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2024-04-18 22:40

e62 つわりは治療できるのか;ヘビ毒薬の予想外の結末

重度のつわり、妊娠悪阻の原因を調べた研究を紹介します。また、つわりと医薬品開発に関する暗い歴史について話していきます。

さらに、アオイさんとヘビ毒治療薬開発の失敗について話します。


https://www.nature.com/articles/s41586-023-06921-9


参考

https://www.nature.com/articles/d41586-023-03940-4

https://www.nature.com/articles/d41586-023-03982-8


ヘビ毒

https://www.nature.com/articles/s41467-023-42624-5

https://www.science.org/content/podcast/hangover-fighting-enzyme-failure-promising-snakebite-treatment-and-how-ants-change-lion

サマリー

妊娠中のつわりは、7、8割の女性が経験します。吐き気と嘔吐には個人差があり、一部の方では症状が重くなり、入院が必要になることもあります。最近の研究では、妊娠嘔吐の原因の一つであるGDF15について解明され、つわりの治療や予防法の開発につながる可能性があります。オーストラリアで救命講習を受け、毒を持つ蛇に噛まれた時の対処法も学びました。蛇毒に対する治療法の開発に関する研究が行われ、最新の研究では蛇毒に対する新たな治療法の可能性が示されましたが、抗体依存性毒性状況が見られることがわかり、実用化にはまだ課題が残っています。

妊娠中のつわりと重症化
妊娠中のつわりは、7、8割の女性が経験するとされています。
吐き気と嘔吐には個人差があって、多くの場合は比較的軽度で一時的なんですね。
でも、一部の人では症状が重くて脱水や体重低下が見られることがあって、出産直前まで続くこともあるんです。
それで入院が必要になったり、最悪の場合では母子の命に関わることもあるんです。
こういう重篤な状態を妊娠嘔吐と呼んで、数%の妊婦で見られると言われています。
つわりだったり妊娠嘔吐っていうのはずっと昔からあったんですけど、どうして起きるのかについてはまだよくわかっていないんです。
そして最近、妊娠嘔吐の原因の一つを解明したという研究があったので、
今日はこの研究と、つわりと医薬品開発に関する暗い歴史について話していきます。
ホットサイエンティストへようこそ、こなやです。
今日紹介するのは、南カリフォルニア大学のマルレナ・フェイゾラによる研究で、2023年12月にNatureに掲載されたものです。
このグループは、その少し前、2018年の研究で、5万人以上のゲノム解析を行って、つわりと関係のある遺伝子を明らかにしています。
その一つがGDF15と呼ばれるものです。
GDF15というのは、細胞から出ていって、別の細胞に情報を伝えるホルモンのようなタンパク質なんですね。
GDF15については、すでに嘔吐を起こす脳の部分、脳幹の部分に作用することが知られていましたし、
がん患者では、この分子が過剰に作られていて、このことががんによる嘔吐と体重低下を起こすと考えられていたんです。
だから、つわりによる嘔吐とも関係がありそうなので、今回の研究ではそこをさらに調べていっています。
まず、妊娠中にGDF15の量がどのように変化するのかを調べました。
その結果、血液中のGDF15の量は、妊娠後の最初の12週間で上昇し続けるということを明らかにしています。
さらに、妊娠後のある妊婦の方が、つわりのない妊婦よりもGDF15の量が多いということも明らかにしています。
だから、つわりでもGDF15が嘔吐を起こしているという考えと、こういった結果は一致するわけです。
次に、GDF15がどこから来ているのかというのを調べました。
GDF15の量と妊娠オソの重症度
母親も体の中でGDF15を作るんですけど、胎児から来ている可能性もあるわけなんです。
どちらも人間のGDF15ですから、母親の血液を調べて、それがどちらから来ているのかを見分けるのは難しいんですね。
それで複雑な実験をしています。
このGDF15なんですけれども、個人差、つまり遺伝子の変異が見られるんです。
結構多くの人で見られる変異で、H202Dというのがあります。
だからこれはGDF15タンパク質の202番目がHヒスチジンからDアスパラギンに変わっているというものなんです。
だからGDF15の他のすべての部分というのは同じなんだけど、この場所だけ違う人というのが結構いるということなんです。
この違いというのは小さなものではあるんですけれども、質量分析という分子量を厳密に計測できる手法を使えば、見分けることができるんですね。
母親と父親の遺伝子が違っていて、違ったバージョンのGDF15を持っていれば、その子供は母親と違ったバージョンのGDF15を持っている可能性があるということなんです。
だからそういう組み合わせの母子について、母親の血液のGDF15を質量分析で解析したんです。
これによって母親の体の中にあるのは母親が作ったものなのか、胎児からやってきたものなのかというのを調べたわけです。
その結果なんですけれども、母親の血液中にあるGDF15は、その多くが胎児から来ているものだということがわかりました。
ということは、普段女性の体の中にはGDF15は少量しかないんだけど、妊娠すると胎児からGDF15が大量にやってきて、それでオートが起きると考えることができるわけです。
さて、2018年の研究で、GDF15と妊娠オソに関係があるということだったんですね。
さっき話していた202番目の変異とは違う、特定の稀な変異があると妊娠オソになりやすいということだったんです。
この変異がC211Gというものです。
この変異を持つ人ではGDF15の量はどうなっているんだろうと、次に調べてみたんです。
もしGDF15が吐き気を起こすということであれば、単純にこのC211G変異を持っている人でGDF15の量が増えていたということであれば、簡単に説明ができるわけです。
でも今回調べた結果はこの逆で、この変異を持つ女性は変異のない女性よりも血液中のGDF15の量が普段少ないということがわかりました。
これはやや意外な結果なんですけれども、この論文の筆者らは脱寒作という考えで説明できるのではないかと考えます。
脱寒作というのは、同じ刺激に繰り返し晒されることによって、その刺激に対する反応が弱くなる現象です。
例えば、暗い部屋から急に外に出ると眩しく感じるわけなんですけれども、もともと明るい部屋からだとそうでもないわけです。
これっていうのは目が脱寒作をして適応しているからなんですね。
筆者らのアイデアはこんな感じです。
GDF15に変異がない女性では、普段それなりのGDF15があります。
それでGDF15に対して少し脱寒作していて、反応性が低下しているという考えです。
それで妊娠すると胎児から大量のGDF15が入ってくるわけだけど、脱寒作しているからオートはそんなにひどくないということですね。
でもGDF15にC211G変異がある女性では、普段GDF15が少ないというわけです。
だから脱寒作していなくて、感受性の高い状態です。
そこに妊娠をして、胎児から大量のGDF15が入ってくると、ひどいオートが起きるという考えです。
医者らはこの考えを支持するデータも示しています。
血液の病気でβサラセミアというのがあるんですけど、この病気の患者ではGDF15が増えていることが多いんですね。
この病気の患者では、妊娠中につわりが見られることは稀であるということなんです。
これというのは先ほどの考えに合っているということになるわけですね。
さらにこの論文ではマウスでの実験も行っていて、普段あるGDF15の量をコントロールしてやっています。
その状態で外からGDF15を加えた時の反応を見ているんですけれども、この実験の結果もやはり脱寒作は起きるということを示していました。
というわけで、GDF15によって妊娠疎が引き起こされていて、その重症度というのが普段体の中にあるGDF15の量で決まっているのではないかということが示されたわけです。
だから以上の研究で、妊娠疎の起きるメカニズムが一つ明らかになったわけです。
この知識は、妊娠疎の治療とか予防法の開発につながる可能性があるわけですね。
GDF15が妊婦で働くことで応答を起こしているので、この働きをブロックするような薬が開発されれば、症状を止めることができると考えられます。
さらに脱寒作が重要であるということなので、妊娠前にGDF15と同じ作用を持つ薬を投与しておけば、脱寒作が起きて予防ができるかもしれません。
もちろん、まだまだ研究が必要で実用化は遠いですし、GDF15の変異によるオソ以外のツアリには効くのかどうかわからないという問題もあります。
だからGDF15以外にもツアリに関係している分子があるのかなど、まだまだツアリに関してはわからないことが多いという段階なわけです。
でも今回の研究は、そういったさらなる研究を引き起こすような研究だったというわけです。
ちょっとここからは、論文にあったわけではないんですけど、他で調べた補足をしていきたいと思います。
そのツアリなんていう、昔からあって基本的なことで、多くの女性が苦しむものの原因も対策もわかっていないっていうのは驚きだと感じる人もいるかもしれません。
歴史的に女性の健康についての研究は遅れていて、病気であったり、特に薬の研究っていうのは男性を対象としたのが中心となっているというのがあって、そういった軽視があると言われているんです。
ただ、薬に関しては単純な軽視だけではなくて、サリドマイド事件の影響っていうのもあるんです。
1960年頃にサリドマイドという薬が開発されて、いろんな用途があったんですけど、ツアリの治療にも効果があって使われていたんです。
でも、胎児に悪影響があって、危険を起こすっていうことがわかって、障害を持つ子どもが世界中でたくさん生まれたっていう薬害事件があったんです。
当時の製薬会社による薬品開発とか安全対策っていうのは、今の基準から考えるといい加減だったんですね。
これを契機に規制が強化されて、昔よりは今は安全になったんです。
その過程で胎児を守るっていう目的で、臨床試験に子どもを産む年齢の女性は参加しないようになったんです。
でも、そうすると薬の女性に関するデータが取れなくなって、ギャップが生まれるんですね。
それで実際に市場に出たときに、女性で特に副作用が起きやすいというような問題が生じているんです。
それではまずいので、最近は女性でも臨床試験が行われるようになってきています。
こういう経緯があって、このサリドマイド事件っていうのは、製薬業界、医学、薬学の分野に大きな影響があって、忌まし目として教育されるものなんです。
だから命に関わるようなものであれば別なんですけれども、普通のつわりに薬を使うっていうのは業界として強い抵抗感があると考えられます。
オーストラリアでの救命講習と蛇毒の対処法
だから今回のGDF-15に関連した薬の開発についても、胎児への副作用が怖いので、かなり慎重に行われるのではないかと見る向きもあります。
こんにちは、葵さん。
こんにちは、こなやさん。
先日オーストラリアで初めて救命講習に行ってきたんですけれども、AEDの使い方だったり、基本的な怪我への対処だけではなくて、蛇やクラゲの毒への対処法もカリキュラムに含まれていたんです。
都市部ではあまり見ないとはいえ、オーストラリアには毒を持つ蛇が100種類ほどいるそうですよ。
オーストラリアは暑い地域もありますもんね。
そうなんです。WHOは2017年に蛇毒による被害を、帰り見られない熱帯病の一つに指定しているくらいで、世界中で毎年何十万人もの人々が蛇に噛まれて死亡したり、組織の維新によって手足を失ったりしています。
今日は蛇毒に対する薬の開発を行った興味深い研究があったので、それを紹介しますね。
でも蛇毒って全然詳しくないんですけど、そもそも蛇の毒がどういうふうにして死を引き起こすんですか?
例えば、中央アメリカに生息するテルシオペロという蛇の毒には、何種類かの毒素が含まれているんですけれども、特に重要なものとしてミオトキシン2というタンパク質があります。
このミオトキシン2は、注射部位の近くの筋肉繊維に結合して、細胞膜を損傷させることで筋肉を餌食させます。
筋肉に…治療法にはどんなものがあるんですか?
現在の治療法は、動物の血液から抽出した血清を用いるものですが、副作用があったり、有効性にも限界があったりします。
さらに、生産にコストがかかったり、保管に温度管理が必要であったり、こういった蛇が多くいる途上国の農村部での使用には問題があるんですね。
それで、より良い治療法の開発が喫緊の課題となっています。
そんな中、最近、蛇毒に対する新たな治療法の可能性を目指した興味深い研究があったんです。
デンマーク工科大学のセイレンセンらによるものなんですけれども、蛇の毒素ミオトキシンⅡに対する神話性が高い抗体を見つけています。
いくつかのバージョンのものを作ったのですが、これらの抗体は、人細胞を使った実験でミオトキシンⅡの細胞を壊す作用を止めることができたんです。
さらに、このような抗体の評価の標準的な方法として、抗体と毒素を混ぜてからマウスに注射するというものがあるのですが、このテストを行った結果、これらの抗体がミオトキシンⅡの筋肉損傷活性を完全に中和することが示されました。
有望そうな研究じゃないですか。
そうなんです。だから、この抗体で特許を取って、論文を書いて、メインで研究していた学生は白紙論文を提出しようとしていたんです。
でも、びっくりすることが明らかになりました。もっと現実に近い条件。つまり、まずマウスに毒素を注射して、その後にこの抗体を投与するという実験を行ったんです。
そうしたら、抗体が毒素を注射するどころか、筋肉損傷が悪化する上に、他の臓器にも障害が見られて、マウスが死んでしまうということがわかったんです。
あー、逆効果ですか。
はい。抗体依存性感染状況といって、ウイルスが抗体によってかえって感染しやすくなるという現象があるんですね。
これは、その毒素版で抗体依存性毒性状況と呼ばれる現象で、抗体の治療効果が逆転してしまうことを指しています。
これまでには毒キノコの毒素や細菌の毒素についての報告というのはあったんですけれども、動物の毒から抗体依存性感染状況が報告されたのは初めてのことなんだそうです。
ヒッシャラは、この抗体が死を招く原因を突き止めるべく奮闘していますが、まだそのメカニズムには謎が残されています。
いやー、せっかく蛇毒に対する良い対策が見つかったと最初思ったのに、研究チームはがっかりだったでしょうね。
確かにそうだったんですけれども、新しい治療法の発見という内容ではなくて、抗体依存性毒性状況が見られたという内容で発表したというのが今回の論文なんです。
抗毒素研究の分野において、スタンダードな評価法として、事前に毒素と抗体を混ぜる試験のみが行われることが多かったのですが、
今回の研究によって、動物の毒素でも抗体がかえって毒性を強めることもあるとわかったわけです。
このような毒性が人での臨床試験をした段階で初めてわかるということを防ぐために、動物モデルでも実際の使用に近いテストを行うことをヒッシャラは提言しています。
なるほど。当初の目的とは違っても、何か発見があれば、それは科学としては成果ですからね。
まさにその通りです。蛇毒に対する新たな治療法の開発という本来の目的とは少し異なる結果を生みましたが、蛇毒の治療法の改善に向けた重要な一歩になったと言えると思います。
そうですね。
研究というのは予定通りに行かなくてもそこで終わりではないということをよく表している研究だったのではないでしょうか。
確かにそうですね。僕もそんな経験あります。
じゃあ今日はこの辺にしましょうか。
今日のエピソードはここまでです。今日も最後までお聞きいただきありがとうございました。
ありがとうございました。
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