こんにちは、株式会社KAZAORIの矢澤彩乃です。
推し活未来研究所へようこそ。
この番組では、ますます盛り上がりを見せる
推し活をビジネスの視点から、そして時には私自身の経験も交えながら
楽しく、そして深く紐解いていきます。
私は普段、推し活をテーマにしたビジネスを提供する方は
ベーシストとしてアーティストのバックで演奏することもあります。
これこそ、推す側と推される側、両方の視点から
推し活の面白さや、その未来の可能性を皆さんと共有できたらと思っています。
実は先日、とある方からのご依頼で
初めて、宝塚大劇場にバルーンを贈る機会があったんです。
私は、舞台やミュージカルの世界にも携わっていたので
宝塚出身の友人も何人かいるんですが
なかなか気になってはいたけど、ちゃんと触れたことがなかったなぁと思ったんです。
今日は改めて、その魅力を深掘りしてみたいと思います。
本日のテーマは
推し活の原点 宝塚歌劇団110年目の試練とその未来です。
華やかで夢のような世界観、そして熱量の高いファンの皆さん
そこには推し活の原点ともいえるような空気が確かにありました。
番組を聞いての感想や、あなたの宝塚推し活エピソードなど
ぜひハッシュタグ推し活未来研究所でシェアしていただけたら嬉しいです。
それでは早速本編に入っていきましょう。
まず宝塚の推し活を理解するためには
この組織がいかに特殊で成功に作られた夢の製造装置であるかを知る必要があります。
物語の始まりは1914年
阪急電鉄の創業者である小林一蔵が
鉄道の終着駅だった宝塚の地を盛り上げるため
温泉施設の余興として少女たちによる歌劇団を創設したのが始まりでした。
彼が掲げた清く、正しく、美しくという理念は
今なお宝塚の精神的支柱として全ての宝ジェンヌに受け継がれています。
宝塚には花、月、雪、星、空という5つの組と
特定の組に所属しないスペシャリスト集団である1000歌が存在します。
この5つの組が兵庫県の宝塚大劇場と東京宝塚劇場という2つの専用劇場で
年間を通して順番に公演を上演し続ける。
この万弱なシステムによりファンは常にどこかで宝塚の舞台に触れられる環境が作られています。
そしてそれぞれの組には厳格な階層構造、ピラミッドが存在します。
その頂点に君臨するのが各組に1人だけの男性役のトップスターと
その相手役を務める女性役のトップ娘役です。
その下には2番手3番手と呼ばれるスターたちが続き
ファンはこのスターたちの競争や次のトップスターは誰になるのかという継承物語に熱狂する。
これは現代のアイドルグループのセンターや選抜というシステムのまさに原型と言えるでしょう。
このシステムの核となっているのが世界でも類を見ない男役と娘役という制度です。
宝塚は未婚の女性だけで構成され、舞台上の全ての役を女性が演じます。
ここで重要なのは男役というのは単に女性が男性の格好をしているわけではないということ。
男役10年という言葉があるように低い声の出し方、立ち振る舞い、独特の姿勢の使い方まで長年の厳しい訓練を経て作り上げられる
現実には存在しない理想化された究極の男性像なのです。
彼女たちは普段の生活においても男役としてのイメージを維持し
ファンにとって一人の完璧な理想の男性として認識されます。
しかし同時に彼女たちは女性でもある。
この男性でもあり女性でもあるという二重性がファンにとって特別な魅力となっています。
つまりファンにとって男役は理想の男性であると同時に理解し合える同性でもある。
この複雑な関係性が他のエンターテインメントでは得られない特別な感情移入を可能にしているのです。
この唯一無二の宝ジェンヌたちはただ一つの入り口、宝塚音楽学校から生まれます。
毎年約40人しか合格できない超難関の2年生の学校で未来のスターを夢見る美少女たちが全国から集まる。
清く正しく美しくという校訓の下、バレエや声楽はもちろん礼儀作法に至るまで舞台人として必要な全てを叩き込まれます。
そして驚くべきことに生徒たちは入学した時点で自分の将来の道を男役か娘役かに決め、そこから2年間それぞれの役に特化した専門的なレッスンを受けるのです。
こうして見ていくと宝塚歌劇団というのが単なるエンタメ企業ではないことがわかります。
音楽学校という人材育成機関で才能を発掘し、徹底した教育で宝ジェンヌという唯一無二のブランドを作り上げ、専用劇場でその価値を最大限に発揮させる。
これは人材の入り口から出口までを完全にコントロールする完璧な垂直統合型のビジネスモデル。
この閉鎖的で自己完結したシステムこそが他では決して真似のできない濃密な夢を生み出す原点であり、同時に後から明らかになる組織の弱さの原因にもなっていたのかもしれません。
自分の推し活が推しの人生に実際に影響を与える、この参加感こそが宝塚ファンの熱狂の源泉であり、現代の推し活文化の最も重要な要素の一つでもあります。
考えてみれば、これは劇団側にとって非常に都合の良いシステムだったのかもしれません。
最も熱心なファンを管理し、関係性を深めるという膨大なコストのかかる作業をファン自身が会という形で肩代わりしてくれていたんですから。
劇団と会は、スターを介したある種の共存関係にあった。しかし、この強化の結びつきが生み出す熱狂とプレッシャーが、後に大きな悲劇の一因となってしまったことは否定できない事実かもしれません。
長年、鉄壁を誇ってきたかに見えた宝塚という夢の王国。しかし、2023年9月、その夢は突然悪夢へと変わりました。所属する劇団員の方が、自ら命を断つというあまりにも痛ましい出来事が起きたんです。
ご遺族が訴えたのは、その死を背景に、新人公園のまとめ役として極度の長時間労働と、上級生からのパワーハラスメントがあったということでした。
これは、宝塚が100年以上にわたって培ってきた閉鎖的で厳格な上下関係を重んじる伝統的な組織風土そのものが問われる非常に深刻な告発でした。
この問題をきっかけに、これまで正益とされてきた宝塚の内部に外部の厳しい目が向けられることとなります。
労働基準監督署が調査に入り、劣勢勧告を出す事態にまで発展しました。
当初の劇団側の対応は、世間の勧告とは大きくかけ離れたものでした。
ハラスメントの存在をなかなか認めず、問題を小さく見せようとするかのような否定は、多くのファンや社会からの信頼を大きく整う結果を招きました。
最終的には劇団は、ハラスメントがあったことを認め、ご遺族に謝罪しましたが、その過程で明らかになったのは、組織としての危機管理能力の欠如でした。
この一連の出来事が明らかにしたのは、宝塚という組織が抱える根深い問題です。
清く、正しく、美しくという崇高のモットーや、男役10年に象徴されるような、ゲイのためなら全てを犠牲にするというストイックな精神論。
これらは長年、宝ジェンヌの美徳として語られてきました。しかしその精神論が、現代の労働者の権利やメンタルヘルスといった価値観と相入れない、危険で持続不可能な労働環境を正当化する言い訳として機能してしまっていたのです。
この未曾有の危機を受け、親会社である阪急阪神ホールディングスは、宝塚歌劇団の抜本的な改革に乗り出すことを発表しました。
それは110年の歴史上、最も大きな自己変革の試みと言えるでしょう。
改革の第一の柱は、労働環境の改善です。年間の講演数を減らし、1週間の講演回数も減らすことで、生徒たちの休息期間を確保しました。
さらに、楽屋口にセキュリティゲートを設置して、入隊間時間を記録し、稽古の終了時間を早めるなど、客観的な労働時間管理を導入、生徒とスタッフ全員にタブレット松明を配布するなど、現代的な変化も進められています。
第二の柱は、組織構造の改革です。
最も大きな変化は、これまで阪急電鉄の一部門だった宝塚歌劇団を独立した株式会社に移行させるという決定です。
これにより経営の透明性を高め、外部の視点からチェック機能を強化する狙いがあります。
また、これまで曖昧な立場にあった生徒たちと正式な雇用契約を結ぶことも発表されました。
そして第三の柱が、生徒へのサポートと組織文化の変革です。
劇団内に常設のカウンセリングルームを設置するなど、心身のケア体制を強化。
全生徒とスタッフを対象としたハラスメント検証を導入し、時代にそぐわないルールを廃止するなど、組織の風土そのものを変えようという強い意志が示されています。
これらの変革は、宝塚が近代的な企業として生まれ変わるための必要不可欠な一歩です。
しかし、この変革にはある種のジレンマも含まれています。
劇団員へのアンケートでは、身体的な負担が減ったことを歓迎する声が上がる一方で、稽古時間が減ることで公演のクオリティを維持できるのかという不安の声も寄せられているのです。
あの息を呑むほど完璧な宝塚の舞台芸術は、もしかしたらこれまでの持続不可能なほどの自己犠牲の上にしか成り立たないものだったのでしょうか。
芸術性の維持と働く人の尊厳、この両立という極めて困難な課題に宝塚は今、真正面から向き上がられない状況にあるのです。
この組織全体の大きな変化は、ファンの在り方、そして推し勝ちそのものにも大きな変化を迫っています。
最も大きな変化は、SNSの存在によって、ファンが単なる夢の消費者から劇団の運営を監視し、意見する当事者へと変わったことです。
事件後、XなどのSNS上では、劇団の対応を厳しく批判する声や、今後の宝塚がどうあるべきかについての真剣な議論がファン自身の言葉で交わされるようになりました。
もはや劇団が発信する情報を無条件に受け入れる時代は終わったのです。劇団側も、この新しいファンとの関係性に戸惑っているように見えます。
例えば、肖像権を理由に、ファンが描く生徒のイラストをSNSに投稿することを全面的に禁止しようとして、ファンから大きな反発を招いた一件などはその象徴かもしれません。
そして、あの強力な会のシステムにも変化の波が来ています。
公式ファンクラブTOMOの会は、2025年4月からチケット先行販売を抽選方式に一本化し、先着順を廃止、さらに公式リセールの開始、ステータス制に変わる新制度の導入など大規模なリニューアルに踏み切りました。
販売の公平性を高める方向の見直しであり、結果としてこれまで機会を得にくかった層にも一定のチャンスが行き渡りやすくなる可能性があるそうです。
もし一般のファンがチケットを手に入れやすくなれば、会の最も重要な機能だったチケット確保の優位性は相対的に薄れ、ファンコミュニティの形が変わるかもしれません。
また、劇団はデジタル時代への対応を進めています。
コロナ禍をきっかけにライブ配信を導入し、地理的な制約を超えて新しいファンに魅力を届けられるようになりました。
配信では劇場で見えない細かい表情が楽しめる一方を、劇場では配信では得られない臨場感を味わえる。
この使い分けによって推し勝つの選択肢を増やす結果となっています。
かつてのような都市とコミュニティの熱狂から、より開かれ、多様な視点を持つ人々が時に批判し、しかし愛情を持って関わっていく新しい形へ。
ファンが求めるものは、もはや舞台上の完璧な夢だけではありません。
その夢を生み出す組織の倫理や健全性まで含めて応援する価値があるかを問い直す試合になったのかもしれませんね。
さて、いかがだったでしょうか。
完璧な夢を製造するために作られた巨大で閉鎖的なシステム、宝塚。
それを支えてきた熱狂的で献身的なファンタジーの仕組み。
しかし、その完璧さを維持するためのプレッシャーがシステムの内側から崩壊を引き起こし、110年の伝統が痛みを伴いながらも現代社会と見合わざるを得なくなりました。
宝塚は今、歴史的な変革の真っ只中にいます。