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2024-07-11 19:51

S2E8 ウイルスによる脳の進化;細胞表面のRNA

今回は会話形式2本立てです。

レトロウイルスによる脊椎動物での脳の進化の話と、細胞表面にあるRNAが重要な機能を担っているという研究の話をします。

論文

https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(24)00013-8

https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(23)01443-5

参考

https://www.newswise.com/articles/ancient-retroviruses-played-a-key-role-in-the-evolution-of-vertebrate-brains

https://www.sciencenews.org/article/ancient-retrovirus-myelin-speedy-nerves-evolve

https://www.nature.com/articles/s41577-024-01000-0

00:05
みなさんこんにちは。この番組は主に私が一人で研究論文を紹介するということをしているんですけれども、時々その後に青井さんと一緒に会話形式で面白い研究を紹介するということをしています。
今日はちょっと新しい試みで、それの2本立て、1個は青井さんが紹介、もう1個は僕が紹介という形になります。ではこの後その本編が始まります。ぜひお聞きください。
こんにちは、青井さん。 こんにちは、さとしさん。
じゃあ早速青井さんから、今日は何の話ですか。 今日はウイルスが私たちの脳の進化に関与しているかもしれないという研究を紹介したいと思います。
はいはい、ウイルスによる進化ですか。 そうです。
レトロウイルスというタイプのRNAウイルスは、ウイルスの遺伝子を感染した細胞のDNAに挿入することがあります。
私たち人のゲノム、つまり全ての遺伝情報のうち約40%はレトロウイルスに由来していると言われていて、このようなウイルスが今でも私たちの遺伝子にも刻まれています。
ウイルスに感染するというと病気を連想するかと思うのですが、ウイルスに感染するのは悪いことだけではなくて、
例えば、哺乳類の対バンの進化にはレトロウイルスとの共生が関わっていたりしますし、植物でもウイルスの感染によって干ばつや寒さへの耐性をつけるものがあったりします。
レトロウイルスは生物のゲノムDNAに入り込むことがあって、それが新しい機能の獲得につながって、進化において重要な役割を果たすこともあるということですね。
その通りです。今回の研究もその一例で、2500万年前のレトロウイルスに由来する遺伝子要素、レトロミエリンが哺乳類、両生類、魚類におけるミエリン形成に重要であることが発見されました。
ミエリンって神経細胞を覆っているやつですよね?
そうです。ミエリンは神経細胞の軸索という電気信号が伝わる部分を包み込んでいる死亡組織で、信号の伝達を速くして神経の代謝をサポートしています。
これは脊椎動物で初めて現れた組織で、無脊椎動物は持っていないんですね。脊椎動物が高速で複雑な神経伝達をするのを可能にしているのがミエリンなんです。
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このミエリンですが、脳と脊椎の神経、つまり中枢神経系ではオリゴデンドロサイトという細胞によって作られます。
この研究チームはRATを使ってオリゴデンドロサイトの遺伝子ネットワークを調べていたんですが、これまで十分に調査されていなかったノンコーディング領域に焦点を当てました。
ノンコーディング領域だと、DNAの中でもタンパク質へ翻訳されない場所だから、機能がないと言われたりする領域ですよね。そんなところを調べたんですか?
そうなんです。ノンコーディング領域には重要な機能はないと思われていたので、今まであまり注目されていなかったんです。
そういったノンコーディング領域で特に多いのがトランスポゾンというゲノム上を移動したり増えたりする配列なのですが、レトロトランスポゾンと言われるものはレトロウイルスがゲノムに組み込まれたものに由来するとされています。
それでこの研究チームがオリゴデントロサイトのノンコーディング領域に焦点を当てて調べたところ、レトロトランスポゾンの一つで長い名前なんですが、RNLTR12INTという配列の発言がオリゴデントロサイトでは強いということが分かりました。
研究チームはこの配列をレトロミエリンと名付け、レトロミエリンがミエリンの抗生成分の一つ、ミエリン塩基性タンパク質MPPの転写を調節することを明らかにしたんです。
実験としてはオリゴデントロサイトやその元になるゼンク細胞でレトロミエリンを阻害すると、これらの細胞はMPPを生成できなくなったんです。
つまりレトロウイルスに由来するレトロトランスポゾンであるレトロミエリンはミエリンの材料を作る役割を担っていたんです。
さらにカエルやゼブラフィッシュという魚でもMPPの発言にレトロミエリンが必要であることを確認しています。
過去に一つのレトロウイルスが動物のゲノムに入っていて、それがレトロミエリンというものになったんですね。
オリゴデントロサイトではレトロミエリンが発現していて、これを阻害するとMPPというミエリンに重要なタンパク質が作られなくなるということですね。
ということは通常はレトロミエリンのおかげでミエリンに重要なこのタンパク質の合成が行われているというわけですね。
そうなんです。研究チームは他の種でもレトロミエリンのような配列が存在するかどうかを確認するためにいろいろな動物のゲノムを調査しました。
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その結果、鳥類、魚類、爬虫類、両生類など多くの脊椎動物でよく似た配列を特定しました。
でも無脊椎動物では同様の配列は見つかりませんでした。
それから八爪うなぎのような顎のない脊椎動物というグループの生き物がいるのですが、これらではこのような配列がなかったので脊椎動物が進化しているどこかのタイミングでレトロミエリンを獲得したということのようです。
顎のない脊椎動物や無脊椎動物の神経細胞はミエリン化されていないので、MBPを発現させるレトロミエリンのような配列が見られないのとはつじつまがあっています。
これらの動物には代わりにグリアショウという脊椎動物のミエリンに相当する構造があるのです。
ミエリンがなくて代わりにグリアショウというのがあって、それはMBPを作るのに必要なレトロミエリンを持っていないからということですね。
グリアショウとミエリンにはどういう違いがあるんですか?
グリアショウとミエリンでは圧縮性に大きな違いが見られるのです。
ミエリン塩基性タンパク質MBPはその名前が示すように非常に塩基性でプラスの電荷を持つので、マイナスに帯電した細胞膜の臨時質と強く結合して引き寄せることでミエリンを圧縮しているので神経細胞が細くなります。
これによって狭い空間によりたくさんの神経細胞を通すことができて複雑なのを作ることが可能になるし、ミエリンで神経が覆われていることで電気信号の伝わりが早くなるんです。
そうすると捕食であったり逃走の能力が向上するので生存に有利だったと考えられます。
というわけで重要な機能を持つミエリンの形成にはMBPが発現することが不可欠なわけですが、今回の分析の結果、レトロウイルス由来のレトロミエリンのような配列が顎のある脊椎動物でMBPの発現を起こしていることがわかりました。
うーん、なるほど。レトロウイルスのおかげでミエリンができるようになって脊椎動物の神経細胞は効率がいいものになったということですね。
で、顎のない脊椎動物にはこれがないんだけど顎があるものではレトロミエリンがあるっていうことは、進化の過程で脊椎動物に顎ができたのと同じタイミングでレトロウイルスが共通祖先の動物のゲノムに侵入したっていうことですよね。
そう思いますよね。でもそうじゃないみたいなんです。この研究者らは、22種の脊椎動物からレトロミエリンの配列の系統関係を解析して、種の中での類似性が高く、種の間での類似性は低いことがわかりました。これはレトロミエリンが種が分化した後に個別に獲得されたことを意味しているんだそうです。
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でも、その種が分化した後っていうことは、同じようなレトロウイルスが侵入して新しい形質を獲得するっていうことが何度も何度も起きたっていうことですか。それは意外ですね。
そうなんですよ。でも収束進化という考えがあって、例えば、哺乳類のイルカと魚類のサメが同じ祖先を持たないのに同じような形状に進化した。このことのように、系統の異なる生物が同じような形質を持つことがあります。レトロミエリンを持つことが脊椎動物にとって進化的に非常に有利だったので、収束進化が起きたというふうに考えているみたいです。
なるほど。それにしても、同じことが何度も起きるのは不思議だから、まだ分かっていないことが潜んでそうですね。でも興味深い話でしたね。これどこの論文ですか。
ケンブリッジ科学研究所アルトスラボのフランクリンが率いる研究チームが、2024年にセルに発表したものです。
この研究は、今まで過小評価されてきたゲノムのノンコーディング領域が、進化や生理学にとって重要であることを示しました。
レトロウイルスの感染の痕跡が私たちの遺伝子配列の中に残り、進化の活用になっていることを示したこの発見は、新たな研究の可能性を見せてくれたのではないかと思います。
今日準備してきた話はこんなところです。
ありがとうございます。
じゃあ、いつも葵さんが紹介しているので、今日は僕も一つ論文を持ってきました。
RNAに新しい機能が見つかったっていうものなんですけど、RNAって細胞の中で主に遺伝子発現に働いていると考えられているじゃないですか。
そうですね。
遺伝子はDNAで細胞の中にあるわけなんですけど、それをテンプレートにしてメッセンジャーRNAが作られて、そのRNAを使ってタンパク質が作られるわけですけど、
RNAの働きといえば、まずこのメッセンジャーRNAですよね。
そうですね。他だとトランスファーRNAとかリボソームRNAとかSNRAなんかがありますよね。
そうなんです。それらはどれもDNAからタンパク質っていう遺伝子発現の過程に関わっているし、当然細胞の中で働くわけです。
確かにRNAは大体発現調節に関わってますよね。
でもちょっと前からRNAが細胞の外にあるっていうことが報告されていたんです。
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2020年の論文で、白血球の一種単球で細胞の表面にRNAが存在するっていうことがまず報告されて、これは他の細胞が死んだときに放出されたものがくっついているのかもっていう話でした。
さらに2022年には短いRNAががん細胞なんかの表面に存在していて、グリコシレーションって言うんですけれども糖が結合した状態だったという話でした。
この糖がくっついたRNAをグライコRNAって呼んでます。
でもこのグライコRNAが何をしているかは分かっていませんでした。
教科書的にはRNAは細胞の中にいるものっていう感じですから、細胞の表面にいるというのは驚きですね。
そう、だから僕もこの話を見つけたときは何これって思ったんです。
このグライコRNAの機能を調べている論文が最近出たんですね。
その論文ではまず甲中球っていう、これも白血球の一種を調べていて、この細胞にもグライコRNAが存在するっていうことを明らかにしています。
それが細胞の表面にあるっていうことも明らかにしてるんですけど、その証拠としては細胞の外からRNAの分解酵素、RNA素をふりかけるっていう実験をしてます。
RNA素は外からふりかけた場合には細胞の中には入れないので、この処理は細胞の中のRNAには影響がないんですね。
でも細胞の外からRNA素をかけるとグライコRNAが大幅に減少していたので、グライコRNAは細胞の外、表面にあるっていうことでした。
次に何をしているのかっていうところですが、白血球である甲中球っていうのは血管の中にいるんですね。
体のどこかで炎症が起きていると、その場所の内皮細胞っていうのに結合して、その炎症が起きている部分に移動して、病原菌とかダメージを受けた細胞を排除したりするんです。
この移動していくプロセスにグライコRNAが関係あるんではないかと考えて、マウスで調べていってます。
この実験ではあらかじめ細胞表面をRNA素処理して、RNAを分解した甲中球を炎症が起きているマウスの血管に入れるっていうことをしてます。
RNA素処理をしてない場合だと甲中球が集まるんですけど、RNA素処理をした場合は、集まっている甲中球の数が減ったということなんです。
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この結果から、細胞表面にRNAがあることが甲中球が炎症部分へ移動することに重要であるっていうことが明らかになりました。
なるほど。ただ単にRNAが細胞表面に存在するだけではなくて、炎症が起きている場所に移動していくという甲中球の重要な機能に、このRNAが必要であるということですね。
そうなんです。
ナーヒ細胞と結合するということですか、RNA自体がこの細胞と結合しているんですか?
そうですね。その点については、培養した細胞で実験をしてます。糖とRNAが結合したグライコRNAが細胞表面にあるっていうことだったんですけど、まず、甲中球がナーヒ細胞に結合するのにグライコRNAが重要であるっていうことを示していて、
さらに特にグライコRNAの糖の部分がナーヒ細胞と結合しているっていうことを示唆する結果を示しています。
元々、甲中球とナーヒ細胞の結合には、ナーヒ細胞にあるPセレクチンというタンパク質が重要であるっていうことが言われていました。
炎症が起きると、細胞表面のPセレクチンが増えて、そこに甲中球が集まるっていうことだったんですね。
今回の研究では、細胞から分離してきて行った実験で、グライコRNAがセレクチンと直接結合することも示していて、この2つの分子の結合が甲中球とナーヒ細胞との結合を起こしていると考えられます。
この研究よりも前に、甲中球とナーヒ細胞の結合に関わる分子というのが、Pセレクチンを含めていくつかわかっていたんですけれども、それに加えてグライコRNAも必要であるっていうことが、今回の研究で明らかになったというわけです。
RNAはとても不安定で分解しやすいので、RNAを使った実験ってとても注意してやりますよね。そんなものが細胞の外で働いているっていうのはびっくりなんですけど、分解されてしまわないんでしょうか。
そうなんですよ。そこが一番の驚きですよね。この論文の中では、グライコRNAの半減期が24時間程度って推測してます。これは相当安定だっていうことなんですね。
その理由としては、何かしらのタンパク質によって保護されているからだろうっていうことでした。グライコRNAのRNAの部分はそうやって保護されていて、党の部分がPセレクチンとの結合を行っているっていう考えですね。
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それからグライコRNAがどこから来るかなんですけど、高中級自身で作られていて、シドT1、シドT2っていうRNA輸送タンパク質で細胞表面まで輸送されているっていうことを示していて、だから細胞の結合に必要な構造を作る機構が細胞の中に備わっているということのようです。
なるほど。RNAの働きの可能性が広がるようなインパクトのあるお話ですね。どこの論文なんですか?
これはイエール大学のニンニンザンらによるもので、今年2月のセルですね。さっきの論文もセルだったんですけど、セルって生物学では最高峰の雑誌なんですよ。さすがセルって感じの論文でしたね、どちらも。
はい、じゃあ今日はこれで終わりにしたいと思います。最後までお聞きいただきありがとうございました。
ありがとうございました。
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