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2023-09-21 15:57

e40 幻覚剤は脳の扉を開く

MDMAやLSDのような幻覚薬がうつやPTSDの治療に効果があることがわかってきています。しかし、そのメカニズムはわかっていません。最近のマウスの研究で、幻覚薬に臨界期の扉を開く効果があることが示唆されています。


https://www.nature.com/articles/d41586-023-01920-2?WT.ec_id=NATURE-202306&sap-outbound-id=15717590F26C071E57A3027E3FF6095AC75D93A8

https://www.nature.com/articles/d41586-023-01869-2

https://www.nature.com/articles/s41586-023-06204-3

サマリー

近年、幻覚作用のある薬物の有用性が再評価されており、精神の病気の治療に使用されています。本研究では、マウスを用いた実験により、幻覚薬が大人の脳を若返らせ、仮想性を高めることが示されています。

幻覚作用のある薬物の再評価
あの、幻覚を起こす薬っていうのがあるんですね。
LSDとかMDMA、それからマジックマッシュルームの成分なんかがそうなんです。
これらの薬物っていうのは、麻薬の扱いになっていて、使用が禁止されているんです。
ただ、本当の麻薬、モルヒネとかヘロインみたいには毒性は強くないんですけれども、その作用から乱用されるんで、同じ扱いを受けているというところなんです。
でも、近年、薬としての有用性が再評価されていて、精神の病気に対する治療効果を調べる、そういう臨床試験が行われてきたんです。
それで今年のことなんですけれども、オーストラリアでMDMAやサイロシビンというマジックマッシュルームの成分をうつ病やPTSDの治療に使用することが認可されたんです。
国全体で認可されたのはこれが初めてなんですけれども、アメリカの一部の州では認可されていて、こういう麻薬の扱いの薬が他の薬では効果のない精神の病気の治療に役立つということが示されて、使用される方向に今はなってきているんです。
MDMAもサイロシビンも幻覚を起こすわけなんですね。他にもLSDとかケタミン、それからこれも植物に含まれるものなんですけれども、胃膨害因というのも幻覚を起こすんです。
これらの薬全部が治療効果もあるということがわかってきているんですね。でも、なんでこういう幻覚を起こす薬がうつとかPTSDに効果があるのかっていうのはわかっていないんです。
なんですけれども、最近その謎に迫るかもしれないっていう論文が発表されたので、今日はその話をしていきたいと思います。ホットサイエンティストへようこそ、こなやです。
今日紹介する論文は、ジョンズ・ホップキンス大学のロメインナードウラニオル研究で、2023年6月にNatureに掲載されたものです。この研究では、マウスを使って行動実験をしているんですね。
マウスに場所を選ばせるっていうタイプの実験なんですけれども、仲間と一緒にいることを好むかどうかっていうのを調べる、そんな実験なんです。
そのMDMAなんかはですね、人と人との結びつきを強める、そんな話が人でも動物でもあって、そういう社会性の変化を調べようとしたっていう、そういう研究内容になります。
ちょっとややこしいんですけれども、実験の条件を説明していきます。まずですね、2種類の部屋をマウスに覚えてもらうんですね。
例えば、青い部屋と茶色い部屋があるとします。で、片方の部屋、青い部屋の方には仲間のマウスがいるんですね。
で、もう一方の部屋、茶色の部屋には誰もいないっていう状態にしておきます。
で、一匹のマウスにですね、この両方の部屋を体験させるんですね。
それで、青い部屋の方には仲間がいるっていうことと、茶色の部屋の方では一人ぼっちになるっていうことを学習させます。
で、その後にですね、部屋の半分は青、部屋の半分は茶色っていう、そういう部屋に入れるんですね。
で、マウスはどちらの方にも行ける状態になってるんですけれども、その時にこのマウスはどちら側に長くいたか、つまりどちらを好んだかっていうのを調べるっていう実験になります。
で、別のマウスと一緒にいるのを好んでいれば青の方でたくさん時間を過ごして、一人の方が良ければ茶色の方でたくさんの時間を過ごすっていう結果になるわけなんですね。
マウス実験による仮想性の変化
で、以前に行われた研究で、マウスは若い時には仲間と一緒だった部屋の方を好むっていうことが明らかになってるんですね。
なんだけど、年を取るともうそうではなくなるっていうことがわかっていたんです。
だから若いマウスの方が社会的な状態を好む、社会性が高いっていうことが示されていて、年を取るとそうじゃなくなるっていうことなんです。
今回の研究では、実験の前にMDMAみたいな幻覚を起こす薬を投与して、その後にこの実験を行ったんです。
大人のマウスの場合は、何も投与していない時には、さっきあったように特に仲間と一緒にいた部屋を好んだりしないっていう結果だったんですね。
なんですけど、MDMAを投与した後だと仲間と一緒にいた部屋の方を好んだんです。
さらにLSDでもサイロシビンでもイボガインでも同じ実験を行っていて、これもすべて同じ結果で仲間と一緒にいた方の部屋を好んだんです。
この結果の興味深かった点は、幻覚っていうのは数時間しか続かないものなんですね。
でも、こういう行動の変化っていうのは何週間も続いたんです。
というわけで、今回の結果っていうのは、こういった幻覚薬っていうのは、大人のマウスを若いマウスみたいに仲間と一緒にいるのを好むようにするっていうことなんですね。
ということは、ひょっとしたら大人のマウスの脳が若返ってるのかもって、そういうふうに考えることができるわけなんです。
そういう考えでもって、さらに脳の中での変化っていうのをこの論文では調べていってます。
脳の中にはたくさん神経細胞があって、ネットワークを作って情報を処理しているわけなんです。
なんですけれども、このネットワークっていうのは、一度できたらもうその形のままっていうわけではなくて、配線が変化することができるんです。
特定の神経細胞同士の結びつきがあったときに、その結びつきが強くなったり弱くなったりするわけなんです。
こういうふうに変化する能力を持っていることをプラスティシティ、仮想性って呼ぶんですね。
やっぱり若いときのほうが仮想性が大きいもんなんです。
特に何か刺激があったときに配線の変化が起こりやすいかどうかをメタプラスティシティと呼んでます。
だから配線の仮想性にどれだけ仮想性があるかみたいな、そういう意味ですね。
この論文では、オキシトシンという社会性に重要な役割を持つホルモンによって起こる変化っていうのを調べていて、
原覚薬を投与するとその変化のしやすさ、仮想性が大きくなったっていうことも示しています。
これっていうのもやっぱり大人のマウスの脳が若い頃みたいに刺激に応じて変化しやすいものになっていたっていうことを示しているんです。
さらにもう一つ実験をやっていて、原覚薬を投与したときに脳でどんな遺伝子の働きが強くなったり弱くなったりしているのかっていうのを調べたんです。
その結果、細胞外マトリクスと呼ばれる神経同士の配線を変えるのに重要な役割を果たすタンパク質の発現が増えているっていうことも明らかにしています。
これらの実験結果から見えてくることなんですけれども、大人の脳っていうのは仮想性が低い状態なんですね。
つまりあんまり変化できない状態なんです。
若い頃っていうのは仮想性があるんですけれども、あるタイミング臨界期と呼ばれるものを超えると、扉が閉まってしまったようにもうあまり変化できない状態になってしまうんです。
今回の結果を考えると、MDMAみたいな原覚薬っていうのは、その扉を開けて一時的により変化できる状態、仮想性が高い状態を作っているのではっていう、そんな可能性が考えられるんです。
そういう状態になることによって、新しく学ぶことができるようになるんですね。
それによって、うつとかPTSDの治療の助けになっているのではないかっていう、そういうことが考えられます。
脳の変化と可能性
ただ、そういう結論に対する反論っていうのもあって、原覚薬っていうのが全体的な仮想性を上げているのではなくて、今回測っているものだけが変わっているっていう可能性もあるということなんです。
だから絶対に脳全体が若返った状態になっているということが、この研究だけで示せているわけではないんですけれども、もし原覚薬によって仮想性全般が上昇しているのであれば、こういった変化は社会性に限ったことではなくて、脳の別の働きについても起きている可能性があるということなんです。
もしそうだとすれば、例えば運動に関係するところでも変化が起きていて、脳卒中の後の運動機能のリハビリには仮想性が重要なんですけれども、それにも役立つのではないかということが考えられるんです。
実際にこの論文の著者らは、すでにそういった研究を始めていると、そんなことを言っていました。
ちょっとお話ししたいことがあるんですけれども、もしこの番組について不満な点とか批判したい点とかがあったら、そういった内容を全然遠慮しないでお送りください。
好意的な感想とかいただくことがあって、もちろんそういうのって嬉しいんですけれども、何か悪いところを指摘してもらえると番組の改善につながるんですよね。
だから不満に思っていることとか批判したいこと、あるいは僕が喋っていたことで間違っているんじゃないかみたいな、そういった指摘があれば気軽に送ってください。
そういうのを送るのって躊躇するっていうのはすごくよくわかって、なんか悪いなっていう気持ちになると思うんですよ。
ただ、研究者っていうのはお互いを批判しながら仕事の質を上げるみたいなことをよくやるので、そういうふうに批判されるっていうのは少なくとも僕は結構慣れていて、そんなに気分を害したりしない方なので全然気になさらなくて大丈夫です。
それでもやっぱり匿名のほうが送りやすいと思うんですけれども、例えばSpotifyのQ&Aの機能であれば匿名でコメントが書けますし、Googleフォームも用意してあって番組の説明のところに載っています。
こちらもですね、名前とか連絡先入れなくてもコメントを送ることができますので、そちらのほうから送っていただければ嬉しく思います。
ただ、ちょっとお断りしておかなきゃいけないのは、送っていただいた点をすべて直すことができるわけではないし、直さないっていうふうな判断をすることもあるっていうことです。
それはご理解ください。でもそうやって送るのっていうのは手間だっていうのはすごくよくわかっているので、すべての意見について真剣に検討しますし感謝いたします。
それから好意的な感想っていうのも今後も歓迎ですのでそちらのほうもよろしくお願いします。
じゃあ今日はこの辺で終わりにしたいと思います。最後までお付き合いありがとうございました。
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