映画【君の名は】を含む3つのアニメ作品の聖地となった岐阜県では、約103万人。
稲葉孝司さんの故郷、岡山県津山市は、延べ約16,800人が市内を訪れ、その経済波及効果は…
こんにちは、株式会社KAZAORIの矢澤彩乃です。推し活未来研究所へようこそ。
この番組では、ますます盛り上がりを見せる推し活をビジネスの視点から、
そして時には私自身の経験を交えながら、楽しくそして深く紐解いていきます。
私は普段、推し活をテーマにしたビジネス、例えばファンの皆さんがイベントを一緒に盛り上げられる
プクートというサービスなどを提供しています。
それと同時に、ベーシストとしてアーティストさんのバックバンドでベースを弾かせてもらっているので、
ステージに立つ側、つまり押される側の気持ちも色々と感じることがあります。
ファンの皆さんの熱い視線や声援がどれほど力になるか、
どんな風に思いが届けば嬉しいか、そういったことを日々肌で感じています。
そんな押す側と押される側、両方の視点を持つ私だからこそ見えてくる推し活の面白さや可能性を
皆さんと共有したいなと思い、推し活未来研究所を始めました。
さて、前回第7回では、押される企業の条件とは、と題して
ファンと企業が共に未来を築いていくための戦略についてお話ししました。
多くの反響いただきありがとうございました。
そして第8回となる今日のテーマは、地域を元気にする政治巡礼と推し活パワーです。
現代社会において、個人の好きという情熱、すなわち推し活はエンターテイメントの商品に留まらず、
社会現象、そして経済を動かす原動力として注目されている感じがしますよね。
今回は、その推し活が地域社会にどのような変革をもたらすのか、
特にアニメや映画、漫画などの作品の舞台となった場所を訪れる政治巡礼という現象に着目し、
その最前線を深掘りできればと思います。
聖地と聞くと、私たちはついアニメや漫画、ゲームの舞台を思い浮かべがちですが、
実はそれだけじゃないんですよね。
もちろんそういった2次元や2.5次元の舞台、そして音楽アーティストゆかりの地というのは、
私たちファンにとっては本当にテンションが上がるまさに聖地です。
でもそれ以外にも、例えば文学作品の舞台も人気があるようです。
文豪太宰治の聖家である青森県五所川原市の社養館は、作品ファンや文学愛好家の方が多く訪れるそうです。
建物自体も国の重要文化財だそうですね。
太宰が幼少期を過ごしたこの場所で、彼の作品世界の原風景に触れることができるのは、ファンにとって何ものにも買い難い体験でしょう。
他にも夏目漱石の草枕の舞台となった熊本県多摩名市の前田家別邸や、
多くの文豪たちが暮らし作品を執筆した東京文京区の関連スポットなども、文学ファンにとっては特別な場所になっているそうです。
彼らは登場人物が歩いた道をたどり、作中に描かれた風景を目の当たりにすることで、物語への理解を一層深めているのかもしれません。
そして、音楽の分野での聖地巡礼はやっぱり熱いですよね。
私自身もミュージシャンの端くれなので、アーティストゆかりの地を訪ねたい気持ち、すっごく共感します。
例えば、人気ロックバンドビーズのボーカリスト稲葉孝司さんの故郷、岡山県津山市は、彼が外戦ライブを行ったことをきっかけに多くのファンが訪れて、街中が歓迎ムードに包まれると聞いています。
地元商店街がビーズの楽曲であふれたり、ファン向けの特別メニューが登場することもあるそうです。
また、伝説的なロックバンドボーイのメンバーゆかりの群馬県高崎市では、解散から長い年月が経った今も、ファンの方々が今も昔のレコード店跡地なんかを巡ったりするそうです。
たとえ建物がなくなっていても、その場所に込められた思いを辿るんですよね。
エックスジャパンのギタリストだったhideさんの故郷、神奈川県横須賀市のドブ板通りも、彼の音楽と共にファンにとって特別な場所であり続けています。
彼が愛した風景、彼が通ったかもしれない道、そこに立つだけで、彼の音楽がより鮮明に心に響いてくる感覚になるのではないでしょうか。
アイドルグループSKE48の楽曲、はずみさきの歌詞が刻まれた石碑が愛知県のはずみさきにできて、ファンが集う聖地になっているというのも、音楽が地域に新しい物語を生み出す素敵な例だと思います。
歴史の分野も、聖地巡礼という観点で見ると、興味深い動きがあるようです。
幕末の詩詩、坂本龍馬ゆかりの高知県では、勝羽浜の龍馬像をはじめ、県内各地に関連説が点在していて、歴史ファンや龍馬ファンを引き付けているみたいですね。
また、NHK絵画ドラマの影響も大きいですよね。
最後、高森が主役のセゴドンの時は、鹿児島県が大変な注目を集めていたそうです。
ドラマをきっかけに、歴史上の人物に興味を持ち、その足跡をたどる旅は、知的好奇心を満たしてくれる素晴らしい体験ですよね。
そして、産業遺産も聖地になるんですね。
長崎県の群寒島、正式には羽島と言うそうですが、日本の近代化を支えた炭鉱の島としての歴史と、その独特の景観から、歴史好きの方や廃墟に関心のある方々にとって、強い魅力を持つ場所になっているそうです。
昨年放送されたTBS系の日曜劇場、海に眠るダイヤモンドの主要な舞台になったことで、昭和の書きあふれる時代の島の様子と、現代をつなぐ物語が描かれ、ロケ地としても再び注目を集めているそうです。
私もこのドラマはリアタイでずっと追っていました。
実は私も、ドラマの聖地巡礼をしたことがあるんですよね。
2009年頃に放映したジンというドラマなんですが、現代の農芸界がばつく夏の江戸にタイムスリップしてしまうお話なんですが、お茶の水にある潤天堂大学病院や、湯島・浅草などの地名がたくさん出てくるんです。
友達と一緒に、コンジャクマップっていうアプリを使って散策したんですが、これが本当に便利で、昔の地図と今の地図を重ねて見れるんですよ。
ここが医学館の跡地なんだとか、この道当時と同じなんだねとか、そんなことをしながら一日歩き回りました。
それこそ完全にタイムスリップした気分で、一日満喫できました。
作品の登場人物たちが行った場所に実際に立つことで、物語がより立体的に感じられるんですよね。
今まで挙げた事例のように、いろいろなジャンルで聖地巡礼が広がっているのを見ると、地域がもともと持っている物語そのものに価値があるんだなと改めて感じます。
私たちに馴染み深いアニメや映画のような原作がなくても、その土地の歴史や文化、人物、自然が人の心を強く引きつける物語になるのかもしれません。
では、聖地巡礼という現象が具体的に地域にどんな良い影響を与えているのでしょうか。
大きく分けて、経済的な面と社会的な面があります。
ファンが聖地を訪れることで、まず分かりやすいのが経済的な効果です。
交通機関の利用、宿泊施設や飲食店での消費、そしてお土産屋さんでの購入などが活発化し、地域経済全体が潤いを見せ始めます。
具体的な数字を見てみましょう。
例えば、アニメラキストの舞台となった埼玉県久喜市の和忍宮神社では、放送開始前のお正月参画日の初詣客が約9万人だったのに対し、放送の翌年には30万人、その後にはなんと47万人まで増加したと言われています。
この人気は長期間持続し、10年間での経済波及効果は約31億円にも上ると試算されているそうです。
また、映画君の名はを含む3つのアニメ作品の聖地となった岐阜県では、これらの作品に関連して県内を訪れた巡礼者は約103万人、その消費額は約230億円、そして経済波及効果は実に253億円という驚異的な数字が報告されているんですね。
特に、日田市では観光客数が前年比で13%も増加したというデータもあるそうです。
音楽イベントも同様の効果が期待できます。
先ほども触れたビーズの今場浩司さんの故郷、岡山県津山市で行われたソロライブでは、わずか2日間で延べ約16,800人が市内を訪れ、その経済波及効果は1億3800万円に達したとされています。
別の調査では、このライブによる経済効果を約5億8500万円と試算する報告もあるくらいだそうです。
聖地巡礼に訪れるファンは、交通費や宿泊費、飲食費はもちろんのこと、関連グッズの購入にも積極的な方が多く、その消費行動は本当に多岐にわたるみたいですね。
関連グッズの販売は、聖地巡礼における重要な収益源の一つと言えるかもしれません。
聖地でしか手に入らない限定グッズや作品とコラボレーションした商品は、ファンにとって非常に魅力的なアイテムであり、大きな経済効果を生み出す可能性があります。
ラキスタでは、Mの形をした携帯ストラップが初回生産分の1000個、わずか30分で完売したという逸話も残っているくらいですから、その熱量の高さが伺えますよね。
そして観光客の増加は、地域における新たな雇用をもたらすことも考えられます。
宿泊施設や飲食店のスタッフ、ツアーガイド、イベント運営に関わる人材など、多様な分野で働く機会が生まれる可能性があります。
ラキスタの事例では約316名、岐阜県の3作品の事例では2811人分もの雇用誘発効果があったと推計されており、聖地巡礼が地域経済の活性化に大きく貢献している可能性が伺えます。
聖地巡礼が地域にもたらす影響は、経済的な側面だけではないように思います。
むしろ、お金には換算できない地域社会の質の変化こそがその真の価値と言えるかもしれません。
最も顕著な社会的効果の一つが、地域への誇りや愛着の向上かもしれません。
これまで地域住民自身も気づかなかったかもしれない地元の場所や文化が、作品を通じて聖地として国内外から脚光を浴びる。
この経験は、住民が自らの地域の魅力や価値を再認識し、誇りや愛着を深める大きなきっかけになるのではないでしょうか。
そして、聖地巡礼はファン同士、あるいはファンと地域住民との間に、新たな交流とコミュニティを形成するきっかけになる可能性があります。
アニメラブライブサンシャインの舞台となった静岡県沼津市では、ファンが地域のお祭りやイベントに積極的に参加したり、清掃などのボランティア活動を行ったりする姿が見られ、地域社会の一員として温かく受け入れられているそうです。
ファンと地域住民が共通の作品や地域への思いを分かち合い、共に楽しむことで、そこに新たな一体感が生まれ、良好な関係が育まれていくのかもしれませんね。
ラキスタンのファンが地元の伝統的な祭りに参加し、キャラクターをあしらったアニメみこしが登場するなど、古くからの伝統と新しい文化が見事に融合した光景が見られたと聞きます。
ファンは単なる訪問者ではなく、地域が抱える課題に関心を持ち、時には主体的に関与する存在へと変化していく可能性があるのです。
これって、この推し勝つ未来研究所でずっと話し続けている、ファンから推しに変化していくプロセスと同じですよね。
これらの経済的、そして社会的な効果を生み出す根源には、ファンの熱い思い、すなわち推し勝つパワーが存在するのかもしれません。
では、なぜ人々は時間と費用をかけてまで、特定の場所を聖地として目指すのでしょうか。
その真理を少し考えてみましょう。
まず最も基本的な動機として、作品世界への没入と追体験があるのではないでしょうか。
ファンは、愛する物語に登場した場所に実際に身を置くことで、その世界観に深くしたり、登場人物が経験したであろう感情や出来事を追体験したいと強く願っているのかもしれません。
例えば、アニメあの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない、通称あの花ですよね。
この舞台となった埼玉県秩父市では、作中に描かれている風景と実際の場所の距離感がほぼ同じであるため、ファンは登場人物たちと同じ視点、同じタイミングで物語の風景を体験でき、それが大きな感動と高揚感を生んでいるそうです。
私もあの花を見てめっちゃ泣いた世代なので、これはよくわかります。
あの秘密基地のあった場所、みんなが集まってた橋の上、作品のシーンが蘇ってきて胸がいっぱいになりますね。
次に、推しへの接近と理解を深めたいという欲求があるように思います。
聖地は、ファンにとって自らが推す対象、それがキャラクターであれアーティストであれ、あるいは歴史上の人物であれ、そのルーツや背景をより深く理解し、心理的な距離を縮めるための重要な場所となるのかもしれません。
時には、作品のキャラクターの声優さんが訪れた場所までもが、ファンにとってはキャラクターが実在するかのような感覚を強め、新たな聖地として認識される傾向も見られます。
そして、ファン同士の価値の共有も聖地巡礼を駆動する大きな力になっているのかもしれません。
同じ作品や推しを愛するファン同士が聖地という共通の場で感動や価値観を共有し、それによって強い連帯感を育んでいるんですね。
現地に置かれた交流ノートへの書き込みや、SNSを通じた体験の共有は、このファンコミュニティの絆をさらに強固なものにしているように感じます。
現地に置いてある交流ノート、これ私もちょっと嬉しい体験があって、昔読んだ漫画で、ウメザーハルト先生のボーイっていう漫画があるんですけど、知ってる方いますかね?
主人公の日々のハレルヤが世界征服を目指す痛快な学園アクション漫画、その物語の終盤に京都の玄光湾というお寺の悟りの窓を見るシーンがあるんです。
作中では、画家を目指す岡本っていうキャラクターが絵の師匠にその窓を見てこいって言われて、実際に見て悟りを開くみたいなすごく印象的なシーンがあったんです。
丸い悟りの窓と四角い迷いの窓、それらを前にして岡本が何を思ったのか、読者としてもいろいろ考えさせられる場面でした。
私もそれを覚えてて、大人になってから実際に行ってみたんです。
そしたらそこに置いてあるノートにボーイを読んできましたとか、岡本が見た窓ですねっていう書き込みがたくさんあって、同じ気持ちの人いっぱいいたんだってめちゃくちゃ嬉しかったんですよね。
作品を通じて同じ体験を求めて、同じ場所にたどり着いた人たちはこんなにいるんだって。
やっぱり作品が誰かの心に残って、実際に足を運ぶきっかけになるって本当にすごいなって思いました。
あの時のノートのページをめくるたびに感じる高揚感は忘れられません。
話を戻しまして、聖地を訪問し、その場所で写真を撮影したり、動画を記録したり、関連グッズを収集したりする行為は、ファンにとって自らの推し活を形にし、達成感を得られますよね。
これってただの思い出作りじゃなく、自分の推し活を形にする行動なんですよね。
やり切ったっていう達成感には自己表現の一つとも言えます。
さて、聖地巡礼を一家制のブームで終わらせることなく、地域社会に持続的な活力をもたらすためには、関係者間の連携が不可欠なのかもしれません。
地域、ファン、そして作品の権利者、この3者が互いを尊重し、共通の目標に向かって力を合わせる、三味一体の取り組みこそが成功への鍵を握ると言えるのではないでしょうか。
まず、地域側の主体的な取り組みと深い理解が求められるように思います。
地域住民や自治体が作品の世界観や聖地を訪れるファンの心理を深く理解し、温かく迎え入れる姿勢を示すことが全ての始まりなのかもしれません。
静岡県沼津市では、市当局と地域の商店主たちがファンと同じ目線でアニメラブライブサンシャインを楽しみ、共に地域を盛り上げようとする姿勢がファンの心をつかみ、大きな成功につながったそうです。
茨城県大洗町では、アニメガールズ&パンツァーのファンから贈られたイラストやグッズを各店舗が積極的に展示するなど、ガルパンらしさを演出し、ファンウェルカムな雰囲気を作り出すことで、継続的な逃げ合いを実現しています。
次に、ファンとの良好な関係構築です。
聖地を訪れるファンのマナーの良さや、地域への配慮ある行動は、地域住民の理解と協力を得る上で極めて重要だと考えられます。
沼津市では、ファンが自主的にゴミ拾いを行うといった美談も伝えられています。
そして、作品の権利者との適切な連携とライセンス管理も欠かせないポイントかもしれません。
作品のイメージを損なうことなく、公式な形でコラボレーショングッズを開発したり、イベントを展開したりするためには、権利者との丁寧なコミュニケーションと正式な許諾が不可欠でしょう。
埼玉県にある和志宮町、今は茎市と合併されているのですが、そこの商工会は、アニメラキスタの著作権者である門川と密に連携を取り、公式グッズの開発やイベントの企画運営を成功させ、長期的な地域振興のモデルケースとなったと言われています。
これらの連携を効果的に機能させるためには、情報発信とプロモーション戦略も重要になってくるかもしれません。
政治巡礼マップの作成、配布、SNSを駆使したリアルタイムな情報発信、そして近年増加する海外ファンに対応するための多言語対応など、ファンが快適に、そしてより深く政治巡礼を楽しめるような環境整備と情報提供が求められるのではないでしょうか。
一方で課題もあります。
例えば、オーバーツーリズムの問題です。
京都市内のバスの混雑や、沖縄都島の交通インフラの逼迫、そして最近では漫画スラムダンクの聖地として有名になった鎌倉高校前の踏切での混乱。
これらに対応するためには、入場制限や事前予約制度、オフシーズン誘客、観光税といった対策も考えられます。
岐阜県白川号のレスポンシブルツーリズム宣言のように、観光客自身に地域文化や環境への配慮を求めていくことも大切です。
また、コンテンツ依存のリスクも無視できません。作品だけに頼らず、地域そのもののブランド力を磨く戦略が必要です。
埼玉県和志宮は、ラキスタ放送終了後も地元商工会や事業者が一丸となって、イベントやグッズ展開を継続し、15年以上にわたってアニメ聖地として愛され続けています。
本日は、地域を元気にする、聖地巡礼と推し勝つパワーと題し、多様な事例を通じてその可能性と成功の鍵、そして向き合うべき課題について考えてきました。
アニメや漫画、音楽といった私たちに身近なジャンルはもちろん、文学や歴史、産業遺産といった分野でもファンの熱い思いが聖地を生み出し、地域に新たな活気をもたらしていることが見えてきたように思います。
その力は経済効果だけではなく、地域の方々の地域への誇りや愛着を高めたり、ファンと住民の間に新しい繋がりを生んだり、本当に多岐にわたるのかもしれません。
成功のためには、地域、ファン、そして作品の権利者がしっかり手を取り合うこと、そして何よりもファンの好きという純粋な気持ちを理解し、尊重することが大切なのではないでしょうか。