まず私たちが立っている現在地を確認しましょう。 かつては家族みんなでテレビの前に集まり、ゴールデンタイムの番組を一緒に見るのが当たり前でした。
週末にはレンタルビデオ店に行き、何を借りようかと棚を眺める時間が楽しかったですよね。 しかしBCG、
ボストンコンサルティンググループの調査によれば、今や私たちの視聴環境は劇的に変化しています。
新しいメディア、ネットフリックスやYouTubeといった低額制広告型の動画配信サービスやSNSが全体の視聴時間の6割を占めるようになり、
従来のテレビ視聴時間は減り続けています。 総メディア視聴時間自体は1日約4.5時間と横ばいですが、
その中身がガラリと変わったんです。 テレビというお茶の間の共有体験から、スマホやタブレットを使ったインターネットメディアでの個別体験に変わりました。
これは推し活においても同じです。 以前は音楽番組をテレビで見て、翌日学校や職場で昨日のあれ見た?と盛り上がれました。
でも今は各ライブ配信プラットフォームや動画サービスにコンテンツがバラバラに存在しています。
本に8時から配信スタートという告知をXで見かけても、そのサービスに入っていなければスタートラインにすら立てない。
ビデオに録画しておくという習慣も失れ、リアルタイムで見逃すと二度と見られないケースも増えました。
視聴スタイルが個人化し便利になった一方で、私たちは推しを見るための切符を毎回探し回らなければならなくなったのです。
では、なぜここまで配信サービスが増え、コンテンツが分断されてしまったのでしょうか?
そこにはプラットフォーム側とコンテンツホルダー側の強烈なビジネス戦略が存在します。
当初、ネットフリックスはあらゆる映画会社やテレビ局の作品を配信する巨大なレンタルビデオ店のような存在でした。
ここに入れば大抵のものは見られる、そんな夢のような場所でした。
しかし、コンテンツを提供していたディズニーやワーナーなどの権利者たちは気づいてしまったんです。
待てよ、私たちの作品がネットフリックスで儲かっている。それなら自分たちで配信した方が利益になるんじゃないか?と。
ここから独占配信という名の戦争が始まります。
2019年、ディズニーは自社コンテンツをネットフリックスから引き上げ、ディズニープラスを立ち上げました。
マーベルもスターウォーズもディズニー作品はそこでしか見られない独占状態にしたのです。
他社もこれに続きました。
Amazonプライムビデオ、Hulu、そして日本国内でもUNEXTやDアニメストア、アベマTVなどが独自のラインナップを強化し始めました。
なぜなら、配信サービスの機能自体は大きな差がないからです。
ユーザーを自分のサービスに引き止めるための唯一にして最強の武器、それがここでしか見られない作品、つまり独占コンテンツなんです。
例えばアニメ業界を見てみましょう。
バキシリーズはネットフリックスが全世界独占配信していますが、坂本デイズという作品は日本では複数のサービスで見られるものの、
ネットフリックスでは1週間先行配信、海外ではネットフリックス独占といったように非常に複雑な配信形態をとっています。
Dアニメストアはアニメ特化を掲げ、5500本以上の作品数と地上波同時最速を武器にしています。
さらにKPOP業界やアーティスト側にも事情があります。
ハイブが運営するウィバースやJYPのバブルのように、事務所単位でプラットフォームを作る動きも加速しています。
これはアーティスト側にとって高還元率と安定収益、手厚い技術サポート、そして契約金という大きなメリットがあるからです。
YouTubeのような巨大プラットフォームに頼るよりも、自社や特定のプラットフォームと独占契約を結ぶ方がビジネスとして見入りが良い。
このビジネスの合理性が結果として私たちファンの利便性を犠牲にしている側面があるのです。
この大人の事情によるプラットフォームの分断は、私たちファンに具体的かつ深刻なダメージを与えています。
私はこれを推し勝つの三重句と呼んでいます。
一つ目の読みは、言わずもがな、お財布へのダメージです。
Netflix、Amazonプライム、ディズニープラス、Hulu、主要なサービスをすべて契約すると、月額料金だけで5000円近くあるいはそれ以上になってしまいます。
推しが複数いる賭け持ちのファンの場合、ファンクラブ会費、コミュニティアプリ代、動画配信サブスク代、これらが積み重なり、年間数万円から十数万円の固定費がのしかかります。
推しへの課金は愛とはいえ、それがコンテンツそのものではなく、プラットフォームの利用料として消えていくことに虚しさを感じる人も多いのではないでしょうか。
二つ目の読みは、見逃し恐怖です。
マーケティング用語ではフォーモ、フィアーオブミッシングアウトとも呼ばれます。
例えば、今日はYouTubeで無料配信、続きはファンクラブアプリで、アーカイブはHuluで、このような情報が分散していると、常にアンテナを張り巡らせていなければなりません。
気づいたら配信が終わっていた。推しの最高の瞬間を見逃してしまったという疎外観。
推しの活動の全貌が見えないことへのストレスは、推し活の楽しさを蝕む毒になりかねません。
どのサービスで何が見れるかを管理するだけでひと苦労。
本来癒しであるはずの推し活が、いつの間にか情報処理タスクになってしまっているんです。
そして三つ目の読みは、繋がりの分断です。
同じ推しを応援していても、Netflixの住人とXの住人、あるいは有料会員と無料会員の間で見ている景色が違ってきています。
共通の話題で盛り上がりたくても、「あ、ごめん。私そのアプリ入れてないからわからない。」という会話が生まれてしまう。
ファン同士の一体感がそがれてしまうんです。
さらに深刻なのが、海外ファンとの壁です。
日本のドラマやアニメの多くは、権利の関係で海外からのアクセスをブロックしています。
日本で話題の配信が海外のファンには届かない。
彼らはVPNを使ったり、時には違法アップロードに頼らざるを得ない状況に追い込まれています。
教えの愛に国境はないはずなのに、プラットフォームの壁が物理的な距離以上に心の距離を作ってしまっているのです。
この問題、苦しいのはファンだけではありません。
実はアーティスト側も大きなジレンマを抱えています。
独占配信やクローズドなアプリにコンテンツを閉じ込めることは、既存の濃いファンからはしっかり収益を得られますが、新しいファンとの出会いを阻害してしまいます。
かつては何気なくつけていたテレビで、「あ、この人いいな。」と偶然出会うことがありました。
しかし今は、アルゴリズムによって好きそうなものしかレコメンドされません。
さらに配信プラットフォームが違えば、その作品の存在すら知ることができない。
ネットフリックスでしかやらないアニメは、ネットフリックスに入っていない人にとっては存在しないのと同じになってしまうリスクがあるのです。
そして何より切ないのが、推しの成功がファンの負担になるという矛盾です。
アーティストがステップアップして、より良い条件のプラットフォームと契約する。
それは喜ばしいことですが、その度にファンは新しいアプリを入れ、新しい課金をする必要がある。
推しが大きくなればなるほど追いかけるコスタが上がっていく。
推しには成功してほしい、でもこれ以上追いかけるのが辛い。
そんな複雑な感情を抱かせている現状は、業界全体で考えるべき課題だと私は思います。
さて、暗い話ばかりしていても始まりません。
私たちはこの分断された世界でどうやって推し活動を楽しんでいけばいいのでしょうか。
明日から使えるファンの自衛策と未来への希望をお話しします。
まず一つ目は、サブスクホッピングという選択です。
ずっと全てのサブスクに入らなくてもいいですよね。
今月はネットフリックスで推しが出るからそこだけ契約。
見終わったら解約して来月は別の配信に切り替え。
こんな風に見たい時だけ入るスタイルにすると固定費がぐっと下がります。
解約が手間だなぁと思うこともあるんですが、ここはお財布に優しい方法を優先したいですね。
二つ目は横断検索ツールの活用です。
どのサービスにあるかわからない問題には、
ジャストウォッチのような横断検索ツールを使えば作品名を入れるだけで、
今どのプラットフォームで配信されているか、どこが一番安いか、レンタルか見放題かを一発で検索できます。
無駄な探索時間が減るのでとても便利です。
私もこのサイトでよく検索しています。
三つ目はコミュニティでの情報共有です。
一人で全部追うのは限界がありますよね。
だからファン仲間と情報シェアするのが一番です。
友達の招待URLでお得に見れたりもするので、情報シェアはお互いにメリットがあります。
もしかつはある意味チームプレイ。
みんなで補い合うことでもっと楽しくなるかもしれませんね。
最後にビジネスの視点からこの問題がどう解決に向かうべきか。
実は海外ではすでにこのバラバラ問題を解決する新しい動きが始まっているんです。
それがサブスクのおまとめサービス。
専門用語ではアグリゲーション、集約と呼ばれる動きです。
例えばオーストラリアのオプタスという通信会社が提供しているサブハブというサービスがあります。
これはNetflixやAmazonプライム、YouTubeプレミアム、スポーツ配信などバラバラだったサブスクリプションを一つの画面で管理できるというものです。
ファンにとって何が嬉しいかというと、まず支払いが一箇所にまとまります。
今月はいくら使っているかが一目でわかる。
さらに複数のサービスをまとめて契約することで割引が受けられたり、見なくなったサービスをその画面からワンクリックで解約できたりするんです。
アメリカでも携帯キャリアVerizonなどがディズニーやHuluなどをセットにしたお得なプランを提供し始めています。
一つのアプリ、一つの請求書で全ての推しコンテンツが見られる。
そんな風に散らばったパズルのピースをもう一度集めようとする動きが世界中で加速しているんです。
日本でも今後こうしたお求めサービスが登場してきたらいいですよね。
そうなれば私たちはどのアプリだっけ?と迷うことなく、もっとシンプルに推しとの時間を楽しめるようになるはずです。
ビジネス側も囲い込むだけではなく、つなげて便利にすることの価値に気づき始めていると思うので、ぜひ導入してほしいです。
さて、ここまで推しはどこで見れるの問題を深く掘り下げてきました。
テレビやレンタルビデオの時代から、私たちはいつでもどこでも見られる自由を手に入れました。
その代償として支払ったのが、この複雑さと分断です。
しかし逆に言えば、それだけ推しと出会える場所が増えたということでもあります。
テレビに出られなかったニッチな才能がYouTubeで花開いたり、世界中のファンとリアルタイムでつながれたり、この多様性は間違いなく今の時代の豊かさです。
分断されたプラットフォームの闇は深いです。
でも、闇の中には無数の新しい光も生まれています。
重要なのは、現状を嘆くだけでなく、便利なツールや仲間の力を借りて、この状況を攻略していくこと。
そして、プラットフォーム側や業界に対して、私たちはこういう環境を求めているんだと声を上げ続けることかもしれません。
推し勝つの未来はまだ発展途上です。
不便さも負担も全てひっくるめて、私たちファンとアーティストが試行錯誤しながら新しい形を作っていくタイミングなのかもしれません。
皆さんはこの推しはどこで見れるの問題、どう感じていますか?
私はこんな工夫で乗り切っている。このサービスはここが辛い。
など、ぜひあなたのリアルな声を、ハッシュタグ推し勝つ未来研究所でシェアしてください。
皆さんのその声が巡り巡って、推し勝つカルチャーをより良い方向に動かす力になると信じています。
それでは次回の推し勝つ未来研究所でまたお会いしましょう。
ここまでのお相手は株式会社カザオリの矢澤彩乃でした。
ご視聴ありがとうございました。