1. ポッドサイエンティスト
  2. S2E19 ミトコンドリアDNAの移..
2024-10-17 22:27

S2E19 ミトコンドリアDNAの移動;「母親の呪い」

ミトコンドリアは約1.5億年前に細胞に細菌が寄生したものと考えられています。進化の過程でミトコンドリアDNAの一部は核に移行したのですが、この移行はまだ起きているという話です。

さらに、ミトコンドリアDNAに関する「母親の呪い」についての話をします。

https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.3002723

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10957651

https://elifesciences.org/articles/16923

サマリー

今回のエピソードでは、ミトコンドリアDNAが核に移動する現象についての研究が語られています。この現象がヒトや酵母などの生物においてどのように生じるのか、また脳の神経細胞に与える影響を調査した研究結果も紹介されています。さらに、ミトコンドリアDNAの研究は、核DNAへの挿入が現在も継続していることを明らかにしています。また、母系遺伝に特有の「母親の呪い」が男性に有害な変異をもたらす理由についても考察されています。

ミトコンドリアの起源と情報の移動
ミトコンドリアはもともと別の生物で、これが大昔に細胞の中に入り込んで棲みついたものだという話を聞いたことがある人は多いかもしれません。
今日は、そんなミトコンドリアのDNAについて話していきます。
私たち人間の体っていうのは、たくさんの細胞が集まってできているわけです。
細胞自体は膜に覆われていて、他の細胞とは仕切られているわけなんですけれども、動物みたいな進化生物の細胞の中には、さらに膜に覆われた小さな構造、小器官というものがあります。
それが何種類かあるんですけど、ミトコンドリアもその一つなんです。
ミトコンドリアの他には核というのがあります。
核の中には遺伝子であるDNAがしまわれていて、一つの細胞に1セットの遺伝情報、ゲノムがあります。
ここから情報を読み出して、DNAとよく似たRNAという分子が作られます。
そしてRNAは小胞体っていう、また別の小器官でタンパク質を作るのに使われます。
たくさんの遺伝子から様々な機能を持ったタンパク質が作られるわけですが、このタンパク質が細胞の機能を司っているわけです。
他にはタンパク質の収縮や輸送に関わるゴルジタイ、分解をするリソソームなどが細胞内小器官なんです。
で、こういった細胞の活動をするにはエネルギーが必要になるわけなんですけど、
細胞内で栄養素から使用可能なエネルギーを生み出しているのがミトコンドリアです。
ミトコンドリアも膜に囲まれた小器官なんですが、他とは由来が違っていて、元々は最近、バクテリアだったものが大きな細胞に入り込んで寄生したものだと考えられています。
ずっと昔、約15億年前にミトコンドリアの祖先となる微生物が別の細胞に侵入し、
元々は独立した存在だったものが進化の過程で完全に細胞の一部となって、小器官として今は存在しているわけです。
その証拠にミトコンドリアは独自のDNA、ミトコンドリアDNAを持っています。
先ほど話したように遺伝子のほとんどは核の中にあるんですけど、それとは別のDNAをミトコンドリアは持っているということです。
そしてミトコンドリアはまるで別の生き物のように細胞の分裂とは別のタイミングで独自に分裂して増えていくことができます。
しかしミトコンドリアのDNAはバクテリアのDNAに比べるとかなり短いことが知られています。
ミトコンドリアの中で働くタンパク質の遺伝子がすべてミトコンドリアDNAにあるわけではなくて、一部は核のDNAにあるんです。
なんでこんなことになったかなんですけど、長い進化の過程でミトコンドリアDNAの一部が核まで移動して核のDNAに挿入されるということが何度も起きて遺伝子が移行していったからだと考えられています。
ですから核のDNAからタンパク質が作られてミトコンドリアまで運ばれて、ミトコンドリアの機能を維持しているということになります。
このようにして細胞はミトコンドリアに栄養素を供給したり、ミトコンドリアで働くタンパク質を合成して届けているわけです。
その代わりに細胞はミトコンドリアが産生するエネルギーを使っているっていう、もはやお互いがなくては生きられない共生関係が長い時間をかけて出来上がり、今の状態になったと考えられています。
酵母におけるミトコンドリアDNAの移行
しかし近年、ミトコンドリアから核へDNAが送られるっていう現象は今でも起きていることが報告されています。
今日はこの現象の脳への影響を調べた研究を紹介します。
ポッドサイエンティストへようこそ、サトシです。
今日紹介するのはミシガン大学のウェイチェン・ジョーラによる研究で、2024年8月のプロスバイオロジーに発表されたものです。
さて、このミトコンドリアから核へのDNAの移行がよく調べられているのが酵母です。
酵母っていうのはパンとかビールの発酵を行う微生物なんですけど、バクテリアよりはずっと大きい侵殻生物で、酵母の中にもミトコンドリアがいます。
酵母ではミトコンドリアDNAの核への移動が確かに起きていて、老化と関係あるっていうことが示されているんです。
さらに他にいくつかの生物でミトコンドリアDNAの移動が起きるっていうことが示されています。
ですからミトコンドリアから核へDNAが移動するっていう現象はずっと前だけに起きたことではなくて、今でも起きているっていうことが最近の研究で明らかになっているわけです。
じゃあ人ではどうなのかっていうところなんですけど、血液の細胞でDNAの配列を解析した研究っていうのがあります。
核のDNAの中にあるミトコンドリアDNA由来の配列を探すっていうことをしているんですけど、親が持っていないミトコンドリア由来の配列を子供が持っているっていうことがたまにあって、これは子供でミトコンドリアからDNAが移動したからだと考えられるわけです。
この頻度は比較的稀で、稀ではあるんですけど人でも移動が起きていそうだっていうことなんです。
動物の細胞の中でも特に変異が起きやすいものっていうのがあって、それが脳の神経細胞なんです。
ヒトにおけるミトコンドリアDNAの影響
血液の細胞とかっていうのは比較的短い時間で死んで、新しくできた別の細胞と置き換わってしまうんですね。
でも神経細胞はあんまり新しい細胞で置き換えられないので、長生きな細胞が多いんです。
そしてそうやって長く存在していると、何かの加減で生じた遺伝子の異常がそのまま蓄積していて、最初の受精卵の時と違ったDNAの配列を持っているものっていうのが多く存在します。
この研究では神経細胞であればミトコンドリアからのDNAの移動もより多く蓄積しているんではないかって考えて、人で神経細胞を調べていきます。
ロズマップっていう大規模な老化研究を行っているプロジェクトがあるんですけど、そこでは亡くなった人から脳の特定の部位を採取しています。
そしてそれらのサンプルからDNAの配列がすでに解析されているんですね。
この研究ではそのうちの1000人程度のデータについてミトコンドリア由来のDNAの解析を行いました。
具体的にはその膨大なDNA配列のデータからミトコンドリア由来のDNAが核内に挿入されている場所を探していったわけなんです。
その結果、ミトコンドリアDNAが挿入された場所がたくさん見つかりました。
しかし、これはサンプルを提供した人がもともと生まれた時から持っていた挿入なんかも含まれているかもしれないので、別の集団でも見つかっているものを除くなどの補正をしていっています。
最終的な結論としては、1サンプルについて3個くらいその組織だけで見られるミトコンドリアDNAの挿入があったということでした。
つまり3回くらいその人が生きている間にその組織でミトコンドリアDNAが核に挿入されたと考えられます。
血液の細胞ではそういった挿入はほとんど見られないので、やはり脳ではミトコンドリアDNAの移動がよりよく蓄積しているということがわかったわけです。
ちなみに挿入されたDNAの長さなんですけど、20程度から8000程度で中央値が70程度だったということで比較的短いものが多いということになります。
この解析に用いたサンプルは亡くなった人から採取されたものです。
つまりこれらの人が何歳で亡くなったかがわかっているわけです。
そこで次にミトコンドリアDNAの挿入と死亡した時の年齢との関係を調べました。
その結果、ミトコンドリアDNAの挿入が多い人はより早く死亡しているということがわかりました。
平均すると2つ挿入があると10年早死にするということだったんです。
というわけでここまでの研究によって人のDNA配列を解析することでミトコンドリアDNAが各のDNAに挿入されているということが読み取れるし、
それによって寿命が縮まっているようなので、DNAの移動は悪影響がありそうだと考えられるわけです。
しかしこのような研究ではすでに亡くなった人の組織を解析しているので、生まれた時からどのタイミングであるいはどんな頻度でDNAの移動が起きているのかわからないわけです。
当然人の神経のサンプルは亡くなってからでないと解析することができないので、それは仕方がないことなんです。
そこでより明確にDNAが移動しているのを確認するためにバイオ細胞を用いた実験を行いました。
このために人からセンイガ細胞っていう皮膚なんかにある細胞を採取して200日以上っていう長期にわたってバイオをするっていう実験を行いました。
もちろん人の一生と比べると200日っていうのは短いんですけど、バイオ細胞では通常しないような長期のバイオっていうことになります。
で時々一部の細胞を回収してそのDNAを解析するっていうことをしたわけです。
その結果ですが、ミトコンドリアDNAの核への挿入が時間とともに増えていくっていうことが確認されて、2週間に1つくらい新しい挿入が見られていました。
でこれは多いのかっていうとこなんですけど、例えばDNAが一部突然なくなるっていう血質っていう変異と比べるとミトコンドリアDNAの挿入の方が大幅にたくさん見られていたということです。
次にどういう条件でミトコンドリアDNAの挿入が増えるのかについても調べています。
ミトコンドリアDNAの研究成果
細胞にストレスのかかる条件をいくつか試しているんですけれども、ミトコンドリアの機能に異常が生じるような変異を導入すると、核へのミトコンドリアDNAの挿入が5倍程度上昇するっていうことを明らかにしています。
ですからミトコンドリアに異常があるとDNAが放出されやすくなるっていうことが考えられます。というわけで今回の研究をまとめると、まず人のDNA配列の大規模な解析を行って、ミトコンドリアDNAから核のDNAへの挿入が今でも起きているっていうことが明らかになりました。
特に長く生きている神経細胞ではそれが顕著であるっていうことを明らかにしています。
さらに人から採取した培養細胞を使って、細胞を培養している数ヶ月っていう期間にそういったDNAの移行が起きるっていうことを確認しています。
で、なぜDNAが切れてミトコンドリアから放出されるのかについてはまだはっきりしないんですけど、活性酸素によってDNAが切られるっていう説があります。
今回の研究では、ミトコンドリア機能に異常があるとDNAの挿入が増えるっていう結果だったわけなんですけど、ミトコンドリアが異常になると活性酸素が増えるので、この説を支持する結果でもあったわけです。
ミトコンドリアがもともとは別の生き物で、ずっと昔にそれが寄生して芯核細胞の一部になったっていうのはずっと前から知られていることなんです。
また、ミトコンドリアの遺伝子の一部は核のDNAに存在していて、細胞とミトコンドリアが共生関係を作っているっていうのも割と知られていることなんです。
で、そういう芯核っていうのはたまにしか起きないことで、もうずっと前に終わって、今は安定した状態になっていると、なんとなく直感的には思ってしまうんです。
でも、今回の論文は、実はそうではなくて、今でもDNAの移行は起きているっていうことを示していて、ハッとする驚きがあったので、今日はこれを紹介しました。
ここからは、葵さんと会話形式で研究を紹介するパートです。
葵さん、こんにちは。
サトシさん、こんにちは。
先ほどのミトコンドリアDNAの研究に関連して、もう一つ面白い話があります。
マザーズカース、つまり母親の呪いと呼ばれるものなのですが、聞いたことありますか?
母親の呪いですか?さっきは説明しなかったんですけど、ミトコンドリアは母系遺伝だから、それと関係してますか?
さすが鋭いですね。
受精卵に残るのは卵子のミトコンドリアだけなので、ミトコンドリアDNAは母親からしか子供に伝わらない遺伝情報なんですよね。
核のDNAは父親と母親の双方から遺伝するのに対して、ミトコンドリアDNAは母親だけからなので、進化の盲点ができるんです。
盲点ですか?
自然トーターというのは、DNAに有害な変異があると、それを持つ個体は子供を残せないので、その変異が排除されるということなんですね。
ミトコンドリアDNAは母親だけから遺伝するから、メスに有害な変異は排除されるわけです。
でも、例えばあるミトコンドリアの変異がオスにだけ影響を与えて寿命を短くしたり、オスの生殖能力を下げたりするような場合では、その変異がメスには問題を起こさないので、
そのメスは普通に子供を産んで、自然トーターの過程でその変異が取り除かれないんです。
だからオスには不利な変異が呪いのように残ってしまうことがあります。
これがマザーズカース、母親の呪いと呼ばれている理由になります。
息子に対する母親の呪いってわけですね。理屈はわかるんですけど、これが実際に起きている例っていうのは知られてるんですか?
はい。植物ではオスに悪影響を与えるミトコンドリアの変異というのが前から知られていました。
動物ではミトコンドリアのゲノムが小さいことからか、あまり見つかっていなかったんですね。
でも近年、症状媒ではそのような証拠が見つかってきています。
バンダービルト大学の研究チームが4年以上かけて発見したのですが、
ミトコンドリアDNAに現れた単一の突然変異が、ある酵素の構造を少し変えてしまって、
その結果、オスの生殖能力が過励とともに低下してしまったんです。
でも面白いことに、その変異はメスには何の影響も与えなくて、マザーズカースの状態になっていたんです。
でもそれも不思議ですよね。なんでメスには影響がないんでしょうか?
ミトコンドリアはエネルギーを作り出す役割をしているので、エネルギーを多く消費する組織、特にオスの生殖機関に影響が出やすいんです。
オスとメスでは生殖に必要なエネルギーの使い方が異なるので、こうした精査が生まれるんだと考えられています。
それから、これも面白かったのですが、進化の過程で各のDNAがミトコンドリアDNAの変異による異常を補正する仕組みがあるんです。
研究では、異なる症状倍の系統と交配させることで、オスの生殖能力が回復することが確認されています。
そんなこともあるんですね。それも面白いですね。
そうですね。でも、オスだけが独自のミトコンドリアの機能を獲得するということもあるみたいで、マザーズカースの理論に合わない事例の報告もあります。
先ほどの話もそうでしたが、ミトコンドリアDNAにはまだまだ謎が残っていて、今後の研究の展開が楽しみですね。
なるほど、本当にそうですね。
じゃあ、今日はこんなところで終わりにしましょうか。
今日も最後までお聞きいただきありがとうございました。
ありがとうございました。
22:27

コメント

スクロール