神経変性疾患の基礎
神経変性疾患と呼ばれる病気があるんですね。
アルツァイマー病とかパーキンソン病がそうなんですが、脳の中の神経細胞が徐々に壊れていって、認知機能とか運動機能に異常が生まれる病気のことを指します。
このような病気では異常なタンパク質が溜まっていることが知られていて、これが神経細胞の機能に異常をもたらします。
病気ごとにこの病原性を持つタンパク質の種類が違うんですが、パーキンソン病ではアルファシヌクレインというタンパク質、
アルツァイマー病ではタウというタンパク質が細胞の中に蓄積します。
ちなみにアルツァイマー病ではアミロイドβというのも蓄積するんですが、これは細胞の外に蓄積するものです。
このアルファシヌクレインとかタウというタンパク質が細胞の中で悪影響を及ぼすことで、神経細胞が最終的には死ぬということになります。
また、これらの異常なタンパク質は病原性が広がっていくという性質があります。
これは最初に恐竜病の原因であるプリオンというタンパク質でわかったことなんですが、
プリオンには正常で細胞に悪影響のない状態と、病原性の高い異常な状態の2つの状態があるんです。
異常な状態のタンパク質が正常な状態のタンパク質に触れると、正常な状態から異常な状態へと変化して、病原性を発揮するようになります。
ですから、1つの神経細胞に異常なプリオンがいると、まずその中で異常なプリオンが増えていって、
さらにその細胞から別の細胞に異常なプリオンが移動することによって、異常なプリオンを持つ細胞が増えていきます。
このように言ってみれば、ゾンビみたいな性質をアルファシヌクレインとかタウは持っていて、病原性が細胞間を伝わることが知られています。
細胞というのは膜に覆われているわけなんですけれども、タンパク質がどうやって膜を越えて移動していくのかですが、
タンパク質が細胞膜から放出されたり取り込まれたりすることがありますし、小さな膜に囲まれた状態で別の細胞に移動することもあります。
さらに細胞が異常なタンパク質の作用で死ねば細胞が壊れて、多くの病原タンパク質が細胞外に放出されて別の細胞に伝わります。
細胞内の病原タンパク質だけが有害なのではなくて、細胞の外にある病原タンパク質も炎症反応を引き起こすことによって神経の変性を引き起こすとされています。
このようにして異常なタンパク質によって病気が発症するのですが、人間の体にはこれに抵抗する仕組みも備わっています。
脳の中には血液にあるような抗体を作る免疫細胞というのは存在しないのですが、マイクログリア細胞というのが存在していて、これが脳内の免疫細胞だと考えられています。
マイクログリアは神経細胞に異常がないか、細胞の外に異常な分子はいないかを常にモニターしています。
そして異常を検出すると、細胞外の病原性タンパク質を取り除いたり、異常を示している神経細胞を攻撃して異常な細胞を除くという働きを持っています。
これによって異常なタンパク質が広がっていくのが食い止められるわけです。
パーキンソン病のアルファーシヌクレイン、それからアルツアイマ病のタウンに関しては、神経細胞の中にあるときには別の細胞であるマイクログリアはアクセスできないわけですから、
トンネルナノチューブの発見
マイクログリアの標的になるのは主に細胞の外にある異常タンパク質で、神経細胞が死んで出てきたこういったタンパク質にマイクログリアは作用して神経細胞を守っているのだろうと考えられていました。
また、マイクログリアが神経細胞が異常であると認識した場合には神経細胞自体を攻撃してしまうことになるので、すでに異常タンパク質に攻撃されている神経細胞そのものをマイクログリアは守ることはできないわけです。
しかし最近、マイクログリア細胞と神経細胞が細い管でつながっている場合があることが報告されました。細胞は膜で別の細胞とか外の空間とは仕切られているわけです。
でも、トンネルナノチューブと呼ばれる細い細胞膜の管で、マイクログリアと神経細胞という別々の細胞がつながっている場合があるということがわかったのです。
今日は、マイクログリアから神経細胞へとつながるこのトンネルが異常なタンパク質に対してどんな作用を持つのかについて話していきます。
ホットサイエンティストへようこそ。サトシです。
今日紹介するのは、ボン大学病院のハンナ・シャイブリッヒラによる研究で、2024年9月にニューロンに発表されたものです。
この研究では、マウスから神経細胞を取ってきて、シャーレで培養したものを使って実験をしています。
異常なアルファシヌクレインにさらした神経細胞と、そうでない神経細胞を比較しています。
アルファシヌクレインには毒性がありますから、さらした細胞には異常が見られるわけで、解析した結果、特にミトコンドリア関係の異常が見られました。
ミトコンドリアはエネルギーを作る細胞内の器官なのですが、異常があると活性酸素が生まれて、それが神経細胞に酸化ストレスをもたらして細胞が死ぬということになります。
次にマウスからマイクログリア細胞を取ってきて、神経細胞を培養しているところに一緒にマイクログリアを加えて培養するということをしました。
この一緒に培養された細胞を細かく観察すると、マイクログリアと神経細胞の間に細いつながり、トンネルナノチューブが存在することが確認されました。
細胞が細い管を出すということはよくあるのですが、ここで観察されたのは単なる触手みたいな一方の細胞から伸びているだけのものではなくて、細胞同士がつながっているということも確認されたのです。
面白いことに、アルファー死ぬクレーンを加えたときに、このマイクログリアと神経細胞を結ぶナノチューブが増えていたということです。
ということは、何かナノチューブとアルファー死ぬクレーンには関係がありそうです。
さらに細かく見ていくと、ナノチューブのところにアルファー死ぬクレーンが存在することがわかりました。
だから、アルファー死ぬクレーンがナノチューブを通過しているかもしれないということになります。
もしそうであれば、神経細胞の中にいるアルファー死ぬクレーンがナノチューブを通ってマイクログリアに移動していって、神経細胞のアルファー死ぬクレーンが減っているかもしれないと考えられます。
マイクログリアがあるときとないときで、神経細胞の中にあるアルファー死ぬクレーンの量を調べていて、マイクログリアがあると神経細胞のアルファー死ぬクレーンが減ることを示していました。
このマイクログリアに移動していったアルファー死ぬクレーンですが、マイクログリアの中で分解されることも示しています。
というわけで、従来は細胞の外の異常タンパク質を分解していると思われていたマイクログリアですが、それだけではなくて、神経細胞とクダで繋ぐことで、直接アルファー死ぬクレーンのような異常タンパク質を吸い出して分解していることがわかりました。
ミトコンドリアの動き
さて、最初に話した通り、異常なアルファー死ぬクレーンによって、ミトコンドリアに異常が見られて、その結果、酸化ストレスで神経細胞が障害されているという話でした。
ミトコンドリアの異常というのは、パーキンソン病に限らず神経変性疾患との関係が深いと言われています。
教科書的には、ミトコンドリアは細胞のエネルギー向上で、以前微生物だったものが細胞に住みついて細胞の中に増えるようになったもので、一つの細胞の中にずっといるものだと理解されています。
しかし最近では、ミトコンドリアが一つの細胞から別の細胞に移動するという例が報告されています。
そこでヒッシャラは、マイクログリアと神経細胞のミトコンドリアの挙動を調べました。
その結果わかったのは、トンネルナノチューブを通ってマイクログリアから神経細胞にミトコンドリアが移動していっているということです。
マイクログリアの役割
でもこの逆はあまり起きておらず、アルファシヌクレインによってミトコンドリアに異常が起きている神経細胞の方へマイクログリアからミトコンドリアが供給されているということがわかったわけです。
マイクログリアと一緒に培養した神経細胞を解析すると、酸化ストレスが低下していて細胞死も抑制されていたということでした。
さらにはアルファシヌクレインのような異常タンパク質で神経の活動がおかしくなるのですが、それもマイクログリアによって正常に戻っていたということです。
ですから異常なタンパク質で神経細胞のミトコンドリアに異常が見られると、マイクログリアから正常なミトコンドリアが移動していって、神経細胞のミトコンドリア機能を正常に戻すという可能性が示されたわけです。
ここまでの実験についてはアルファシヌクレインのことだけをここでは話してきましたが、アルツァイマ病のタウについても同様な実験をしていて、タウでも大体同じことが見られるということを示しています。
ですから、パーキンソン病に関わるアルファシヌクレインだけでなくて、別の種類の異常タンパク質についてもマイクログリアが神経細胞から異常タンパク質を抜き取って、ミトコンドリアを供給することで神経細胞を救っているということが示されたわけです。
ですから、他の神経変性疾患についても、この細いトンネルを使った同様の仕組みが働いている可能性が十分にあります。
ナノチューブの発見
さて、ここまで驚くような結果が示されたわけですが、これはマウスから神経細胞とマイクログリアを取ってきて、培養液の中で培養したという人工的な実験計での結果です。
したがって、実際の脳の中で同じことが起きているのか、人で起きているのかについては疑問が残っています。
そこで次に、マウスの脳にアルファシヌクレインを持つ神経細胞を移植する実験をしています。
この導入した細胞を光るように細工をしておいたんですけれども、この光を頼りに観察すると、トンネルナノチューブのような構造が観察されました。
さらには亡くなった人の脳も調べていて、こちらでもナノチューブのような構造が見られたということで、人でもバイオ細胞と同じようなマイクログリアによる神経細胞の救助が行われている可能性が示唆されたわけです。
ただ注意すべき点として、トンネルナノチューブの研究はまだ少なくて、ナノチューブであるということを決定する方法が確立していないので、バイオ細胞で観察されたものと脳で観察されたものが同じものであるとは、はっきり言うことができないと、筆者らは指摘していました。
ですから現時点では、調べられる範囲ではナノチューブと同じようなものが見られたということになります。
マイクログリアもそうなんですけど、血液中にある免疫細胞も異常なタンパク質が存在するときには、細胞の外の場合にはそれを直接除去して、細胞の中の場合には細胞ごと攻撃することで除去すると考えられてきました。
しかし今回の研究では、細胞同士を細い管でつなぐことで、異常タンパク質やミトコンドリアをやり取りすることで、神経細胞を助けるということをマイクログリアがしていることを示しています。
さらに、このナノチューブの数はアルファーシヌクレインによって増えているということから、ナノチューブを形成する段階からダイナミックな反応であることが考えられます。
そんな神経保護の新しいメカニズムを明らかにしたわけで、新しいからこそ、どのようにこんなチューブが作られるのか、どんな気候で移動するものや向きが決められているのかなど、さまざまな新しい疑問が生まれてくる研究でした。
今日は少しお知らせがあります。これは私自身は参加していないんですけれども、科学系ポッドキャストが何番組か集まってイベントを行ったというものがあるんですね。
ポッドキャストシンポジウムというイベントです。そのイベント自体は11月初旬に終わってしまっているんですけれども、そのアーカイブ音声を配信しています。
これが有料なんですけれども、1月14日までは半額であるということのようです。
それに対するリンクを今回のエピソードのショーノートに載せておきますので、もし興味がある人はぜひチェックしてみてください。
では今日はこの辺で終わりにしたいと思います。最後までお付き合いありがとうございました。