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#61 【ちいかわの世界進出】中国では“痛み止め”と呼ばれていた——ハワイ大学教授が見抜いた「不安」の正体【推し活未来研究所】
2026-08-24 29:52

#61 【ちいかわの世界進出】中国では“痛み止め”と呼ばれていた——ハワイ大学教授が見抜いた「不安」の正体【推し活未来研究所】

『推し活未来研究所』🎧 毎週月曜あさ7時配信!


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Z世代の推し消費トレンド、社員のエンゲージメントを高める「社内推し活」の可能性、ファンに熱烈に”推される”ブランドやサービスの作り方など、身近でちょっと気になる推し活関連のトピックをピックアップ。

難しい専門用語は使わず、「ゆるっと深掘り」していきます。聴いていると元気が出て、明日からのちょっとした活力になるような番組を目指しています☀️


▼ パーソナリティ


矢澤 綾乃


株式会社KAZAORI (https://kazaori.co.jp/) 代表取締役

ファンやコミュニティの「好き」や「熱量」を起点に、企業のマーケティング支援、ブランドプロデュース、新規事業開発などを手掛ける。推し活の記念日やイベント等を華やかに彩るバルーン事業なども展開し、「好き」を形にするための多様なサポートを提供している。

現役ベーシスト

様々なアーティストのライブサポートやレコーディングに参加するミュージシャンとして、現在も活動中。

推す側・推される側の視点を持つ「現場あがり」の実践者

アーティスト/クリエイター側と、それを応援するファン側の両方のリアルな視点と経験を持つユニークな存在。この経験を活かし、“推し活×ビジネス”の新しい可能性を日々探求し、そのインサイトを番組で分かりやすく発信しています。

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それでは、また月曜あさ7時にお耳にかかりましょう!

感想

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サマリー

このエピソードでは、人気キャラクター「ちいかわ」の世界的な成功の要因を、ハワイ大学のジェイソン・マコト・チャン教授の分析を交えながら深く掘り下げています。前編に続き、ちいかわが単なる可愛いキャラクターではなく、現代社会の労働のしんどさや理不尽さを描いている点が、特に30代以上の大人に響いていることが指摘されます。教授は、ちいかわの「不安」という参入条件の低さが、現代人の共感を呼びやすいと分析し、その「かわいそう」という感情を後ろめたさなく消費できるのは、キャラクターであるからだと解説します。 中国では「デジタルイブプロフェン」と称されるほど、若者の厳しい就職難や労働環境の中で、ちいかわが日々の苦痛を乗り越えるための「癒やし」として機能している実態が紹介されます。しかし、単なる「しんどさ」の共感だけでは作品は続かず、うさぎのギャグやキャラクターたちの優しさ、そして何より「絵の可愛さ」が、ファンを惹きつけ続ける重要な要素であると結論づけられています。IP戦略においては、人気を分散させ、痛みだけでなく笑いや優しさとのバランスを取ることが、長期的な成功の鍵であると論じられています。

ちいかわ論の海外展開とハワイ大学教授との出会い
こんにちは、株式会社KAZAORIの矢澤彩乃です。 推し活未来研究所へようこそ!
この番組では、ますます盛り上がりを見せる推し活をビジネスの視点から、 そして時には私自身の経験も交えながら、楽しくそして深く紐解いていきます。
さて本日は、【ちいかわ会】の後編です。 前編をまだ聞いていない方のために、少しだけおさらいさせてください。
ちいかわって、かわいい絵で労働や今の社会を描いている作品なのではないか、という話を前編で紹介しました。
草むしりと討伐という仕事があって、仕事は早い者順であぶれる。
草むしり検定という資格制度まであって、主人公のちいかわは3回目でようやく5級に合格しています。
そして推しファンの平均年齢が38.4歳。つまり大人に刺さっているんですね。
そして前編の最後に、私一つ問いを抱えたまま終わったんです。
救急のお医者さんが書かれた、弱者性を癒しとして消費する社会という文章を紹介して、
弱さへの共感を私たちはどこまで気持ちよく消費していいんだろう、というのが今回の問いになります。
そしてこの問いを持ったまま、海外の視点を取り入れていきたいと思います。
もう一つ、今回はちょっと特別な回になります。
私の個人のSNSなんかでは少しお話ししていたんですけれども、実はこのおしかつ未来研究所サブスタックというプラットフォームで英語でも記事を出しているんです。
このおしかつ未来研究所のポッドキャストをベースに、日本のおしかつ文化を海外の読者に向けてアレンジして英語で発信しているという感じです。
それを通してハワイ大学の教授と知り合うことができたんです。
ジェイソン・マコト・チャン先生という方で、ハワイ大学ウエストワーク校でアジアの大衆メディア文化を研究されています。
ここからが本当に嬉しかったことなんですけれども、先日先生が日本にいらっしゃったタイミングで実際にお会いすることができたんですね。
先生はすでに日本にはとても精通されている方なので、ちょっとディープなところを案内したいなと思って中野ブロードウェイにお連れしたんです。
そしたらとっても喜んでくださって、フィギュアなんかも購入されてましたね。喜んでいただけて本当に良かったです。
その後はローカルな居酒屋に移動して一緒に日本酒を飲みまして、本当にとても貴重な経験をさせていただきました。
ちなみにジェイソン先生は日本語も堪能な方でとても安心しました。
ネット越しに文章でやり取りしていた方と実際に目の前でお酒を飲みながら話す、これめちゃくちゃ不思議な感覚でしたね。
しかも惜しかつのことを英語で発信していなかったら絶対に起きていなかった出会いなんですよね。
発信ってこういうことが起きるからやめられないなぁと改めて思いました。
そのジェイソン先生がなんと今年の3月にチーカワ論を既に2本お書きになっていたんです。
これ私も今回チーカワ学にあたって日本の外から、しかも研究者の目線でチーカワがどう見えているのか気になって読ませていただいたんですが、これが本当に面白くて先生から直接記事を引用する許可をいただきました。
なので今日は海外からチーカワがどう読まれているのかというところを丸ごと1本かけてかなり深いところまで踏み込んでいきます。
ぜひ楽しみにしていてください。
本題に入る前に今回初めて聞いてくださる方もいらっしゃると思うので少しだけ自己紹介をさせてください。
私は普段惜しかつをテーマにしたビジネスをしていまして、例えばファンの皆さんがイベントを一緒に盛り上げられるプクートというサービスなどを提供しています。
それと同時にベーシストとしてアーティストさんのバックバンドでベースを弾かせてもらっていて、いわばオサレル側の空気感も肌で感じているんですよね。
この番組はそんなオス側とオサレル側、両方の視点を持つ私だからこそ見えてくる惜しかつの面白さや可能性を皆さんと一緒に探っていきたいなと思って始めました。
YouTubeのチャンネル登録、そしてポッドキャストのフォローもぜひよろしくお願いします。
それでは本編に入っていきます。
海外から見た「ちいかわ」:日本編
冒頭でお話ししたハワイ大学ベストワーク校のジェイソン・マカトチャン先生。
今年の3月にちい川論を2本続けて発表されています。
1本目が日本編、2本目が中国編。
これ英語版ですが、ぜひ翻訳して読んでいただきたいなと思ってます。
ノートの方にURLを貼っておくので、ぜひ見てみてください。
まずは日本編からです。
ジェイソン先生がちい川に気づいたきっかけがすごく具体的でした。
日本に行くたびにこの生き物に出くわす。
クレーンゲーム、コンビチの陳列、原宿キティランドのフロア丸ごと一区画。
漫画家の友人からは、かわいいけどちょっとエッチがあるよと言われていた。
それでついに腰を据えて一気見したというスタートだそうです。
そこで先生が書かれていた一文がこれです。
実際は英語なんですが日本語で紹介しますね。
5歳児向けに見えるのに、いざ見てみると今週をなんとか生き延びようとしている疲れ切った20代のために作られたように感じる。
前編で私、ファンの平均年齢は38.4歳だとお話ししたんですが、海外の研究者の方がほぼ同じところに目をつけているのが面白いですよね。
しかも先生が作品の構造として真っ先に取り上げているのが、ハチワレとチイカワのあの非対称なんです。
覚えてますか?
ハチワレは草むしり検定に合格しました。
でも扉のない洞窟に住んでいて、ひび割れた器でご飯を食べている。
チイカワは検定に落ちました。
でも抽選で当てた家に住んでいる。
そしてウサギは定食を持っていないのに、見たところ何も困っていない。
先生はこれを努力と報酬の間のギャップと書かれています。
誰が何を得るかはほとんどランダムなんですよね。
そしてここが痛いところなんですけれども、そのすべてが居心地が悪いほど見覚えのあるものに感じられてくると書いてあります。
もう一つ合格発表でチイカワが自分の番号を見つけられない場面。
あそこで合格したはずのハチワレの喜びの方が崩れていくんですよね。
そして二人は綺麗に解消されない悲しみを共有したまま、そこに居座り続ける。
先生はここを本当に丁寧に扱われていると書かれていました。
私が一番勉強になったのは、チイカワを理解するために特別である必要はない。
ただ不安であればいいという一文でした。
これ押し勝つの設計の話としてとても大きいと思うんです。
普通のアニメの主人公って強かったり天才だったり選ばれたりしていますよね。
感情輸入するのにこちらに何かしらの条件や資格がいる構造なんですね。
でもチイカワは違います。
参入条件が不安であることだけなんですね。
それほぼ今の時代だと全国民対象なんじゃないかなと思うんですよね。
そして先生は前編で予告したラーメン屋のエピソードを例に挙げています。
チイカワが不安すぎて事前にネットカフェでラーメンの注文の作法を予習していく話。
それでもニンニク入れますかという一言でパニックになって8割が代わりに答えてくれる。
このエピソードについて先生は作品はチイカワの不安を嘲笑しない。
ただ友達が助けるところを見せる。
この不安な時代に私たち誰もが欲しいと願うものをと書かれていました。
チイカワが不安になったりするのをバカにしたり嘲笑ったりせずに友人が助けてくれるんですね。
そしてもう一つ日本人の私が海外の研究者に言われて初めて気づいたことがあるんです。
先生が指摘しているのはこれです。
かわいいとかわいそうって元をたどると同じ言葉だということ。
言われてみると確かに似ていますよね。かわいいとかわいそう。
元々の意味は小さくて弱くて放っておけない。
そこから守ってあげたくなる方に伸びたのがかわいいで気の毒だなぁの方に伸びたのがかわいそう。
根っこは実は同じなんですね。
そして先生はここから一歩踏み込んでいらっしゃいました。
読者は後ろめたさを感じずにチイカワをかわいそうと思うことができる。
なぜならチイカワは人間ではなくマスコットだからだと書いてありました。
これちょっと想像してみてほしいんですけど、もしも、もしもですよ。
現実で扉のない洞窟に住んでいてひび割れたお茶碗でご飯を食べている友達がいたら笑えないですよね。
かわいそうで止まっちゃってグッズを買って楽しむなんてとてもできない。
でもチイカワはキャラクターなんです。
だから私たちはあの子の境遇を心置きなくかわいいと思える。
先生の言葉を借りるならその距離がこの感情を抱えやすくしている。
そしてこれは前編で紹介した薬師寺先生の弱者性を癒しとして消費する社会という指摘とちょうど裏表なんですね。
マスコットだから後ろめたさなしにかわいそうと思える。
それは救いでもあるし同時にちょっと怖い話でもあります。
そしてひび割れた器で洞窟に暮らす八割れの話をした後にこう書かれています。
あんなに頑張っていてそれでも明日また起きて仕事に行く。
もしそれが見覚えのあるものに感じられないならあなたはちゃんと見ていない。
と2本編の最後を締めくくられています。
この締めの文章はこのチイカワの世界の本質をちゃんと見れていないという意味だと思うんですが、
まだちょっと私も全部は見ていないのでなんともなんですがちゃんと考えてみました。
ここまで調べてきてチイカワがなぜここまで愛されているのかはすごくよくわかりました。
かわいい家で労働と理不尽を描いている。
頑張っても報われないことがあってそれでも友達とご飯を食べてまた明日を生きる。
そりゃ刺さりますよね。これだけの人気も完全に納得しました。
だけど正直に言うと私自身はここにそこまで自分を重ねられなかったんです。
たぶん将軍の話なんですけど、私はどちらかというと自分で切り開いていく猛進タイプなんですね。
理不尽なことが起きてもじゃあ次どう動くかを先に考えてしまって、
だから先生の言う他人事じゃないという感じ方がちょっと薄かったのかもしれません。
でもそれはそれで少数派なんだろうなぁとも思っていて、理不尽に振り回されながらそれでも今日やっていく。
それ自体は変わらないんですが、私自身の場合だとじゃあいかにここから抜け出すかっていうのを考えてしまうなぁと自分自身の改めて感じた視点でした。
でもチーカーに共感できる方の方がずっと多数派なのは理解できますし、私も共感することがたくさんありました。
この記事を書くにあたって結構アニメも見たんです。
チーカーの世界にたまにちょっと残酷で考えさせられるストーリーが混ざっているのも中毒性があって面白かったし、
尺が短いのでサクサク見れてちょっとショート動画を見ているような感じでライトに見ることができました。
ぜひ皆さんも一度じっくり見てみてくださいね。
海外から見た「ちいかわ」:中国編
さてここからは中国編です。
中国でチーカーについているあだ名がデジタルイブプロフェンなんですよ。
イブプロフェンは市販の下毒鎮痛薬の成分名ですね。
つまり治しはしないけれど、今日をやり過ごさせてくれるものという意味なんです。
まず経済の話から行きますね。
これちょっと数字がえぐいです。
中国で公式店舗が開く前からファンは代理購入業者を通じて定価の2倍から5倍でチーカーグッズを買っていました。
そして2024年春、中国企業が上海でポップアップストアを開いたところ、3日間で800万元、日本円でおよそ1億6千万円分が売れたんです。
行列は7000人まで伸びて地元の警察が群衆整理に出動しました。
そこから北京、深圳、成都と一気に広がっていきます。
中国の飲料チェーンのヘイティさんとのコラボでは、ハッシュタグがWeibo、中国版のXですね。
そこで997万ビュー、ホットサーチ15位に入りました。
前編でお話しした蔵寿さんの数字もすごかったですけど、中国はまた別の熱情がすごいですよね。
じゃあなぜここまで刺さるのか。先生は中国の若者が置かれた状況をこう説明しています。
まず、がおかお、大学入試ですね。
それを超えても卒業したらまた同じ壁が来る。応募者が多すぎていい仕事が足りない。
それで多くの人が安全策として公務員を目指すんですけど、
2025年末の国家公務員試験の受験者数が371万8000人、募集は約38100ポストでした。
つまり100人に1人です。
草むしり検定に3回落ちる知井川の話が何ヶ月も予備校で勉強した末に、
100人中99人が落ちる試験を受けている若者に刺さらないわけがないですよね。
そして先生が紹介している中国語の言い回しがこれです。
漢字で上下の上に岸って書く言葉なんですが、
岸に着くという意味で、大きな試験に受かる、安定した職に着く、結婚する、借金を返し終える、
そういう難しい目標の達成に使う言葉なんだそうです。
自分は今海の中で必死に泳いでいて、いつか岸にたどり着きたいという感覚なんだそうですよ。
先生が取材した中国の若い弁護士の方がこう言ったそうです。
問題は、岸にたどり着いた瞬間、自分がもっと大きな海のもっと強い波の中にいると気づくことなんです。
終わりがない、何年も泳いで岸にたどり着いて、それで人生が良くなったわけでもなく、給料も上がっていないとわかる。
これ重いですよね。
そしてこの方、996、朝9時から夜9時まで週6日働く働き方ですね。
これについてこうも言っています。
996はむしろ楽に聞こえる、と。
クライアントが真夜中にメッセージを送ってきて即対応を求めてくる。
自分がやらなければ他の誰かがやるだけだから、と。
ここからが面白いんですけど、この状況への反応として中国で広まったのが、
単品、日本語だと寝そべりですね。
競争から降りる、最低限だけやる、システムの報酬を追いかけるのをやめる、という態度です。
先生はこれをウサギだと言っているんです。
決まった家を持たず、あちこちを楽しげに歩き回っているウサギ。
要求だらけの競争社会でくったくなくいられることのファンタジー。
前編でお話しした通り、ウサギって人気投票1位なんですよね。
その1位のウサギがそういうポジションだった、という読み方、私は全く思いつきませんでした。
でも先生の議論のシーンはここからで、
チーカワが単品と決定的に違うのは、織りないことだと言うんです。
キャラクターたちは織りない、そして前向きな姿勢を保つ。
彼らは現れ続け、互いに食べ物を奢り、一緒に写真を撮る。
それこそがこの作品をファンタジーではなく、薬のように感じさせているものだ、と書かれています。
鉢割れは貧しくて、家具は段ボール箱で、ひび割れた器で食べている。
でも給料が入ると、最優先するのは友達にご飯を奢ることなんですよね。
先生が取材した中国の弁護士の方の言葉がここに重なります。
私みたいな中国の若いホワイトカラーの多くにも、自分なりの感情的サバイバルフードがあるんです。
なんでもない平日の午後、オフィスにタピオカミルクティーをデリバリーで頼んで、一口すすって、それからまた消耗船に戻る。
タピオカを頼んでまた戻る。
これ、チーカワたちが小銭を出し合ってたこ焼きを食べるの話と全く同じ構造に感じられました。
そして中国編の最後の2行が次の文章です。
デジタルイブプロフェンは何も直しはしない。だがその日一日をやり過ごさせてはくれる。
そして今の多くの中国の若者にとってそれで十分なのだと書かれていました。
「ちいかわ」の魅力の多層性とエンタメの本質
さてここまでジェイソン先生のチーカワ論を紹介してきて、私はほとんど全面的に納得しているんですけれど、一つだけ引っかかっていることがあるんです。
実は先生の記事のコメント欄ですね。コメント欄にこういった趣旨の書き込みがありました。
英語圏の日本論は文化をまず病理や抑圧の症状として読んで、当事者自身がそこに感じている優しさや楽しさを後回しにする癖があるのではないかという書き込みです。
これ私は結構気になったんですよね。
だってチーカを見ている人が全員労働の辛さに共感して見ているわけじゃないんです。
単純に可愛いから見てる人もいるし、うさぎのギャグで声を出して笑っている人もいる。
8割の前向きさに素直に元気をもらっている人もいる。
私自身もただただ可愛いなぁ癒されるなぁと思ってアニメをずっと見続けられました。
前編で薬師寺先生の弱者性を癒しとして消費する社会という指摘を紹介しました。
そして今、ジェイソン先生の可愛いの下にある労働と不条理という読み方を紹介しました。
どちらも鋭いんですが、どちらもこの作品を好きな人は実は傷ついているのだという方向に寄っている気もするんですよね。
でも元々エンタメ業界の私の実感からすると、好きとかお好き持ちってそんなに痛みだけでできてないですよね。
8割が給料日に友達にご飯をおごる。
あれを見て日本の労働環境の写し鏡だと読むこともできるし、単純にいいやつだなぁと思って笑うこともできる。
そして好者の方が多分人数としては圧倒的に多いんじゃないかと思うんです。
だから私の結論はこうです。
しんどさんへの共感はもちろん入り口を広げるけれど、そこから先に人を留まらせているのは多分ウサギのギャグとか8割の優しさとか、
ちい川がたまに見せる男気のような部分とか、そしてあとはあの絵の可愛さなんですよね。
このバランスIPを設計する側にとってはめちゃくちゃ重要だと思っていて、刺さる痛みだけを設計するとしんどい作品になって続かないんです。
痛みと同じ量だけ笑いと優しさを置いておく。
前編でお話ししたブサカワは笑えるを経由しないと可愛いにならないという心理学の研究、あれと全く同じことを言ってるんですね。
ちい川はそこの配合がとにかく上手い。
だから海外の研究者にこれは労働の物語だと読まれながら、同時に3歳の子供にも刺さっている。
両方できるIPってそうそうないですよね。
さてここからは少しビジネスの話に戻します。
ちい川のグッズ戦略、私は日常新食型と呼んでるんです。
ファンが会いに行くだけじゃなくて、生活のあらゆる場所に向こうから出てくる。
前編でお話ししたコンビニや開店寿司もその一部です。
そしてリアル店舗、常設のグッズ店ちい川ランドが2026年4月時点で15店舗、札幌から福岡まであります。
加えて作品の中に出てくるラーメン屋が現実に存在するんですよ。
ちい川ラーメン、豚。
前編でシーサーがラーメン屋で働いてるってお話をしましたけど、あのお店です。
1号店ができたのは2024年3月。
名古屋のパルコで予約優先制でした。
ラーメンのサイズが3段階あって、ミニがちい川、小がハチワレ、大がウサギという名前になっているんです。
これ聖地巡礼の逆なんですよね。
ファンが聖地に行くんじゃなくて、作品の中の場所が現実に出てくる。
そしてここで影の話もしないといけません。
「ちいかわ」のグッズ戦略と転売問題
2025年10月3日、公式がランダム販売、いわゆる中身が見えない状態で買う方式のぬいぐるみを発表したところ、
転売を助長するだけだという批判が集中して、Xでランダムがトレンド入りしました。
その結果、先行販売と一般販売を中止して、全種類が入ったコンプリートボックスの受注生産のみに変更して謝罪されたんですよ。
そして今年の7月24日、あの映画の公開初日です。
入場者特典のミニフィギュアがその日のうちにフリマアプリに大量出品されました。
全8種類のランダムで非売品です。
値段は1個1100円から2000円、未開封の10点セットが25000円以上で出ていました。
Xではチャームミニフィギュアがトレンド1、入場者特典が2になりました。
公式は事前に、同一上映会でお一人一つ、劇場内での交換はご遠慮くださいと告知していたんですけどね。
6月にこの番組でコラボカフェの読みを取り上げましたが、構造は全く同じなんですよ。
人気が出るほど推しにあえる場所が戦場になる。
だから運営側も生理研、日時指定、購入制限、決済の拘束化とここまで精度を殴り返している。
転売対策がIP運営のコア業務になっているというのが2026年のリアルだと思います。
そしてここで面白い対比があります。
IP戦略の対比:ポップマートとサンエックス、ラブブの事例
日本のIPが転売を必死で止めようとしている一方で、転売価格そのものが崩壊したIPがあるんです。
これが最後の章になります。
ここで視点を世界に広げていきます。
以前この番組でラブブを取り上げましたが、あの後すごいことが起きていました。
なんと転売価格が大暴落したんです。
中国の転売市場で日本円にして1万2000円ほどを超えていたラブブが2600円くらいまで下がったんです。
4分の1以下ですね。
何が起きたのか。供給を一気に増やしたんです。
ロイター通信の報道だとぬいぐるみの生産を前年比で10倍まで拡大した。
一言で言えば希少性で稼いでいたのに、希少性を自分で壊してしまったんですね。
株価も2025年8月の高値から半分以下になっています。
ここで私が今回のリサーチで気になった対比をお話しさせてください。
タレパンダ、リラックマ、スミッコグラシを産んだサンエックスさんがバズフィードジャパンの取材にこう答えています。
あえて大きなバズが続かないよう人気が出過ぎないようにコントロールしていると。
バズを抑えているんですね。
普段から山場を作りすぎないことで一家制ではなく長く愛されるキャラクターを目指しているということなんです。
バズにゼンブリしたポップマートとバズを抑えるサンエックス。
同じ時期に真逆の実験結果が出ているんですね。
そしてもう一つ皮肉な話を。
日本では世界と比べるとラブブがそれほど売れてないんです。
ジャパンタイムズの記事だと日本では展売サイトに定価の3倍4倍で出品されても買い手がつかないそうなんですよ。
理由は日本の消費者にとってラブブの不気味だけど可愛いは驚きではなく見慣れたものだと掲載されています。
ここなんですよね。
日本は1998年のタレパンダから四半世紀、弱いキャラを消費しつくしてきた国なんです。
こげパン、リラックマ、ぐでたま、すみっこぐらし、こうぺんちゃん、おぱんちゅうさぎ、そしてちいかわ。
世界が2025年にブサカワを発見して騒いでいる横で、日本はもう飽きるほど通ってきた道だったわけですね。
「ちいかわ」のピークアウトか、インフラ化か
ちなみにこれ面白いんですけど、世界のおもちゃ市場で今一番伸びているのは15歳以上なんです。
もう売り上げの5分の1が大人。
しかもその支出は2020年の2倍以上です。
おもちゃを買っているのは子供じゃなくて私たち大人なんですね。
じゃあ最後にちいかわのピークは過ぎたのか。
ここ面白い話があるんです。
LINEリサーチさんが15歳から24歳に今流行っているものを聞いている定点調査があるんです。
ちいかわは2025年6月期に2位、12月期は9位、そして2026年6月期は上位30位に入っていません。
数字だけを見ると完全にピークアウトなんです。
でも思い出してほしいんです。
前編でお話しした認知率93%、あれ同じLINEリサーチさんの調査なんですね。
つまり流行っているものからは消えたのに、知っている人は93%。
同じ会社の数字でこれが同時に起きています。
他の数字も強いです。
日本キャラクター大賞のグランプリを3年連続2,3,4度目で受賞して、
2026年には同賞史上初の伝道入り。
海外の常設展は上海、台北、ソウルと半年おきに増えていて、
香港では世界初の知川の巨大メリーゴーランドまで動いています。
そして映画の興行収入はこの収録、8月16日時点で約87億円という速報が入ってきました。
きっとこのポッドキャストが流れる頃には100億円に迫っているのではないでしょうか。
私の結論はこうです。
若者の流行語としてはピークアウト、経済価値としてはむしろ拡大局面。
つまり流行りが終わったんじゃなくてインフラになったということなんですよね。
日常に定着したということですね。
それではそろそろまとめに入っていきましょう。
「ちいかわ」論のまとめとビジネスへの応用
前編と後編でお話ししたことを3つに絞ります。
1つ目は、かわいいは入り口で、刺さっているのは働くしんどさだった。
草むしり検定に3回落ちる主人公がいて、仕事は早い者順であぶれて、資格には抜き打ち検査がある。
そしてファンの平均年齢は38.4歳です。
ちい川が国民的になったのは、かわいかっただけじゃなく、かわいい絵で労働と不条理を描いたからなんですよね。
そして中国でも香港でも同じ理由で受け入れられている。共感の輸出が起きています。
そして今日はハワイ大学のジェイソン先生の読み方も紹介しました。
ちい川を理解するために特別である必要はない。ただ不安であればいい。
参入条件が不安だけのIP。これ裏を返すとターゲットが全人類ということなんですよね。
ただしそこで留まってもらうには、痛みと同じ量の笑いと優しさが必要。
共感で入り口を広げて、ユーモアで留まってもらう。これがちい川の設計だと私は思っています。
2つ目、推しは分散させた方が強い。人気投票で主人公が3位。1位は言葉を話さないウサギでした。
これは弱点ではなく、入り口が複数あって寿命が延びるという強さなんです。
サンリオさんがIPのボラティリティからの脱却と呼んで、キティ比率を7割から3割にした話と全く同じ構造です。
皆さんがビジネスでIPやブランドを扱うならエースを一人にしない。これはかなり普遍的な学びだと思います。
3つ目、爆発と持続は設計が違う。
ポップマートさんは供給を10倍にして希少性を失いました。3Xさんはあえてバズらせないと公言しています。
ちい川は作家個人が権利を持ったまま、少人数のグループが猛スピードで日常に侵食していく形で伸びてきました。
どれが正解ということではなくて、自分のIPをどっちのタイプとして育てるのかを決めることが大事なんですね。
いかがでしたか?今回は前後編にわたって、ちい川というテーマで様々な角度から一気にお話ししてきました。
今日ご紹介したジェイソン先生の記事、日本編と中国編のリンクをノートに貼っておきます。
英語なんですが、翻訳して読んでみても十分に面白いので、ぜひ読んでみてください。
ちい川を調べれば調べるほど深くて、これは映画を見に行かなければと思いました。
私も8月中に見に行く予定です。また感想は番組かSNSでお話しさせてください。
番組を聞いての感想は、ぜひハッシュタグおしかつ未来研究所でシェアしてくださると嬉しいです。
今回の前後編を聞いて、ちい川を見てみようかなと思った方もぜひ教えてくださいね。
それでは今日のおしかつ未来研究所はこの辺で、最後までお聞きいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。
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