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2024-05-16 17:55

S2E1 人の目を見るか、口を見るか

人の顔を見るときに、どの位置を見るかには個性があります。この理由の一端を調べた研究の話です。

最後に改めて番組の説明をしています。シーズン2もよろしくお願いします。

https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2322149121

サマリー

顔のどの部分を見るかには個人差があり、目を見る人と口を見る人がいます。顔や物体を見る位置には関連性があり、口を見る人は他の物体でも下を見る傾向にあります。顔と物の見方には個人差がありますが、物を見る時の単純な個性で顔のどこを見るのかが決まる可能性が示されています。番組では生物学を中心に、科学論文を物語として楽しむことを目標に、専門知識なしでも理解できるエピソードを提供しています。

目と口を見る個人差
質問なんですけど、人の顔を見るときに、どこを見ますか?
例えば、誰かと向かい合って話をするときに、目を見て話しますか?
それとも、鼻とか口を見て話しますか?
一般的に、人の目を見て話すのがいいとされていると思うんですけど、
僕は口を見るんです。
意識して目を見ようとしていた時期もあるんですけど、自然に口の方に目が行ってしまうんです。
顔のどの部分を見るかについては、個人差があることが知られていて、
目のあたりを見る人もいれば、少し下、鼻とか口を見る人もいるんです。
一人の人がどこを見るかっていうのは一貫していて、目を見る人は大体いつも目を見ていて、
目を見ることもあれば口を見ることもあるっていう人はあまりいないそうです。
また、どこを見るかについては、遺伝の影響が大きいっていうことも知られていて、
さらには病気の症状の一つであるっていう考えもあります。
例えば、双眸失忍っていう視力はちゃんとあるんだけど、顔を認識することのできない珍しい病気があるんですけれども、
この病気の人は相手の目を見ないという報告がありますし、
自閉症・スペクトラム障害の人も目を合わせるのを避けるとされています。
人と話をするときには相手の目を見るほうが信頼感があるし、
コミュニケーションがうまくいくっていう考えがあって、
それができないっていうことは不安が強かったり社会コミュニケーションが困難だという、
何か問題があるっていう考えがあったりするわけです。
でも、社会的不安だったり自閉症でも目を見るかどうかには、
その他の人と違いがないっていう研究もあって、まだはっきりしていないことが多いんです。
顔と物体の見る位置の関連性
で、最近、顔のどこを見るのかは社会性とかは関係ないし、
そもそも顔のパーツとも関係ない、もっとシンプルな理由があるっていうことを示す研究が発表されました。
今日はこの研究について話していきます。
ホットサイエンティストへようこそ、佐藤です。
今日紹介するのは、ユストス・リービッヒ大学のマクシミリアンブローダらによる研究で、
2024年3月にPNAS、アメリカ科学アカデミー企業に掲載されたものです。
そもそも、物を見るっていう行動は視覚システムの制約を受けています。
人間の場合、視野の中心ははっきり見えるんだけど、周辺は視力が落ちるわけです。
この特性から、理論的には目のほんの少し下を中心に見ると、人の顔が最もよく認識できるということで、
実際に顔の認識能力の高い人はその辺りを見ているんだそうです。
でも、みんながこの辺りを見ているわけではなくて、鼻とか口を見る人もいるんです。
じゃあ、見る場所を強制的に固定するとどうなるかっていう実験が過去に行われました。
だから、顔に対して見ている高さを固定した時に顔の認識の精度がどうなっているかを調べたわけです。
興味深いことに、顔の下の方、口をいつも見ている人に無理に目の辺りを見るようにさせても、
顔の認識が良くなるわけではなくて、もともと見ている場所を見た時が顔の認識が一番良かったという結果でした。
ということは、顔を認識する時に特定の見方をした方が認識しやすくなるんだけど、
その特定の見方っていうのに個人差があるっていうことが考えられるわけです。
目で見たものっていうのは網膜に映るわけです。
この網膜の平面に顔のテンプレートみたいなものがあるっていう考えがあって、
それに今見ている顔をピタッと合わせると顔として認識しやすいっていう考えがあるんですね。
この個人差の理由の可能性の一つは、そのテンプレートの位置が人によって少し違っているっていうものです。
人によっては目の辺りを見た時がテンプレートに合うし、人によっては口の辺りを見た時が良いっていう、そういう形です。
別の可能性もあって、そもそもものの見え方が少しずつ人ごとに違っているというものです。
例えば視野の中心よりも上側がよく見えるとか下側がよく見えるとか、
特に顔だけではなくて全てのものについて見え方の個人差があって、それが顔のどこを見るかを決めているのかもしれないっていうものです。
もしこちらの可能性が正しければ、人の顔だけでなくて、その他のものを見る時もその物体のどの部分を見るのかに個人ごとの偏りがあるはずです。
今回の研究ではこの点を調べるために、400人以上の参加者に様々なものが写っている700枚の画像をそれぞれ見てもらって、その時にどの部分を見ているのかを視線の位置を測定する装置を使って記録しました。
これらの画像には人の顔の写真というのもあるんですけど、まず人の顔を見ている時に顔のどこを見ているのか調べました。
確かに個人差があって、顔の上の方を見る人から下の方を見る人までいたわけです。
それぞれの個人について一貫しているということを確認するために、スプリットハーフ解析というのをしています。
これは画像を奇数番目と偶数番目の半分に分けて調べるというものです。
奇数番目で顔の上側を見ていた人は偶数番目の画像でも上を見ているというふうに確かに強い相関が見られて、ここで見ている個人差というのは単なるばらつきではなくて、一貫した十分大きなものであるということが確認されました。
今回の研究で使った画像には顔だけではなくて様々な物体が映っています。
例えばパソコンのモニターなんかが映っているんですけれども、次はそういった動かない物体を見ている時にその物体のどの部分を見ているか調べました。
これも個人差があって、物体の上の方を見る人から下の方を見る人までいたんです。
これについてもスプリットハーフ解析をして十分な個人差があるということを確認しています。
さて、次が確信の部分なんですけど、顔を見ている時の見ている場所の位置・高さと顔でない物体を見ている時の高さとに関係があるかを調べました。
つまり顔の上の方を見ている人は物体の上の方を見ているのかというのを調べたわけです。
その結果ですが、顔での視線の位置と顔以外の物体での視線の位置には強い相関が見られたんです。
つまり顔の上を見ている人、目を見ている人は他の物体を見ている時もより上側を見ているし、顔の下を見ている人、口を見ている人は他の物体でも下の方を見ているということが明らかになったんです。
この研究では、他にも物体の大きさによってどう変わるかとか、視線のばらつきはどうかなども調べているんですけど、メインの発見はこの結果で、個人ごとに物体のどの位置を見るかには個性があって、顔のどの位置を見るのかはそれで決まっているという部分がかなりあるという結論なんです。
だから顔のどの位置を見るかは顔に限定されたものではなくて、すべてのものをそうやって見ているということで、口を見ている人は他のものでも下の方を見ているということなんです。
少し補足をすると、どの位置を見るのかについて、顔と物では少し違いがありました。
顔の見方と物の見方の個人差
その一番上側を10、一番下を0とすると、顔では3から7くらいまで個人でばらつきがあるんですけど、物の場合はもっと中心に寄っていて、5から7までにばらついていました。
それでも顔の場合と物の場合で強い相関はあったということなんですね。
だから物で5くらいを見ている人は顔だと3あたりを見ている人が多いということなんです。
それから今回の研究ではどうして見る位置に個人差が生まれるかについては明らかになっていません。
物を見るときには網膜で光を認識して、それが脳の中の視覚野に伝わって物の形を認識するわけです。
網膜についても視覚野についてもその構造、働きに個人差があることが報告されていて、それぞれに都合の良い物の見方を個人個人でしているのではというのが今回の論文での考えなんですけれども、実際にそうであるのかについてはまだわからないということになります。
その顔のどこを見るのかっていうのは心理的社会的な影響で決まっているのではって思ってしまうんです。
でも今回の研究はただの物でも同じような見方をしているっていうことだったんです。
ただ話している相手の目を見るかどうかについては目が合った時に視線を反らすかどうかみたいな面もあるので、今回の研究ですべてが調べられているわけではないんですが、
少なくとも部分的には顔のどこを見るのかというのが物を見る時の単純な個性で決まっているという可能性が示されたわけです。
シーズン2開始にあたって改めて番組についての説明です。
まず私ですが大学で準教授をしていて専門は生物学です。もう少し細かく言うと神経科学、基礎医学、遺伝学などが専門になります。
残念ながら一流の研究者とかではなくてパッとしないわけなんですけど、それでも研究者として生活をしているとこれ面白いなっていう知識に出くわすんです。
そうすると人に話したくなるので、こうやってポッドキャストとして配信するっていうのがこの番組です。
生物学系の話が多くなるんですけれども、それ以外も僕が面白いと思ったものを話していきます。
でも専門分野の講義みたいなものではなくて、科学論文を物語として楽しむっていうのを目標にしています。
特に前提知識なしに理解できる1話完結で独立したエピソードとしていくつもりです。
こういった番組だと内容がどれだけ正しいかっていうのが重要だと思うんですね。
基本的には論文などに書かれていることを話していきます。
なので普通の科学番組程度の正確さは保ちますが、確認できるように主要な出典は各エピソードの小ノートに記載しておきます。
で、うさんくさい論文は参考にしないように気をつけているんですけれども、新しい論文を扱うっていう番組の性質上、論文自体が間違っているとかはどうしてもあり得ます。
でもこれはどんな科学番組でも同じなんですね。
それから、もし何か間違っているっていうのに気がついた人は番組説明のところのGoogleフォームからぜひご連絡ください。確認して訂正したいと思います。
他にも番組について問題点とか批判があれば全然躊躇せずに連絡していただけると嬉しいです。
私の自尊心よりも番組が良くなることの方が重要なので、そういったコメントは大歓迎です。
この番組は私が一人で話す回が多いんですけれども、他にも出演者がいます。
なあちゃんとあおいさんです。
この2人についてはまた出演する時に改めて自己紹介してもらいたいと思います。
それから最後にシーズン1ではこなやと私名乗ってたんですけれども、何か違和感があるので普通にさとしと呼ぶことにしました。
はい、というわけで番組の現状の説明でした。
でもシーズン1がそうであったようにここからも番組は変化していくと思います。
昨シーズンから継続の方もここから聞き始めるという方もそんな道のりを長くお付き合いいただければと思います。
じゃあ今日はこの辺にしたいと思います。最後までありがとうございました。
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