出会うとなんかまだ世界には私たちの知らないユニークな才能とか物語がいっぱい眠ってるんだなって感じますよね。
- うん。
- その国境とか既存の評価軸とかを越えて次にどんな発見が私たちを待ってるのか、そう考えるとこれからの創作の世界ってますます面白くなりそうだなって思いますね。
- いやー本当に。
- あなたが次に発見する異色の作品は一体どんなものでしょうか。
- 次回の配信もお楽しみに。
- さようならー。
- さようならー。