同棲の決意
小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。
プリズムを通した光のように、さまざまな人がいることをテーマにお送りいたします。
ねえ、いつ一緒に住んでくれるの?
メイはそう言って、俺の目をじっと見た。
うーん、いつって言われてもな。舞台がまたあるし、そのうちかな。
半年前もそう言ってたよね。いつになったら落ち着くの?
何?文句でもあんの?
いや、そういうわけじゃないんだけど。
じゃあいいだろう、別に。
俺はベッドに寝っころがり、スマホをつけ、麻雀ゲームを起動した。
もう、お金がきつくて、メイは絞り出したような声で言った。
金?
二軒分のお家賃と生活費払うのが、ちょっと。
お前は女なんだから、稼ぎ用はいくらでもあるだろう。
どういうこと?
何のために水商売があると思ってるんだ。キャバクラでも風俗でも行けばいいじゃないか。
本気で言ってる?
本気だよ。本気で芝居したい。俺と居たいって言うなら、それぐらいできて当然だろう?それが愛情ってもんだろう。
じゃあ、生後の愛情は何なの?
俺?
私が生後のために水商売するのが愛情って言うなら、生後は私のために何をしてくれるの?
俺はほら、仕事頑張ってるから。
仕事?
芝居を頑張ることが、お前への愛情だ。
そう。
メイは立ち上がると、台所で洗い物を始めた。
いちいちああだこうだ言いやがって、面倒くさい女だ。
こんな面倒くさい女の相手をしてやれるのは俺くらいなもんだ。
それだけで感謝されてもおかしくないのに、まるで俺が何もしていないみたいに言いやがって。
呆れた女だ。
家探しの苦労
だっせえ!クソだっせえ!
後藤誠二はイケメンの顔を崩しながら、腹を抱えて笑っている。
勝浦さん、本気で言ってるんすか。
女に養ってもらっておいて、どの口が言ってるんすか。
向こうが俺に惚れてるんだから、別にいいじゃないか。
松岡さん!松岡さん!
後藤はトイレから帰ってきて通りかかった松岡プロデューサーに声をかけた。
他のテーブルでも役者やスタッフが顔を赤くしながら談笑している。
俺はハイボールをぐびりと飲んだ。
松岡さんはいい感じに顔を真っ赤にして、少し眠そうにしながら俺たちのテーブルへ来た。
なに?誠二くん。
勝浦さん、彼女さんに自分家の家賃と生活費払わせてるんですって。
すごくないですか?
でも同棲はしてないから、一人暮らしはしないんだよ。
すごくないですか?
でも同棲はしてないから、家賃二軒分払わなくちゃいけなくて、彼女さんお金がきついって言い出したんですって。
ん?そりゃそうだろう。
真っ当に働いてたって二軒分はきついに決まってる。
それなのに勝浦さん、彼女さんに水商売で稼げって言ったんですって。
は?
女なんだから、男と違って稼ぎ用はあるだろって話ですよ。
松岡さんは大きなため息をついた。
お前はさあ、責任感ってもんがないわけ?
何の話ですか。
芝居で食っていこう、みたいなガッツはないわけ?
ありますよ。だからこうやって。
じゃあ彼女に甘えてねえで自分で稼ぐべきだろう?
女は稼ぎ用がある?
水商売で稼げる女なんて一握りに決まってんだろう。
芸能界と一緒だよ。
そんなこともわからないでよく偉そうなことを言えんな。
じゃあ俺はどうすればいいんですか。
とりあえず家賃、家賃を払え。
家賃ですか?
自分家だけじゃねえぞ、彼女の家もだ。
今まで払ってもらった分きっちり返してあげるんだ。
二軒分なんて無理ですよ。
へへ、でもそれを彼女さんにはやらせてたんですよね。
後藤はバカにするように俺を見ながらタバコを吸い、煙を吐き出した。
二軒分がきついなら一緒に住んじまえばいいじゃねえか。
生活費も今よりかからなくなるし、おすすめだぞ。
同棲ってことか。
その日、メイは朝から上機嫌だった。
にくにこしているメイはそれなりにかわいい。
俺も少しテンションが上がった。
不動産屋に行くと、ラガーマンのような体型のおっさんが対応してくれた。
ワンルームですか?お二人で?
おっさんはけげんそうな顔をした。
失礼ですけど、お二人で住まわれるなら、せめてワンLDKとかにしたほうが。
いや、だから予算は六万しかないから、ワンルームでいいって言ってるじゃないですか。
お二人で住まわれるなら、せめてワンLDKとかにしたほうが。
いや、だから予算は六万しかないから、ワンルームでいいって言ってるじゃないですか。
彼女さんのほうは今、働かれていないんですか?
あ、いや、働いてはいますけど。
じゃあ、お二人で力を合わせれば、もうちょっとご予算あげられるのでは?
いや、俺が払いたいんです。俺一人で払える部屋がいいんです。
おー、なるほど。
おっさんはいくつか部屋を見つくろい、内計に連れて行ってくれた。
そのうち一つは、蓄電数は立っていたが、中はきれいに保たれており、そこに決めた。
俺は申込書に、職業・俳優・年収400万と書いた。
メイはそれを見て、一瞬、え?という顔をした。
どうせ年収なんてバレない、バレない。
お客様、個人事業主様ということで、就任を証明できるもののご提出をお願いしたいのですが、
収入の証明?
例えば、確定申告書の控えとか。
確定申告?やってないっすよ、そんな面倒なこと。
え?普通やらないでしょ?あれは資産があるじいさんたちがやるもんでしょ?
いや、確定申告をしていないお客様はちょっと…
え?ダメなんですか?
はい、申し訳ありません。
隣に座っていたメイは、静かに、しかししっかりとため息をついた。
いかがでしたでしょうか?
感想はぜひ、ハッシュタグプリズム劇場をつけて、各SNSにご投稿ください。
それでは、あなたの一日が素敵なものでありますように。
小島千尋でした。