1. 小島ちひりのプリズム劇場
  2. #034 キャミソールが足りない人
2025-01-11 09:39

#034 キャミソールが足りない人

慰めて欲しいわけじゃないんです。

脚本・出演:小島ちひり
収録・編集:三木大樹(有限会社ブリーズ)

noteに本文を掲載中。
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◇小島ちひり
7歳より詩を書き始める。
大学・大学院で現代詩を中心に近現代文学を学ぶ。
2013年 戯曲を書き始める。
2016年 つきかげ座を旗揚げ。3公演全ての作・演出を手がける。
2023年 プリズム劇場を配信開始。
日常の中の感情の動きを繊細に表現することを得意とする。
現在は表現の幅を広げるべく社会に潜伏中。

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#ラジオドラマ #朗読 #物語 #シナリオ #脚本 #モノエフ朗読 #小説
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サマリー

このエピソードでは、日常の忙しさの中でキャミソールを探し回る主人公の奮闘が描かれています。仕事や育児のストレスに直面しながら、彼女の自己評価が揺らぎつつも、日常を乗り越える様子が表現されています。

朝の忙しい一日
小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。
プリズムを通した光のように、さまざまな人がいることをテーマにお送りいたします。
いつも通りのアラームを、いつも通りに止める。
あれ?
おはよう、みわ。
朝?なんで?
なんでって、朝だからだよ。
私、昨日、ひろみちと寝落ちしてたよ。
なんで起こしてくれなかったの?
だって、気持ちよさそうに寝てたから。
ケンタ、夕飯は?
子供じゃないんだから、適当に冷食温めたよ。
そっか、ごめん。
それより、急がないと間に合わないぞ。
ほら、ひろみち、朝だぞ。
私は慌てて、洗濯物の山をあさる。
キャミソールがない。
あるはず、なのに。
あ!
私は洗面所に駆け込み、洗濯かごを確認した。
そうだ、昨日洗濯するはずだったんだ。
昨日干しておけば、今日切られたのに。
どうかした?みわ。
キャミソールがない。
あ、ごめん。
昨日洗濯しなきゃだったのか。
ううん、私がやるはずだったことだから。
どうする?
どうせバレない。洗ってないけど着てく。
そうだな、バレないバレない。
なんとか朝のバタバタを乗り越え、
ひろみちを保育園へ送り届けた。
そして、他の人たちよりも1時間遅れて出社する。
仕事の悩み
おはようございます。
あ、田村さん、おはようございます。
おはよう西脇さん。
あれ、杉本部長は?
さあ、朝一で社長に呼び出されて行っちゃいました。
え、やだ、なんかあったのかな。
都人も各人も自分のパソコンをつけ、仕事を始める。
メールをあけると、今日もどっさり来ていた。
面倒なことになった。
杉本部長が青白い顔で戻ってきた。
福田翔司さんがキャッシュが回らなくなったそうだ。
それはつまり?
売上げの回収ができないかもしれない。
え、福田翔司さんって今売りかけいくらくらいなんですか?
800万くらい。
それは、多いんですか?少ないんですか?
このまま1円も回収できないと、うちのキャッシュも危ないくらいには多い。
え、待ってください。それ1ヶ月分の売上げじゃないですよね。
3ヶ月分だ。
なんで大納がすでにあったのに2ヶ月も売っちゃったんですか?
うちみたいな弱小企業を買ってくれるって言うなら信じるしかないじゃないか。
私と西脇さんは何とも言えない表情で見つめ合った。
ということはおそらく、うちの会社も2ヶ月前から資金繰りはギリギリなのだろう。
とにかく、俺はこの後社長と小野さんと弁護士のところへ行ってくる。
小野さんも行くんですね。経理部長だからな。あとは頼んだぞ。
杉本部長はそう言って、弱々しく出て行った。
あ、もしもし。西脇です。先ほど請求書のデータ3件送りましたので確認お願いします。
はーい。よろしくお願いしまーす。
あ、もうこんな時間。田村さん、もう上がって大丈夫ですよ。
でも、部長まだ戻ってきてないし。しょうがないじゃないですか。
それに、私たちにできることは特にないですし。
そっか。そうだよね。ごめんね。田村さんが謝ることじゃないですよ。
ありがとう。昔なら、トラブルがあったら杉本部長に同行していたのに、今や茅野外だ。
何の力にもなれないのに、会社にいていいのだろうか。
そんなことを考えながら改札へ向かい、ポケットに手を入れる。
あれ?ない。私が急に立ち止まったので、後ろの人が思い切りぶつかった。
おい!ふざけんなよババア!
あ、すいません。明らかに私より年上の人にババアと言われてしまった。
申し訳なさと言い返せなかった自分への怒りでなんだかモヤモヤする。
焦る気持ちのまますべてのポケット、カバンを見ても定期入れがない。
嘘?会社に忘れたのか。走って会社に戻る。
はぁ、はぁ、ごめん。
田村さん?どうしたんですか?
引き出しを開けると、一番上に定期入れがあった。
あった!保育園のお迎え、大丈夫ですか?
大丈夫はないかも。
私はまた走り出す。保育園に着いたのは、本来の時間より30分過ぎたところだった。
いろいろ事情があるのはわかるのですが、遅れるときはご連絡くださいね。
はい、申し訳ありませんでした。
仕事だったら絶対に連絡を忘れることはないのに、保育園には連絡を忘れてしまった。
自分としたことがどうして忘れてしまったのだろう。
家に帰り、広道をお風呂に入れる。
お風呂から出て離乳食を温めながら、自分は適当にパンとビーフジャーキーをつまむ。
広道にご飯をあげようとすれば、投げる、吐き出す、叩きつける。
何がいけないんだろう。どうしてうまくいかないんだろう。
なんとか広道を寝室へ連れて行き、寝かしつける。
だぁ、あぁ。
今日はもうねんねだよ。
あぁ、だぁ。
なんてだめなままなんだろう。家事もできない。仕事もできない。
広道にご飯も食べさせられない。自分はなんて役立たずなのだろう。
うまくできなかったことが頭をかけめぐる。
考え直そうとできたことを思い出すが、そんなことしかできなかったのか。
と、自分を罵倒する自分に出会う。
慌てて飛び上がると、窓の外はもう明るかった。
朝?
あぁ、そうだよ、朝だよ。
なんで起こしてくれなかったの?
え、だって気持ちよさそうに寝てたから。
私は慌てて洗面所へ行く。
今日も洗濯かごはいっぱいだった。
洗濯?
あ、ごめん。回しておけばよかったね。
急に情けなくなり、涙が出てきた。
うっ、うっ、うっ、ううっ。
ミーは?どうした?
ごめん、俺、気がきかなくて。
この世で一番、自分がいらない存在のような気がした。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、あなたの一日が素敵なものでありますように。
小島千尋でした。
09:39

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