1. 小島ちひりのプリズム劇場
  2. #022 定年退職できない人
2024-07-27 06:51

#022 定年退職できない人

人は誰しも「時代の変化」に翻弄されるものではありますが。

脚本・出演:小島ちひり
収録・編集:三木大樹(有限会社ブリーズ)

noteに本文を掲載中。
https://note.com/child_skylark

◇小島ちひり
7歳より詩を書き始める。
大学・大学院で現代詩を中心に近現代文学を学ぶ。
2013年 戯曲を書き始める。
2016年 つきかげ座を旗揚げ。3公演全ての作・演出を手がける。
2023年 プリズム劇場を配信開始。
日常の中の感情の動きを繊細に表現することを得意とする。
現在は表現の幅を広げるべく社会に潜伏中。

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#ラジオドラマ #朗読 #物語 #シナリオ #脚本 #podcast #
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サマリー

このエピソードでは、小島ちひり脚本によるラジオドラマ『小島ちひりのプリズム劇場』が紹介されています。物語は光をテーマにし、主婦の退職についても触れられています。

『小島ちひりのプリズム劇場』紹介
小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。
プリズムを通した光のように、さまざまな人がいることをテーマにお送りいたします。
ほら、たいちゃん、あーんして。
いやー!
たいちゃんは私の持ったスプーンをはじいた。
たいちゃん、なんてことするの!
私が驚いて声を上げると、たいちゃんは泣き始めた。
ママー!
あー、ごめんごめん。大きな声出したバーバが悪かった。
私はたいちゃんを抱きしめようとしたが、たいちゃんはそれをはたこうとして、手が私の顔に当たった。
痛い!
うわー、ママー!
時計をちらりと見る。6時7分。
りなさんが帰ってくるまであと1時間以上もある。
ママはお仕事だからね。バーバとまんましよ。
いやー!
ただいまー。
夫が顔をあからめながら、蒸気券で帰ってきた。
あなた、おかえりなさい。
いやー、たいちゃん、ご飯食べてたの。
いやー!
そっかー、いやかー。じゃあしょうがないな。
あなた、何言ってるの。
嫌なもんは嫌なんだからしょうがないじゃないか。
しょうがなくないわよ。りなさんから頼まれているんだから、しっかり食べさせなくちゃ。
りなちゃんだってわかってくれるよ。たいちゃんはまだ赤ちゃんだよ。
赤ちゃんだからって好き勝手にさせることがいいことではありません。
バーバはうるせーから、じいじいと食べるか。
主婦の退職問題
はー?
夫は私からたいちゃんの器とスプーンを取り上げると、たいちゃんの口元へ差し出した。
たいちゃん、はい、あーん。
先ほどまであんなに嫌がっていたたいちゃんは、きゃっきゃと言いながら夫の差し出したご飯を食べた。
ほーら、じいじいのほうがいいよな。
なんで?
なんでって、お前はカリカリしすぎなんだよ。
そりゃたいちゃんだって怖くて飯どころじゃねーよ。
ちがう。
何が?
子供たちが小さかったころ、あなたは絶対に子供たちにご飯なんてあげなかったのに、どうしてたいちゃんにはあげるの?
は?
子供は母親のほうがいいに決まってる。子供の世話は母親の仕事だって言って、あなた何もしてくれなかったじゃない。
そりゃ時代が変わったんだよ。
それにりなちゃんと違ってお前は専業主婦だったろ?
私はずっとやってる。
何を?
家事と育児を。
そりゃそうだろう。
どうして?
どうしてって、専業主婦なんだから。
あなたはもう定年退職してるのに、どうして私は退職できないの?
どうしてって、主婦は仕事じゃないだろ?
あなたももう働いてないんだから、もうちょっとやってくれてもいいじゃない。
バカ言うなよ。家事なんて簡単なこと、今さらできないって言うのか?
簡単?簡単って言った?
そうだよ。家事なんて誰だってやってるんだから、簡単に決まってるだろう。
ああ、そう。じゃあこれからはあなたが全部やってちょうだい。簡単なんだから。
私が大きな声を出すと、たいちゃんが驚いて泣き始めた。
おい、のりこ。大きな声を出すな。
たいちゃんをあやそうとする夫を見て、とにもかくにも腹が立った。
私は寝室へ行き、最低限の荷物を旅行用のカバンに詰めた。
階段を素早く降りると、ちょうど玄関からしゅんが入ってきた。
ただいま。
って、母さん、どうしたの?
自分たちの面倒は自分たちで見てちょうだい。
は?え?何?何かあったの?
私は戸惑うしゅんを追い越して、家を飛び出した。
まあ、それで飛び出してきちゃったの?
だってひどいと思わない?
子供たちの世話は一切しなかったくせに、孫の世話はしゃしゃり出てくるのよ。
だめよ、そんなことでご主人に腹を立てたら。
たけいさんを許せるっていうの?
さあ、退職する前に亡くなってしまったから。
あ、ごめんなさい。
私が口を閉ざすと、広い居間がしーんと静まり返った。
隣の家のたけいさんは、大きな家に一人で暮らしている。
面積だけで言えば、うちの二倍は理想だ。
ご主人を早くに亡くした上に、少し前に息子さんも亡くなったそうだ。
息子さんには家族がいたようだが、ほとんど見たことがない。
ここに一人でずっといるの?
ほとんど見たことがない。
ここに一人でずっといるのは、気がおかしくならない?
どうして?
だって、あまりに静かだから。
たけいさんは驚いて部屋中を見渡した。
そうね、そう言われれば、息子が東京へ行って初めてこの家で一人になった時、
あまりの静けさに驚いたことがあったわ。
今は?
もう30年以上前の話だもの、慣れちゃった。
そう言うと、たけいさんはお茶を一口飲んだ。
私、もしかしてうるさい?
そう尋ねると、たけいさんはにやりと笑って、
ちょっとね、と言った。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、あなたの一日が素敵なものでありますように。
小島千尋でした。
06:51

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