1. 小島ちひりのプリズム劇場
  2. #014 笑い声が聞こえる人
2024-04-06 08:51

#014 笑い声が聞こえる人

いつか終わりが来ても、いつでも思い出せるように。

脚本・出演:小島ちひり
収録・編集:三木大樹(有限会社ブリーズ)

noteに本文を掲載中。
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◇小島ちひり
7歳より詩を書き始める。
大学・大学院で現代詩を中心に近現代文学を学ぶ。
2013年 戯曲を書き始める。
2016年 つきかげ座を旗揚げ。3公演全ての作・演出を手がける。
2023年 プリズム劇場を配信開始。
日常の中の感情の動きを繊細に表現することを得意とする。
現在は表現の幅を広げるべく社会に潜伏中。

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#ラジオドラマ #朗読 #物語 #シナリオ #脚本
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サマリー

「笑い声が聞こえる人」は、小島ちひりが脚本を手がけるラジオドラマです。プリズムを通した光のように、さまざまな人が登場し、主人公が家族との生活や孤独に向き合いながら幸せを見つける姿が描かれています。

笑い声が聞こえる日常
小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。
プリズムを通した光のように、さまざまな人がいることをテーマにお送りいたします。
ただいま。
マンションの玄関に入ると、リビングからテレビの音と笑い声が聞こえてきた。
あら、帰ってたの。
りょうさん、おかえりなさい。
テレビの音大きいよ。
しょうがないじゃない。聞こえないんだから。
そうよ。おばあちゃん二人でテレビ見てるんだもの。
二人は、「ねえ。」と言って顔を見合わし、げらげらと笑っている。
俺はため息をつきながら二人を放っておき、仏壇の前に座る。
むつみは今日も変わらない笑顔で俺を見ている。
俺は閃光をたて、おりんをならし、手を合わせる。
りょうさん、ご飯食べるでしょ?
ああ、いいですよ、お母さん。自分でやりますから。
え?呼んだ?母ちゃんは呼んでねえよ。
もう、あきさんったらわかってるくせに。
二人はまたもげらげらと笑っている。
まさか二人がこんなに気が合うとは思わなかった。
じゃあね、行ってくるわね。
お仕事がんばってね。
はいはい、気をつけて。
二人は週に三日、デイサービスに行く。
いっつも仲良しですね。
あの二人、うるさいでしょ。申し訳ないです。
いいえ。むしろ岩崎さんはいっつもレクレーションの中心になってくれるんで助かります。
昔っから姉御肌で町内会とかも大好きだったんですよ。
ああ、なんとなく想像できます。
元気でいてくれるのは助かるんですけどね。
でもすごいですよね。
何がです?
実のお母様と義理のお母様の両方と暮らすなんて。
俺は別にすごくないっすよ。
あの二人がすごいんです。
だって子供の配偶者の親なんて完全に他人じゃないですか。
奇跡的に気があったんですね。
姉妹みたいですよね。
本当に。
むつみの母親であるみすずさんが自宅で転んで骨折したのは2年前だ。
幸い怪我をしたのは腕だったので寝たきりにはならずに済んだ。
むつみが亡くなってしまい、家族のいなかったみすずさんのことを心配し、
我が家に呼ぼうと言い出したのは母だった。
みすずさんは最初、申し訳ないからと言っていたが、
母の根気強い説得により、1年半前からこの家にいる。
俺はずっと丑山家に尽くしてきたんだ。
浮気の一つや二つ、男の解消だろうが。
お母さんの家族の家族の家族の家族の家族の家族が
浮気の一つや二つ、男の解消だろうが。
けさ、急に相談依頼が入ったと思ったら、とんでもない相談だった。
長年の不倫がばれて離婚されそうだが、無子養子だから離婚されると財産がもらえない。
だから別れたくないという、なんとわがままな男だろう。
俺は父ちゃんに母ちゃんに尽くすのが男の解消と教わって育ったんで、
ちょっと流派が違うんですよね。
流派というより衆派ですかね。
母と義母、俺一人の家族
笑ってごまかしたが、俺の腹綿は煮えくり返っていた。
なぜこの男には妻と子供がいて、俺にはいないのだろう。
神様は俺から娘を奪ったのに、どうしてこの男は何も奪われないのだろう。
ただいま。
家に帰ると、今日も母二人はゲラゲラと笑っていた。
あら、りょうさんどうしたの?元気ない?
そんなことないですよ。
どうしたの?変な依頼でも来たの?
こういう時の母親の勘というのは本当にすごい。
そんなんじゃないよ。
お茶でも飲む?
みすずさんが立ち上がると、母も立ち上がり。
私がやるからいいわよ。
じゃあ二人でやりましょ。
二人はキッチンに並び、楽しそうにお茶を淹れている。
むしろ二人で淹れるのはめんどくさそうだが、なんだか楽しそうだ。
ごめんな。
え?何が?
孫がいたらもっと楽しかったろ?
母とみすずさんは驚いた顔を見合わせている。
私たちつまらなそうに見える?
いや、楽しそうだけど。
そうよね。
あきさん、今の生活つまらないと思ってる?
まさか、とっても楽しいわ。
そうよね。
そうよね。
母は淹れたお茶をお盆に乗せて運んできた。
みすずさんは俺の腕をつかみ、ソファーに座らせ、
二人は俺を挟むように座った。
どうしたの?何が?
どうしたの?何か嫌なことあったの?
お母さん、代わりに文句言いに行ってあげようか?
いいよ、子供じゃないんだから。
私はね、毎日とっても幸せよ。
何が幸せって、あきさんと楽しく過ごせることもだけど、
何よりりょうさんが今でも毎日むつみのことを思ってくれていることが幸せ。
そう言って、みすずさんは俺の手を握った。
もちろんね、孫がいたら今とは違う幸せがあったかもしれないけど、
それはもうお天道様が決めたことだし、どうしようもない。
りょうさんは今でも私みたいな赤の他人のために頑張ってくれているし、
あきさんのことも大切にしてる。
これ以上りょうさんに求めることなんて何もないわ。
きっとあんたを一人残すことになるから、それだけは心配だけど、
それまではなるべく賑やかにするようにするから。
賑やか?
今が寂しくならないように、いつか一人になってもいつでも思い出せるように。
俺はいつか一人になる日を思い、涙がこみ上げてきた。
いやだよ、一人にしないでよ。
なるべく元気でいられるように頑張るわね。
安心しなさい。私たちはしぶといわよ。
みすずさんと母は両側でげらげら笑っている。
その日俺は一晩中、布団の中でひっそりと泣いた。
みすずさん、起きて起きて。
次の日の朝、母の声が聞こえた。
まあ、すてき。きれいに咲いたわね。
リビングへ行くと、母とみすずさんは花瓶に刺してある梅の枝を囲んで騒いでいた。
よく見ると、どうやら一輪開花したようだ。
ねえ、今年は梅酒をつけてみない?
あら、いいわね。梅の実取り寄せなくちゃ。
杏子とかもいいわね。今から楽しみね。
今日も我が家はとんでもなく賑やかだ。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、あなたの一日が素敵なものでありますように。
小島千尋でした。
08:51

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