1. 小島ちひりのプリズム劇場
  2. #019 仕返しをし損ねた人
2024-06-15 06:27

#019 仕返しをし損ねた人

仕返しをしなかったことを後悔することもあるでしょう。

脚本・出演:小島ちひり
収録・編集:三木大樹(有限会社ブリーズ)

noteに本文を掲載中。
https://note.com/child_skylark

◇小島ちひり
7歳より詩を書き始める。
大学・大学院で現代詩を中心に近現代文学を学ぶ。
2013年 戯曲を書き始める。
2016年 つきかげ座を旗揚げ。3公演全ての作・演出を手がける。
2023年 プリズム劇場を配信開始。
日常の中の感情の動きを繊細に表現することを得意とする。
現在は表現の幅を広げるべく社会に潜伏中。

【X(旧Twitter)】
https://twitter.com/child_skylark
【note】
https://note.com/child_skylark
【Instagram】
https://www.instagram.com/child_skylark
【threads】
https://www.threads.net/@child_skylark
【戯曲アーカイブ】
https://playtextdigitalarchive.com/author/detail/360
【観劇三昧】
https://kan-geki.com/theatre/site/k7opwjrge5ne02y6

#ラジオドラマ #朗読 #物語 #シナリオ #脚本
---
stand.fmでは、この放送にいいね・コメント・レター送信ができます。
https://stand.fm/channels/647871ce590eb774d1da4879

サマリー

40歳前後の男性が入禅町役場から西谷さんへの手紙を受け取る。手紙には西谷さんの父が亡くなったことが伝えられ、西谷さんは家族や社会に迷惑をかけた父に対して複雑な感情を抱いています。最後に、西谷さんは東京に戻り、復讐のために男たちに酒を注ぎながら生きていくと決意しています。

00:01
小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。
プリズムを通した光のように、さまざまな人がいることをテーマにお送りいたします。
じゃあママ、今までお世話になりました。
リョーコはうやうやしく頭を下げると、大きな荷物を背負って出ていった。
リョーコがここに転がり込んできたのは、もう6年も前のことだ。
えっ、リョーコちゃん辞めちゃったの?
常連のタカノさんが声を上げる。
喜ばしいことよ。こんな仕事長く続けるもんじゃない。
でもリョーコちゃんは長かったじゃない。てっきりママの後月かと思ってたのに。
何言ってんの。私まだまだ辞めるつもりないんだから。
そう、夜の仕事なんて長く続けるもんじゃない。
一時的にいることになったとしても、お金が貯まったり、何かの目標が達成できたなら、出て行ったほうがいい。
ママはさ、優しいよね。このお店女の子結構入れ替わるからさ、ママがいじめてるんじゃないかっていう人もいるけどさ、そうじゃないでしょ?
野暮なこと言わないでよ。私は好き嫌いが激しいの。会わない子が勝手に辞めてくだけよ。
またまた。
あれ、タカノさんいらしてたんですか?
バックヤードから出てきたハルカが私の横に立つ。
やあ、ハルカちゃん。今日は遅かったんだね。
そうなんです。でもタカノさんに会えて嬉しい。
もう、ハルカちゃんは上手だな。一曲デュエットするかい?
いいんですか?私とデュエット高いですよ。
高野さんはデレデレしながら、ハルカとカラオケで何を歌うか相談し始めた。
私は店の様子を見渡す。どのテーブルも大きな問題はなく、お客様はみんな楽しそうだ。
西谷さんへの手紙
次の日の午後、仕込みをしようと店に行くと、見覚えのない郵便が届いていた。
入禅町役場と書いてあった。
もしもし、私西谷幸恵と申します。
父、週一の件でお手紙を頂いたのですが、
西谷さん、よかった!連絡がなかったらどうしようかと思ってました。
役場の男の声は40歳前後という感じで、悪意のない素直な印象だった。
宮脇と名乗ったこの男はしみじみとしっかりと言った。
この度はご就職様でした。
父は酒を飲んでは暴れる人だった。
母は父に殴られながら、昼間は市場で肉体労働をした。
私はそんな両親が嫌で、15で家を飛び出し、東京に出た。
それから37年間、男に酒を注いで金を稼いできた。
37年ぶりの故郷は、私の記憶と同じどん天だった。
曇りが多く、青空を見た記憶がほとんどない。
私が着いた時にはもう父は骨になっていて、
先祖代々が入っている墓に入れることになった。
母はとっくの昔に亡くなっていて、父は一人で暮らしていたらしい。
しかし、働くこともままならず、生活保護を受けながら、
この度無事に亡くなったらしい。
家族や社会にこれだけの迷惑をかけながら亡くなったのに、
病院で医者や薬場の人に見守られながら、苦しまずにいったらしい。
父は、私を助けた。
母は、苦しまずにいったらしい。
せっかくなら、孤独の中もがき苦しみながら行ってほしかったのに、
墓の前に呆然と立っていると、住職が声をかけてきた。
娘さんに見送られて、お父様も喜んでいらっしゃるでしょう。
迷惑しかかけられなかったのに、どうして私はわざわざこんなことしてあげたんでしょう。
それは、あなた自身の品格を守ったということでしょう。
品格?私が?水商売の女ですよ。
嫌なことをされたからといって、自分を嫌な人間に落とさないことは、
簡単なようでいて難しいことです。
そうですか?
あなたはご自分の魂の品格を守ったのです。ご自分を責めないでください。
住職は一礼すると、足音を立てずに去っていった。
なぜだか涙が浮かんできた。
これから東京に戻り、私は復讐するように、これからも男たちに酒を注いで生きていく。
いかがでしたでしょうか。
感想はぜひ、ハッシュタグプリズム劇場をつけて、各SNSにご投稿ください。
それでは、あなたの一日が素敵なものでありますように。小島千尋でした。
06:27

コメント

スクロール