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2024-07-18 29:11

S2E9 親の肥満がどのように子供に影響するのか

親が高脂肪食を食べて肥満になると、生まれてくる子供の食生活や健康に影響があります。

単純な遺伝とは別の仕組みで、母親、そして父親の影響が伝わる仕組みを調べた研究を紹介します。


母親

https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.3002641

父親

https://www.nature.com/articles/s41586-024-07472-3

https://www.nature.com/articles/d41586-024-01502-w

サマリー

肥満の親から生まれた子供は将来肥満になりやすく、糖尿病などの健康リスクも大きいことが明らかになっています。母親が肥満であると、子供は脂肪の多い食べ物を多く摂取して肥満になる可能性があります。マウスの研究によると、母親の肥満が子どもの肥満に影響を及ぼす可能性が示されました。さらに、別の研究でも父親の高脂肪食が子どもの健康に影響を与えることが示されています。

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今日は最初に2点ご連絡があります。
1点目は、8月のスケジュールなんですけれども、去年と同様イレギュラーになる予定でいます。
楽しみにしているという方には心苦しいんですけれども、新しいオリジナルエピソードの更新が滞る可能性があります。
それからもう1点は、ちらっと前に話をしたんですけれども、なあちゃんとライブ配信をする予定でいます。
これが7月の28日の夜になります。
ちょっと細かいことがまだ決まってないんですけれども、旧twitter.xそれから当番組のホームページで追ってご連絡していきますので、そちらの方のチェックをお願いします。
じゃあこの後、今日の本編が始まります。ぜひお聞きください。
肥満の影響
その肥満っていうのは世界的な社会問題で、体重を落としたいと考えている人がたくさんいるわけですが、体重っていうのは遺伝の影響が大きいということがよく知られています。
実際、家族連れを街中で見かけると親子で体型が似ていると感じることはあると思います。
こういったことはマウスなんかの事件動物でも示されていて、肥満の親から生まれた子供は将来肥満になりやすく、糖尿病みたいな健康へのリスクも大きいことが明らかになっています。
つまり親の影響っていうのが大きいわけですが、これは遺伝だけではないっていうことも知られています。
その遺伝っていうのは、つまり親のDNAが子供に伝わって、そのDNAの中に太りやすさを決める遺伝子が存在するので、親の影響があるっていうことです。
でも太るかどうかには環境の影響もあって、親は子供が晒される環境にも左右します。
その一つが子供が生まれる前、胎児の時の母親のお腹の中の環境で、マウスの研究などから肥満の母親から生まれた子供は脂肪の多い食べ物を多く食べて肥満になるということのようです。
つまり持っている遺伝子は同じでも、脂肪の多い食べ物を食べさせて肥満になった母親から生まれた子供は、通常の食べ物を食べていた母親から生まれた子供よりも肥満になりやすいっていうことです。
これは人でもおそらく同じで、母親が肥満であることが遺伝子とは別に子供を肥満にしやすくする、さらには糖尿病にしやすくするっていうことを示唆する多くの研究があります。
だから母親が肥満であることが何らかの形で子供に長期的な変化を起こして、その結果後に太るっていうことです。
これには脳の中の支障株っていう領域が関係あるのではないかと考えられるようになってきています。
支障株っていうのはエネルギーの摂取と消費のバランスをとっている部位で、支障株の神経細胞の中には体を循環している栄養素とかホルモンを感知する役割を担っているものがあります。
でも肥満の支障株への影響っていうのはあまりよくわかっていなくて、胎児期の環境が支障株にどんな変化をもたらすことで肥満になりやすくするのか、そしてこれはどのようなメカニズムで子供が生まれた後も続く長期的な変化をもたらすのかはまだわかっていません。
今日はこの点を明らかにした研究を紹介した後に、父親の影響についても話していきます。
ポッドサイエンティストへようこそ、佐藤です。
今日紹介するのはケンブリッジ大学のローラ・ディアーデンらによる研究で、2024年6月にプロスバイオロジーに発表されたものです。
この研究では主にマウスの研究をしているんですけれども、肥満のマウスの子供がどうなるかをまず示しています。
受験としてはまず2種類の母親マウスを準備します。
一つは標準的なあまりおいしくない餌を自由に食べさせた普通のマウスで、もう一つがマウスが好む脂肪の多い食事を与えたもので、こちらが肥満のマウスになります。
この食事を続けたままどちらも普通に育てたオスのマウスと交配させて子供を産ませます。
理由は書いてなかったんですが、この研究では子供についてはオスだけを解析しています。
最近は変わってきているんですけれども、マウスの研究ではオスだけを調べることがあります。
肥満の母親から生まれた子供とそうじゃない母親の子の比較ですけれども、子供に標準の餌を与えた場合には食べる量に違いがなかったということです。
でも高脂肪食を与えると肥満の母親の子供の方がよく食べたということで、
肥満の母親の子供は脂肪を多く食べるようになっていたということです。
そしてその結果、体脂肪が増えていました。
だから母親の食生活が子供の食生活に影響を与えるということが示されたわけです。
遺伝子と環境の影響
この実験はすべて同じ遺伝子型を持つマウスを使ってやっているので、遺伝子の影響ではなくて母親が高脂肪食を食べて肥満になった影響でこういった違いが生まれているというわけです。
この研究ではこの後は肥満の母親から生まれると子供が脂肪をよく食べるようになる仕組みを調べていっています。
母親が妊娠中に肥満であったことが、生まれた後に子供に長期にわたって影響を及ぼしているわけなので、生涯続くような遺伝子の働きの変化が起きていると考えることができます。
でも遺伝子、DNAそのものが違うというわけではないのに、こういうことが起きているというわけなので、遺伝子の配列の変化ではなくて、どの遺伝子がいつ働くのかに変化が起きているというわけです。
こういう制御のことをエピジェネティクスと言うんですけれども、生き物の発生の過程であったり何か刺激があったときに、細胞の遺伝子の働きに変化が起きることがあります。
このエピジェネティクスのメカニズムにはいくつかあるんですけれども、主要なものとしては、DNAに直接小さな分子が結合して変化が起きるというものがあります。
他にも小さなRNA、マイクロRNAと呼ばれるものによるものがあって、今回の研究ではこのマイクロRNAに注目しています。
ちょっと話が長くなってしまいますが、マイクロRNAとは何かというところから話していきます。
遺伝子はDNAなわけですけど、4種類のDNA分子が樹脂つなぎになって、とても長い配列のようになっています。
この長いDNAの一部の情報が写し取られて、DNAとよく似たRNAという分子で作られたメッセンジャーRNAというものができます。
メッセンジャーRNAは大元のDNAよりはかなり短いんですが、それでも数千個のRNAがつながった比較的長いRNA分子で、この情報をもとにタンパク質が作られます。
出来上がったタンパク質にはいろんな活性があって、細胞の機能をタンパク質が司っているわけです。
今話したDNA、メッセンジャーRNA、タンパク質という流れを遺伝子の発現と呼んでいて、遺伝子というのはこうやって働いているわけです。
マイクロRNAは20個程度がつながった短いRNAなんですけど、そんなものが細胞の中には存在していて、
マイクロRNAと同じ配列を持っているメッセンジャーRNAにくっついて、その遺伝子の発現が抑制されます。
だから特定のマイクロRNAが存在すると、それがくっつく遺伝子の発現が抑制されるということなんです。
マイクロRNAがどこから来るかというと、これもDNAが情報をコードしているんですね。
マイクロRNAの情報を持つDNAの領域がマイクロRNAよりは少し長めに移し取られて、そのRNAが少し切り縮められてマイクロRNAができるという形です。
マイクロRNAが見つかったのは1993年で割と最近なんですね。
遺伝子発現という生命にとって最も重要な機能を一見役に立たなそうなゴミみたいな小さいRNAが制御しているということで、大きな注目を集めたんです。
その後、マイクロRNAは遺伝子発現の制御を行うことによっていろんな生命現象に関わっているということが明らかになっていますし、その種類も多くて、人では2、3000種類存在するということが明らかになっています。
というわけで、特定のマイクロRNAがあると、そのRNAが標的とする遺伝子の発現が抑制されて、その結果細胞の状態が変わるということです。
今回の研究では、母親が肥満だったときに子どもの状態が変わるということで、この仕組みを調べるのが目的です。
すでに分かっていたこととして、脳の中で、脂肪株というのがエネルギーバランスに重要で、脂肪とかホルモンの検知に働くので何か関係がありそうだということでした。
そこで、母親の肥満によって脂肪株に存在するマイクロRNAに変化がないかをマウスを使って調べていきました。
だから、子どもの脂肪株の部分を取ってきたんですね。
そういったサンプルの中に含まれるマイクロRNAをすべて解析する方法があるので、それを使って網羅的な解析を行いました。
その結果、何種類かのマイクロRNAが母親の肥満によって変化するということが分かったんですけど、特に一つのマイクロRNAが肥満の母親から生まれたマウスで大幅に増えていたので、この後は特にこのマイクロRNAに注目して研究を進めていっています。
このマイクロRNAがMR5055Pというものなんですね。
エピジェネティクスとマイクロRNA
ちょっと長いので、ここでは505と呼びます。
ちなみに、この505はマウスだけではなくて、人も持っているマイクロRNAだということです。
この505が母親が肥満だったマウスでは、標準のマウスと比べて大幅に増えていたということです。
この505はマイクロRNAなので、何か標的とする遺伝子があって、その遺伝子の発現を調節しているはずです。
これを2つのアプローチで明らかにしています。
まず1つは、505の配列とくっつく配列を持つ遺伝子を探しています。
これは単純にデータベースを見ればわかるわけです。
もう1つは、子小株の細胞で作られているタンパク質を解析して、505がたくさんあるときとそうでない場合で比較をするというものです。
この解析方法の詳細は長くなるので省きますが、
詳しい人に一言で説明すると、異なる同位体を取り込ませて、質量分析で解析するというものになります。
この結果、505によって制御されているタンパク質がたくさん見つかりました。
その中でどういった機能を持つタンパク質が多いのかというのを調べていて、
脂肪を細胞に取り込むタンパク質とか、
細胞内で脂肪を分解するタンパク質が多く含まれていて、
こういったタンパク質の量が505によって減っているということでした。
この結果が何を意味するのかですが、
まず、思想株の神経には体の中に脂肪が十分あることを検知すると、
食べる量を減らすという指令を出しているものがあると考えられるわけです。
脂肪の検知の方法としては、
まず、神経細胞は脂肪を細胞の中に取り込んで少し分解して、
それで検出していると考えられているそうなんですね。
505が増えると脂肪の取り込み、分解を行うタンパク質が減るので、
脂肪の検出ができなくなる。
肥満の母親の子供では505が増えているということでしたから、
脂肪の検出ができなくなって、その結果脂肪が十分にあってもまだ脂肪を食べ続けるということが起きているのではないかと言われています。
ただ、この段階ではこれらの因子が減っているということは分かっていても、
それが脂肪を食べ過ぎるようになる原因かどうかというのは確認されていないわけです。
なので、もし今の考え方で脂肪の検出ができなくなって、
その結果脂肪が十分にあってもまだ脂肪を食べ続けるということが起きているのではないかということです。
もしこの考えが正しいのであれば、505を人口的に増やしてやれば、
普通のマウス、肥満の母親から生まれたわけではないマウスでも脂肪を食べる量が増えるはずです。
実際にこの実験をやっていて、脳の中に505と同じ働きをするものを注射して、
そうしたらどうなるかというのを調べています。
その結果、予想通り高脂肪食を食べる量が増えたということでした。
母親の肥満と子どもの肥満の関係
これによって505が脂肪を食べ過ぎる原因であるということが確認されたわけです。
先ほどこの505は人間にも存在するとちらっと言ったんですけれども、
505が人間でも肥満と関係あるのかについても検討しています。
すでに行われていた研究として、
人の血中のマイクロRNAを調べた大規模な研究があるんです。
そこでは505とBMIとに相関があるということが示されていたんです。
BMIというのは色々議論はあるんですけれども、簡便に肥満度を表す指標です。
さらに今回の研究ではもう少し詳しく調べるということもやっていて、
肥満度と関係があると示されているゲノム領域と
505とか505によって制御されている遺伝子が存在するゲノム領域が
重なっているということを示しています。
ちょっと分かりにくいかと思うんですけれども、
肥満に関係する遺伝子が長いDNAのこの辺りにありそうな
ということが遺伝学の研究で既に明らかになっているんですね。
今回の研究で分かった505によってコントロールされている遺伝子が
どこにあるかというのが分かりますから、
これが肥満と関係ある領域と重なっているかというのを調べてみて、
その結果同じような場所にあるというわけで、
状況証拠を1つ見つけたということになります。
だから、人でも505は肥満と関係ありそうだということなんですね。
でも、人では現段階では母親の肥満との関係については検討されていないですし、
全く証明したと言えるような、はっきりした証拠を見つけたということになります。
全く証明したと言えるような、はっきりした証拠でもないわけです。
でも、今回マウスで見つかった505による制御が人で起きていてもおかしくはないということになります。
というわけで、ここまでの結果からは母親マウスのお腹にいたときに、
その母親が肥満だと、生まれてきた子どもでは支障株で505が働いて、
脂肪の検知がおかしくなって脂肪を食べ過ぎるようになるというストーリーだったわけです。
この論文では最後に、これを食い止める方法というのも検討しています。
具体的には、高脂肪食を食べている肥満の母親に運動をさせています。
毎日20分間無理やり走らせました。
その結果としては、母親に運動させた場合は、そこから生まれてくる子どもの支障株での505の量が減っていたし、
その子が高脂肪食を食べる量も減っていたということでした。
これ以上の実験というのがなかったので、どうして運動がこういうふうに肥満の影響を減らすのかについてはまだよくわからないんです。
でも論文中には、インシュリン患受性と関係があるのではないかと論じられていました。
高脂肪食によってインシュリン耐性という糖尿病みたいな状態になるんですけれども、運動によってこれが改善するので、これが関係あるのかもということでした。
この研究の限界ですが、まずオスの子どもしか調べていないので、メスの子どもについて同じかわからないという点があります。
それから505の影響がどういうふうにして長い期間維持されるかについてもまだはっきりしていないというのがあります。
そしてもちろんマウスの研究なので、人でも同じことが起きているかまだわからないので、これでもって妊娠中はこうしたらいいとか、行動を変える指針になるわけではないです。
それでも遺伝以外の方法で母親の肥満が子に影響するメカニズムを一つ明らかにした興味深い研究だったわけです。
父親の高脂肪食と子どもの健康
この研究では母親の肥満の影響について調べていたわけですが、最近父親の影響について調べた論文が発表されていました。
こちらでも小さなRNAが関与していました。
この論文は2024年6月にネイチャーに掲載されたトマーラによる研究です。
ここでは父親マウスに高脂肪食を与えるということをしていて、そうすると子どもの一部がインシュリン体制、つまり糖尿病のような状態になるということです。
母親の場合だと卵子って大きいですからいろんな物質が伝わりますし、妊娠期間中は多くの物質を胎児と共有しているわけです。
でも父親から伝わるのは精子だけなんですよね。
精子って小さくて遺伝子以外には大して物が入っていないので、こんな影響があるのはなかなか不思議なんです。
このグループはいろいろ調べて、小さなRNAが精子に含まれていて、これが子どもに影響を与えているという結論に至ります。
この小さなRNAなんですけれども、先ほどのマイクロRNAではなくて、ちょっと変わったものだったんです。
トランスファーRNAとかリボソームRNAっていう遺伝子発現、タンパク質合成に重要な働きをするRNAがあるんですけど、これらが短くなったものだということなんです。
しかもミトコンドリア由来なんですね。
ミトコンドリアっていうのは細胞の中のエネルギー生産工場みたいなものなんですけど、ミトコンドリアの中にも遺伝子、DNAがあるんです。
核の中にあるDNAがメインの遺伝物質なんですけど、ミトコンドリアにも少しDNAがあって、ミトコンドリアの中で働くタンパク質の遺伝子とか、さっきのトランスファーRNAとかリボソームRNAの一部がミトコンドリアのDNAに行動されているんです。
今回の研究では核由来ではなくて、ミトコンドリア由来のRNAの断片みたいなものが精子によって子供に伝わるっていう話なんですね。
こんなことはこれまで知られていなくて、かなり奇妙なことが起きているわけなんですけど、筆者らが考えるストーリーは以下のようなものになります。
まず、父親が高脂肪食を食べると脂肪の分解っていうのはミトコンドリアで起きているので、ミトコンドリアにとって負担なために精子のミトコンドリアにダメージが生じます。
そうすると、その分を補うためにミトコンドリアDNAから遺伝子発現が活発になります。
その時にトランスファーRNAやリボソームRNAが一緒に作られて、異常な短い断片も作られます。
それが精子の中に存在していて、次世代に影響を及ぼすという話でした。
まだ途中途中わからないことがたくさんあるんですが、人でも短いミトコンドリア由来のRNAっていうのは存在しているみたいで、今後の展開が期待される驚きの研究でした。
この論文のヒッシャラは、この研究を踏まえて子どもの健康のためには父親も健康な食事をするべきだというようなコメントをしていました。
でも公平には、先ほどの研究と同じで、まだ人で実際にどうかはわからない段階だと思います。
ただ、このメカニズムがどうこうという以前に健康な食事をするのはどのみち良いことなので、このコメントで言っていることはまあその通りでもあるなと思いました。
今日はこの辺で終わりにしたいと思います。最後までお付き合いありがとうございました。
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