1. 小島ちひりのプリズム劇場
  2. #025 居所を決められない人
2024-09-07 07:51

#025 居所を決められない人

その人は家に帰りたいだけです。

脚本・出演:小島ちひり
収録・編集:三木大樹(有限会社ブリーズ)

noteに本文を掲載中。
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◇小島ちひり
7歳より詩を書き始める。
大学・大学院で現代詩を中心に近現代文学を学ぶ。
2013年 戯曲を書き始める。
2016年 つきかげ座を旗揚げ。3公演全ての作・演出を手がける。
2023年 プリズム劇場を配信開始。
日常の中の感情の動きを繊細に表現することを得意とする。
現在は表現の幅を広げるべく社会に潜伏中。

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#ラジオドラマ #朗読 #物語 #シナリオ #脚本 #モノエフ朗読
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サマリー

居場所を決められない人々の苦悩を描いたエピソードで、職場の仕様変更や納期延長に直面する主人公の葛藤が浮き彫りになります。家族との絆や責任を考えながら、自身の居場所を模索する姿が描かれています。

職場の混乱
小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。
プリズムを通した光のように、さまざまな人がいることをテーマにお送りいたします。
先週とおっしゃっていることが違うじゃないですか。
俺が呆れたように言うと、濱田さんは、
いや、本当、松江さんには申し訳ないと思っているんですが、上がどうしてもと言いまして、
と、額の汗をハンカチで拭いながら言った。
今までもそうやって何度も仕様変更になってきたじゃないですか。
こっちも公務店になんて説明すればいいんですか。
そうですよね。そうですよね。いや、そうなんですけど。
浜田さんは肩を寄せ、キョロキョロとしている。
この人も好きでこんなこと言っているわけではないのだ。
上司に言えと言われて仕方なく言っている。
この図書館と劇場を併せ持った複合施設の建設は、
企画の当初からなんとなくうまくいっていなかった。
設計図を何度直してもなんとなくの修正が入り、
建設が始まった今ですらなんとなく横槍が入る。
そして現場は混乱し、納期を延長せざるを得なくなっている。
本当にこの仕様変更をするなら、納期はさらに延長させてもらえますからね。
そ、それは困ります。今の納期じゃ無理に決まってるでしょう。
材料だって集められるかわからないのに。
上には納期はそのままでって言われてるんです。
それをこっちがそのまま飲み込むわけないでしょう。
松江さん、そんなこと言わないでくださいよ。僕を助けると思って。
え?どうして僕が濱田さんを助けなきゃいけないんです?
思ったよりも冷たい声が出た。
濱田さんは怯えた目で俺を見たまま固まってしまった。
散々わがまま言ってこっちに迷惑かけて、
自分がまともに上と交渉できないだけのくせに、
その代償をこっちに支払わせないでくださいよ。
こっちはこの仕事降りてもいいんですからね。
え?濱田さんは口をポカンと開けて固まってしまった。
きっと上司から、
どうせあの会社はこの仕事を入れられないんだから、
言うことを聞くしかないんだ、とか言われていたのだろう。
しかし、こっちにだって勧任袋というものはある。
とにかく、仕様変更の件は了解しました。
ですから、濱田さんは上の方と納期についてしっかりお話ししてくださいね。
納期をもし半年以上延長できなかったら、
その時はこの仕事を続けるかどうか、
本社に持ち帰って考えさせていただきます。
家族との距離
俺は資料をまとめてカバンに入れると、
さっさと会議室から出ようとした。
ま、あ、待ってください!松江さん!
その声を遮るように扉を閉めた。
え?そんな勝手なこと言って大丈夫なんですか?
死者の事務所に戻って、部下の桜井に話すと驚かれた。
この案件は取締役が取ってきたんですよね。
勝手に降りるって言って大丈夫なんですか?
ために決まってるだろう。
じゃあなんでそんなこと言っちゃったんですか?
おどおどしているくせに舐めてくるから、ついカットなっちゃったんだよ。
しっかりしてくださいよ、大人なんですから。
お前だっていい加減帰りたいだろ?
まあ、確かに帰りたいですけど。
お前、彼女でもいいの?
いきなりプライベートに踏み込まないでくださいよ。
え?今のパワハラ?
俺にだって、守秘義務はあります。
それを言うなら、目飛犬な。
あれ?
はあ、どうでもいいけど早く東京に帰りて。
え?また伸びそうなの?
あ、ごめんな。
ゆうすけ、どんどん大きくなっちゃうよ。
そうだろうな。
なんでそんな人事なの?
人事なんかじゃないよ。どうしようもないだけで。
私にだってさ、仕事はあるんだよ。
半年だって言うから送り出したのに。
半年だったらワンオペでも頑張れるかなって。
我慢できるかなって思ったから。
それを延長になったって言って、もう一年経っちゃってさ。
さらに半年って言われても信用できないじゃん。
いや、そうなんだけどさ。
自分のしょうがないをさ、無条件に私に押し付けないでよ。
翼の言いたいことが痛いほどにわかった。
俺が昼間浜田さんに言ったのと同じことだ。
自分のしょうがないことを無条件に家族に押し付けるなんてあまりにかっこ悪い。
ああ、かっこ悪い。
ちらりとベッドサイドのタンスの上を見る。
一年半前に撮った家族写真だ。
これ以降一回も三人で写真を撮っていない。
翼とは二人目の話もしていた。
だけど、一人離れたこの街でどんどん時間が過ぎていく。
ゆうすけは成長し、翼もそれに合わせて変化しているのだろう。
俺だけが、俺の時間だけが止まっているようだ。
次の日、寝ぼけまなこでスマホを見ると、翼からメッセージが来ていた。
昨日はごめん。言い過ぎた。
翼からメッセージが来ていた。
昨日はごめん。言い過ぎた。
ゆうすけも私も待ってる。
メッセージには動画もついていた。
パパ、お仕事がんばって。
あまりにも棒読みで笑ってしまった。
ゆうすけは確実に身長が伸び、話し方も明瞭になってきている。
俺の知らないゆうすけになっていっている。
俺もごめん。なるべく早く帰れるように頑張る。
何の根拠もない不誠実なメッセージだ。
それでもそう言わざるを得ない。
俺には俺の居場所を決める権限すらない。
それでも俺は、この二人のもとに帰るために働くしかないのだ。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、あなたの一日が素敵なものでありますように。
小島千尋でした。
07:51

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