1. 小島ちひりのプリズム劇場
  2. #028 どんでん返された人
2024-10-19 06:10

#028 どんでん返された人

貰うもの貰えれば何でもいいです。

脚本・出演:小島ちひり
収録・編集:三木大樹(有限会社ブリーズ)

noteに本文を掲載中。
https://note.com/child_skylark

◇小島ちひり
7歳より詩を書き始める。
大学・大学院で現代詩を中心に近現代文学を学ぶ。
2013年 戯曲を書き始める。
2016年 つきかげ座を旗揚げ。3公演全ての作・演出を手がける。
2023年 プリズム劇場を配信開始。
日常の中の感情の動きを繊細に表現することを得意とする。
現在は表現の幅を広げるべく社会に潜伏中。

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#ラジオドラマ #朗読 #物語 #シナリオ #脚本 #モノエフ朗読
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サマリー

このエピソードでは、結婚を控えているお客様が引っ越しをキャンセルする決断をする過程が描かれています。彼女は自分の気持ちと仕事に関する葛藤を乗り越え、新たな選択をしています。

引っ越しのキャンセル
小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。
プリズムを通した光のように、さまざまな人がいることをテーマにお送りいたします。
安田、そろそろ時間だぞ。
飯田さんのその声を聞いて、俺は顔にかぶせていた帽子を取った。
カーステレオからは芸人の笑い声が聞こえている。
昨日遅かったのか?
レポートの締め切りがあって。
学生も大変だな。
引っ越し屋の正社員よりはマシだと思う。
こんな肉体労働、ずっと続けるなんて俺には無理だ。
じゃ、行くか。
飯田さんがドアを開けたので、俺もトラックの外に出た。
こんにちは、ビーバー引っ越しセンターです。
はーい。
ガチャリと音を立て、玄関の扉が開いた。
じゃあ、生産からお願いしますね。
こちらです。客が差し出した封筒からお金を出して、飯田さんは金額を確かめた。
ぴったりですね。ご協力ありがとうございます。
じゃあ始めましょうか。
飯田さんはそう言うと、俺にアイコンタクトを取った。
あ、あの。
はい。
やめます。
はい。
引っ越し、やめます。
はい。
俺は今、キッチンと書かれた段ボールに置かれたペットボトルのお茶の前に座っている。
部屋の中はすっかり片付けられており、引っ越しする意思はあったようだ。
やめるというのは、つまりどういう…
私、結婚するのやめます。
飯田さんと俺は顔を見合わせた。
えーっと、つまりご結婚のための引っ越しだったんですね。
はい。彼は今九州にいるので、そちらに合流するはずだったんです。
勝手に決めちゃって大丈夫なんですか?
それは向こうも同じですから。
向こう?
彼のお母さんに、結婚したら同居するって言っちゃったらしくて。
勝手にですか?
お客さんはゆっくりうなずいた。
それは確かに困りますよね。
それに私、仕事やめたくなかったんです。
彼に本当はやめたくないって言ったら、
俺より給料安いんだし、別にいいじゃんって言われて。
でも、そういうことじゃないってうまく言えなくて、
彼氏さんのこと、本当に好きなんですか?
バッカお前!
俺はつい口を出してしまった。
昨日、結婚してる友達に聞いたんです。
旦那さんのこと、好きかどうか分かんなくなることある?って。
そうしたら、ないって。
付き合ってる時からずっと、一緒にいることに違和感を覚えたことはないって。
それを聞いて私、あ、無理だと思っちゃったんです。
結婚があったことですか?
お客さんはまたうなずいた。
30までに結婚、出産していたくて我慢していたけど、
一生我慢するのは無理だなって思って。
それはそうかもしれませんけど。
だからいいんです。キャンセルします。このままここで暮らします。
返金できませんけど大丈夫ですか?
新たな選択
大丈夫です。来てもらっちゃってますしね。
あ、お忙しいのに私が時間取ってごめんなさい。
いえいえ。じゃあ俺たちはこれで。
はい。ありがとうございました。
俺たちがトラックに乗り込もうとすると、
先ほどのお客さんが玄関前まで見送りに来てくれた。
飯田さんがエンジンをかけたとき、
サイドミラーで後ろの様子を見てみた。
お客さんはさっきとは違って、
ずいぶん晴れやかな表情でこちらに手を振っていた。
こんなことってあるんですね。
いやいやいや、俺も初めてだよこんなこと。
俺のバイト代ってちゃんと出ますよね。
営業所戻ったら確認しとくわ。
トラックは路地を抜け大通りに出た。
トラックは空っぽのままぐんぐんと進んでいった。
いかがでしたでしょうか。
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それではあなたの一日が素敵なものでありますように。
小島千尋でした。
06:10

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