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2024-05-23 18:11

S2E2 脳内の脇役が行動を操る

脳での情報処理の主体は神経細胞で、脳内にたくさんあるグリア細胞は神経細胞のサポート役と考えられていました。しかし近年、グリア細胞の様々な重要な働きが明らかになってきています。そんな研究の1つを紹介します。


https://www.nature.com/articles/s41586-024-07138-0


参考

https://www.nature.com/articles/d41586-024-00425-w

https://www.news-medical.net/news/20240306/Key-brain-cells-linked-to-repetitive-behaviors-in-psychiatric-diseases.aspx

https://neurosciencenews.com/astrocytes-behavior-psychology-25696/


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脳っていうのは複雑な情報処理を行っているわけです。
もちろん私たちが何か考えている時には働いているわけなんですけれども、意識している部分の他にも無意識の部分があって、脳っていうのは絶えず膨大な情報処理を行っているわけです。
で、脳の中でそういった処理を行っているのは、神経細胞あるいはニューロンと呼ばれる細胞だと考えられています。
神経細胞は情報の受け渡しをすることができるんです。
一つの神経細胞から神経伝達物質と呼ばれる分子が放出されて、それを別の細胞が受け取ると、その細胞に電気的な変化が起きて興奮した状態になるんです。
で、こんな風に神経細胞っていうのは興奮した状態、つまりオンの状態とオフの状態があって、そういった細胞が脳の中にたくさん、1000億個くらいあるので複雑な処理ができると考えられているんです。
でも脳の中にあるのは神経細胞だけではないんですね。
グリア細胞っていう細胞が神経細胞と同じか少し多いくらい脳の中に存在するんです。
で、このグリアっていう名前なんですけれども、接着剤グルーと同じ由来で、もともとは神経細胞を構造的にサポートする脳の中のノリみたいなもんだと考えられていたんです。
でもその後グリア細胞は何種類かのグループに分けられて、それぞれ機能があるっていうことがわかっています。
グリア細胞の一種オリゴデンドロサイトは神経細胞を覆うことで神経での情報の伝達を早くするっていう役割がありますし、ミクログリアは脳の中の免疫細胞のような役割を果たしています。
そしてアストロサイトと呼ばれる星型のグリア細胞は神経細胞に栄養を供給したり、神経細胞の老廃物を除去するっていう働きがあることがわかっています。
だからグリア細胞は脳の中でただ構造を支えている接着剤ではなくて、神経細胞が情報伝達を行うのをサポートする役割を持っているっていうことがわかっているわけです。
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それでも脳での情報処理の主体は神経細胞であると考えられていて、グリア細胞は脇役だと思われているんです。
でも最近の研究ではグリア細胞は脳での情報処理にも重要な役割を持っていて、神経細胞を操っているというのは言い過ぎだとしても、神経細胞の行う情報伝達をもっと直接制御しているっていうことが明らかになってきています。
今日はそんな研究の一つで、特定のグリア細胞がハンチントン病や脅迫性障害で見られるような行動の繰り返しを抑える役割を果たしているっていうことを示した研究を紹介します。
ホットサイエンティストへようこそ。佐藤です。
今日紹介するのは、UCLAのマティアス・オリビエラによる研究で、2024年2月にネイチャーに掲載されたものです。
この論文では、μクリスタリンというタンパク質の遺伝子に注目しています。
クリスタリンというと、目の中のレンズの部分、水晶体にある透明なタンパク質が有名で、知っているという人もいるかと思うんですけれども、
それらはαとかβクリスタリンで、このμクリスタリンというのは全く別のタンパク質で、どのような機能を持っているかよくわかっていないものなんです。
でも、人の病気との関係が明らかになっていて、例えばハンチントン病っていう、体が勝手に動いてしまう神経の病気であったり、
脅迫性障害っていう、例えば手を洗うのがやめられないみたいな不合理な考えによって、特定の行動を繰り返す精神疾患との関係が明らかになっていました。
具体的には、ハンチントン病でも脅迫性障害でも、病気の人では健康な人に比べてμクリスタリンが減っているということです。
で、この2つの病気っていうのはだいぶ違う病気のような感じがするんですけど、
ハンチントン病では体が勝手に動いて、同じ動きを繰り返してしまうっていうのがあって、行動の異常な反復っていう点では共通しているんです。
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で、この論文ではマウスの脳の中のグリア細胞を調べていたんです。
そうしたらグリア細胞の中でもアストロサイトのその中でも一部の細胞でこのμクリスタリン遺伝子が働いているっていうことがわかりました。
つまりアストロサイトといってもその中にいろいろな種類があるようでμクリスタリンを作るタイプのアストロサイトがあるっていうことがわかったわけです。
で、このタイプのアストロサイトは脳のどこにでもあるわけではなくて、特定の場所、線状体と呼ばれる場所にあることがわかりました。
しかも線状体ではクリスタリンを作っているのはアストロサイトだけで、そこにいる神経細胞は作っていないということも明らかになりました。
この線状体っていうのは運動の制御とか学習、意思決定に重要な領域です。
これはマウスの話だったわけなんですけれども、人でも線状体にμクリスタリンがあるっていうこともわかっていて、ここのμクリスタリンがハンチントン病とか強迫性障害では減っているんです。
じゃあμクリスタリンは何をしているのか、そしてこのμクリスタリンを作るアストロサイトは何をしているのかっていうのを調べていったわけです。
このために線状体でμクリスタリンの量が減るように遺伝的に改変したマウスを作成して、このマウスでいろんな行動実験をしていきました。
まずこのμクリスタリンを作らないマウスなんですけれども、おおむね健康層で運動機能とか学習も問題がない、そして不安が強いとかいうこともないっていうことがわかりました。
でもいろんな行動実験をしてわかったのが、ガラス玉を埋めるっていうテストがあるんですけれども、それでは普通のマウスとの違いがあったんです。
マウスはガラス玉を置いておくとそれを埋めるんですけど、不安だったり脅迫性があるとよりたくさん埋めるということで、そういった性質を調べるためにこのようなテストが行われます。
で、μクリスタリンを作れないマウスはたくさんガラス玉を埋めてたということなんです。さらに毛づくろいも普通のマウスよりもたくさんしていたし、水を飲むためのボトルがあるんですけれども、それもよりたくさん舐めていたということなんです。
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ただ、毛づくろいなんですけれども、スプレーを吹きかけてマウスを汚した時にも毛づくろいをするんですけれども、そういうふうに汚した時に起きる毛づくろいの量は普通のマウスでもμクリスタリンが作れないマウスでも変わらなかったんです。
でも、何もなくてもやっている毛づくろいはμクリスタリンがないマウスが多かったということです。
で、さらに水を飲むのについても、喉が乾いた状態にすると、普通のマウスでもμクリスタリンがないマウスでも変わらないんですけど、ただ意味もなく舐めているのはμクリスタリンが作れないマウスが多いということでした。
でもって、不安傾向については特に異常がないということも確認するような実験をしていて、だからμクリスタリンがなくなると、不安が増えているわけでもないのに異常な繰り返し行動が見られるということがわかったんです。
さて、このμクリスタリンは洗浄体のグリア細胞、アストロサイトで作られるということでした。
だからアストロサイトは、こういった異常な反復行動が起きないように制御しているということが示されたということです。
で、さらにアストロサイトがどういうふうにして行動を制御しているのかを調べる実験をしていきます。
この洗浄体という場所なんですけれども、脳の別の場所から入力があって、別の場所から伸びている神経細胞から、ここで伝達物質が放出されて、洗浄体の神経細胞が興奮して、それが最終的に行動を引き起こします。
今回の研究では、アストロサイトのμクリスタリンがあるときとないときで、これらの神経細胞の活動に違いがあるかを調べています。
難しそうな電気整理の実験をしているんですけれども、結論としては、μクリスタリンがないときには、洗浄体への入力の神経の活動が起きやすくなっていて、その結果、洗浄体の神経の活動が頻繁に起きるようになっているということです。
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ということは、通常はアストロサイトが何らかの働きで、入力の神経の活動を抑えているということなんですね。
これが異常になると、入力の神経が働きすぎて、洗浄体の神経が過剰に刺激されるわけです。
その結果、行動が不必要に繰り返されてしまうということが考えられるわけです。
ちなみに、μクリスタリン自体が細胞の中で何をしているかは、明らかになっていないんですね。
でも、この論文では、μクリスタリンがあると、アストロサイトから神経の活動を弱めるような伝達物質が放出されていて、その結果、こういった調節が行われるということを示唆するデータも示しています。
さて、これらの実験はマウスで行われたわけなんですけれども、これを人に当てはめると、ハンチントン病とか脅迫性障害でも同じことが起きているのではないかと思うわけです。
これらの病気ではμクリスタリンが減っているということがわかっているんですね。
だとすると、腺状態への入力の神経が活動しすぎるようになっていて、それで同じ行動を繰り返しているのではないかと考えることができるわけです。
もしそうであれば、この入力の神経の活動を弱めてやれば、繰り返し行動が減って治療につながるのではないかとも考えられるわけです。
病気の人ではやってないんですけれども、この論文ではμクリスタリンが作れないマウスでこれをやってみています。
入力の神経に遺伝子を導入して神経の活動を弱める分子を作らせて、その時に行動がどうなっているかを調べています。
結果ですけれども、このマウスで見られていた繰り返し行動が減少していました。
というわけで、以上の結果をまとめると、腺状態に存在するμクリスタリンを産生する特定のグリア細胞が神経の活動を制御することで繰り返し行動という異常な行動を抑制しているということが示されたわけです。
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動物の行動というのは脳によって制御されていて、その情報伝達のバランスが少し崩れると病気となって異常な行動を示すわけです。
特に脅迫障害の手を洗うのがやめられないなんていうのは、普段高度なコントロールが脳内で行われているということをイメージさせると思います。
こういった複雑な制御というのは神経細胞が行っていると考えられていたわけで、グリア細胞の役割というのは、ただの接着剤ではないにしても神経細胞を支援するだけのものだと考えられていたんです。
でも今回の研究ではグリア細胞は神経細胞の働き自体を調節してバランスを取る役割を担っているということが示されたわけです。
脳というのは神経細胞だけでも理解の及ばないぐらい複雑なんですけれども、近年グリア細胞というのは脳にもう一段階高いレベルの複雑さを与える存在であるということが明らかになってきているわけです。
こういったグリア細胞の興味深い重要な働きを示す研究がどんどん発表されているので、またそんな研究も話していきたいと思っています。
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というわけでコメントの方もお待ちしております。今日はこの辺で終わりにしたいと思います。最後までお付き合いありがとうございました。
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