1. 小島ちひりのプリズム劇場
  2. #020 愛がなくても気にならな..
2024-06-29 07:10

#020 愛がなくても気にならない人

愛がなくても生きていけます。

脚本・出演:小島ちひり
収録・編集:三木大樹(有限会社ブリーズ)

noteに本文を掲載中。
https://note.com/child_skylark

◇小島ちひり
7歳より詩を書き始める。
大学・大学院で現代詩を中心に近現代文学を学ぶ。
2013年 戯曲を書き始める。
2016年 つきかげ座を旗揚げ。3公演全ての作・演出を手がける。
2023年 プリズム劇場を配信開始。
日常の中の感情の動きを繊細に表現することを得意とする。
現在は表現の幅を広げるべく社会に潜伏中。

【X(旧Twitter)】
https://twitter.com/child_skylark
【note】
https://note.com/child_skylark
【Instagram】
https://www.instagram.com/child_skylark
【threads】
https://www.threads.net/@child_skylark
【戯曲アーカイブ】
https://playtextdigitalarchive.com/author/detail/360
【観劇三昧】
https://kan-geki.com/theatre/site/k7opwjrge5ne02y6

#ラジオドラマ #朗読 #物語 #シナリオ #脚本
---
stand.fmでは、この放送にいいね・コメント・レター送信ができます。
https://stand.fm/channels/647871ce590eb774d1da4879

サマリー

このエピソードでは、小島ちひり脚本によるラジオドラマが紹介されています。

小島ちひりのプリズム劇場
小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。
プリズムを通した光のように、さまざまな人がいることをテーマにお送りいたします。
おい、飯はまだか?
強兵さんは、ソファーに寝転がりながらスマホをいじっている。
ちょっとやめてよ、汚いじゃない。
何がだよ。
足を乗せないでって言ってるの。
俺は汚くねえよ。
足は誰だって汚いの。
チッ、いちいちうるせえな。
それより飯は?
知らないわよ。自分で何とかしてよ。
はあ?それでも女かよ。
私はあんたの女房じゃないのよ。
まったく困ったものだ。
まさかこの歳になって不倫相手が転がり込んでくるなんて。
奥さんとは話がついたの?
つかねえよ。あいつ今までの恩を忘れやがって。
正直、奥さんには同情する。
この人は金払いもよかったし、遊ぶにはちょうどよかったけど、正直結婚したいと思ったことは一度もなかった。
お前も訴えられたんだろう?
私はサクッと医者料払ったから。
私がおどけてみせると、強兵さんは目を見開いて驚いた。
お前、信子にいくら払ったんだ?
五百万。
ご、五百?
正直、向こうもふっかけたつもりだったのだろうが、言われた額を満額ぽんと支払った。
いつかこんな日が来るとわかっていたし、正直四十年の間にこの人は私の恋人だった。
正直、四十年の間にこの人は私に五百万以上使っているし、何より就職から定年まで勤め上げた会社の創業者一族だ。
この会社のおかげで私はお金の心配をせず、ここまで暮らしてこれた。
だからケチなことはしたくなかった。
まあ、道子がそんな大金払えるくらい余裕があるなら安泰だな。
強兵さんはそう言うと、またソファーに寝転がろうとした。
何言ってんの?
何って、これからの話だよ。
これから?私たちにこれからなんてあるわけないじゃない。
は?
離婚もドロドロに揉めてるみたいだし、三ヶ月はいさせてあげる。でもその後は出て行ってちょうだい。
なんでだよ。
だって私はあなたの奥さんじゃないから。ずっと付き合ってきたじゃねえか。遊びでね。
遊び?
強兵さんだってそうでしょ。私たちは都合よく遊んでいただけ。本気だったらもっと若い頃に結婚を迫っていたわ。
お前。
私はね、あなたの老後を面倒見る気なんてないの。これからは悠々自的に暮らしたいの。だから面倒な結婚なんてせずにここまで来たの。わかる?
お前、今まで俺がどれだけお前に金使ったと思ってるんだ。
その代わり遊んであげたじゃない。都合のいい時に都合のいい女やってあげたじゃない。他に何人女がいようと何も言わなかったじゃない。
それはお前が俺に惚れてたからだろ。
はははは。
何がおかしい?
まあね、そうね。そういうおバカさんなところが好きよ。それは本当。でもバカな男は一生を共にする価値はないわ。
なんだと?
奥様は賢明だわ。そん切りが上手。さすが会長の娘。
さっきから好きかって言いやがって。
気に入らないなら出て行きなさい。他に女がいるんでしょ。若くて可愛い女のところへ行けばいいじゃない。
ああ、そうしてやるよ。言われなくてもな。
京平さんはボストンバッグ一つ持って出て行った。40年付き合った男との別れは明けなかった。
まあ、と言っても所詮は浮気だ。私だって本気じゃなかった。
だから40年も続いたのだ。高卒で入った会社にやってきたピカピカのお婿さんだった。東京からやってきたってだけで素敵に見えた。
二人で食事に誘われた時は戸惑ったが、好奇心がかった。
いけないことだと分かってた。いけないことをしている自分が好きだった。
いつか奥さんに見つかって訴えられるかもしれない。
そうしたら求められた全額払おう。それが私なりのけじめだった。
引っ越すの?
そう、介護付きマンションに引っ越そうと思って。
でもお姉ちゃんまだ介護が必要な年じゃないでしょ?
そうなんだけどさ、かすみと違って独り身だし。
だったら東京の方へ来てよ。そしたらしょっちゅう会えるじゃない。
東京?この年で?
東京の近くでいいのよ。千葉とか埼玉とか神奈川とか。
こんな田舎ものが今さら東京なんて。いいじゃない、けんたにも言っておくから。
なんでけんちゃんに言うのよ。
けんた気にしてたよ。道子おばちゃんの面倒って結局俺が見るんだろうって。
いいわよ、そんなの。ずっと貯金もしてきたんだから。
じゃあ将来私たち姉妹で同じ老人ホーム入りましょう。
そしたらけんたも楽だし、きっと楽しいでしょ?
同じ家庭で生まれ堅実な人生を歩んだ妹と、人生のほとんどをフリーに費やした姉が最後の時間を共に過ごす。
なんて滑稽な話だろうと思ったけれど、案外悪くないかもしれないと思った。
いかがでしたでしょうか。感想はぜひハッシュタグプリズム劇場をつけて各SNSにご投稿ください。
それではあなたの一日が素敵なものでありますように。小島千尋でした。
07:10

コメント

スクロール